キスしてみたい
更新日: 2015-04-05 (日) 17:42:37
ナマモノ注意
邦楽バンド原始人ズの唄×六弦
また書いてしまいました。
以前の話と続いています、すみません。
ローカルルールでシリーズ物執筆者はトリップ推奨とありましたが、
今後の予定が未定ですので、とりあえず今回は名無しで失礼します。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
キスしてみたい(あるいは友情と恋情のあいまいな境界)
最近、俺にはちょっとした悩みがある。
ほんの些細なことさ。お気に入りのレコードに針を落とせば、すぐに頭のすみっこに追いやられてしまうほどの。
例えるならそう、のどに引っかかった魚の小骨みたいなもんだ。
気にはなるけど、別に死にゃしない。
何より大切なことは俺の心の真ん中にどっしりと居座っていて、きっともう、どんな事があってもびくともしない。
大切なことは一つだけ、他はどうだっていい。
だから魚の小骨だって、放っておいたって構やしないんだ。
でも―――、やっぱり、気になるじゃんか。
のどに刺さった小骨って、すごく気持ち悪いじゃんか。
好きな音楽聴いてたって、いつの間にかそのことばっかり考えちゃってるじゃんか。
だから、これって些細な悩みなんかじゃないのかも。
もしかしてすごく重大なことなのかも。
そう認識すると、余計に気になって気になって仕方がない。
どうして―――、なんであのとき俺は、マーツーにキスをしたんだ?
夜更けのスタジオに2人きり。
一緒に晩メシを食べに出かけたあと、なんとなくまた連れだってスタジオに戻ってきて、そのままだらだらと居残っている。
昼間、ばったり出会ったレコード店で見つけた掘り出し物のレコードは、プレイヤーの上でもう何巡目になるのか。
マーツーはと言えば、お気に入りの1人掛けのソファにすっぽりと収まって読書なんか始めちゃって、完全に長居モードだ。
そして俺は、さっきからそんなマーツーの様子をちらちらと盗み見ていた。
なんでだ。何でこんなことしてんだ俺。
こそこそする必要なんて全然ない。堂々と、思う存分見つめてたっていんだ。俺とマーツーの間にいまさら、変な遠慮なんかないんだから。
マーツーが俺の視線を訝しく思ったとしても、「お前の顔を見ていたいんだ」って正直に言えばいい。そしたらマーツーはきっと「なんだそりゃ」って呆れて笑うだけで、あとは別に気にしないでいてくれる。あいつはそういう男だ。
それなのに、俺はさっきから通学の電車の中で気になる女子を盗み見ている中学生よろしく、数メートル先の男をこっそりと観察している。
バンダナしてないとやっぱり若く見えるなあ、とか、髪の毛ふわふわだなぁ柔らかそうだなぁとか、あ、白髪発見、とか。
伏せた目元に差すまつげの影や、高く繊細に通った鼻筋にドキドキしてみたりだとか。
なんなんだ俺、中学生男子そのまんまじゃないか俺。
そして困ったことに、観察の目が行きつく先は、常にマーツーの口元で。
今はほんの少し口角が上がって、なんだか猫みたいだ。控え目に色づいてる薄い唇。
ドキドキ感が加速する。
……あの唇に、俺はキスしちゃったんだよな……。
毎回毎回、最終的に思考はそこに辿りつく。
そして、思い出すのだ。あの時のことを。
心を閉ざし、俺から離れていこうとしていたマーツーが、もう一度俺の手をとってくれた時。
マーシーの望みが、俺と同じ「ずっと一緒にロックンロールをやっていきたい」ってことだと分かったあの時、
俺は嬉しさのあまりマーシーに抱きついて、顔中にキスの雨を降らせていた。
喜びが、あいつへの愛しさが濁流のように俺の心に渦巻いて、そうやって表現でもしなきゃいてもたってもいられなかったんだ。
マーツーはそんな俺の行動を黙って受け入れて、優しく俺の背中を撫でてくれた。
そして、笑ったんだ。穏やかに、目を閉じて。
それはとても満ち足りた、幸せそうな顔だと、俺には見えたんだ。
衝動的に俺は、マーツーの唇を塞いでいた。
その上、突然のことでガードのゆるかった歯列を割って、俺はマーツーの口の中に舌まで差し入れていた。
さすがに俺を押しのけて、非難の声を上げたマーツー。
けれど、言い訳にもならない俺の弁明を聞いて、ため息をひとつ、それだけで俺のしでかしたことを、あっさり水に流してしまったのだ。
キスされたのに。男にキスされて、舌まで入れられたと言うのに。
加害者(?)の俺が言うのもなんだが、ちょっと能天気すぎるこの対応。
真縞昌俊とは、そういう男だ。
その後は何もなかったみたいに、以前の俺たちのまま。
むしろ以前より更に関係は良くなったのかもしれない。
マーツーは前みたいに―――、それ以上にリラックスしてよく笑うようになったし、俺はそんなマーツーの笑顔で幸せな気持ちになる。エネルギーを貰ってる。
新しく始める俺たちのバンドはそりゃもういい感じで、日々、スタジオに来ることが楽しくて仕方なくて。
わくわくとした毎日。
万事が順調だ。
ただひとつ、俺の心に引っかかる「魚の骨」を除いては。
ささいなことなのかもしれない。
嬉しくて、テンションが上がってつい、勢いでしてしまったこと。ライブ中に脱いじゃうのと同じレベルの出来事。マーツーだってすっかり忘れてくれている。
でも俺は―――、忘れられなかった。
ささいな出来事だって思い込もうとして、でもできなくて、こんなにもぐるぐる悩んでる。
あのときだって、本当はものすごく動揺してたんだ。
衝動的に友情の範囲を超えたキスをしてしまった俺を、少し赤い顔をしたマーツーが非難の目で見つめていたあの時。
笑ってごまかしてみせながら、俺の心臓はドキドキと暴れ出しそうだった。
だって、俺にとってはキスは重要なことだもん。特別な人としかキスはしたくないんだもん。
こう見えても俺は慎み深いんだ―――、ライブ中に全裸になったりはするけれど。
だから、あんなにあっさりと無かったことにされても、それはそれで困るんだ。
何にも気にしてないって態度に、正直ヘコんでたりするんだぜ。
なあ、マーツー、お前、なに考えてる?
それ以前に、俺は――、俺自身のこの気持ちの正体は、一体何なんだろう…?
俺はマーツーと一緒にいると安心する。
楽しくて、ふわふわとした、幸せな気持ちになる。
ドキドキしたりもする。
そして―――、キス、したくなる。
中学生男子と、同級生の女の子なんていう2人だったら、簡単に説明ができるその感情。
でも俺たちはそうじゃない。40をとうに過ぎたオッサンと、その長年の相棒。
ありえない。
マーツーは大切で、かけがえのない存在だけれど、だからこそ、簡潔な“あの単語”ひと言で俺の気持ちが表現できるわけがない。
でも――、だったら、青臭くて甘酸っぱい、このドキドキの正体はなんなんだ?
こんな状態で俺の思考は堂々巡りを続けていて、今この部屋にかかっているレコードと同じだ。ぐるぐる考え続けて、もう何巡目なんだろう?
スーヅー・クア卜口のライブ盤は何べん聴いたって最高だけど、こうやって思い悩むのは、正直もう飽き飽きなんだ。
「……………」
俺は大きく息を吐きだした。それは、決意のため息だ。
うだうだと考え込んでたって仕方ない、何にも変わりゃしないんだから。
思い切って行動するしかないんだ。このままじゃ嫌だから。
――そしてこんなにも俺はいま、マーツーにキスしてみたいんだから。
もう一度あの感じを確かめてみようと思う。そしたらきっと分かるはず。
マーツーとするキスの意味が。
俺の中で苦しいほどに存在を主張している、この感情の正体が。
「ねえ、マーツー」
意を決して呼びかけると、「なーにー?」と間延びした声が返ってきた。
それでも目線は広げた本に向けられたまま、どうにもこちらを向いてくれそうにない。
仕方ないので俺は、とりあえず読書に夢中な俺の相棒の元へ近寄って行った。
ソファに座るマーツーの前に立つと、「どうかした?」とでも言いたげな無言の上目づかい。その仕草に、心臓をキュッと鷲づかみにされる。
高まる緊張。なんて陳腐で古典的な、俺のこの反応。
どこか冷静な部分が内心で苦笑いしているのを感じながら、俺は気持ちを落ちつけようと、2度3度大きく呼吸をした。
そして、まっすぐにマーツーの目を見て言った。
「ねえ、キスしてもいい?」
言った。言っちまったよ。
ずいぶん唐突な話だ。ムードなんて皆無、不自然極まりないって、我ながら思う。
だってフランス映画みたいに、いいムードに持ってって自然な流れでキスするなんて芸当、俺にはぜったいに無理。
だから潔く直球勝負で行くしかないんだ。びっくりして目をまんまるくさせているこいつには、不意打ちかけたみたいで悪いなぁとは思うけど。
いつもは少し眠たげな目をめいっぱい見開いて俺を凝視しているマーツーは、まるで人に馴れない猫のよう。息をひそめてこちらの様子を窺っている。
悪意はないんだよ、と俺はマーツーに目で訴えかけた。
別にからかってるわけじゃないんだ。そして、強要するつもりもないんだ。
お前がどんな対応をしたって、俺はがっかりしたりしないよ。
俺たちの関係は何にも変わったりしない、そうだろう?
だから、そんなに警戒しないでくれ――――。
そんな俺の想いを読み取ってくれたのかは分からない。
しばらくひたと俺の目を見つめていたマーツーは、ふ、と短い息を吐き出して、いつものようなのんびりとした口調で言った。
「……いいよ」
こんなにあっさりOKをもらえるとは思わなかった。
少し拍子抜けした気持ちでマーツーの目を覗きこむと、見返すまなざしが、ほんの少し強いものになって。
「でも、舌、入れるのは……、だめ」
「…………………………」
そんなとんでもないことを、いたずらを嗜めるみたいな「めっ」って顔をしながらさ、舌足らずのあどけない口調で言っちゃって、おまえは俺をどうしたいの…?
……そしてまたこれがほぼ100%天然なんだから、余計たちが悪い。
ほんっと、真縞昌俊という男の生態は、未だ謎に包まれている部分が多いよなぁ……。
なんだかもう色々な意味で腰が砕けそうになりながら、それでも俺はとりあえず、マーツーに神妙な顔をして頷いて見せた。
「分かった」と。
「うん、じゃあ約束だからな」
そう言いながら、マーツーがおもむろに立ち上がる。
向うから動かれたことに、俺は驚いた顔をしていたらしい。
怪訝な表情のマーツーが、「座ってた方がいいのか?」と尋ねてくる。
俺はあわてて首を横に振った。
「いや、別に……。返ってありがたい、デス」
「……ソウデスカ」
「………うん、じゃあ…」
「ハイ………」
変に畏まって、ぎくしゃくとした妙な雰囲気。俺はそれを振り払うように咳払いをして、改めて目の前の男と向き合った。
緊張で背筋が伸びる。すると目線が少しマーツーをを見下ろす形になって、そう言や俺の方が背が高かったんだっけ、と再認識。
うつむき気味のマーツーが、ちらりと不安げな視線をよこしてくる。その上目づかいにまたしても心を持ってかれる俺。
やばい、かわいい。心臓飛び出しそう。
俺がみっともなく震えながら細い肩に手を置くと、ピクン、とほんの少しだけマーツーの身体が揺れた。
そして意を決したように顔を仰向かせたマーツーは、「ん、」という短い声と共に目を閉じた。
潔いほど無造作なキスの催促。けれど、俺にはこいつが精いっぱい無理をして、強がって、平気なふりをしているのがよく分かる。
よくよく見れば細かく震えている瞼、緊張に引き結ばれた唇。
全てがかわいくて、愛しくて仕方がない。
俺は、できうる限りそうっと優しく、マーツーの唇を塞いだ。
「……ん…」
吐息交じりの声はいったいどっちから出たものなんだろう。
触れ合わせた唇は、べつに甘いなんてことはなくて。
少しかさついた、薄い唇だ。触れていても現実味が薄くて、どこか儚いようなマーツーの唇。
もっと確かな手ごたえを感じたくて、確かにいま、マーツーとキスをしているのだと実感したくて、俺は触れているだけだった唇を深く重ね合わせた。
「……………っ」
おののく身体をぎゅっと抱きしめ、その背中をあやすように撫でさする。
そうすると安心したのか、抱きしめた身体のこわばりが段々と解けていく。
それが嬉しくて、俺の腕の中でリラックスしていくマーツーが愛しくて、この前みたいに、気持ちが溢れだしそうになって。
「…………ふっ…」
悩ましく漏れた吐息と一緒に、引き結ばれていた唇がうすく開かれた。
そうやって無意識なんだろう、マーツーが俺のキスに応えてくれたのが、俺が自制心をあっけなく放り出した直接のきっかけだった。
「……っ、んんっっ!!」
さらに深く重ねた唇、差し入れられた舌。突然激しくなったキスに、当然のことながら驚いたマーツーが抵抗を始める。
けれど俺はその抵抗を許さずに、もがく身体を抑えつけてマーシーの唇を、口内を貪った。
怯えて縮こまる舌をちょん、とつつき、おじゃましますの挨拶をして、並びのいい歯の裏側や、上あごや、口の中の触れられる所を、くまなく差し入れた舌で暴いていく。
押し入った口の中はつるりとして、熱くて、すごく気持ちが良くて。
俺はマーツーとするキスにすっかり夢中になった。
「……ん、ふ……っ、ぅ………」
そうして、長く続くキスで、腕に抱く身体が力を無くしてくったりしてしまうまで。
名残惜しい気持ちで唇を離して見れば、半開きのマーツーの唇の端からどちらかのものとも分からない唾液がひとすじ垂れている。
それを俺はベロリと舐めとった。
とたん、思い切り突き飛ばされる。
「っ、うわ……っ、と……っ」
大きく体勢を崩して2、3歩後ずさった俺を、マーツーが手の甲で乱暴に唇を拭いながら睨みつけていた。
「お前……っ、約束違反だろ……っっ」
好き勝手しやがって馬鹿野郎、と語気荒く俺を責めるマーツーの、赤みを増した唇、涙をためた瞳、目の周りを染める赤く上った血の色。
たまらない。
俺は、こみ上げる衝動を抑えるように、ごくりと唾を飲み込んだ。
いや、なんかもう、これは、もう……
認めないわけにはいかないな、と髪の毛をかきあげながら俺は思った。
やっぱりこれはさぁ、愛情ってやつだよ、と。
もちろん友情だって感じている。
愛情と言っても家族に感じるそれと同じなんじゃないかと言われたら、それもそうだと俺は頷くだろう。
俺がこの男に抱く想いは今やいろいろなものを内包して、とてつもなく巨大になっていて。
その大きな袋の中に、俺は未知の感情を発見してしまったんだ。
その未知の感情に、たったいま、はっきりとした名前がついたんだ。
俺は、真縞昌俊を愛している。真縞昌利に恋している。
そして―――、どうしようもなく俺はいま、この男に欲情している。
認識してしまえば、すとん、とその感情は俺の心の棚に整理され収まって、我が物顔で激しく主張を始める。
友情に愛情に、欲情まで感じちゃうだなんて、なんてパーフェクトな感情。まったくもって素晴らしいじゃないかと。
早くマーツーと、この感情を共有してみたくはないか、と。
その心の声にそそのかされるように、突き動かされるように。
俺は、妙に晴れやかな気分でマーツーに告げた。
「やっぱり俺さ、マーツーのこと好きだわ」
と。
「だからさ―――――、俺とセックスしてみない?」
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
貴重なスペースをどうもありがとうございました。
- す、すごい、萌えました。 -- さく? 2014-08-12 (火) 01:25:37
- す、すごい、萌えました。 -- さく? 2014-08-12 (火) 01:30:03
- ヤバイです。また書いて欲しいです。 -- まさとし? 2015-04-05 (日) 17:40:56
- ヤバイです。また書いて欲しいです。 -- まさとし? 2015-04-05 (日) 17:42:37
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