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僕の金色の

オリジナル鉄道もの半擬人化。エロ無しです。バッドエンド注意。
モデルにした路線は一応ありますが、具体的にここというのではないです。
長くなってしまったので連載になってしまいますが、2回で終わります。
すみません。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 その踏切は、通称「3号踏切」と呼ばれておりました。ある駅から数えて
3つ目の踏切なので、3号です。幅が1m弱しかなく、片側は道路に降りる
ところが数段の階段になっているので車やバイクは通れません。人と、頑張
って持ち上げられた自転車くらいしか通らない小さな小さな踏切です。
 毎日どの電車も轟音を立てて3号の前を通っていきます。3号もそれを自分
の仕事をしながらただ見送っています。カンカンカンカン……。
「電車が来ますよ。危ないからくぐったり渡ったりしてはいけませんよ」
……カンカンカン。

 ある日の夕方、3号の前を見たことも無い車両が通り過ぎました。シャンパ
ンゴールドのボディ、そのところどころに赤いラインのアクセント、顔には黒
いサングラス、シンプルなパンタグラフ。どうやら新型車両の回送のようです。

 東に向かう上り線を走る金色の車両は後方から大きな夕陽に照らされ、通り
過ぎる線路上に黄金の粒を振りまいていくかのように見えました。
「なんて綺麗なんだろう!」
まるで太陽から生まれてきたようだと3号は思いました。
 翌日の早朝、金色の彼が今度は下り線を走っていきました。朝日を浴びる
彼は白金に輝いて、全身がプラチナでできているかのようでした。満員のお客
様を乗せて、昨日よりもどこか誇らしげに見えました。3号はほれぼれとしな
がら金色の彼を見送りました。

 その日以来、その金色の彼を見ることが3号の楽しみになりました。金色の
新型は、起点のターミナル駅から終点の観光地までという最も長い距離を往復
していたので、3号は1日に数回しか彼を見ることができませんでした。

 なかなか会えない分、彼を見れた時の喜びはひとしおです。金色の彼が通る
時刻が近づくとドキドキと胸が高鳴ります。
 風に乗って聞こえてくる彼の警笛は、他の車両の鳴らす
「ぷぁああっ! どけオラァ!」
という怒号ではなく、甘く優しいメロディでした。地面を伝って響いてくる彼
の振動は、金属然とした下品な揺れ方ではなく、小刻みで上品な心地よい振動
でした。

 3号は毎日、黄色と黒の縞模様の身体いっぱいに彼の音を感じ、彼からこぼ
れる太陽の光を浴び、その度にたまらない気持ちになりました。
「一度でいいから、話をしてみたいなぁ……」
 けれども3号にとって、それは見果てぬ夢でした。
「彼からしてみれば僕はたくさんある踏切の1つにしか過ぎないものな。しか
もこんなに小さい、一瞬で通り過ぎてしまうようなちっぽけな踏切だもの。
きっと彼は僕のことなんて気づいてもいないんだろう……」
 3号はポロリと涙を流しました。その涙は通り過ぎる人たちからは、赤いシ
グナルの下に溜まった雨粒のように見えたことでしょう。

 3号が金色の彼への届かぬ想いを抱えてから二ヶ月ほど経った頃、この路線
で大きなダイヤ改正がありました。
 ベッドタウンと都心を結ぶ線でもあるこの線は、朝の通勤ラッシュ時には数
分間隔で電車が通ります。大変な過密ダイヤの上に、人が多過ぎて乗り降りに
時間がかかるので、どの電車も少しずつ本来のダイヤから遅れていきます。そ
れが積み重なると、ついには線路上で電車が渋滞状態になってしまいます。
 ダイヤ改正はこの通勤ラッシュ時の混雑を解消しようというものでしたが、
改正の翌日には、さほど駅に近くもない3号踏切の前でも徐行や停止をしてい
る電車が増え、かえって電車の渋滞が酷くなったように見えました。

 ラッシュのピークが少し過ぎても電車の数珠繋ぎは続きました。今まで以上
に開かずの踏切になってしまったと3号が自身を嘆いていた時、ふと足元から
覚えのある心地よい振動が伝わってくるではありませんか。
「え? 彼はこんな時間には走らないはずだけど……」
 けれども視界には、あの金色に輝く彼の姿が見えています。以前なら軽やか
に3号の前を通過していた彼が、今日は数珠繋ぎに巻き込まれ少しずつ少しず
つゆっくりとこちらに近づいてきます。そして3号のすぐ手前の信号が赤にな
り……。すぅと金色の彼は止まりました。3号の目の前で。

「はわわわわわわあわわわぁわわわああああああっ!!!!」
突然降って沸いた幸運に3号は頭が真っ白になりました。何か話さなければと
思っても、なかなか言葉が出てきません。
 カンカンカンカンカンカンカンカンッ! 自分が鳴らしているのですが、警
報音が余計に焦りを誘います。
「お、おは、おは、おはようございますっ!」
数秒後、大変な努力の末に3号は憧れの彼にやっと話しかけました。やや挙動
不審気味の上ずった声ではありましたが。

「あれ? こんなところに踏切があったのか」
突然踏切から声をかけられた金色の彼は少し驚いて、チラリと3号を見ました。
「あ、はい、その、すみません……」
「ふうん、ずいぶん小さい踏切だなぁ。まぁいいや」
 金色の車両は3号の挨拶をさらりと受け流し、前方で遅々として進まない各
駅停車の車両を恨めしげに眺めながら、ぼそりとつぶやきました。
「俺はね、こんなふうに各駅停車ごときの尻をじわじわ追いかけているような
チンケな車両じゃないんだよ」

 彼は、以前はラッシュのピークを避けた時間帯に走っていました。ところが
今回のダイヤ改正でこういった朝の混雑に強引に巻き込まれるようになってし
まい、えらく腹を立てているようなのです。
「俺は特急列車なんだ。しかもただ停車駅が少ないだけじゃない。都会の喧騒
から、自然あふれ、心休まるリゾート地へ快適にお客様をお連れする、お客様
にラグジュアリーな旅をお約束する、その為に俺は作られたんだ。
 だからスタイリッシュだし、台車もシートも特製で乗り心地は最高だし、窓
が大きくて景色もいいし、騒音も少ないし、終点のホームは俺専用だし、車内
販売のお弁当は有名料亭のものだし、美人アテンダントも乗っている」

 ここで信号が橙黄ニ灯に変わりました。金色の車両は徐行をはじめ、ずるず
ると進みながらもさらに話し続けました。
「それがどうだ? こうやって朝から延々と各駅停車の尻を眺めている。しか
も乗っているのは寝不足のサラリーマンやOLばかり! 俺の座席で経済新聞
読むな! 俺の座席で化粧をするな! 俺の座席は日常から非日常へのアプロ
ーチなんだぞ!」
 金色の彼は、愚痴を吐きながら通過していきました。

 3号は、憧れの彼がいきなり怒っていたことに少なからず驚きました。美し
く品が良いと思っていた彼が、乗客に対して文句を言っていたことには少々
ショックを受けました。
 でも同時に、彼はきっとリゾート列車として高いプライドを持っているのだ、
だからあんなに怒っていたのではないか、とも思ったのです。
「あんなに美しく作られたんだ。通勤に使われるのは嫌だろうな。僕だって彼
が通勤電車だなんて似合わないと思うもの」

 次の日の朝からも、金色の車両は3号の手前の信号で止まっては同じように
こぼしていきました。日中から夜と土日や祝日は軽快にリゾート列車として走
ってはいましたが、3号には彼が以前よりどこか元気が無いように見えました。
「僕にはダイヤを変えるなんてスゴイことは絶対できないけれど、でも何か、
彼の為にしてあげられる事はないだろうか……」
 考えた末、自分にできることは聞くことだけなんだと3号は思い至りました。
だからどれだけ長い愚痴であっても同じ愚痴が繰り返されても、3号は黙って、
時には相槌をうちながら、金色の車両の話を聞き続けました。

 金色の車両は独り言のように不満を吐き散らかしていきました。小さな踏切
にこぼしたところで何かが変わるとは思えません。それでも彼は話さずにはい
られなかったのです。
「この間、俺の車内で酔っ払ってゲ○吐いた奴がいたんだ。この俺の中で○ロ
だぞ? あり得ないだろ」
「それは酷いね。すぐに掃除してもらえたの?」
「当たり前だ。俺の車内が汚いなんて許されないことだ。お前は知らないだろ
うけど、ゲ○吐かれるって本当に情けない気分になるぞ」
「……わかるよ。悲しい気持ちになるよね」
「お前も吐かれたことあるのか?」
「足元にね……。雨が降って綺麗になったけど……」
 信号が変わり、金色の車両は走りはじめました。いつもこんな風に、2人の
会話は中途半端に途切れていました。

 3号の次の踏切を通り過ぎたあたりで、金色の車両はさっきの会話をなんと
なく反芻していました。
「雨が降って綺麗になったって……。あいつ、掃除してくれる人いないのか」
 ここにきて金色の列車は、あの小さな踏切はいつも一人ぼっちで立っている
んだということにやっと気が付いたのでした。

 ある日、いつものように3号の前に止まった金色の車両は言いました。
「おい、俺のフロントのワイパーを見てみろ」
「何? あっ! 紅葉!」
 朝日に照らされてプラチナに輝く車体の前面に、真っ赤な紅葉の葉がそっと
添えられています。それは彼の赤いボディラインとコーディネートされている
かのようで、金色の車両にひどく似合っていました。

「この辺のは、まだこんなに赤くなってないだろう?」
「うん。山の方はもうこんなに赤いんだね?」
金色の車両は走り出しの向かい風に合わせて器用にワイパーを動かすと、紅葉
の葉をふわりと、3号に向けて飛ばしました。
「お前は見に行けないから、仕方ないから持ってきてやったよ」
「ありがとう!」
 3号は、自分の列車進行方向表示器の上に舞い落ちた紅葉の葉を眺めました。
風よ吹くな、紅葉の葉よ、ずっと僕の上にいておくれと願いました。金色の
車両がどこにも行けない自分のためにプレゼントしてくれたことが、とても
嬉しかったからです。
 その葉を通して、目の前の線路が行き着く遠い山に思いを馳せました。赤や
黄色に色づいた山の中を走る金色の車両も、さぞや美しいことでしょう。でき
れば見てみたいものだと、3号は思いました。

 ある日の昼下がりのことです。3号は向こうから、車椅子を自分でこいで
いるおじいさんが近づいて来るのに気が付きました。
「僕を渡るつもりなのかな? こちら側は階段なんだけど……」
 近所の人達は、この踏切の片側が階段であることをみんな知っています。
それでも念のため、踏切の向こう側には『この先階段につき自転車・バイクは
通れません』という看板が立っています。

 でも、おじいさんはその看板に気が付いていないようでした。
「この辺に住んでいる人じゃないのかな?」
踏切の真ん中が高くなっていて、向こうから階段が見えないのもやっかいです。
「誰か階段だって教えてあげて! 電車が通り終わったら僕は遮断機を上げな
くてはならないんだ!」

 左右から時間差で通過していた電車がどちらも通り過ぎ、遮断機が上がった
ので、おじいさんは踏切を渡り始めました。そして真ん中を過ぎたあたりで、
やっと反対側が階段であることに気づきました。おじいさんはあわてて元いた
方に戻ろうとしましたが、この3号踏切は幅が1mも無いのです。
 おじいさんは車椅子の向きを変えようとしますが、今にも脱輪しそうです。
3号に次の電車が近づいているとの信号が届きました。もう少ししたら警報機
を鳴らさなければなりません。
「誰か! 誰か! 気が付いて!」
自分が人と話せないことを、今日ほど呪った事はありませんでした。

 おじいさんは結局、たまたま通りがかった近所の主婦達に助けられました。
反対側に脱出できた頃には、警報機が鳴り始めていました。主婦達はおじいさ
んに声をかけながら、この踏切はホント危ないのよと口々に言いました。
「前に○○さんの娘さんが自転車で通ろうとして階段で転んでね……」
「うちの娘はベビーカーで……」
彼女達は過去にこの踏切で起きたトラブルの例を挙げていき、3号はそれを
悲しい気持ちで聞いていました。

 直後、電車が轟音とともに通り過ぎて主婦達の声はかき消され、3号の耳に
「また町会で言おうと思うのよ……」
という断片的な言葉だけが残ったのでした。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

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