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歪み

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの飛来×武智(白)。本編にグルグルしすぎてムショーにエロが書きたくなった。
すいません、ドン暗いです。

夜半も過ぎた頃となると、藩邸内は深い眠りの淵に沈み込んでいるようだった。
すべてが寝静まり、物音一つしない廊下を月明かりだけを頼りに収次郎は進む。
目指す先は武智の部屋だった。
事の発端は昼の内にあった。
皆が集まった所で出た世間話。それは昨今、京の町で続く天誅の騒ぎ。
根底には根深い政治情勢が絡んでいながらも、かまびすしい京の町衆達にとっては
そんな事はどうでもよいのだろう。ただやんやと囃し立てる。
そしてそれに乗じる仲間達の中でも、しかしあの時自分は共に乗る事が出来なかった。
それは数日前に見ていたから。
花街で設けた酒席の中、武智がひそりと口にした名前と、それを聞き姿を消した一人の男の…
伊蔵の背中。
その前にも予兆はあった。
武智が怪訝を口にした、その翌日に消された浪人者。
まさかとは思った。けれど打ち消しようも無かった。
だからもはや居ても立ってもおられず、武智の後を追いかけた。そして二人だけになった場所で、
問おうとしてしかし問いきれず、口ごもる。
そんな自分にあの時武智は言った。
『そろそろひずみが出てきちゅう』
ぽつりと零された、それは意味のわからない言葉だった。しかしそれにはっと顔を上げた自分に
武智は尚も言葉を続ける。
『おまんで、ええか』
こちらを見、微笑む武智の目には光がなかった。
無いままに彼は自分に最後、今夜部屋に来るようにと告げた。

廊下の角を曲がり、顔を上げる。
そして見やった先の部屋には、もはや明かりは付いていなかった。
今宵と言われつつも踏ん切りがつかず、手元の仕事を片づけている内に遅くなってしまった。
寝てしまったのなら今日は戻った方がいいのかと、思いつつも一度だけと収次郎は辿りついた
部屋の前、膝をついて声をかける。
「先生。収次郎ですが、もうお休みになられちょりますか?」
障子戸越し、返事は無かった。
ならば仕方がないと立ち去ろうとする、しかしその瞬間何やら胸にざわつく不安がよぎった。だから、
「すみません、先生。失礼します!」
言うと同時に戸に手を掛け、引く。
はたして部屋の中にこの時、武智の姿は無かった。
代わり、あったのは上掛けのめくられた一組の布団だけ。
思わず部屋の中に足を踏み入れ、その布団の上に手を置く。
触れた布は秋の夜気に冷え、長く人のいた気配を感じさせなかった。
胸の不安が一気に増大した。だから、
「先生っ」
もう一度短く叫ぶと同時に、収次郎は消えた武智の姿を求め部屋を飛び出していた。

大きな声を上げる事は出来なかった。
それどころか足音さえ忍ばせて、収次郎は藩邸内を巡る。
人を呼ぼうと言う考えは無かった。そうしてはいけないと何かが本能に告げていた。
御用部屋、応接の間、果ては風呂場までのぞき、しかしそのどこにも姿は見当たらない。
まさか外に出たのかと、昨今の京の町の物騒さを思い血の気が引きかけるが、なんとか冷静さを
努めて思考を働かせる。
この異様さ、正面から外に出るとは到底思えない。ならば裏口か。
踵が返される。向かったのは勝手口だった。
下働きの者や商人達が出入りするそこは屋敷内の端に位置していた。
幾つもの角を曲がり、戸板を引く。
格子越しに月の光だけが差し込む蒼い闇に沈んだ台所。
土間へと降りる階段状の板の間にその人は、いた。
白い夜着姿だった。羽織一枚羽織らぬその寒々しい背が、冷たい板の上にぺたりと座り込んでいる。
「先生?!」
思わず叫ぶような声が出る。しかしそれにもその背が動く気配は無かった。
ただひたすらに闇の一点を見据え、こちらを振り返ろうともしない。
その異様な雰囲気には、驚きより先に恐ろしさが立った。けれど、
「……先生…何しちゅうがですか、先生っ…」
懸命に声を振り絞る。足を踏み出し、立つその背後。
それでも武智がこちらを見ようとしないのがわかればその膝は崩れ、収次郎は堪らず腕を伸ばし
目の前の体を後ろから強く抱き締めていた。
引き寄せた、その肩は冷たかった。
いったいどれくらいの長い間、一人ここにいたのか。
思えば腕の力が更にこもる。それはいっそ痛い程に。
だからだろうか。
「……苦しい…」
ようやくに聞こえた声。それにはっと視線を上げれば、そこにはどこか不思議そうにこちらを
振り返ってくる武智の目があった。
「どういたがじゃ?」
密やかに呟かれる、その言葉は自分のものだと思う。だから、
「先生こそ、どういて……」
責める言葉が、しかし最後まで続かない。するとそれに武智はもう一度視線を前方に戻すと、ぽつりと
言葉を落としてきた。
「来ぬなと…思うて…」
「えっ?」
意味がわからず思わず聞き直してしまう。しかしそんな収次郎を気にかける様子なく、武智の呟きは
流れ続けてゆく。
「仕方がないの。切ったのはわしの方じゃき。あれとわしでは考え方が違う。言葉にはせんでも
あれはあの笑顔でいつもわしを拒絶する。それにわしはもう……どういたらええかわからんくなって
しもうたがじゃ。」
「…先生……」
「言葉では何も通じん。目ももう合わん。なら…もう終わりにしなければならんきに、あれは
忘れられたと思うた頃にひょっこりと現れる。酷い奴じゃ。せやきにわしは……」
視線が上がるのがわかった。その瞳が闇を見続けているのがわかった。
そして言葉が繰り返される。
「来ぬな……」
どこか遠く寂しげに響く、その言葉の意味はほとんどわからなかった。
もしかしたらわかるかもしれない部分はあったのかもしれないが、それでも収次郎はあえて
わかりたくないと思った。
ただ、今のままでは駄目だという警鐘だけは頭の中で鳴り響く。
脳裏によぎる昼間の記憶。
傲然と笑み、こちらを見つめてきた光のない黒い瞳。
それと瞳の闇はまったく同じなのに、今目の前にいる人はまるで別人のように脆く儚げで。
夜着越しでさえわかる肌の冷たさが、自分の心を追いつめる。だから、
「戻りましょう。」
ここにいてはいけないと、収次郎はこの時抱き留めていた腕をゆっくりと解くと武智に告げた。
それに武智は無言の視線を向けてくる。
是とも非とも言わない。それが焦りに拍車をかける。
なんとしてもこの場から離れねば。だから迫る言葉が口を突いた。
「わしが負うてゆきますきに。」
「……負う?」
「ええ。」
反応があった事を幸いのきっかけとして、収次郎はこの時素早く座る武智に背を向ける。
しばし、声は無かった。
拒絶されるか、無視されるか。賭けのような時をそれでも収次郎は耐える。
長くも短い、気の遠くなるような……そんな時間の代償は、首筋に回った腕の感触だった。
ふわりと袖ごと巻きつけられる二の腕。そして背中に重なってくる冷たさ。
こうなっても武智からの声は無い。
それでもこの時収次郎は構わないと思った。
ただ預けられた身の重さが泣きたいほどに切なかった。

二人無言で廊下を渡り、辿りついた部屋の布団の上に武智を下ろすと、収次郎は最初に上掛けを
その足元に寄せた。
そして手を取る。
「冷えちょりますね。湯を持ってきますきに、それまでは布団の中であったまっておいてつかぁさい。」
近くにあった羽織も引き寄せ、その肩に覆わせると、立ち上がろうとする。
しかしそれは不意に引かれた袖のせいでままならなくなった。
「先生?」
視線をやれば、そこには引くだけでない、袖ごと自分の腕に絡みついてくる武智の姿があった。
伏せがちの黒い瞳がゆらゆらと揺れている。そして、
「……も…いくがか…」
小さく呟かれた声。聞き取れずえっ?とその身を下ろし、収次郎が向き合えば、それに武智は
視線の先、くっと眉根をしかめもう一度言った。
「おまんも……行くがか…」
声が、腕が、震えていた。
ギリギリに張りつめながら、それでいてほんの些細な事で一気に瓦解してしまいそうな、
そんな不安定な心の内が触れる肌の感触から伝わってくる。
それに収次郎は痛ましさと共にこの時、どうしようにもない憤りを感じずにはいられなかった。
別人のような。ひずみ。
いったい何がこの人をここまで追い詰め、誰が……この人をここまで壊してしまったのか。
自分の預かり知らぬ所で起きただろう事に悔いと嫉妬を感じながら、それでも収次郎はこの時、
その怒りを胸の内だけに必死に収める。そして、
「どこにも行きません。」
絡みついてくる武智の体を抱き寄せながら、その耳元静かな囁きを告げた。
「せやきに、わしが温めてもええですろうか。」
顔が上がる。視線が絡む。
そこにやはり声は無かったが、もう答えは待てなかった。

着物を脱ぎ、引き寄せた行灯用の油を指に絡ませ、もつれ込んだ布団の中で裾を託し上げるように
下肢を探れば、それに武智はその時、反射的に背を反らしながらも逃げる事はなかった。
どころか、抱き締められる肩先で押し殺される息と縋ってくる震える指先。
胸元、喉、そして頬に這い上がったそれがなぞるように唇に触れてこれば、その冷たさを拭おうと
収次郎はその一つを口に含んだ。熱を与えるように舌を絡める。
爪から関節、そして付け根までを舌先でくすぐる。と、瞬間それに武智は感じ入ったような吐息を洩らしてきた。
それは今まで収次郎が見た事のない武智の表情だった。
これまでも肌を合わせた事は幾度かある。
無理矢理でも合意でも、その体はどこか慣れている事が察せられた、けれど行為自体はひどく
厭うような強張りをいつも初めに見せていた。
しかしその戸惑いが今は……ない。
あるのは、慣らす指を受け入れ、立てる水音と交わす吐息に聴覚を刺激されたように、自分を
見上げてくるどろりと重く甘い闇を秘めた瞳。
不意に口元からそっと指が引き抜かれた。自分の唾液を絡めたそれが、ゆっくりと下ろされてゆく。刹那、
「…先生っ」
思わず呼ぶ声が口をついた。それは武智の指が自分の下肢の熱に絡んできたからだった。
それまでの抱擁ですでに昂ぶっていた男の欲を、武智はこの時柔く握り込んでくる。そして、
「…ええから…」
落とされた呟き。
「優しゅうしてくれんで…ええから…」
「……せん…せ…い…」
「お願いやき…もう全部…壊いてくれ……」
願うそれは体なのか、それともまた違う何かなのか。
力無く茫洋と、それでも切実に何かの終わりを乞う武智の声に、収次郎は瞬間胸に刺すような痛みを覚える。
大事に、大切にしたいのに、それを許してくれないこの人が憎かった。
それでもそんな事を求めなければならない程、何かに追い詰められているこの人がたまらなく憐れで
愛しかった。だから、
「力、抜いておいてつかぁさい。」
告げると同時に収次郎は絡めていた腕を解くと、武智の体をうつ伏せに返す。
武智の顔を見る事が出来なかった。
そして何より、愛憎に塗れた自分の醜い顔を武智に見られたくないと思った。

重い闇が堕ちている。遠く聞こえるのは虫の音か。
濁流に押し流されるような情事の果てに訪れた静寂の中、身を起こす収次郎が落とした視線の先に
あったのは、こと切れたように眠る武智の青白い横顔だった。
優しさを拒まれたあれから、自分は武智を手酷く抱いた。
体を伏せさせ、腰だけを高く抱え持ち、なんの技巧も無く後ろから貫けば、それに武智の背は
強張りを帯びて震えた。
上げられる悲鳴からは耳を塞いだ。
ただ望まれたまま、その身を苛もうとする。
それでも、そんな武智の体が腕の中で溶け始めるのにかかる時間は、記憶のものよりも遥かに
短かかった。
押さえつける肌が徐々に淡い朱に染まりだす。
切れ切れに零される悲鳴にはいつしか縋るような艶が交じり、欲をのみ込む粘膜はおそらくは
本人の意識の外で熱くうねり、男を奥へと誘った。
明らかに男に弄ばれた痕跡を匂わせる媚態。
そしてそれがけして自分の手によるものではない事がわかる分、与えられる快楽が深ければ深いほど
自分の砂を噛むような嫉妬はそのまま荒い愛撫となった。
胸元に滑り込ませた手で両の尖りを捏ね、深く身を折り、さらされたうなじに歯を立てる。
途端、きつくなる下肢の締め付けをも突き崩すように腰の穿ちを早めれば、それに武智は無慈悲に
揺さぶられながら啼いた。
淫らがましくも憐れな肢体が、己の為すがままに追い詰められていく。
悶え、狂いながら……果て堕ちる。
途端、崩れるように力の抜けた武智の体を、しかしあの時自分は許さなかった。
前のめりに倒れかけるその腹に腕を回し、身を起こした自分の膝の上に座らせるように引き寄せる。
解かれぬままだった繋がりが自重でまたも深くなり、武智は刹那、呻くような声を上げたが、
自分はそれを聞いてはやれなかった。ただ、
「まだです……」
小さく、それでも強く囁きをその耳元近くに落としてやる。
すると武智はあの時、それ以上の抗いは見せなかった。
その後は、律動、嬌声、どこまでが自分かわからなくなるほどの溶けあう情交。
永久にも思える甘くも苦い共の責苦は、長く武智が気を失うまで続けられた。
伸びた指先が、武智のこめかみに落ちるほつれ毛をはらう。
消耗しきる事でようやく訪れた眠り。
それを妨げるつもりはなかったが、その微かな感触にこの時、不意に武智の瞼が微かな震えを帯びた。
うっすらと開く、その奥に黒い瞳がのぞく。
そこに光は無かった。
だからそれに収次郎は瞬間、冷たい緊張を背筋に走らせる。
目の覚めたこの人は、また別の人になってしまっているのではないかと思った。けれど、
そんな自分の恐れはこの時、微かに動いた唇から零された小さな呟きの前に霧散した。
「………ん…」
それは渇き、掠れた声だった。
「…すま…ん……しゅう…じろう…」
それきり―――だった。
薄く開いていた瞳が再び力尽きたように落ち、辺りに静寂が戻る。
またしても一人、闇の中に取り残される。
けれど収次郎はこの時、そんな武智を眼下に見つめたまま、しばし動く事が出来なかった。
脳裏に反響する声がある。
それは確かに自分の名を呼んだ。
この夜初めて、自分の名を呼んでいた。
だからそれに、わかっていたのかと……ちゃんと、わかっていたのかと。
思い出す、虚空を見つめ、何も映していなかった瞳。
言葉を交わしても肌に触れても、どこか遠かったその人は、縋り抱かれた相手すら誰だか理解を
していないようで。そんな鈍い痛みに苛まれ続けていた心が今、ただ一つの名に救われる。
選ばれていたのだと熱を持つ。

『おまんで、ええか』

たとえそれが、どれほど都合のいいものであったとしてもだ。だから、
「側におります。先生の…望まれるままに。」
無意識に溢れ出た、その言葉は決意だった。
それはどんな形でも。支える為でも、温もりを与える為でも……壊す為に、抱く為であっても。
ただ……
「だから……少しだけ、許してつかぁさい。」
腕が伸びた。
眠る武智の背を包み込むように抱き寄せながら、収次郎はこの時その隣りに静かに身を添わせてゆく。
夜は深く、闇は暗く、夜明けはまだ遠い。
だからそれまでの間しばし、と願う。それは、

優しく抱かせてつかぁさい―――

ただ……それだけの事だった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ナガーイ鬱話。読んでいただいてありがとうございました。
しかし凄い肝心なところミスったorz


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