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宵惑い

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|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

孔は眠りに引き込まれた。
風間の声が聞こえたような気がしたが、それもすぐにわからなくなった。
短い夢を見た。
誰かが遠くで、何かを話している。何を言っているのか聞き取れず、顔も見えない。
せめてもっとちゃんとしゃべれ、と言おうと思ったところで唇に柔らかいものが触れた。
そこでまた、孔の夢は途切れた。

目を開けると、薄暗いオレンジ色の光の中、風間がすぐ近くに座って、自分の髪を撫でていた。
顔はなんとなくこちらを向いていたが、目はどこか遠くを見ていた。
撫でているのとは反対の手で、ショットグラスを口に運んでいる。
一瞬、自分がどこにいて、どうして風間がそばにいるのか思い出せなかった。
風間とゲームをして、ビールをたくさん飲んで、電車がとうにない時間で、眠くなって寝てしまった…。
孔は自分が毛布にくるまっていることに気がついた。風間がかけてくれたのだろう。暖かい。
「風間、何、飲んでる?」
孔の髪の毛を撫でていた手が止まり、物思いから覚めた顔で風間が孔を見た。
さりげなく手が離れてゆく。
「ジンだ。…目が覚めたか。起こしたか?」
「ううん。トイレ」
「そうか」
用を足して出てくると、キッチンの小さな明かりの中で風間がやかんを火にかけているところだった。

「酔いはどうだ」
「んー、まだ、のこてるかな。のど乾いた」
水道の水をコップに汲んで一気に流し込むと、大きく息をつく。
冷たい水が胃に落ちたところで、突然寒くなり、ぶるっと大きく震えた。
「冷えたか?」
「少し」
湯が湧いたところで火を止めた風間が、茶筒から茶色の大振りな葉を急須に入れ、湯を注ぐ。
香ばしい香りがたった。
「なに?」
「ほうじ茶」
孔がマグカップを二つ見つけて置くと、風間が熱い液体を注いだ。
二人シンクの前に並んで、立ったままマグカップに口を付ける。
「オイシイ」
キッチン横の磨ガラスに、常夜灯の白い灯りが映って見える。時折窓の桟から水滴が落ちている。
まだ雨が降っているのだろう。
「何時?」
「2時頃か」
「そか…風間、明日は?」
「別に何もないな」
「デート、予定はないのか」
「そもそも相手がいない」
「そうなのか?」
「そうだ。孔は」
「ひさしぶり、スポーツセンター、休み。辻堂も休み。日曜、両方休み、珍しい」
なんとなく二人は黙り込む。
孔はマグカップを両手で包みながら、立ち上る湯気を見ていた。
「寝るか。歯ブラシあるぞ。シャワーを浴びるなら風呂場はそっち」
風間が口を開いて、孔は頷いた。

寝室の床に置かれていた筋トレ用の用具を部屋の端に片付け、空いた場所にクローゼットから出された寝袋が置かれた。
海王時代に合宿で使った寝袋である。
誰かが泊まることなど想定していなかった風間の部屋には、孔が寝るための寝具がない。
孔は借りたスウェットに着替えると、エンベロープ型の寝袋にもぐり込んだ。
孔と入れ替わりでシャワーを浴びた風間がキッチンで水を飲んでいる気配がする。
ことりとグラスがシンクに置かれる音がして、寝室のドアのところにもたれてしばらくたたずむ風間の姿が見えた。
「風間、寝ないのか」
「寝るよ」
足音が近づく。ベッドがぎしりときしんでごそごそと布がこすれる音がし、風間がベッドに入る。
ベッドサイドのスタンドが消されると、部屋の中に暗闇が落ちた。
カーテンを閉めていない窓から、夜の街路灯の明りが白く天井に射す。
孔は寝袋にもぐりなおすと、瞼を閉じた。
眠気は体中に行き渡っているのに、なぜか頭がさえて、もう眠りは訪れてこなかった。
頭のどこかが薄ぼんやりとしている。まだアルコールが体の中を巡っているのだ。
風間のもとからは規則正しい息遣いが聞こえてきたが、それはただ、風間が規則正しく呼吸しているだけ、と言うことが孔にはわかった。
狭い寝袋の中で何度か身じろぎしたところで、諦めて孔は目を開けた。
風間のシルエットが見える。
孔は自分が緊張していることに気がついた。
唇が乾く。すぐそこに風間がいて、お互いに眠れない。
酔いながらも緊張している自分が奇妙に思える。
孔は自分がなにを言おうとしているのか、わからないまま口を開いた。

「風間」
「うん?」
「寝袋、寒い」
「毛布を足すか?」
「ううん、私、そっちに入れろ」
風間が枕から頭をあげたのがわかった。
「…交代するか。孔がベッドで寝たいならそれでも」
いい、と続く言葉の上に声をかぶせた。
「風間の隣に、私、入れろ」
「冗談言うな。----狭いだろうが」
「狭くていい」
「勘弁しろ」
「風間。私、まだ酔てる。酔ぱらいの、言うこと、聞け」
「なんて言う理屈だ」
あきれたような嘆息が風間から聞こえ、孔は少し笑った。
「風間も、酔てるだろ? 寝袋、寒い」
本当は寒くなんてないのだ。
寝袋の中ははちゃんと暖かい。
風間はベッドから身を起こすと、しばらく逡巡した様子でいたが、「知らんぞ」と呟いて掛け布団を持ち上げた。
「来い」
孔は寝袋から抜け出すとするりと入り込む。
「暖かい」
「…そうか。それはよかった」
風間は孔に背を向けた。

「風間」
「なんだ」
「こっちを向け」
「…孔、」
「こっち向け」
少ししてから、大きなため息を付き、風間が仰向けになった。
こちらを見ない。
少しだけためらって、孔は探るように風間の手に自分の掌を重ねた。
一拍おいて、骨張った大きな手が指を絡めてくる。
記憶の中にある風間の手。
こうしているのが当たり前であるかのように、二人の指が絡む。
暗闇の中、天井を眺めながら、しばらく無言が続いた。
「くそ、どうにもならん」
行動を起こしたのは風間だった。
風間が指を絡めた手を顔の近くに引き寄せ、孔の方を向いた。
気配を感じて、孔も風間の方へ顔を向けた。
風間の空いている手が孔の頬に触れ、反射的に孔は瞼を閉じた。
乾いた指がゆっくりと頬をなぞるのを、孔は不思議な思いで感じていた。
まるで風間の指は、恋人を愛撫しているかのようだ。
目を閉じた孔の頬を、風間の指がゆっくりと滑る。
親指が孔の唇をとらえ、触れてくる。
風間が絡めた指を引き寄せて、その先にくちづけた。
感覚に、孔の息が止まる。なだめるように唇に触れられて、孔は軽く唇を開いた。
「風間…」
声が上ずり、慌てて孔は口を閉じた。心臓の音が耳元でする。熱い。
「孔、誘っているだろう…?」
目を開けると、暗闇の中に、射るような風間の瞳が鈍く光っていた。
「ちが…、風間が、誘てる…」
「そうか…?」
見たことのある目だ。濃緑色の台を挟んで対峙した、あの「ドラゴン」の目だ。
「私の方か?」
風間が体を起こし、孔に覆いかぶさった。

顔の両脇に腕を置かれ、上から覗き込まれて孔はまた息を止めた。
ゆっくりと風間の顔が下りてきて、孔にくちづけて離れていった。
風間からは、風間のまだ少し水気を含んだ石鹸の匂いと、歯磨き粉の匂いがした。
腰に風間の昂ぶりを感じて、孔は眩暈のような感覚に襲われた。
片手は風間の指に搦め捕られたまま、もう一方の手で風間の髪の毛を探る。
「かざま…」
吸い寄せられるように風間の唇が落ちる。
「なんだ」
「アナタ、背中に、痕…付いてるか?」
風間が一瞬虚を突かれたように黙り、小さく笑った。
「やはり、誘っているだろう…?」
「ん…」
そうかもしれない。
「相手がいないと言っただろう…自分で確かめてみろ」
低い声で告げられて、背中にぞくりと電流が走る。
「一つだけ聞かせてくれ」
風間の唇が、孔の唇に軽く触れながら囁いた。
「…私のことが好きか、孔」
腕を下ろして風間の眉に指を当てながらそっと滑らせると、孔は
「おしえない」
と答えた。

「かざまが、私を好きか、言ったら…おしえる」
「好きだ」
即答されて、孔は狼狽した。
そうだ、風間はいつもこうだった。
ラケットを構え、緑色の台を挟んで対峙する時。
いつも重量のあるまっすぐさでこちらを叩きのめそうとしてくる。
恐ろしいほどの強さで。
「風間、」
「好きだ、孔」
「かざまっ…」
自分の思いは、一方通行ではなかったのか。
風間に抱きつくと、息が苦しくなるほど抱きしめられた。
孔は自分の眦から、温かいものが流れ落ちたことに気がついた。

涙がシーツに落ちる音が耳元で響いて、どうか風間に気がつかれませんように、と孔は願った。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

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