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恋は思案の外

ピンポン ドラチャイ
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じりじりと進んでおります

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

孔が風間と久しぶりに顔を合わせたのは、仕事先のスポーツセンターのジムだった。
交代の時間になり、ファイルを手に取りながらジムを出ようかと歩き出したところで視界の端に存在感のある何かをとらえ、振り向くと、壁際のベンチシートに座って孔を見る風間の姿があった。
「…風間?」
「トレーナー姿も板についているものだな」
風間は、孔のアパートからの帰り際気まずく別れたことなど何もなかったかのように話しかけてくる。
孔の働く姿を見ていたのらしい。気が付かなかった。
「びくりした…いつからいた? トレーニングに来た?」
「ここには今しがただな。隣に、注文していたラケットを受け取りに来たのだが」
「ああ」
スポーツセンターの隣には、スポーツ用品全般を取り扱う大きいショップがある。
「いいトレーニングマシンが入ったと大学で噂で聞いてな。それにここで働いていると言っていただろう。ついでにのぞきに来た」
「新しいのベンチかな。あれ、いいよ。レッグストラッチャーも、新しくなてる」
「ここのジムは孔をトレーナーに指名すれば付いてくれるのか」
「うん、私、その時、空いていれば。来たら、ジムの受付、聞け」
話しながら、先日のことは、風間にとってはなんでもないことだったのだと気が付いた。
顔を合わせづらいと考えていたのは孔だけだったのだ。
「そうしよう。ジムにいる日を教えてくれ」
目を覗き込まれて、孔はごまかすように腕にかけていたジャージの上を羽織った。

「孔はその色合いが似合うな」
孔が着たのは、黒に鮮やかなオレンジのラインが入ったジャージだ。
オレンジは辻堂学園卓球部カラーで、あればついその色が入っているものを選んでしまう。
そう言うことは女の子に言え、と思う。
「ラケットの受け取り、これから?」
「もう終わった。仕事は終わったのか? この後は辻堂か?」
「ん、昨日土曜で試合あたろぉ、今日は午前中自主練、私休み。今日はジムだけ」
「ちょうどよかった。それならば少し付き合ってくれ」
「どこ?」
「台があるのだろう。新しいラケットの調子を試したい」
「ああ。いいよ」
いいよ。

孔は一度職員ロッカーに戻り、ラケットと球を持つと卓球室へと急いだ。
卓球室には8台の卓球台があり、使用申込書を書いて料金を払えば誰でも使用出来る。
既に着替えてストレッチしていた風間を見つけると、孔の心臓が早くなった。
趣味や、健康づくりのために来ている利用者がほとんどの卓球室の中で、風間の姿は異彩を放つ。
「あら孔さん、こんな時間に珍しい。今日はジムじゃないの?」
「こにちは、ええ、はい、これから、友達に付き合って、打ち合いです」
なじみの利用者に声をかけられ、挨拶を返しながら風間の元へと急ぐと、孔もストレッチで身体をほぐした。
一通り終えると、風間と孔は深緑色の台を挟んで構えた。
「いくぞ」
「うん」
カツッと言う音の、風間のサーブでラリーが始まった。
孔はこの球が走り出す、その一瞬前の緊張感が好きだ。
アドレナリンが身体を駆け巡るのがわかる。
二人の間を、軽い音を立てて白い球が走る。
相手の打ちやすいところへと球を返すラリーは、技術の高いもの同士、互いの息が合うと長い間続けることが出来る。
自分の打つ球が、風間の元へ吸い込まれるように飛び、風間から返ってくる。
辻堂の生徒の相手として打つラリーとはまた違う楽しさ。

何回ラリーが続いたか、風間が不意に球を見送った。
手を止めて二人のラリーに見入っていた利用者達から、
「ああー」
と言うため息のような声が漏れる。
誰かが気を利かせてロストボールを取りに行くのが目の端に見える。

風間が新しく球を手に取り、構えた瞬間、風間の持つ威圧感がぐっと強くなるのを孔は感じた。
心臓がどくりと跳ね、興奮に肌がざっと粟立つ。
これから始まるのはラリーではない。
風間が真剣勝負を仕掛けてようとしているのを孔は瞬時に理解した。
(来い!)
風間がサーブした瞬間、孔の耳から回りの音が消えた。
「はぁっ!」
どん、と音が聞こえるようなサーブを打ち込まれ、反射的に孔の身体が走る。
飛び、
返し、
打ち込まれ、
拾い、
翻弄され、
翻弄し、
弱点を暴かれ、
暴く。
この狭いコートは、なんと広いのだろうと思う。
この、軽く小さな白い球は、なんと重いのだろうと思う。
孔は風間が、辻堂2年の時に対戦して以来の間に、変化したことを知った。
あの頃の風間のプレーは戦車のようだった。
装甲車を相手にしているようだった。
孔の知らない、風間の中に積み重なった様々な経験が、風間を変えたのだ。
風間はこれからも変っていくだろう。

白い球を追って、打ち込んで、聞こえるのは、自分と、風間の息づかいのみ。
汗が滴り落ち、床に飛ぶ。
打ち続けるうち、孔はセックスしているかのような感覚にとらわれた。
卓球とはこんな球技だったろうか。
裸に剥かれて、心の奥も剥かれるように感じる、こんなスポーツだっただろうか。
風間はこんなにしなやかでセクシーな男だっただろうか。
これが本当のセックスだったら、俺はとうの昔に射精している。
勃起していないのが不思議なくらいだ。

「10-12! 風間選手!」
コートのエッジに打ち込まれ、興奮した声で点数を告げられると、孔は誰かが審判役を買って出、点数が付けられていたことに気が付いた。
破顔しながら風間が大股に近づいて来、孔に握手を求めた。
孔も笑いながら腕をのばし、握手を交わす。
それから抱き合い、肩を叩いて健闘を称える。
スポーツマンの抱擁。
「孔さん、すごいわねえぇ」
「風間選手のプレーが間近で見られるなんてな」
顔なじみの利用者が次々に声をかけてくる。
「もう終わり?」
「ええ、今日はこれで」
風間が息荒く答え、孔も流れ落ちる汗をタオルで押さえながら、審判をしてくれた男性に礼を伝えた。
利用者たちがわいわいとそれぞれ自分たちの台に戻る。
ストレッチで身体をクールダウンさせると、風間が先に立ち上がり、孔に手を差し出した。
風間の手のひらを握り、立ち上がる。

「風間、スタイル変ったね」
「そうか。孔は相変わらず燕のようだったな」
「つばめ? 鳥?」
「そうだ。空をすいすいと飛んで、掴まえられない。海王の頃から、孔を見る度そう思っていた」
それはなんだ。真顔で殺し文句か。
照れた顔を見られずにすむよう、まだ汗が出る、と言う風に、孔は頭からタオルをかぶった。

「ラケット、どうだった」
「ああ、なかなかいい」
荷物を持って卓球室を後にしながら、再び風間との距離が近くなったことを孔は何者かに感謝した。

風間。
風間は俺がお前を好きだってこと、知らないだろう。
知らなくってもいい。
俺が知ってる。

「孔、時間があるなら飯を食おう」
「あ、行く行く。でも日誌書くから、ちょと遅くなるよ」
「わかった。待っている」
更衣室に歩き出した風間と別れ、孔は急ぎ足で事務所へと向かう。
泣きたいような、
嬉しいような、
苦しいような、
晴れ晴れとしたような、
何とも言えない気持ちとともに。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

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