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薄氷の音

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの奈須×武智(黒)。本編でほぼモブだったのに夢見すぎてエロがあります。
黒白タケチの関係性が難しく、なんだかわかりにくい話になってしまいました。
雰囲気だけでも伝わってくれれば幸いかと…

それは、鈴を振るかのごとく高く澄んだ音だった。
長く尾を引きながら、薄く剥がれ細かく欠けていく音。

『東洋は生きちょります』

それが一際大きくなった瞬間。
耳の奥で反響するそれに、自分の声も聞こえないまま唇だけが動く。

『…涼真は…』
『あやつも』

しかしその音が……不意に止んだ。
それに自分はあぁと思う。
あぁ、とどめだ、と。
しかしそれは初めからわかっていた事だった。
わかっていたから、自分は今目の前にいる男を呼んだのだ。
それでも最後の一欠片で、信じたい気持もあったのだろう。
それが――彼はまだ報告に現れない――その事ですべてを悟らされる。
愚かだと思う。愚かすぎていっそ憐れなほどだ。
いったいこれまで、何度同じような事を繰り返してきたのか。
だから『少し休め』と、自分はもう一つの自我に唇を動かさぬまま呟く。
自由は欲しい。しかしだからと言って完全に消えてなくなられても困るのだ。
だからしばし……眠れ。
告げる言葉と裏腹に、閉じていた目が開く。
光の無い黒い瞳が、前に座す男を映し出していた。

奈須進吾。
道場に通う門弟の中でも、抜きん出た体格の良さと武芸の腕を持っている彼とその仲間に、
数日前、自分はある仕事を頼んだ。それは、
藩の参政、芳田東葉の動向を探る事。
それは登城時の道筋や護衛の数。帰城の時間。屋敷への来訪者の詳細。そして、
それと同時に見張らせた阪本涼真の行動。
自分と彼の縁戚関係は周囲には知られている。
それゆえに最初聞かされた時、彼は一瞬怪訝な顔をしてみせた。
しかし腕だけでなく頭も回る男だったのだろう、彼はそれ以上の事は言及せず忠実に任にあたった。
その上での、今の報告。
あの男も、彼も生きている。ならば次に打つ手は、
「手間を取らせてすまんかったな。」
「いえ。」
「何分、自分では動けんかったでの。助かった。」
言いながら無意識のようにその手を頬に触れさせる。
そこには数日前、東葉とその甥によって足蹴にされた際、出来た痣がまだ薄く残っていた。
途端、那須の視線が歪む。
「大丈夫ながですか?」
問われ、静かに微笑した。
「あぁ。腫れは大分と引いた。しかし見栄じゃな。皆の前であのような目にあって、
なんちゃあ頼み事をするにも、収次郎達を頼るのは気が引けた。」
普段、片腕とも言うべき旧知の仲間の名をさらりと出せば、それに奈須の目には瞬間、
微かな喜色が浮かぶ。
「いえ、声をかけてもろうて、嬉しかったがです。」
多勢の中から一人、認められたと言う事実が自尊心をくすぐる。
そしてそれは更なる特別を求めさせる。
「先生は、阪本に何を?」
答えを察っしているだろう上で口にしてくる問い掛け。それに自分は尚も静かに笑ってみせた。
「なんちゃあない事や。」
「しかしあやつはあの東葉を前にして、なんもせずに戻ってきたがです。あれがわしやったら、」
「やめい。」
憤る語調を諌めるように、短く強く言う。
それに奈須は一瞬呑まれたような表情を見せたが、それに自分は彼の目の前、一度小さく息をつくと
再び口元に柔らかな笑みを浮かべた。そして、
「……涼真にも出来んかった事じゃ。おまんに無茶はさせられん。」
わざとの名出し。わざとの労り。
その響きが優しげなら優しげなほど、相手の義侠心を煽るのは想定の内の事だった。
「先生!」
座していた間を詰められ、腕を掴まれる。
「望む事を言うてつかぁさい!わしは先生のお役に立ちたいんじゃ!」
握り込んでくる手の強い力。本気の声の響き。
追い込む。あと、もう少し。
「一人では無理じゃ。」
「今回の事に関わった保岡と大居氏にも声を掛けます。」
「事が成れば、おまんらはこの土イ左におられのぉなる。」
「それが先生の、この国の為になるがなら本望ですきに。」
「……いかん、」
微かな沈黙の後の溜息、そして微笑。
やんわりと掴んでくる腕を解こうとする。その気配に奈須は抵抗した。
「先生!」
振り解かれまいとする手が腕を引き寄せようとし、その強い力に体が思わず傾く。
奈須の肩に顔を埋めるような形になる。
触れた場所から伝わる振動で、彼がはっと息を呑むのがわかった。だから、
「……その前に、おまんには今回の礼をせねばならんのう。」
話をはぐらかし、着物越し、その胸に手を置く。
押し返すわけでも縋るわけでもなく、ただ触れ、その目を上げる。
「何か、欲しいもんはあるかえ?」
目を細めて笑いながら、問う。
その答えは……再び深く抱き込んでくる腕の強さで返された。

窓辺に座り込み、細く開けた障子戸の隙間からのぞき見た眼下には、夜も更けた頃合いになっても
行き交う人の影が幾つか見て取れた。
賑やかと言う訳ではない。どちらかと言えば密やかな、しかし眠る事のない淫猥な雰囲気が
日が落ちると共に漂い出す町の一角。
しかしそんな界隈の中でも今、自分がいるこの店は比較的まともな店構えをしていた。
あれから数日、落ち合う場所は相手に決めさせた。
果たしてどんな所を指定してくるか。思い、辿りついた場所にあったのは、一見普通の
小料理屋を前面に出した色茶屋だった。
その選択は彼なりの自分に対する配慮だったのだろう。
ふと思い、背後を振り返ろうとする。
しかしその背中にこの時、ふわりと掛けられる羽織の感触があった。
「夜は大分と冷えてきましたきに。」
情事後、眠っているとばかり思っていた男がいつの間にか側近くに来、着物一枚だった
この身を心配して労わりの声をかけてくる。
そんな相手に武智はこの時、ゆっくりと視線を巡らせると静かに微笑みかけていた。
「すまんな。」
礼を言いその羽織を引き寄せながら、そのまま後ろにいる彼――奈須の腕の中に凭れかかろうとする。
そのわずかに傾いた体を、彼はしっかりと受け止めてきた。
先刻まで一度深く絡み合っていた肌は、互いの着物越しでもこの時しっとりと纏いつく。
太い腕が体温を分け合うように体を抱き込み、柔らかく引き寄せてくる。
それに武智は逆らわなかった。
むしろ自ら甘えるように首を傾けてその頬をすり寄せようとすれば、その顎に添うように
奈須は手を持ち上げてきた。
柔くなぞり上げ、それは頬のある一点で止まる。
そして小さく呟かれる。
「許せんがです……」
真剣に思いつめたような声。それに武智はふっと口元を緩めた。
「そんな事を言うてくれたは、おまんだけじゃ。」
決死の訴えを退けられ、あげく犬猫のごとく痛めつけられ、その際に出来たこの顔の痣から、
あの時門弟達は皆、まるで腫れ物に触れないでおこうとするかのように目を背けた。
それは新入りの者達から、古くからつきあいのある者達に至るまで。
もっともその中には、驚きのあまりこの痣自体目に入っていないかのような者もいたが……
脳裏に浮かびかけたその者の顔を、武智はしかしこの時、すぐに打ち消すように意識を触れてくる
手の方に集中させる。
優しい手はただそれだけでひどく肌になじむ。
それはそれだけこの身が、まるで渇いた砂のように労わりに飢えていた事を意味していた。
幼い頃からもう気が遠くなるほどの長い間、この身はずっと我慢に我慢を重ね、耐える事を覚え、
それでも期待をすれば裏切られ、与えられる事を望んでも奪われ続けるばかりで。
そしてそんな重なる痛みと共に、心は荒んで、荒んで……
「なぁ…」
視線を落としたまま、抑揚の無い呟きが零れる。
「おまんは、心が削られる音っちゅうもんを知っちょるか?」
急に耳に届いたそんな言葉の意味を、奈須はこの時はかりかねたようだった。
えっ?とばかりにわずかに姿勢が正され、その顔が武智の表情を覗き込もうとしてくる。
それを武智は戯れるように微かに首を振りながら拒んだ。
それでも呟きだけは零れ続ける。
「最初は何の音かわかっちょらんかった。それは高く澄んだ音で、鈴でも振るかのように
か細く長く後を引く……たまに聞く分だけなら綺麗だとも思えたんじゃがな。あまりに
鳴り続けられると、神経をやられる。」
絶えることなく耳の奥で響き続ける音に侵され、苛まれてゆく。
長じるにつれ酷くなっていたその現象から解放されたのは、彼が側にいた時だけだった。
考えまいとする矢先から浮かび上がってくる一人の男の面影に、武智はこの時たまらず苦笑する。
唯一の光。唯一の救い。しかし皮肉なものだとも思う。
その男が結局は、自分の中に一番大きな音を立てていったのだから。
あれ以来、もう音は聞こえない。
だからもう……いらない。
「先生?」
心配そうに呼びかけてくる声。それに合わせるように武智はこの時顔と共に手を差し伸ばした。
頬に触れてくる手に、自分のそれを重ね合わせる。
相手など、選ばなければいくらでもいるのだ。
それが例え行きずりだろうと、今宵限りの者だろうと……
「なんちゃあない。それより、もうええがか?」
だから滑るように口にする、誘いの呼び水。
「せめてもの餞別じゃ。好きにしてくれたらええ。」
事が成った後、彼が徴収へ落ち伸びる手配はすべて自分が整えた。
この時勢、これが終生の別れになるかもしれない事は双方口にしないまま理解している。
それゆえの衝動。
不意に膝裏に腕を差し込まれ、座り込んでいた場所から抱き上げられようとする。
力強い腕の、しかしその行為を武智は刹那制した。
途端、怪訝にひそめられる奈須の眉根。
それを見て取りながら、武智は少しだけ可笑しげに笑ってみせる。
そして視線を外さぬまま、この時伸ばした指先。
それはコトリと小さな音を立てて、細く開いていた障子を後ろ手に閉めていた。

すでに寝乱れていた布団の上に運ばれて、貪るように始められる二度目の情交。
余裕を失くしたような奈須の荒々しい求めにも、武智の体はすぐに慣れ溶けた。
物心ついた頃からもう何度、意思に反して踏みにじられ苦痛しか感じなかった行為も、自ら
受け入れてしまえば、そこにあったのは果てのない悦楽だった。
首筋を辿り下りていく唇に胸の尖りを捉えられ、念入りに舌を絡められれば、そこから生まれる
ジリジリとした昏い熱に無意識に指先が伸びる。
胸元に伏せられる男の髪に手をやって、弄るようにその首や肩を撫で下ろし、その上に早うと
せがむように爪を立てる。
それに奈須は応えてきた。
手を掛けた足を持ち上げ、押し開き、あてがってくる。
それに抗う素振りを見せなければ、奈須は一気に彼自身を武智の中に埋めてきた。
すでに猛りきっていた男の欲の圧迫感には、さすがに息が詰まった。
けれど熟れた体に走る痛みはもはやあまり無い。
だから戻す呼吸と共に、武智は自らも動く。それは、罪に蜜を絡めるように。
明かりの落ちた室内に響く、脱ぎきれていない着物の衣擦れと淫らな水の音。
抱き締められ、揺さぶられる度に上げる喘ぎは、塞いでくる手さえなければこの上なく甘く、
淫らがましく己の耳にも届き、それに武智は自らの胸の奥をちりちりと焼く疼きがある事を知る。
回した腕で懸命に男の背に縋りつきながら、それを武智はふと可笑しく思う。
まったく往生際の悪い。
ここまで堕ちて、まだ恥と感じる心があるのか。
認めてしまえば、解放してしまえば、楽になれると言うのに。
たとえば、このように………
「…やぁ…っ…あぁっ…」
乱れる布団の上、徐々にずり上がっていた体を再び引き戻され、より深くを穿たれる。
途端、跳ねる背と共に悲鳴にも似た声が口をついた。
「やめっ……や…ぁ…」
それまで男のすべてを従順に受け入れていた体が、突如もがく様な仕草を見せる。
けれどそれを、嘘をつけと含み笑う意識があった。ただ、
「……やめ……こわ…い…っ…」
怯えるように切れ切れに零された、その言葉は本当の事だろうとも思う。
もっともそれが理性を失くしかけている男を煽るだけにしかならない事も、自分は知っている。
律動が早まる。逃れられず追い込まれる悲鳴が、男の下で徐々に啜り泣く様な吐息に変わってゆく。
それでも、
「…もう……いて…くれ……」
その中でも呟かれた掠れた声の訴えに、肌一枚の下、浮かべていた笑みは明確な失笑となった。
いったいどこまで……お綺麗にお人好しなのか。
しかしその願いを叶えてやる訳にはいかなかった。
どれ程願おうと―――自死など選ばせてなるものか。
この体は自分のものでもあるのだから。
だから、
不意に、それまでなすがままに揺れていた足を、武智は奈須の腰に絡めた。
うねるように二人して昇り詰めるよう、その首筋に腕を回し、引き寄せる。
そして耳朶に這わせた唇で、その時声に出さずに奈須に告げた囁き。それは、

―――わしの為に、東葉を…

「…殺いて…くれ………」

恍惚とした笑みを浮かべるのと同時に果てた瞬間、聞いたそれは鈴を振るかのごとく
高く澄んだ音だった。
わずかに残っていたそれに罅を走らせ、粉々に砕け散らせた……
願う冷たい死とは裏腹な熱い欲を身の内に感じながら、武智はこの時あらためて、
人の心とは薄氷が割れるような音を立てて壊れるのだと知っていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
白タケチをイジメる黒タケチのイメージは木春屋4十奏の幻惑だったと言ってみる。


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