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水影

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
タイガードラマの武智→涼真。あいかわらず上司×武智も有り。しかも掛け値なく
ゴーカンなのでダメな人は避けてください。
本スレ姐さん達のネタをいっぱい拝借しながら少年~青年期を捏造。ネタ、アリガトウゴザイマス。
暗いです。本編に引きずられてひたすら暗いです!先に謝ります。スイマセン…

それを見るようになったのはいつの頃からだったか。
夏の逢魔ヶ刻。
皆と遊ぶ通りの先に立っていたその子供は、逆光のせいか全身が黒く見えた。
黒い着物、黒い履物、そして光の無い黒い瞳。
見覚えがあるような無いような、不思議な感覚。
それでも、もし一緒に遊びたいのならと声を掛けようとした瞬間、
「武智さん!」
不意に腰元に抱きつかれ驚いて振り返れば、そこにいたのは半べそをかいた涼真だった。
「どういたがじゃ?」
「収次郎達が仲間はずれにしてきゆう。」
わいわいと騒ぐ集団から弾き出されてしまったらしい、この6つ年下の遠縁の幼馴染の幼さに
思わず笑みが誘われる。だから、
「しょうのない奴らじゃ。ほら、わしが一緒に行っちゃるきに。」
手を差し出し、小さなそれとしっかりと繋ぐ。
そしてその時、そう言えば彼もともう一度振り返った。しかしその先、
「……………」
「武智さん?」
朱い夕焼けが西の空へと追いやられ、薄闇が染み出すその境。
先程の黒い影は道の上、もうどこにも無かった。

障子の開けられた窓の外から、うるさいほどの蝉の声が聞こえていた。
差し込む陽光は色褪せた畳の上に朱く落ち、今が夕暮れ時だと言う事を知らせている。
しかしこの時間になっても風の入らぬ二階の小部屋は蒸し暑く、薄い布団に横になっているだけで
首筋にじっとりとした汗が滲む。
全身が気怠い。
それでも、耳に届く外の喧騒。
大通りから一本奥に入ったこの場所にまで届くそれらの声は、彼らの家路に着く気配を伝えてきて、
自分も戻らねばと気力を振り絞り、ゆっくりと上半身を起こす。
するとその背後でこの時、数度繰り返される咳があった。
思わずびくりと背筋を強張らせ、固まる。
そんな武智に掛けられた声。それは窓のある方角から聞こえてきた。
「目、覚めたか。」
嫌な笑みを含んだような響きだった。それにざわざわと肌を這い上がるような不快感を覚えたが、
武智は懸命に絶え、声を絞り出す。
「もう…戻りますきに。」
言いながら、着崩れ、肩から滑り落ちていた着物を元に戻そうとする。
しかしそんな自分の意向を、背後の男はまるで汲もうとはしなかった。
「まだええろう、時間ならもうちっくとある。」
「……帰してつかあさい。」
「そんなに帰りたいなら帰ればええが、今出るとおんしの方がまずいがやないか。」
「……?」
「大通りに今おる奴ら、よう見かけるおんしの仲間じゃろ。」
言われ、思わず反射的に振り返る。と、そこには窓の張り出しに行儀悪く腰を掛け、大通りの方角に
視線を落としている男の姿があった。
自分より一回りほど体つきの大きなその年上の男は、ようやくに向きを変えた自分の姿を認めると、
その口元に更なる笑みを浮かべた。
「平気やったら、今からここに呼び寄せちゃろうか?ここからなら声も届くじゃろ。」
告げると同時に窓に巡らされた柵越しに身を乗り出し、口元に手を当てる素振りを見せられる。
それにはたまらず、悲鳴のような声が口をついた。
「やめてつかあさい!」
叫ぶと同時に、男を止める為に腕が伸びる。
体は重く、動きは鈍く、立ち上がりかけた足は萎え、それ故まるで前のめりにまろぶように
縋りついた男の足元、その着物をきつく握りしめる。
みっともない姿だと自覚する余裕も無かった。その上で、
「お願いですきにっ、やめてつかあさい!」
懸命に繰り返す。
するとそれに男は頭上、瞬間大きな笑い声を発してきた。そして、
「嘘じゃ。」
一言、短く言い切られた言葉。
それには意味を理解するより先に、体から力が抜けた。
思わずその場に崩れかける。それを男は見逃さなかった。
肩を掴まれ、そこに力を込め、突き飛ばす勢いで後ろに押されれば、支えの無い体は
いとも容易く畳の上に倒れ込んだ。
その上にのし掛かってくる影。
有無を言わさず手首を掴み、首筋に顔を寄せて、男が囁いてくる。
「おんしはまっこと弱味だらけじゃのう。」
追いつめた鼠を無邪気に甚振る猫のような、笑みを含んだ揶揄。
その残酷な響きには喉の奥、声が凍った。それでも、
「やめて…つかあさい…」
再び組み敷かれ、着物の襟を力任せに引き下ろされてゆきながらも、訴える事を止められない。
「もう…許いてつかあさい…っ…」
それは最後、ほとんど泣き声のような懇願になった。
けれど、そんな意地を張る矜持さえ失った自分に、この時与えられた男の声はどこまでも
無慈悲なものだった。
「さっさと終わらせて欲しかったら、大人しゅうしちょけ。」
蝉の声が消えた。外の喧騒も。
うだるような暑さの籠もる狭い部屋の中、後に残るのは忙しない男の息と時折零される咳。
そして割られた足から滑り落ちる衣擦れの音だけだった。

辺りに薄闇の帳が降りる頃、微かに引きずるようにして歩く足が向かったのは、町外れの
川のほとりだった。
土手を降り、辿りついたそこは、大きな岩が周囲からの死角を作る自分の秘密の場所。
幼い頃から一人になりたい時にこっそりと訪れていた、その水際に武智はこの時うずくまるように
座り込んでいた。
気をつけてはみたものの、ここに来るまでの間、着物の合わせは崩れ、よれていた。
髪は乱れ、落ちるほつれが酷い。
汗ばんだ肌は気持ち悪く、せめて手拭いで拭いたいと、懐からそれを探り出し、目の前の
川の水につけようとする。
着物も着直そう。
髪も整えなければ。
でなければ家の者達がどうしたのかと心配する。
わかっている。わかっているのに……

もう、疲れた―――

無意識に胸の内で呟いた言葉。
それに武智は暗い瞳を目の前の水面に落としていた。
通う道場の稽古後に自分を町の連込宿に引きずり込んだ男は、同じ道場の先輩格にあたる上司だった。
あんな事をこれまで何度繰り返されたかは、もう覚えていない。
それでもその初まりはさすがに忘れようがなかった。
土イ左の城下でも有名な剣術道場に自分が入門して、早半年ほどの月日が立つ。
そこへ通う者達の大半は上司の子弟ではあったけれど、それでも例外的に入門を許されれば
稽古の間は下司の自分でも対等に扱われ、そんな中で剣の腕を磨ける事はとてもありがたかった。
けれど、そう出来た事には事情があった。
それを自分に告げたのが、件の男だった。
『おんしの父親は先生に金を渡したがじゃ』
自主的に居残った稽古を終え、一人道場の後片付けをしていた自分の所に乗り込んできたその男は、
あの時そう言って父を罵った。
この国に下司として生まれ、幼いながらにも耐える事柄の多さは身を持って知っていたけれど、
それでも自分の事ならばいざ知らず、父を侮辱される事は耐え難かった。
だからあの時自分は初めて、相手に歯向かった。
『父上がそのような事をしゆうはずが無い!』
身分が下で、年も下な、そんな自分が口でとは言え逆らってくるとは思いもしなかったのだろう。
瞬間、男はさっとその顔色を変えた。
『生意気じゃ』と怒鳴られ、手を振り上げられた。
剣術においてならば、あの頃すでに腕は自分の方が上だった。
しかし体格に任せた力では到底かなうはずも無い。
頬を張られ、その勢いで道場の床板の上に倒れ込んだ。
その上に男は乗り上げてきた。
暴れる腕と言葉の応酬。
初めはただの喧嘩のはずだった。それがおかしな意味合いをもったきっかけは何だったのか。
手首を頭上で一纏めに取られ、押さえ込まれ、胴着や袴を乱される段になって気付いても
それはもう遅かった。
人気の無い道場で上げる悲鳴さえ塞がれて、自分はその男に力づくで犯された。
体と自尊心をぼろぼろにされるのにこれ以上の仕打ちはなかった。
そして現実はそんな自分に更なる追い打ちをかけた。
男の言った事は本当だった。
父は確かに道場主に付け届けをしていた。
しかしそれを責める事は自分には出来なかった。
親とて必死だったのだろう。それは子を思うがゆえの過ちだったはずだった。
だから……自分はもう誰にも何も言えなくなった。
ただ一つ誤算があったとすれば、それは男の自分に対する執着だった。
一時の激情の流されただけかと思っていた行為を、男はその後も自分に執拗に迫ってきた。
それは道場の片隅や、そして人目を避けた場末の宿で。
今日とてつい先程まで繰り返された行為を不意に思い出し、武智は無意識に自分の体を
自分で抱き締める。
親の不正、汚された現実。それをもって男は自分を弱味だらけだと言った。
悔しいけれどそれは事実だった。
それらの事がある限り、自分はあの男に逆らう事が出来ない。
それは今までも、これからも……
辿りついた思考に、着物の裾を掴む指の力が強くなる。
冷たい程に醒めた結論がある一方、どうしても抑えが利かず、沸き上がってくる想いもある。
嫌だ…もう嫌だ……
どうしたらいいのだろう。どうしたら…こんな状況から抜け出せる?
いくら考えても答えは見つからず、誰かに頼る訳にもいかず、瞳に暗い翳だけが落ちる。
うつむき見る静かな川の流れ。
その日、頭上には白い月が昇っていた。
地上に落ちる清冽な光は、その分だけ色濃い影をその水面に映す。
見つめる、ゆらゆらと揺れる己の輪郭。
そんな武智の耳に、この時不意に聞こえた声があった。
それはどこからとも誰のものかも判然としない、低く囁くようなかそけきもの。
それを武智は茫洋と聞く。

―――ノドヲツブシテシマエバイイ

それは稽古の間にも。立ち合いで、竹刀で、喉を目掛け…
しかしそれだけでは伝える手段は他にもある。

―――ナラバ、メヲツブセバイイ

字も書けなくなれば事の経緯の説明などもうつけられまい。
しかし、しかし、しかし……

―――デハ、イッソ、コロ……

刹那、振り上げた手が激しく水面の己を打っていた。
信じられないものを見るように目が大きく開き、唇が震える。

これは、今、自分は、何を――――

慄く想いに、一刻も早く影から遠ざかろうと立ち上がりかける。
けれど萎えた足は自分の意思を裏切り、数歩川から背を向けた所で、武智は側らにある岩に
凭れかかるようにずるずるとその身を崩れ落ちさせていた。
背後が怖く、振り返る事が出来ない。
かと言って、ここ以外行ける場所も他には無い。
「……す…けて…くれ…」
どうしたらいいのかわからない。
それで心は救いを求めるのに、今この時誰の名を呼んでいいのか、武智はわからずにいた。

それでも月日だけは無常に過ぎていく。
盛夏を越え、残暑を見送り、秋も深まり出したその頃、道場に一つの知らせが舞い込んだ。
門弟の一人が長引かせていた風邪をこじらせて死んだ。
まだ若いのに。可哀想に。口々に語る者達の中でその者の名を聞いた時、自分は手にしていた
竹刀を取り落としていた。
それをしばらく拾い上げる事が出来ぬほど動揺し、集まる人の輪から背を向ける。
そしてそのまま逃げるように道場を飛び出そうとすれば、その背に投げつけられる声が幾多もあった。
『なんじゃあ、あいつは。』
『仲間が死んだとゆうに薄情な奴め。』
『放っておけ、所詮は下司じゃ。人の情など解さんのじゃろう。』
口々に罵倒される。しかしそれらの半分も、武智の耳が捕らえる事は無かった。
ただ脳裏に繰り返されるのは、
死んだ…あの男が…死んだ……
飛び出した通り、日はまだ頭上に高かった。

それからどこを彷徨い、どうやって時間をやり過ごしたのか。
気付けば天は月にその主座を譲り、辺りには夜の闇が降りていた。
本来の帰宅の時間はとうに過ぎていた。
それでもこの日ばかりはどう取り繕うと家人に合わせる顔を作る事が出来ず、ふらふらと足が向いた先、
そこはやはりあの流れる川のほとりだった。
本当に、ここにしか居場所がない。
そんな自分が哀しくも、少しだけおかしくなる。
今はもう遠い昔にさえ思えるようなあの夏の日。
耳に届いた声に怯え後にしたこの場所に、自分はしばらくの間近づけなかった。
ただ単純に怖かった。
けれど今は、それを凌駕する恐れが自分の内にある。
死んだ。一人の男が。
なのに自分はその事に何の憐れみも感じない。
どころか……解放されたのか、と。
その上で今更に、死んだ男にこれまで蹂躙され続けた事が、前後の感覚を失くした心でひたすらに
おぞましいと。
触れてきた手や、注ぎ込まれた欲の記憶が頭の中で急激に熱を失い、それに犯されたこの身がひとえに
汚らわしいと。
思う心に、確かに人としての情は欠片も無かった。
自分はいったい、いつからこんなに醜くなったのだろう。
それとも元々の性根がこうだったのか。

だから……あんなものが見えるのか―――

自嘲気味に上げる視線の先に、その影はあった。
静かに流れる川の上、ぼんやりと浮かぶそれは人の形をしていた。
自分と同じ姿をしていた。
黒い着物、黒い履物、光の無い黒い瞳。
その口角が引き上がり、静かに笑っているのがわかった。
自分も今、あんな表情をしているのだろうか。
ゆらりと影の手が、差し伸べられるのように持ち上がる。
自分の醜さも汚さも知っているあれのその手を取れば、自分は少しは楽になれるのだろうか。
思えば足がざっと引きずるように地面の上を滑っていた。
ゆっくりと踏み出す。
その歩みは河原の石を弾き、陸と川との境界を越え、袴の裾を濡らすようになっても止まる事は無かった。
川の中央に立つ影の元へ。
ゆけば、ゆければ自分は……
手が前方に伸びる。もう少しで届く。
しかしそう思った瞬間、
「……ち…さんっ!」
背後から強引に引き止められる衝撃があった。
えっと思う間もなく2本の腕が前に回り、後ろに強く引かれ抱き締められる。
「…………ッ」
それはとっさに温かいと、人の体温を感じられる腕だった。
だから、半ば呆然と後ろを仰ぎ見、そして、
「……涼真…」
唇から意識無く零れ落ちた名前。
それは自分の、年下の幼馴染のものだった。
それきり声が出なくなる。そんな武智に、涼真はこの時縋りつくように抱き留めた腕の、その力を
更に強くしてきた。
「…武智さん…っ…」
もう一度大きく名を呼び、肩越しに額を強く押し当て、そして彼は次の瞬間その腕を離すと
武智の体を自分の方へと回し、もう一度……今度は正面から強く抱き締めてきた。
「何しちゅうがですか!こんな…こんな…っ…」
想いが逸るのか、上手く先の言葉を紡げないでいる。
そんな涼真にようやく武智の唇から呟きが洩れた。
「……どういて…」
こんな所に。いや、どうしてここを……
掠れる小さな問い掛けに、涼真はこの時腕の力を緩めぬまま答えを返してくる。
「武智さんの家の人がうちにも来やったがです。武智さんがこんな時間になっても帰ってこんと。
だから皆総出で探して。で、わしは、」
「…………」
「昔から武智さんは、一人になりたい時ここに来ちょったなと。」
おってくれてまっこと良かったと、この時涼真はようやく安堵の息をついたようだった。
しかしそんな涼真に、武智はこの時腕の中で微かに驚く。
昔から。一人に。彼はここを知っていたのかと。
思う感情は瞳に現れ、わずかに抱き締めを解くよう武智が体を起こせば、それに涼真は瞬間
照れくさそうな顔を見せた。
「昔のわしは泣き虫で、武智さんの後ばかり付いて歩いちょりましたから。せやきに、ここも偶然
知ったがやけど、でも声は掛けられんかった。」
「…………」
「背中を見ちょる事しか出来んかった。でも今日やっと、声掛けれたぜよ。」
夜の川へ入る、そんな自分の異常な行為にはこの時まるで触れず、涼真はそう言うと明るく笑ってみせた。
それは人への思いやりに溢れた笑顔だった。
昔は本当に泣いてばかりだったのに。何かあればすぐに自分の腰に纏わりついてくるような
そんな小さな子供だったのに。
今の彼は、背も、肩幅も気付けば自分よりも大きくなっていた。
だから、屈託なく、力強い、そんな笑顔に引き寄せられるように、この時武智の手が無意識に伸ばされる。
先程影に触れようとしていた手が光を求める。そして、
「…涼真…」
二つの腕を彼の首の後ろに回しながら、武智はこの時目の前の体を己へと引き寄せていた。
「涼真…涼…真……りょう…っ…」
自分でも訳がわからないほど名を呼び、年下の彼に意地も自尊心もかなぐり捨てて縋りつく。
助けて欲しかった。
気付けばすぐにも闇にのみ込まれてしまいそうになる脆弱な自分を。
記憶を辿る。
彼といれば、あの影は自分の前から姿を消した。
それはきっと今も……
恐ろしさに振り返る事も出来ない背後に、この時涼真の少し驚いたような、しかしそれでもどこまでも
まっすぐな腕が回されたのを感じる。
「…武智さん?…大丈夫なが?武智さん。」
頭上から降り注いでくる声と共に、心配げに抱き返される。
その優しさを武智はこの瞬間、飢えるように求めた。
川の中、2人濡れる事も構わず。

それでも……

懸命に縋りつきどれだけきつく目を閉じても、自分は知っている気がした。
天には月。降り注ぐのは光。
それが作り出す影は形を変え、今も自分の足元、ゆらゆらと消えて無くなる事はない事を。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
黒タケチがファンタジーと言うよりホラーになった。
ここを覗いてもらえるかどうかわかりませんが、いつも感想を下さる方々、ありがとうございます。
感想をいただけると本当に励みになっています。


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