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大晦日

ナマ注意です。
某動画サイトで活躍する歌い手、足助→寝下呂。読後感は悪いかもしれません。
長文失礼します。
この設定はホストCDのパラレルです。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「なあなあ、もういい?もう食べていい?」
「だからもう少し待てって、さっきから言ってるだろ。今度それ言ったらアレだよ?」
大阪はミナミに位置する、知る人ぞ知るホストクラブ。通常であれば寝静まっている筈の日中の店内には、忙しなく働く小柄の青年─不ぁ寝る─と、それにまとわりつく関西弁の青年─下呂─の声が響いていた。
「えー?アレって何?」
「アレって言ったらアレだよ」
「何やっけえ?」
「何だったろうなー」
「なあ何やと思う?足助」

「寝るたん。嘔吐物の相手するんなら片手間じゃなくて真面目にしてくんない?こっちにまで被害が及ぶからさぁ」
 下呂が水を向けた先には、高価そうな革張りのソファーに靴も脱がないままで1人の男が寝転がっている。足助と呼ばれたその男は気だるげに、それでいて楽しげに瞳を光らせて上半身を持ち上げると、不ぁ寝るへと声をかけた。
それに不ぁ寝るは動きを止めて、手に持っていた銀テープを握り締める。
「足助、お前もダラダラしてないでちゃんと真面目にしろよ、店の模様がえをよ!」
「えー?やだよ。そんなのナンバーワンがやることじゃないじゃん」
「あっお前…そういうこと言っちゃう?言っちゃうんだ?じゃあ言わせて貰うけどな、こんなのオーナーの息子がすることでもねえからな!そもそも俺はこの店のホストでも何でもなくて、手伝ってるだけなんだからなー」
「はいはいそうだね、プロテインだね。
で、なんで寝るたんが1人でやってるわけ?それがそもそも仕事の奴らがごまんといるでしょうが」

「だっ、だって…」
 痛いところを突かれた、というように不ぁ寝るの表情が曇る。普段から店の影の支配者として名高く鬼畜眼鏡との評判(by下呂)のある彼の、そのような仕草は珍しいものだった。おや、と思って足助は首を傾げる。
「みんな頑張ってくれてるのは分かるんだけど…何ていうかさ。センスが、さ」
 どうもこの店の連中はノリで何でもかんでもやり過ごすことがある。それに関しては足助としても、常日頃から感じていたところがある。大阪という土地柄、求められているものでもあろうからとそれはそれでアリかなと思っていて、
足助自身もボケとツッコミとノリで過ごす独特の空間を居心地良く思っていた。─下呂がこの店に来てからは、その風潮は益々強くなったようだと苦笑することもあったが。
「うーん。まあ面白ければいいじゃん」
「おかしいだろ、それは。ホストクラブとして」
「そうかな?」
「いいか。年末だぞ。今日が大晦日なんだぞ。
…おかしいだろ!?なんで腐っても高級ホストクラブが、銀テープと安っぽい剥き出しの電飾で彩られて新年を迎えなきゃいけねえんだよ!がっかりだよ!このままじゃお客様もがっかりだし、その場にいるであろう俺としても居たたまれなさマックスなんだよ!」
 つい先ほど壁から剥がしたばかりの銀テープを手に、力強く訴える不ぁ寝る。自分がひと眠りしている間にそんな話になっていたのかと事態を把握して、足助はガランとした店内を見渡す。確かこのソファーで眠りに就く前は溢れ返るようにいた筈の同僚達の姿が見えないことも、
おそらくは、説得に困難を伴った不ぁ寝るが「後は任せて(笑顔)」とでも言って帰したのだろうと推量することが出来た。

「それはお疲れだねえ」
「…本当にそう思うなら、お前もダラダラしてないでさ、手伝ってよ」
「手伝いたいのは山々なんだけど…ところで寝るたん。アレって今日の俺たちの昼ご飯じゃないの?」
 アレ、と足助が示した指の先には、米粒一つ残さず平らげられた痕跡のある三枚の皿と、満足げに腹をさすっている下呂の姿。二人の視線が自分に向けられていることに気がつくと、親指を立てて器用に片目を瞑ってみせた。
「ごっそうさん☆」
「☆じゃねえよ!おっまえぇ、何勝手に食ってんだよ!?」
「イヤやなあ寝るたん、俺ちゃんと食う前に「いただきまーす☆」っておっきな声で言うたで?
ただそれよりもでかい声で、寝るたんが「がっかりだよ!」とか叫んでただけで…」
「計画的犯行じゃねえか!てか、その発言って何分も前の話じゃなくね!?お前数秒間で3皿も食ったのかよ!それは単純に、すげえな!」
 下呂の驚異の食欲に、怒りを通り越して称賛の声をあげるより他にない不ぁ寝るであった。つっこむだけつっこむと、溜息を吐いて空になった皿を集めて下呂へと押し付ける。
「はあ…これでもう満足したろ。洗って片付けとけよ」
「おう!任せろ!(いい声)」
「任せられたもんじゃねえけどな。厨房の冷蔵庫には今晩使う材料とかもあるんだから、つまみ食いは死んでもするなよ。するくらいなら死ねよ。別にしなくても死んでもいいけど…」
「おうおう!今日も毒舌が冴えわたるねえ!俺、イキル!!」
「とにかく、俺と足助は昼飯買いに出かけて来るから─な、足助…」

 このチャーハン厨が…と毒づきながら、ひとまず銀テープは置いておくことにして、不ぁ寝るが振りかえる。そこにはまだだらしなく寝転がっているのであろうと思われていた足助が、立ち上がって佇んでいた。
 まるで店の客を相手にする時のような、完璧なまでの笑顔を称えて。
「あ、足助?」
「どうしたの?あ、寝るたんそこどいてくれないかな。嘔吐物が倒せない」
「いや落ちつけよ足助。お前沸点おかしくね?あーほら、下呂りん、ちゃんと謝れって」
「えー?まあ尋常でない空腹に負けた俺の心の弱さに関しては、そら素直に悪かったと思っとるし謝るけど、そういう足助もなぁ。前に俺のチャーハン食ったことあったやん?ま、これでおあいこっちゅうもんやろ☆」
「黙れ」
 ゆっくりと近付いて来る足助に危機感を感じた不ぁ寝るが、盾にするように下呂を自分の前へと突き出す。それでも陽気に笑っている下呂のことをすごいと思うが、そうなりたいとまでは思わなかった。
 下呂の前で立ち止まった足助は、その高身長を活かし、いかにもわざとらしく上背をかがめて浮かべた笑みをさらに深めた。しかしながらその目だけは少しも笑っていなかった。

「あの時だって、お前俺の話に耳を傾けたか?」
「いやーあの時は俺も怒りで我を忘れてたっちゅうか!まあほら、今年の汚れ今年の内に!さっぱり水に流そうや?な?」
「で、なんでこの、俺が、自腹を切って、昼飯買いに行かなきゃいけないの?理不尽じゃない?嘔吐物ごときのせいで俺の貴重な昼食代がかさむってなんかおかしくない?不条理じゃない?」

「うーわこの守銭奴!ただの守銭奴!寝るたん聞いた!?こっわいわぁ…お前なあ、あかんでそんなん、もういっつもいっつも金のことばっか考えて。そんな奴はろくな大人になられへんねんからな☆」
「☆じゃねえよ。四六時中チャーハンのことばっか考えてる奴に言われたくねえんだよ」
「なっ…チャーハンをバカにしたらお前アレやで?ほんま…アレやで?」
「だからアレって何だよ。
あ?何?そんなにチャーハンが好きなのお前?女の子よりも?歌よりも?何よりも?」
「ああ好きやね!三度の飯よりも愛してやまへんね!」
「不ぁ寝るよりも?」
「当たり前…や、……ろ…?」

「ああそうなんだ?じゃあチャーハンとでも結婚してろよ」

 その声は、下呂の前からではなく後ろから聞こえた。調子良く言い返していた下呂の動きが止まり、顔色が青く変わる。冷汗のオプション付きである。
言い放った当人である不ぁ寝るは自分の前へと構えていた下呂を突き放すと、クルリと踵を返した。
「ちょっ…寝るたん、今のは、あーいや、ちゃうねんで?」
「足助。こんなやつ放っておいて、行こうぜ」
「いや俺はまだこの嘔吐物に用があるんだよねー」
「昼飯なら俺が奢ってやる!」
「MA・JI・DE─☆」
 ちょっと待ってろ!と言い残して、財布と上着を取りに控え室まで戻って行く不ぁ寝るを、足助はそれはもう良い笑顔で見送ったものであった。

「足助ぇええ…お前、なんちゅーことをしてくれたんやぁああ…」
「俺何かしたっけ?」
「こっ、この腹黒王子ぃー!」
「知ーらない。もとはといえば下呂りんが悪いんでしょー」
 先ほどまでの剣幕は何所へ行ったのやら、飄々とした態度で人の悪い笑みを浮かべる足助。ふたたびソファーへドサリと腰を落とすと、鷹揚に足を組んだ。
そんなナンバーワンを恨めしげに眺めて、関西店のナンバーツーはグッと息を飲み込む。
「お前ほんまなぁ。そんなんで大丈夫なん?大学でやって行けてるん?いじめられてない?」
「は?」
 不ぁ寝るが出て行った、奥へと繋がる廊下を見るともなしに見ていた足助が目を丸くする。かけられた予想外の言葉に疑問符を浮かべて、振り返り見た下呂は真正面に足助のことを見つめていた。それはからかうでもなく、真摯なような声音であった。
「いや…何?」
「お母ちゃん心配やわぁ。何かあったらすぐ俺に相談してええねんからな。いじめっこなんかぶん殴って倒したるさかい」
「お前よりも多分俺の方が強いんじゃない?背的にも…」
「性的にも!?イヤン足助たんったら~それ何宣言ですか!?」
身長180cmを超す足助は、面倒そうに160cm台の下呂を見下ろした。
「ていうか下呂りんってさ~…」
「ん?何?」
「…いや、何でも」
 不ぁ寝るのことが好きなんじゃないの?機嫌損ねちゃったよ。追いかけたりしないの?
 どうして、俺の心配なんてするの?
 そのようなことを尋ねようとして、しかし気持ちをうまく表現する術を見付けることが出来ず、足助は言葉を濁した。代わりに笑って、一言だけ。

「お前も寝るたんにいじめられたら、俺に相談するといいよ」
「いやぁ。お前はなあ、相談したら一緒になっていじめるやろー俺のこと」
「まあそうかもね?」
「それに、寝るたんはええねん」
 常の快活な表情ではなく、落ち着いたそれで下呂がほほ笑む。下呂の笑顔などは見慣れていた筈であるが、柔らかなその笑顔は、足助には目新しいものだった。
「あの子はすぐああいうこと言うてまうけどな、俺のことは多分、俺よりも分かってくれてるんやと思うから。もし俺がいじめられていたとしたら、真っ先に飛んで来て、「この嘔吐物がー」って言いながら助けてくれると思うねん」
 そうして足助は理解したのである。この温かな笑顔が不ぁ寝るを思って浮かべられたものだということを。
「で、寝るたんは暴走してまうやろうから、その時は足助くんが「まあまあ」っつって。助けに来てな」
「はは。俺はストッパーってわけね」
「その代わり、お前がいじめられた時なんてもうすごいからな。俺と寝るたんが一緒になって守りに行ったるからな!」
「お前らが来る頃には、俺の手でもうみんなボコボコだっつーの」

「足助ー?ほら、行くぞ」
「はいはーい」
「…何和やいでたんだよ」
「寝るたんはかわいいねーって話してたんだよ。いやぁ愛されてるよねえ寝るたん」
「はあ?ああ、そう。意味分かんね」
「拗ねないのー。ほんとに、寝るたんは愛されてるんだよ」

 少しだけ声に真剣みを加えて足助がそう言うと、不ぁ寝るは仕方がなさそうにどうもと言った。その表情が緩やかにほころんでいたことに、足助は改めて、まざまざと、彼が愛されるその所以を感じ取る。
「足助、お前今日どうすんのこれから。どうせ店の模様がえは手伝わないんだろ」
「うーん?そうだねぇ。家帰って、仕事まで寝よっかなぁ。寝るたんはずっと店に?」
「まあね。店の用意は、シックな感じにしようと思ってるから、みんなが飾り付けたのを撤去したらすぐに終わると思うけど」
「ああ、そうなの」
「あいつがさ。ひと足先に新年会しようって言ってて」
「新年会?忘年会じゃなくて?」
「そう。ほんと何考えてんだろうな。祝いごとは…大切な奴と何回もするから、楽しいんだと」
「ふうん」
 隣りを歩く不ぁ寝るの表情を見ずに、前を向いて、足助はいつものように笑った。「だって…」と不ぁ寝るが口ごもった時のことを思い返して、一人でに傷付いたような気持ちになった。
「ね。それって、俺もいていいの?」
「?そりゃぁ、いいんじゃない?あいつもそのつもりだろうから」
「そっか。
─お前らってさ、何かおかしいよね」
「何だよー悪口やめろよ」
「褒めてんだよ」
 そして、こんなことぐらいで慰められたような気持ちになるなど、
「ナンバーワンも安いもんだね」
と、一人ごちた。

おわり

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

乱文、長文失礼致しました。
生放送見てたら年越しちゃったよ…
次があれば、関東店の話も書いてみたいです。
スペース有難うございました!


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