つむじ
更新日: 2011-04-25 (月) 07:47:40
「わー、世士ピーのつむじ、チーズみたいな匂いするー!」
「えー、嗅ぎたい嗅ぎたい」
「ホントだ!こんな匂いのお菓子あった!」
「ほんまやー、ほんまにチーズの匂いすんでー!ありえへんw」
「なんでなんで?なんでこんな匂いになるの?」
科川さんの号令で集まった日置サゴンの新年会。
いい感じに酔っ払い、どういう流れか女子が互いの頭の匂いを嗅ぎだした。
「良い香りー。シャンプー何使ってたっけ?」
「すーちゃんも良い匂いするー」
なんて和やかな会話から、俺の頭に移った途端、上記の流れになった。
大爆笑しながら代わる代わる俺のつむじを嗅ぐ女子たち。
あまりの盛り上がりに科川さんもやってきた。
「うわっ、マジ臭いぞ世士雄」
「マジっすか?」
真剣にショックを受けてる俺の顔を見て、また大爆笑。
いたたまれずに、鞄に入ってた部レスケアを頭皮に擦り付ける俺に、更に大爆笑。
笑いすぎてお腹が痛いと訴えられたけど、それって俺のせいか?
「咲もん、マジでチーズスナックの匂いするから嗅いでみな」
サングラスをカチューシャ代わりに髪を上げ、片肘をついて笑いながらこっちを見ていた比呂巳に、
科川さんが声をかけた。
結構呑んで、上気した頬の比呂巳が近づいてくる。
心拍数が上がる。
比呂巳にも臭いって言われたら立ち直れないかもしれない。
すぐ隣に来ると、いつもの比呂巳の香りがした。
この香りを嗅ぐと抱きしめたくなる。
もう条件反射だ。
髪の毛に何かが触れた、と思うと同時に、周囲ではまた大爆笑が起きた。
「咲もん、なんでそんなにうっとりした顔してんだよ」
「つむじ嗅いでる顔じゃないー」
口々に囃し立て、携帯で写メを撮っている。
うっとり?
どんな顔をして嗅いでるのか気になってしょうがない。
俺たちの関係がバレたら洒落にならない。
「な、臭いだろ?」
科川さんに訊かれた比呂巳は俺の後ろから離れず、
「ホントだ。チーズっぽい……でもなんか癖になる」
そう言ってまた俺の髪に顔を寄せてきた。
比呂巳のリアクションに、みんなは笑いが止まらなくなってる。
俺は「臭い」と言われなかった事に内心胸を撫で下ろしていた。
その後もチーズネタでからかわれ、矢具っちゃんにさんざん突っ込まれてるところも写メで撮られた。
明日のみんなのブログは絶対俺のつむじネタだな。
望むところだ。
トイレに行こうと個室を出ると、前から比呂巳がこっちに歩いてくる。
そういえば先に部屋を出てたっけ。
少し酔っているのか、ぼうっとした目つきが妙にそそる。
前から来るのが俺と分かった瞬間、目を輝かせて笑う顔に、無性にキスしたくなる。
「古嶋さん、トイレですか?」
「うん、みんなに臭いって言われたから石鹸で頭洗ってくる。俺短いからすぐ乾くし」
「えー、なんでですか?そんなに気にしてたんですか?」
笑いを漏らす比呂巳の髪のサングラスを取り、自分でかけてわざと睨む。
「うるせー。みんなに臭いって言われた俺の気持ちがお前にわかるか」
「別に臭くなかったのにな」
比呂巳はくすくす笑いながら俺の顔からサングラスを外しながら、小声で言った。
「駄目ですよ、ここで洗っちゃ。帰ったら俺が洗ってあげますから」
「え?」
心臓が大きく弾む。
一緒に入るってことか?
上目遣いで見る瞳がいたずらっぽく笑っている。
「比呂巳、それって……」
確認しようとする俺に素早くキスすると、
「先に戻ってますね。……洗っちゃ駄目ですよ」
と囁いて、横をすり抜けていった。
しなやかな身のこなしが相変わらず猫っぽい。
そういえば比呂巳、体柔らかいしな。
そう思った瞬間、ベッドでその柔らかさに感心し、かつ興奮したことを思い出し、慌てて頭から追い
払う。
ヤバイヤバイ。
今そんなことを思い出したらみんながいる部屋に戻れる状態じゃなくなってしまう。
いつ海パンでネタをやれと言われるか分からないのに、思い出して興奮してる場合じゃない。
ぶんぶんと頭を振り、浪人時代に必死に覚えた歴史の年号を唱えて煩悩を追い払いながら、廊下を戻っていった。
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