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後編

333の続きです。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマス!

セックスが終わった後は、いつもなんだか冷めてしまう。
今日した事は、この人にとっては何になるんだろう。
泣きたくなって、マエダさんの肩を抱く。
もそりとマエダさんが動いて抱き返す。
寒空の下、路上で二人で抱き合うのも限界が近い。
現に腰は重く痺れてゆっくりと冷え、鈍い痛みを訴える。
「…そろそろ帰る?その…待っているだろうし」
携帯はロッカーの中。
帰ったら間違いなくこっぴどく叱られる。
もしかしたらクビだろうか?
叱られるのはともかく、この人を恋人の元へと返したくない。
帰らないでいい理由を探して、諦める事の繰り返し。
「…コウタって…」
控えめがちな声。
胸に置いた手が妙に距離を感じる。
「聞いてた?コウダケイスケ。コウダって女の子が前からいたから、コウダの男でタロウ。そっからコウダタロウって呼び名になってコータで定着したみたい。」
声としての返事はないが、もたれ掛かった腕の中で時折頷き相槌を打つ。
またしても沈黙。
いつの間にか落ちた夕日の残照も消え、空の天辺から藍の色が滲む。

「…言わないと、いけない事がある」
思い詰めた震える声。
汗で額に張り付いた髪を撫で、そっと眉間に唇を当てる。
「聞くよ。…マエダさんの話なら。」
サヨナラでも構わない。
もう十分過ぎる程に色々もらった。
「…ケイスケに……ずっと言えなくて、…騙してた。」
ポタリと眼鏡のレンズの内側へ水滴が落ちる。
眼鏡のフレームを持ち上げ、濡れた目尻を指で拭う。
「名前はマエダでもないし、年も…29じゃない。」
うん。
知ってた。
「…好きなんだ。」
毒でも飲むような苦しげな言葉。
いつもの全てを受け流す余裕な表情は形を潜め、震えて丸められる背中しか見えない。
頬を両手で包んで泣き止むまで何度もキスを繰り返す。
言いたくなければ言わなくて良いのに。
「…32なんだ。ケイは…若くて…、っ…ずっと……言えなくて…」

ああ駄目だ、自惚れてしまう。
もしかしたら少しは惚れられているんじゃないのかと。
「知ってた」
ホテルの支払いの時に財布からチラと見えた免許証で、本当の名前も年も知っている。

隠しておきたい事だろうと、特に聞かずにそのままにした。
「…ケイスケが、好きなんだ」
多分今なら死んでも良いや。
その言葉が嘘でもいい。
他の人に言っててもいい。
セックスの為のスパイスだって構わない。
オレもあなたが好きなんです。
「もっかい言って」
すぐに俯く顔を上げさせる。
憔悴しきってやつれた表情、腫れた瞼、赤い眼。
その眼が眩しい物でも見たときの様に、細められて俯いて。
「ケイスケ」
背中へ回った腕が痛い。
ああ、やだ、本当に帰したくない。
勘違いしてしまうのは、好きだけど好きじゃないんだ。
涙で塩辛いキスをしてから、マエダさんを立たせる。
土埃や何かでクシャクシャなスーツは、マエダさんには似合わない。
今更だけど出来るだけキレイに汚れを払い、髪を整えるのを言い訳に頭を撫でる。
「帰ろっか。」
言葉とは真逆に帰りたくない。
緩く触れ合う指先を握って、表へ続く道に目を向ける。
すっかり闇に溶けた景色。
時折車が過ぎる音がやけに遠く聞こえる。
離れがたくて、泣きそうで、泣かないですむように空を見上げる。
嫌なくらいに満天の星。
せめて雨なら雨宿りが出来たのに。
神様は何時だってオレの願いを蹴っ飛ばす。

二人で足を揃えて駅に向かう。
さっきからずっと言葉はなし。

沈黙が肌に痛い。
けれど話せる言葉が足りない。
駅が近い。
そろそろ手を離した方が良いかと、マエダさんの様子を横目で伺う。
泣いたせいで眼鏡の奥、目元が少し赤い以外は特に何時もと変わらない。
さっきまでの痴態なぞ、他人ごとの様に慎ましやかで近寄り難い。
低い体温が伝わる繋いだ指も、気持ちの現れかと不安を煽る。
前から歩いてくる人を避ける時、自然と指が離れて右手と左手はサヨナラ。
再び手を握るきっかけも理由も無く、未練を隠して制服のポケットへと指を突っ込む。
チリチリする胸。
胸が痛むって、マジ肉体的に痛いんだな。
ずっと比喩だとおもってたのに、余計な事で実感出来た。
階段を上り、現在の駅がどこの路線か確かめる。
店から二駅隣。
どんだけ逃げたかったんだか、思えば遠くにきたもんだ。
カッコ悪い。
券売機に並ぶマエダさんに倣って、路線図を見ながら順番を待ち、いざ自分の番になってハタと気付く。
「財布忘れた」
携帯も財布も店のロッカーの中だ。
ああ、もうホントマジで勘弁して下さい。
カッコ悪すぎる。
オタオタしだしたオレに対して、何時見ても綺麗な爪の、いかにも事務仕事だろうしなやかな指がコインを入れる。
「仕事先?」
甘い色のない、サラリとした無機質な声での投げかけ。
冷ややかな横顔に、一瞬言葉がつまる。
その躊躇いを察したのか、マエダさんがこちらを向いて少し眉間にシワを寄せる。
眼鏡越しの目が冷たいと感じるのは、気にし過ぎだろうか。
「……」
上手く言葉が見つからない。
答えられずにいれば、マエダさんの指が伸びてきて、券売機のボタンを押す。
260円。

二駅には高い切符。
まだ固まったままのオレに、目を合わさずにマエダさんが囁く。
「ウチに来る?」
イヤがある筈ないだろう?

マエダさんに勧められ、渋々バイト先へと電話をする。
キッチリ10分ほど絞られたけど、思っていたより簡単だった。
今までだったら辞めていた。
明後日に再度怒られるのは仕方ないとして、バイトはどうやらクビにはならないらしい。
落ち着いてしまえば現金な物で、今マエダさんと傍に居られる時間が急に惜しくなった。
一緒に入るのはイヤだとゴネるマエダさんを言いくるめて風呂場で一回、風呂から上がってリビングで一回、ドギースタイルでクンクンと鳴くのが可愛くて、散々鳴かせたら泣かれた。
昼からの事を考えれば、セックスにハマりたてでもあるまいに、猿みたいに抜きっぱなし。
身体ばかりが落ち着いて、頭の芯が濁った水みたいに澱んだ夜明け、ぽつりぽつりとマエダさんが話し始めた。
マエダとは、親が離婚する前の名前だったらしい。
真枝祐一
手のひらへと乗せられた漢字。
離れてしまった両親の、幸せだった頃の記憶。
今の名字になったのは20年前で、未だにその事を引きずっている事。
母親が再婚する事になったのを、素直に祝福出来ない事。
昼に店へ一緒に来た人が、新しい父親らしい。
出会った頃はマエダと呼ばれる度に、幸せだった時が続いている錯覚がして、そのウチに騙している事が怖くなって、いつバレて愛想を尽かされるかとドキドキしていた事。
素性も知らぬ相手と、身体だけの関係を続ける事に自分でも気が狂ったのかと葛藤していた事。
一回り近くも年下の、本来なら自分が諫める立場なのに、相手に溺れている事。
「…反則」

少し目を反らして言葉を紡ぐマエダさんは可愛い。
嘘をつくときは平然としている癖に、本当の事を言うときだけ目を合わせないのは、どう考えても反則だろう?
「ユーイチ」
キスして、抱いて、耳朶を咬む。
期待と拒絶の混じった吐息を、唇で塞ぐ。
「ケイスケ、無理…」
力の入らない腕で肩へと縋り、泣きはらして濡れた瞼と掠れた声。
弱々しく頭を振るのを、「ダメ?」とねだれば、大抵は許してくれる。
キスをすれば、自分から口を開いて受け入れる舌に、この人は何時気付くんだろうか。
年上の、可愛い人。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ。

長らく場所をお借りしました。
支援下さった>>337さん、拙い作ですが覚えていて下さった>>440さん、ありがとうございました。

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