山の王様
更新日: 2011-04-25 (月) 07:39:43
ナマ。今年の国民的某馬尺伝の優月券大学。ネ申童周辺で萌えてみた。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「う、わッ」
いきなり背後に人の重みを感じて振り返ると、肩越しに長い手足と黒い髪が見えた。
顔は見えないけれど誰だかすぐにわかってしまう。というか、この状況でこんなことを平然とやってくる相手を一人しか知らない。
「・・ちょ、重い」
「うん」
うん、じゃなくて。
全く悪びれもせず退こうという気配も見せない相手に少しだけ息を吐く。
鏡越しに見える目を閉じた横顔は連日の取材攻勢に珍しく疲れているように見えて・・・まあいいか、と緩く思いながらそのままにさせてしまう。
人の背中を枕か何かにして遠慮なくもたれかかってくる同じ歳のエース。
ああそっか、テレビ局で控え室として通されたこの場所には、上級生か、マイペースな1年生コンビしかいない。
もう一人居たはずの2年生は、興味津々な顔であちこち見て来ていいのかなあ?、とあっという間に姿を消していて。
だから、そういう相手は自分しかいない訳だ。
ウェアが触れ合ってシャリシャリとひそやかな音がする。
熱を逃がさない高機能な化学繊維越しにそれでもほんのりと体温ってわかるんだな、そんなことを思いながら手渡されていた進行予定が書かれた紙に視線を落とした。
去年、織田原で。
必死に襷を手渡した相手は、その表情は、自分と同じように一年生、初めての筥音路という大舞台への緊張に強ばっていた筈なのに。
肆区を走った自分が葦乃湖に辿り着いた時には、彼は賞賛と羨望を一身に受け、1時間少し前とはまるで違う唯一の輝きでそこに存在していた。
仇位からの逆転、クカン新、央路優勝。
そして今年。彼よりも周囲が騒ぎ立てて、エースと謳われ、他校から徹底マークも受けていた筈なのに、彼は一番最初に葦乃湖にやってきた。
タオルを持って待ってて、と言われたのは、央路の当日。
おれ?
うん、そう。TVに映るよ?
イヤ別にそれはどうでもいいけど、うん。
トップスピードのまま山を駆け上がり、ゴールテープを誰よりも先に切った彼が自分に向かって飛び込んでくるってことだ。去年見られなかった、世間にネ申童と言わしめた彼の走りと歓喜を間近で見るということ。
・・・それってつまり、自分も流れを作る走りをしないといけないってことじゃないか?、そうじゃないと半分くらいの意味しかないってことじゃないか?と気がついたのは王手町のスタート地点。
そして約5時間後。あの時彼は。
広げていたタオルを半分すり抜けて、勢い余って先輩にぶつかりそうになりながらベンチコートを肩に掛けてもらい。そうして、いきなり自分を振り返って、倒れ込むように抱きついてきた。
知ってる体温、汗の匂いとまだリズム良く躍動する鼓動・・・周囲はみんな笑顔で、その背に腕を回して、あの時はやっぱり感動した、ような気がしたけど。
自分が壱区で出した大学記録を聞いて鼻で笑ったのを見て、あのふわふわした高揚感と特別な空気から、我に返った。
冷静になって今思えば、あの時だって一番近くにいた同級生が自分だったってことなんだろうし。
ふと時計を見ると、番組の時間が迫っていた。出演はチームとしてだけど、背後で目を閉じたままの彼はその前に単独のインタビューが入れられている。
声をかけようかと思っていると、鏡の中で彼が目を開いた。同時にふ、と身体が軽くなって彼が立ち上がったってわかる。
「ありがと」
ちょっとだけ眠そうに掠れた声がして、振り返った時にはもうその後ろ姿は扉を開けて出て行くところだった。スタッフの人がどこかへ誘導していく。
「・・・・なんだよ」
また都合の良い何かにされたように思えて眉をしかめる。
でもさっきまで此処にあった体温と伏せられた瞳を思い返したりしてる自分は、結局残りの2年間もこんな距離感なんだろうなあと、少しだけおかしかった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
同じチームだからこそのライバル心と近い存在感と感情ってあると思うんだ。
来年も一緒に頑張って欲しいな!
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