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依存症

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ナマ注意。とある先輩と後輩の話。

「行かないで」
 無理やり腕を引っ張られ、俺はベッドの上に転がされた。
「……っ、いきなり、な……」
 目まぐるしく変わる景色。つい先ほどまで俺は、ドアノブに手をかけていたはずだ。
なのに、次の瞬間には、部屋の天井が視界にあって、そして今は――
「……っ」
 現状を受け入れたくなくて、きつく目を瞑る。
 それでも、感覚までは誤魔化しきれない。彼が――大好きだったはずの先輩の舌が、俺の口の中を蹂躙する。
 気持ち悪い。きもちわるい。キモチワルイ。
 どのくらい続いただろうか。換算すれば2、3分程度なのだろうが、俺にとってはその何倍にも感じられるほど、苦痛な時間だった。
 舌を絡め、舌で歯をなぞり、唾液を混ぜ合わせ――口の中という中を貪りつくすと、彼は俺を解放した。
 はぁ、はぁと荒く生温かい吐息が俺の頬にかかる。
 俺は、耐えきれずに咳き込んだ。
「ごほっ、ごほっ……何考えてるんですかっ!!」
 勢いよく起き上がり、彼を突き飛ばす。形勢逆転。今度は彼の方がベッドに倒れこむ形となる。
「はぁ、はぁ……」
 そこでようやく、俺は彼の顔を直視する。
 彼は、きょとんとした表情で俺を見ていた。どうしてこんなことをされるのかわからない、その目が、そう訴えかける。
「   」
 彼の口が、俺の名を紡ぐ。聞き慣れたはずの声。大好きだったはずの呼び名。しかし、今はその何もかもが遠かった。
「――もう、違うんですよ」
 俺は、彼から目を逸らし、ベッドから降りる。
「俺は、あなたとはもう、居られないんです」
 そして、一歩、また一歩遠ざかる。縋るように彼は俺の名前を呼ぶが、振り向かない。振り向けない。

「嫌だ」

 再び、彼が俺の行動を制止する。必死にシャツの裾を掴む指。
 違う。俺が知っている彼の指は、こんなに弱々しいものなんかじゃない。
「離してください!」
 無理やり振り払い、一気にドアまでダッシュする。
 もう、こんな彼は見たくない。一刻も早く未練を断ち切りたい。その一心だった。
 しかし、
「   」
 耳元で、名前を呼ばれる。
 彼が、俺を後ろから抱きすくめる。
「やめて、ください」
 振り払いたいのに振り払えないのは、彼の方が体格も良くて力も強いから?
 それとも、
「嫌だ」
 こうされることが、ずっと自然だったから……?
「離れるなんて、嫌だ――」
 彼の言葉が、行動が、俺の決心にヒビを入れていく。
「絶対に、嫌だ――」
 密着した背中が、ジワリと熱い。首筋には、ポタリポタリと温かな雫が伝い落ちる。
 ただでさえ繊細な彼の心が、直接俺を追いつめる。ニゲラレナイ。

「―――――」

 彼の名前が口をつくとともに、全身の力が抜けていくのがわかった。
 立っていられなくて、そのまま彼にもたれる形となる。彼はそんな俺を優しく抱えてくれた。
「俺だって――」
 彼を真っすぐに見上げる。思いが堰を切ったように溢れ出す。
「俺だって、本当は離れたくありません!!でも、でも仕方ないんですよ!!」

 別れは、突然だった。
 来季からは他の場所で働いてくれと、上から通告されたのだ。
 決まってしまった人事に、こちらが抵抗できるすべはない。どれだけ泣いても、惜しまれても、もう俺はここにはいられない。
 大好きな仲間たちの側にも、彼の側にも居られない。
 体が、がくがくと震える。こらえていたはずなのに、止められない。
「割り切るしかないのに――何で邪魔をするんですか! どうして楽にさせてくれないんですか!」
 心地よい彼の腕の中が、つらかった。恐ろしかった。
 こんな思いをさせるなんて、彼はなんて残酷な人なんだろう。
「何で、どうして――」
 彼と俺。二人とも同じ顔をしてる。ぐしゃぐしゃに顔を歪めている。涙と熱とが混ざり合って、何が何だかわからない。
 2人が1つになって、この部屋に溶けて、ぐるぐるかき回されてる、そんな感じ。
「それは――」
 ぐちゃぐちゃな意識の中――それでも、二コリと笑う彼の顔が見えた。
「好きだから」
「え」
 ゾクっと背筋が震えた。奇妙なほど、感覚が冴えわたる。
「好きだから、別れたくない。それって当然なことだろ」
 彼は俺を抱く腕に、さらに力を込めた。
「でも――」
 返そうとした言葉は、重ねられた唇に奪われる。今度は、不快感はなかった。
「今だけ、今だけでいいから」
 彼が甘く囁きかける。
「今だけは、おれのモノでいて。おれだけのモノでいて」
 頭が痛い。ガンガンと揺れるよう。
「…………」
 否定できず、俺は首を縦に振った。
 この選択が、間違いだって分かっているのに。

 彼はそんな俺を見て、満足そうに、ほほ笑んだ。
「ありがとう」
 そう、腹が立つくらい、爽やかに。
「好きだよ、  」
 これまで何度も聞いた言葉。でも今は、帯びた温度が違う。
「俺も」
 詰まりながら、口にする。
「――大好きです」

 再び、ベッドに寝かせられる。今度は優しく、まるでガラス細工でも扱うように。
「ん……」
 胸から脇腹に、脇腹からさらに下に――彼の手が、俺の体の上を這っている。
 その間にももう片方の手が、器用にシャツのボタンを外していく。
 重なる肌。伝わる温度。いっそうの、混同、混濁。
「はぁ……っ」
 熱に浮かされた頭で、考える。
 恋人以上、家族未満。いつだったか、自分と彼との関係を表した言葉。
 彼のことが、好きだった。大好きだった。ずっとずっと、大好きだった。
 でも、その好きは、いったい、どんな好きだったか――――

 一つのベットに、体を寄せ合って眠る。
 大柄の男二人じゃ、少し狭いくらいの空間。でも、その密着感がいい。
 彼の温度を、俺の体は覚えている。
 俺の温度を、彼の体は、覚えている。
 忘れたくても、忘れられない関係。
「……最悪」
 いずれ訪れる後悔を憂い、俺はため息をついた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )突発的に書いてしまった。後悔はしていない。


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