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甘い熱

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

激団親幹線「バソユウキ」から復讐鬼と殺し屋の話。
今年最後なので少し明るく、を目指して。

誰かが言った
この肌は氷菓子のようだと
手にひんやりと冷たくすべらかで

舌に毒のように、甘い―――

怒門が熱を出した。
「気が緩んだのかもしれませんね。」
寝台の脇で、甲斐甲斐しく額に置いた布を取り換えながらガラソが口を開く。
それを佐治は少し離れた後方から見つめていた。
「すまないな。」
横たわる怒門から掠れがちな声が零される。その抑揚はさすがに弱々しい。
だからそれを擁護するように、またしてもガラソが明るい声を出した。
「しょうがないですよ。怒門さん、ずっと過酷な生活してたんだし。
追っ手もまけて、ちょっと気が緩んだんですよ。」
彼がそう言う追っ手とは、完獄島からのものだった。
無実の罪で投獄された絶海の孤島から、様々な出会いの偶然を重ねて脱走を謀り、早一ヶ月近く。
船旅で始まった逃避行は陸地についても続き、それでも先導する元ハマソ国の王女ペナソの
従者であるガラソ達がもう大丈夫だと、そう告げた地で怒門は倒れた。
体力や栄養の不足していた日々からの急激な環境の変化には、体がついていかなかったのだろう。
安堵と共に襲ってきた疲労による高熱。
そうして慌てて取ったその日の宿は、急な事もあって部屋数の確保が難しかった。
「佐治さんも疲れてるでしょう?今日は俺がついてますから隣りで休んで下さい。」
取れた部屋は三部屋。女性2人に一部屋、病人に一部屋を割り当てるとすると、残りは
もう一つだけになる。
それをあてがわれ、しかしその瞬間佐治の眉根が微かに寄る。そして、
「嫌だ。」
ポツリとそう呟けば、それにガラソの目がパチリと瞬いた。

「えっ?」
「なんだか、嫌だ。」
ひどく掴みどころのない言葉が繰り返され、それにガラソのうろたえが大きくなる。
「あ~っと、じゃあどうすれば…」
「俺の看病は別にいいから、二人とも休んでくれればいい。」
そんなガラソに助け船を出すように、不意に怒門から声が発せられる。
しかしそれにも佐治の不満げな表情は変わらなかった。
「それも嫌だ。」
言いながらスッと目の前にいるガラソに視線を落とす。と、それにガラソはヒッと息を飲んだ。
まだそれ程長い時間を一緒にいる訳ではないが、とりあえず自分の暗殺者と言う出自は
知られている。
そんな人間と同じ部屋に放り込まれるのは、さすがに憶するところもあるのだろう。
何とはなしに思う、そんな自分の心中を読んだのか、この時また怒門が口を開いてきた。
「なら、佐治はどうしたいんだ?」
まるで諭すように問われ、佐治は微かに首を傾げる。
『どうしたい』と言うよりは『何が嫌ではないか』
答えは意外とあっさり出た。
「僕は君と同じ部屋がいい。」
サラリと告げた、その言葉に何故かガラソがザッと寝台の脇から後ずさる。
しかしそれによって遮るもののなくなった視界の先では、この時横たわる怒門の、
少し驚いたような顔が見えた。
その渇き気味の唇が動く。
「看病は別にいいぞ?」
「世話する気はないよ。」
「……うつるぞ?」
「僕は君ほど柔じゃない。」
淡々と交わす、その会話の末に怒門は微かに苦笑したようだった。そして、
「わかった。佐治の好きにすればいい。ガラソ、そう言う事だから今日は君が
一人で休んでくれ。」
ありがとう、と最後に付け加えられた礼と共に怒門の視線が流れる。
だからそれを追うように佐治も視線を向ければ、自分達の横、ガラソは呆然と見開いた目のまま
コクコクと壊れたからくりのようにその首を何度も縦に振っていた。

二つある寝台の一つに横になる。
そしてついた眠りが不意に破られたのは、夜半も過ぎた頃だった。
もともと浅い眠りの意識に滑り込んできた怒門の声。
呻きにも似た、それに佐治はふっと身を起こした。
そして視線を隣りの寝台に向ければ、そこには薄闇の中、壁際に丸まるように
身を寄せる影が見えた。
そこから再び聞こえてきた苦しげな声に、思わず足が床に降りる。
そして音を立てずに近づき、背を向けるその顔を覗き込もうとすれば、そこには
うっすらと汗ばむ怒門の額があった。
熱が高いのか。
そう思った瞬間、佐治はスッとその手を伸ばしていた。
他人から指摘され、自身でも自覚のある冷たい手。
それを熱い額に押し当ててやれば、怒門は一瞬ビクッと肩を震わせたようだった。
置いた手の下でゆっくりと瞼が上がったのがわかる。
そしてそのまま背後に返される身体。
闇の中でもぼうっと焦点が合っていない瞳が、こちらを茫洋と見上げてくる。
しかしそれでも置かれた手が払われる気配はないので、冷たいのが気持ちいいのかと、
佐治は今度はその額の手を頬や首筋に滑らせてやった。そして、
「水、飲むかい?」
面倒の見方などわからないがこれくらいならしてやれるかと、そう尋ねてみるが、
それにも怒門の反応はこの時鈍い。
だから、仕方がないと返事を待たずに動こうとしたその時、
「えっ?」
離れかけた佐治の手は、不意に延ばされた怒門の手に捕らえられ―――引き戻されていた。

一瞬何が起こったのかわからなかった。
それでも背が寝台に沈み込む身体の上に、影のような怒門の体が覆い被さってきた時には
たまらず背筋に動揺が走る。
「ちょっ……どうしたんだい…っ」
言いながら、その体を突っぱねようと伸ばした腕。
しかしそれは全体重を掛けてのしかかってくる力の前に、あえなく潰された。
両腕を回され、強く抱き込まれる。
そのまま竦めた首筋に顔を埋められれば、無意識にギッと奥歯が噛み締められた。
こういう扱いを受ける事は別に初めてではない。
これまでだって、必要とあらば自らの身を使う事に厭いは無かった。
けれど、出会って一ヶ月。声だけの邂逅も含めれば一年ほどの交流の中で、何故か
彼とはこうなる気がしなくて。
彼だけは……違う気がして―――
しかしそれは自分の見誤りか。

ならば………仕方がない。

身体をどけるのに殺していいのならば話は簡単だが、今はそうする事も出来ず、
半ば諦観の念で佐治の身体から力が抜ける。

好きにすればいい

そう思い、すっと目を閉じたその顔に怒門の節だった手が這い上がる。
捕らえられ、固定され、口づけでもされるのかと。しかしそう先回りした佐治の思惑は
次の瞬間、横髪に差し入れられた怒門の手の動きによって、軽く予想を裏切られた。
大きく武骨な手。それが不意に……佐治の髪をわしゃわしゃと掻き乱してくる。
それは何かを探る様に、確かめるように。
そしてそれに再び驚きの目を開けた佐治の上で、怒門は不意に安堵のような吐息を洩らすと、
顔を埋めた首筋の耳元近くでポツリと小さな呟きを落としてきた。
「……牢の中じゃ……ない……」

そのままもう一度背中に回される腕。
背骨の近く、寝台と身体の間に挟まれ、感じ取れる怒門の手の形はこの時、固く拳が
握られているようだった。
それは寝衣越しにも自分の肌を弄ってくるような、そんな色めいた気配は無くて、
ただただ縋る様に自分を抱き締めてくる。
けれどそんな力でさえ、けして長く続くものではなかった。
徐々に弛緩し、重くなってゆく怒門の身体。
捕らえてくる拘束の力も緩み、それに佐治が戸惑いながらも体をすり抜けさせれば、
怒門の腕は呆気ないほどの容易さで、この時寝台の上に落ちた。
上半身を起こして見下ろす、その視線の先に捉えた彼の拳の形。
それに佐治は刹那、先程耳元で聞いた怒門の言葉を反芻していた。

牢の中じゃない―――

その言葉には、あらためて気づく彼が過ごした10年と言う月日の重みが滲んでいた。
地下に近い、光のほとんど射さぬ牢獄に閉じ込められ続けた日々の中、彼がその手で
触れたのは、おそらくわずかな食料と、湿った土の壁と、冷たく硬い鉄格子だけ。
そう思えば、今目の前にある彼の手は、まるであの牢獄の無慈悲な格子を今も
握り締めているようで……
たぶん、だからだ。その手にこの時、自分の指先が伸びたのは。
強く握られる怒門のその力の強張りを解くように、佐治は彼の指にそっと己のそれを重ねる。
一本一本に触れ、開き、出来た隙間に自分の指を差し入れ、キュッと握り込んでやる。
彼が今触れているのは、鉄の檻では無いのだと。
伝えてやろうとする。と、その感触に応えるように、この時怒門はそんな佐治の手を
ひどく柔らかな力で握り返してきた。
無意識に縋るような。その頼りないまでの素直さに、ふと佐治の口元から笑みが零れる。
だからその顔を覗き見た、しかしその瞬間佐治の眉は再びサッとひそむ。
薄闇の中に見遣った怒門の表情。それはまた熱に浮かされる苦しげなものに戻っていた。

きつく眉根を寄せ、吐く息が荒い。そしてその歯の根はカチカチと小さく音を立て
合っていないようだった。

熱いのか……寒いのか……

思えば、冷たいだろう自分の手が触れていてもいいのかもわからず、佐治は咄嗟に
絡めていた指を解く。
そのまま、具合の悪そうな怒門の様子を見下ろして戸惑う、しばしの時間。
正直どうしたらいいのかわからなかった。
自分は今まで、人の心の臓を止める事はあっても、助けるような事は無くて。
ただ知識だけは叩きこまれている。
だから、
無いよりはマシなのだろうか。
自分のものでも足りるのだろうか。

いつか誰かが言った、氷菓子のようなこの肌―――

白い指先が闇の中、ゆらりと持ち上がる。
視線は眼下の怒門の横顔にひたりと当てたまま、
佐治はこの時、自分の肩からすでに乱れ緩んでいた寝衣の襟を静かに滑り落としていた。

「おはよーございまーす。佐治さん、怒門さん、具合はどうですかー?」
部屋の扉が叩かれるのと同時にそんな声が聞こえ、佐治は瞬間んっとその目を開けていた。
落ちてくる前髪を無造作に掻き上げながら、ゆっくりと身を起こす。
誰かが起こしに来るまで目が覚めないとは、珍しく眠りが深かった。
その原因はおそらく、
「…………」
視線が落ちる。その先にあったのは未だ目を覚まさず眠り続けている怒門の横顔だった。
昨夜見たものよりはかなり穏やかになった。そんな表情を見止めながら頬に掛かった
白い髪を払い除けてやると、その額に触れる。
手の平に伝わる熱は、おそらく人並なものだった。
だから下がったのかと、少し安堵して佐治は寝台から降りた。
腰の帯でかろうじて留まっていた寝衣を引き上げ、袖を通しながら、扉の方角へ向かう。
そして、
「お二人共、起きてます…」
再度上げられた声を途中で遮る様に、佐治は部屋の扉を唐突な勢いで開けると、
その向こうにいたガラソに向け、こう言った。
「彼はまだ寝てるからもう少し静かに。」
声をひそめて告げる。と、途端、ガラソはその表情をビキッと固まらせた。
それに何だ?と思いつつ、佐治は事務的な事だけ口にする。
「熱は下がったようだよ。ただ朝方に汗をかいてたから着替えさせてやった方がいい。
って、聞いてるかい?」
目の前でぼうっと言うよりは愕然と言った面持ちで固まっている青年に声を掛けながら、
佐治はこの時一つ小さなあくびをする。そして、
「じゃあ、後はよろしく。僕は顔洗ってくるよ。」
言いながら棒立ちになっているガラソの横をすり抜けようとした、しかしその時
佐治は不意にその踵を返した。

「あっ」
「へっ?」
小さく零された声に、ガラソがビクッと振り返ってくる。
だからその顔に、佐治はこの時スッとその手を伸ばしていた。
白い指先でサラリと青年の頬に触れる。そして、
「やっぱり冷たいよね?僕の手。」
伺うように問えば、それにガランは一瞬の間の後、無言でガクガクとその首を
縦に振ってきた。
だからそれに佐治は、クスリと笑って続ける。
「だよね。それなのにこの程度の肌の温度で、しかも甘さも知らずに事足りるなんて
本当に欲の無い男だよ。」
最後はほとんどひとり言のように、そう含み笑いながら佐治は手を下ろした。
そのまま、あっさりとガラソに背を向けて歩きだす。
そしてその足が廊下の角を曲がり、階下へ繋がる階段に触れた時、
「ひいいいいっ!」
不意に背後から聞こえた青年の悲鳴。
けれどそれにもう振り返る踵は無い。
ただ階段を下りる動きに緩く合わせただけの襟が肩からずり落ちそうになるのを直しながら、
佐治は朝の光の中、もう一度小さなあくびを繰り返していた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

ガラソ乙!
今年はお世話になりました。少し早いですが、よいお年を。

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