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世話好き

オリジナルで 過ぎたけどクリスマスネタです。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

世話好きという言葉は決して褒め言葉じゃない。
特にここみたいな飲食店では、面倒な客の処理を押しつけられる時の常套句になる。
言い方がいやなら用心棒ってのはどうだ、クールだろと店長は言うけれど、要は同じじゃないか。
便器に顔を突っ込んだまま寝ている奴や、泥酔してフロアで大の字になって叫んでる奴を処理する役回りは全部自分にまわされてしまう。
特にこのシーズンは大変だ。世の中浮かれとんで、自分の限界を忘れて飲みまくる馬鹿が大量に発生する。
誰かが介抱してくれるとでも? どこかに連れ去られるならまだしも、下手するとあの世へ連れてかれてしまうとか考えないんだろうか。
今夜もこの店は貸し切り。近くの金持ち大学の学生達のパーティだから、いいとこの坊ちゃん達ばかり。
これは楽かもしれないと思っていたが、逆だった。金を持ったガキほど質の悪いものはない。
食べ物や飲み物を投げつけたり、グラスを壊したり、店の飾りを破壊したりやりたい放題だ。
やんわり注意すればすぐにプラチナや黒のカードをチラつかせる。金で済む問題かよ。
好きにすればいい、と諦めて傍観していると、店長がやってきた。
「ルー、あそこでぶっ倒れてるガキなんとかしてくれ」
見ると、隅でシャンパンのボトルを持ったまま倒れている奴がいる。
救急車を呼びますか、と聞くと店長は後々面倒だから、と止めた。
「どうせ後1時間くらいすれば、こいつら場所移動するから、それまでどっかに置いといてくれ」
鼾かき始めたらヤバいんで注意して見てて、と言われた。これだから嫌になる。
無駄に着飾った奴らをかき分けて倒れている男の元に行き、軽く顔を叩いた。
「おい、生きてるか?」
反応はないけれど呼吸はしている。仕方ない。従業員室のソファまで運んでおくことにした。後はほっておこう。
ブランドものらしきジャケットがシャンパンまみれになっている。
華奢な身体を抱えるとこっちまでシャンパンで濡れてしまった。
どうせ安物のTシャツだし、いつものことだからどうでもいいけれど。

店長のいう通り、ここでのパーティはほどなくお開きになった。次は主催した奴の家でやるらしい。
皆がタクシーでどんどん去っていく。慌てて近くにいたサンタのコスプレをしている奴に、従業員室で寝ている男のことを訪ねた。
「起きたら、トムの家にいってるって伝えといて。連れてけって? やだよ面倒くさい。保護者じゃあるまいし」
こっちだって保護者じゃねえよ! こういう輩が後に政治家とか医者とかになるのかと思うと、うんざりする。
なんだかんだと言い逃れられて、皆とっとと行ってしまった。
奴らが去った後の店は凄まじい惨状。従業員総出で、とにかく朝になる前に片付けてしまおうということになった。
明日からここもしばらく休みになるから、できるだけ持ち越したくなかったのだ。

何とか夜中のうちに店をきれいにしたのはよかったが、従業員室に戻って大変なものを残しておいたことに気づいた。
「誰これ?」
シャンパン男がすやすやと寝ていた。
店長は途中でとっとと帰ってしまったし、他の奴らも早く帰りたいらしく、あの呪文を唱えた。
「世話好きだなあ、ルーは」
「ああ、そういえば店長、ルーに任せたって言ってたしね」
「悪いなルー。早く実家帰らないと、親が怒るんだ。お前帰省とかしないだろ。じゃあ、メリークリスマス」
え、とか言っている間に誰もいなくなってしまった。
いつもこうだ。結局なんだかんだいって最後に店の鍵を閉める役回りになる。
シャンパン男は青ざめていた頬に血色が戻っていた。ただ寝ているという感じ。腹が立ってソファを蹴った。

フロアを点検すると端の方にガラスの破片がまだ残っている。
金が貯まって自分の店を持てることになったら、絶対あんな連中のパーティは断わろう。
「ちょっと」
従業員室の方から声がした。ガラスの破片もどきが起きたらしい。
「そこの、腕が刺青だらけの人!」
「聞こえてる。起きたんなら帰ってくれる?」
「ここはどこ? 今何時? 皆は?」
とりあえず目を覚ましてくれたことに免じて、トムの家、と知っている限りの説明すると、トムってどこのトム? と返された。
「俺が知るかよ。あんたの友達だろ。パーティ主催した」
友達の友達みたいな繋がりの集まりだから、よく分からない、と呟かれた。諦めて家に帰ればと言うと、言葉を濁す。
帰る家がないわけじゃないだろうに。それにここにいつまでもいてもらっても困る。
「お前もしかして、うまく忍び込んだだけのホームレスか?」
「は? 悪いけど、父親は映像関係の会社経営してるんで。別荘とかもあるんで」
「映像ねえ。どうせアダルトビデオとかだろ」
顔が赤くなった。図星だったらしい。
この時期になると家では毎晩パーティ三昧で、ポルノ女優や高級娼婦みたいな女が集まってくる、僕が部屋で寝ていると勝手に忍び込んでくるんだ、と聞いてもいないことを話し始めた。
普通に羨ましい環境じゃないか。
「皆そういうけどね。子供の頃からだよ。僕がどんな気持ちになるか分かる?」
「さあね。俺の知ったことじゃないんで。ここ鍵閉めるから、とにかく出てくれ」
愚図る奴の襟を掴むと外へ引っ張っていった。

夜中の3時過ぎだというのに、年末のせいか、外はまだ人が多く歩いている。
入り口を閉めている間、奴は横で待っていた。歩き始めてもまだついてくる。そしてまた身の上話の続き。
俺は奴が初体験が早すぎただの、整形した女優の身体がどうだのと話す間、何となく去年ここにいた子犬のことを思い出していた。
店の前の段ボールからすがる目で俺を見ていた。
かわいそうだったけれど、家にはすでに猫がいて余裕もなかったので、来るなというオーラを出しまくりながら歩いていったっけ。
なのに家のドアまでついてきた。結局今では、俺のベッドを占領するほど大きく成長して、猫と部屋で仲良く暮らしている。
しかしこいつは犬じゃなくて人間だ。口で言って話して理解してもらおう。

「いい加減ついてくるな」
「あんたはこれからどうするの?」
家で寝る、というと、なら家に行ってもいいよね、と当たり前にいうものだからふざけるなと怒鳴ってしまった。
「何で? 予定が何もないんだから、別にかまわないだろ」
「お前が決めることじゃない。お前のせいでTシャツがシャンパン臭くなっちまったし、とにかくうざいから」
「あれ、そうだったんだ。弁償するよ。いくら位?」
「弁償するとか。その金はお前が嫌がってる整形女優や親父が身体で稼いだお金で、お前の金じゃない。どんだけ坊ちゃんだよ。とっとと家に帰れ」
俺の怒鳴り声に、ほろ酔い気分の周りが一斉に目を向けた。本当に何やってんだ、こんな夜中に。
向こうは何も言い返せなくなり黙り込む。その代わりにこっちを見つめる。あの目はすがる子犬の目だ。
けれど俺は真っ直ぐ前を指差す。行っちまえ、と。
諦めたらしく、後ろを向くと、よたよたと道の向こうにあるタクシーに向かって歩き始めた。
赤の他人だってのに、さすがに言い過ぎたかもしれない、と少し後悔する。
でも知ったこっちゃない。

……家に帰るんだろうか、それともトムやらを探し当ててパーティに行くんだろうか。

……あいつなんだかんだ言って友達いないんじゃないの?

「おい!」
思わず叫んでいた。奴が振り返る。
「メリークリスマス」
それしか浮かばなかった。そしてそれが今言うべき言葉だと思った。
奴はようやく笑みを浮かべると、大きく手を振った。
「メリークリスマス!」

お互い名前さえ知らないけれど。

ありがとうごさいました

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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