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テッドとアレックス

オリジナルで、TVキャスターの金持ちアラフォーとその家に居候している二十代前半の青年です。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

最近テッドの帰りがずっと遅い。帰ってこない日も多くなった。
何となく分かる。彼は僕を避けている。あんなこと言うべきじゃなかった。
あの夜、僕は抱きしめてもらって少し冷静じゃなくなってた。まるで僕のことを全て受け入れてくれるような気がしたんだ。
だから、思わず告白してしまった。どうかしてる。おまけに彼はそのことについて何も言わないから、却って不安になる。
中途半端な複雑な思いが心の中を占めている。こんな気持ちになるなら、好きだなんて言わなきゃよかったのに。
だからといって、このままずっとまるで親子か兄弟みたいに過ごしたとしても、きっとどこかで辛くなる。
向こうは何とも思っていないに違いない。10年前、僕の後見人になってくれたことも、彼にとっては大したことじゃないんだ。
たまたま施設に取材に行ったら、将来を嘆くかわいそうな少年がいただけ。
お金に不自由していない彼が気まぐれにした慈善行為。いや偽善行為か。
前から寄付金目当てで彼に近づく輩が後を絶たない。テッドはそういう行為が嫌いだった。曰く、
「慈善に興味がないんで。だから僕がやった時点で慈善は偽善になる。道楽者で結構」
僕は道楽者に望み過ぎているのかもしれない。家と学費だけじゃ飽き足らず、彼の心まで欲しがっている。わがままだよね。

今夜もまだ帰ってこない。かなりふてくされた顔をしていたんだろう。食器を洗い終えたマーサが紅茶を運んできた。
「なんて顔してるの、アレックス。ハンサムが台無し」
「テッドがこの頃遅いんだ」
「確かに朝いないことも多いわね。でもまあ今や局の看板キャスターだから。年々忙しくなるのは当たり前」
それに年末なんだから、特番やらその打ち合わせがあるんだから仕方がない、と僕をなだめた。
「ところでクリスマスのこと彼から何か聞いてる? そろそろパーティのこと考えないと」
大抵クリスマスの夜はマーサの家で過ごす。家族がいない僕にとってマーサの家のクリスマスパーティは憧れの世界そのもの。
子供達はツリーの下にあるプレゼントに駆け寄り、大人達は暖炉の前で談笑し、主人が料理の七面鳥を切り分ける。
またマーサの孫が多いんだ。とにかく、にぎやかで幸せな家庭の風景。

「テッドは来るかって? さあ。帰ってきたら聞いてみる」
「ああ、別にいいわよ。朝いる時に聞くから。起きて待ってることないわ」
じゃあまた明日、とマーサは帰っていった。
何か理由がないと待っているのも気まずいし、とにかく今夜は意地でも待ってやる。

眠気で意識を失いかけていると、遠くで物音がした。
ゆっくりと身体を起こす。どうやらキッチンのテーブルに突っ伏していたみたいだ。首が痛い。
「うわ、びっくりした! キッチンが明るいと思ったら、起きてたのか」
テッドが頭を抱えてこちらを見ていた。時計を見ると6時を過ぎている。最早朝。完全に寝ていたようだ。
とりあえずシャワーと朝食のために、戻ってきたらしい。
これじゃあ、素直にマーサに従えばよかった。どちらにしろ、もう少しで彼女が朝食を作りにやってくるんだから。
「あの、マーサがクリスマス来るのかどうかって、聞きたがってたんで」
「それ聞くために朝までキッチンで待ってたのか?」
当日は5時間ぶっ通しの生放送があるから、行けたとしても深夜なのでやめておくらしい。
「もう寝ろ。マーサには自分で言っとくから」
そう言うとテッドは、疲れたあ、と椅子に腰を下ろした。
「最近、避けてますよね。僕のこと」
思い切って言ってみた。今しかないと思うと、自分の眠気なんて気にしていられない。
なんで? と彼は呟いて、その後すぐに何かを思い出したようだった。表情が固くなる。
「いや、そんなつもりはないけど。ほら、年末だし。忙しいのはお前だって知ってるだろう」
「これほどじゃなかった。前はそれでも話す時間くらいあった。あなたは僕を避けてる」
声が大きくなってしまった。彼が驚いて思わず立ち上がったくらいに。
「落ち着け。今年は局の30周年だから、いつもより余計に特別番組が多いんだ。他の番組にゲストで出ることもあって」
そういえばそんなこと言っていたような。

本当にそれだけだろうか? 寝起きのせいで上手く考えられない。感情が優先されてしまう。
「僕があの夜、あんなこと言ったから。僕から逃げてる」
テッドはため息をついた。
「別に。何でも話せと言ったのはこっちだから。お前から逃げたりはしないよ。ていうか、もう寝ろって」
分かっている。彼は優しい道楽者だから、聞かなかったことにしようとしている。
それがお互いにとって一番いい選択だと思ったに違いない。
だから、僕はそれに従うべきなんだ。彼を困らせちゃいけない。
「……寝ます」
でも最後に、そう、もうこれを最後に、僕は彼に近づくと唇に触れた。
テッドは何ともいえない表情になって、今のは? と尋ねる。そこは聞かない方向でいてほしかったな。
「おやすみのキスです」
言葉にしたら急に恥ずかしくなって、慌てて背中を向けてキッチンを出ようとした。が、腕を掴まれた。
「お前は下手だな」
ぐいと肩を引き寄せられ、視界がテッドに覆われたとたん、唇を押しつけられた。
身体から力が抜けて倒れそうになり、僕は思わず彼にしがみつく。
身体が彼でいっぱいになった気がした。
彼の舌は僕の中で柔らかく絡みつき、離れては唇を舐めてくる。
それはとても長く感じられたけれど、実際はほんの数秒のことだったんだろう。
玄関の辺りから音がして、テッドはそれに反応して僕から身体を離した。
マーサが朝食の支度にやってきたらしい。何事もなかったかのように、彼は玄関に向かっていった。

部屋に戻ってふと鏡を見ると、自分の顔があり得ないくらい紅潮し、唇が濡れていた。
よかった。夢じゃなかった。
ベッドに横になり目を瞑ってみたけれど、身体中が脈打っていて、とてもじゃないが眠れない。
僕は下手らしいけれど、テッドだってダメじゃないか。
おやすみのキスなのに、眠気が吹っ飛んでしまった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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