Dreams come true
更新日: 2011-04-25 (月) 09:12:46
英国発顔付き機関車、太っちょ局長×眼鏡局長
名前以外は全部捏造。ネタにマジになっちゃいましたって感じです
もう何と言うか…笑ってやってください
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| おっさん同士のお話だモナ
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コンコン。と二度ドアをノックし、ミス夕ーパーシバノレはノブにそっと手をかける。
ソド一鉄道局長室へ入るのはこれが初めてだった。
そのせいかやけに緊張しているようで、手にはうっすらと汗が滲んでいる。
何の前触れも無く突然、今日の午後一番にこの部屋に来るようにと通達があったのは昨晩遅くの事だった。
上の者に呼び出されるほどの重大なミスにも事故にも、今のところ心当たりはない。
こんな肩書きも何も無い平社員に、一体何の用があるというのだろうか。
ミス夕ーパーシバノレの心の中では、不安の占める割合が徐々に大きくなっている。
「……失礼します」
細身の長身を揺らせながら、ゆっくりと室内へと歩を進めてゆく。
こじんまりとしていて簡素な局長室内。
呼び出しの主は、どうやら局長本人であったようだ。背を向けたまま、窓の外で走る蒸気機関車の姿を眺めながら言った。
「よく来てくれた。本日は忙しい中、突然の呼び出しに応じてくれた事を大変感謝申し上げるよ、ミス夕ーパーシバノレ」
振り返ろうとする様子は無い。ミス夕ーパーシバノレは局長──トップハムハッ卜卿の背に向けて一礼を送る。
ハッ卜卿は背を向けたままで言葉を続けた。
「君の素晴らしい仕事ぶりはよく耳にしている。大西部鉄道組の中でもトップクラスだという事じゃないか」
大西部鉄道組──この数カ月の間に大西部鉄道からこのソド一鉄道へと入局してきた者の事をソド一鉄道内ではそう呼んでいる。
ミス夕ーパーシバノレもその中の一人だ。
丁度半年前の事だった。大西部鉄道がその運用を蒸気機関車からディーゼル機関車へと移行するという方針を固めた。と全社員に通達したのは。
それは時代の流れであるのだから致し方ないという者もいれば、蒸気機関車と共に仕事が出来ないのであれば働く意味は無い。という者もいた。
その後者に当たる者達が、未だ蒸気機関車での運用が中心であるこのソド一鉄道にやって来たというわけだ。
「それにミス夕ーパーシバノレ。君は大西部鉄道時代は局長代理まで務めていたそうではないか」
この言葉を耳にした瞬間、ミス夕ーパーシバノレは眼鏡の奥の両目をはっと見開き、ドキリと胸を鳴らせた。
「今まで知らずにいた事は大変申し訳ないと思う。しかし何故この事を最初に言わなかったのだ?」
ふと、局長専用のデスクに目をやる。そこには少しだけ古い色をした一枚の紙が置いてある。
それはミス夕ーパーシバノレがソド一鉄道への転局を希望した際に最初に提出した履歴書だった。
「……私は出世の為にここへ来たのでは無いので、要らぬ気遣いをさせてしまうかと思いまして」
「そうか。それなら良いのだが」
ハッ卜卿は少しばかりほっとしたような声色でそう口にした。
「ところで本日君をここに呼んだのは他でもない。君の日頃の仕事ぶりに敬意を表して何か褒美を授けようと思うのだが」
そうは言うものの、ハッ卜卿は相変わらず振り返ることなくその丸っこい背中で淡々と語り続ける。
褒美。その言葉にミス夕ーパーシバノレはふと、何かを感じたような表情を見せた。
そして中指でくいっと眼鏡を上げ、わずかに眼光を鋭くしながらはっきりとした口調でこう言ったのだ。
「それでは……私の質問にひとつだけ答えていただきたいのですが、宜しいですか?」
ミス夕ーパーシバノレその言葉を聞いた瞬間、ハッ卜卿の丸い背が微かにびくりと動いたのが見て取れた。
「……ま、まあ良いだろう。何でも聞いてくれたまえ」
ハッ卜卿の声色に明らかな動揺が伺える。だがミス夕ーパーシバノレはそれを気にかけることなく、大きく深呼吸をしてこう告げたのだ。
「覚えていますか? 私の事を」
局長室内を不穏な静寂が包み込んだ。
それはたった数秒の沈黙なのだろうけれども、ミス夕ーパーシバノレにとっては長い長い、先の見えない静けさのように感じられた。
そしてようやく、ハッ卜卿は口を開いた。
ひどく重たげなその口調は、自身の言葉に一切の嘘偽りがない事を示すようなものだった。
「……覚えていないわけがなかろう」
もう十数年以上前にもなる、遠い昔の事だった。大西部鉄道の所有するとある機関庫をひとりの青年が訪ねた。
背だけはひょろりとばか高い、眼鏡をかけた痩せっぽちの若者──パーグリン・パーシバルは、
卒業論文を仕上げる為に必要な蒸気機関車の性能についての話を聞かせてほしい。と、機関庫の鉄道技師達に頼みにやって来たのだ。
しかし、全身を真っ黒にして毎日現場で汗を流し働く技師達は、色白で頼りなさげ大学生の頼みなど聞く耳ももたずに小馬鹿にするばかり。
すっかり困り果ててしまった青年が、これで駄目なら諦めようと最後に声をかけたのが
機関庫の片隅で休む間もなく機関車の整備を行っていた、とても小柄な男だった。
彼は青年の頼みを聞くと、嫌味のひとつも言わず快く了解してくれ、その日は早速、夜遅くまで青年の調べ事に付き合ってくれた。
それからというもの、青年は毎日のように機関庫に通っては彼の元を訪ね、蒸気機関車についての多くを教わっていった。
彼は他の技師からもクレイジーだと揶揄される程に毎日機関庫に入り浸っており、そして誰よりも蒸気機関車というものを愛していた。
だから蒸気機関車について知りたいという青年に対しても、仕事と並行してとことんまで付き合い尽くしたのだ。
蒸気機関車を愛する者に悪い奴などいない。それが彼の口癖だった。
そんな彼と毎日顔を合わせているうち、青年にとってのただの研究材料に過ぎなかった蒸気機関車にも次第に愛着が湧いてくるようになった。
そして、ますます青年は彼と過ごす時間が長くなり、そして、より濃密なものとなっていったのだ。
論文を仕上げるその合間の時間は、全て機関庫で彼と過ごす事に費やした。彼もまた、青年の来訪をとても喜んでくれた。
やがて、彼のたまの休日になると、青年は彼の住まう部屋を訪れるようになった。
機関車の資料を見るという目的から始まり、やがては暇な日にふらりと訪れるまでになっていった。
蒸気機関車の事となると子供のように無邪気になる彼の笑顔を見る事を、青年はとても楽しみにしていた。
気付けば青年もまた、蒸気機関車に深い愛着を抱くようになっていた。
論文の内容も当初のテーマから大幅に変更され、彼から教わった蒸気機関車についての内容が大半を占めるまでになる程だ。
そしてその深い愛着は蒸気機関車だけでなく、蒸気機関車をこよなく愛する彼にも向けられるようになって行った。
恐らくは自分自身よりもひとまわりは離れているだろう彼の傍にいる事が、青年には何よりも幸せな時間だった。
そして、彼に対するそんな感情が愛であるという事を自覚した頃、彼もまた青年に対し同じような思いを抱いているという事を知ったのだ。
青年は彼からもうひとつの大切な事を教わった。人を愛する喜び。愛する人と体温を重ね合う事への、悦びを。
普段は技師として働く無骨な彼の指は、丁寧だが気丈に、その頼りない細身を懸命に愛でる。
青年もまた、不器用なりに一心不乱に彼の小柄な身に悦びを与えたいと尽くしていった。
気が付けば、彼は青年にとっての全てだった。彼のいないこの世界など、もう考えることさえもできない程にだ。
きっと彼もまた、自分と同じ事を思っているに違いない。そう信じて止まなかった。
しかし、青年に課せられた卒業論文の期限が間近に迫ると、彼と過ごす蜜月の一時もやがて終わらざるを得ない状況にまでなっていった。
そして彼と過ごす最後の夜、青年は月明かりを背に彼と指を絡めながら、ひとつの誓いを立てたのだ。
──この論文を完成させ卒業した暁には大西部鉄道に入局し、大好きな機関車に囲まれ、そして貴方と共に生きる
青年はひとりで過ごす夜の度、そんな幸福に満ちた夢を思い浮かべては、彼と再び出会う日を待ち焦れていた。
「──今となっては何を言っても、ただの言い逃れにしかならないと思うが」
ハッ卜卿はトレードマークの燕尾服を悲しげに揺らせ、現実逃避するかのように窓の外の景色を眺め続けている。
「あの頃のワシには、機関車から離れた仕事をするだなんて考える事が出来なかったのだよ」
窓の外に映る操車場では、絶えることなく多くの蒸気機関車や局員が動き回っている。
洗車を施されて青空に映える、赤いボディの機関車。休みなく貨車の入れ替えを続ける小さく丸い、緑色の機関車。
機関車達を一台も逃すことなく眺める事の出来るこの窓の存在が、その言葉の真実味を裏付けている。
「ただ、君に別れの一言が告げられなかった事だけは……。本当に悪い事をしたと思っている」
そう言いながら、ハッ卜卿はようやくくるりと振り返ると、かぶり続けていたシルクハッ卜をそっと外した。
記憶の中の彼の未来像からは想像もつかない程の変わりぶりにを目の当たりにして、ミス夕ーパーシバノレはそっと瞳を閉じた。
瞳を閉じると目前に広がる、闇の世界。
そう、あの日期待に胸膨らませて機関庫に再び出向き、そして、この同じ闇の世界へと突き落とされたのだ。
青年の論文は最高評価こそは下らなかったものの、運良く大西部鉄道の幹部の目に留まり、いたく良い印象を受けたようだった。
その縁もあり、青年は卒業後の大西部鉄道入局への切符を早々に手に入れる事が出来た。人生最高の至福の瞬間だった。
無論、その喜びの報告は家族よりも誰よりも早く、今日も機関庫で蒸気機関車と向き合っているのだろう彼に報告したいと願い、
そして青年は愛用の自転車で石畳の街並みを猛スピードで駆け抜け、喜びで頬を紅潮させながら機関庫へと向かった。
だが、いつもの場所にいたのは彼ではなく、薄汚れた蒸気機関車と、下品な笑い声を上げる図体の大きな見知らぬ鉄道技師。
その男に彼の居場所を尋ねた青年は、得た答えに驚愕した余りその場にひざまずいてしまった。
──あのチビはもうここにいないよ。折角、昇進して機関車いじりから解放されたってのに、馬鹿な奴だよ。
質の悪い冗談ではないかとも思ったが、部屋を尋ねてみるとその悪夢が紛れもない現実である事を知った。
機関車の資料が山のように積み重なっていたテーブルも、幾晩も幾晩もとろける程に愛し合ったベッドも。
全てが引き払われて閑散としたその空き部屋で、青年は瞳に闇を映し、頭を真っ白にし、眼鏡のレンズを大粒の涙で濡らせた。
蒸気機関車の走る姿を見る度に、機関庫に立ちこめる石炭の臭いを浴びる度に、あの幸せだった日々が思い起こされるという毎日。
幸せだったはずの思い出に苦しめられる日々から逃避するかのように、青年は配置された現場で狂ったように仕事に没頭した。
何かに意識を向けているその間は、あの日の出来事を思い起こさずに済む。
意識する対象など、何だって良かった。ただ一番近くにあったのが仕事だったから、それに集中したというだけの事だ。
本当に狂っていたのだろう。寝る間も食べる間も惜しんで、周囲の誰よりも長く仕事と向き合い続けていたのだから。
そうして駆け抜けるように過ぎていった数十年の結果が、局長代理という栄誉ある地位だ。
誰もが自分をミス夕ーパーシバノレと呼び、頭を下げて迎え入れてくれた。称賛の拍手も山ほど浴びた。
けれども人々に褒め称えられ喜びを覚えるその度に、あの日の絶望の記憶が色褪せながらも脳裏をかすめ、心の中に影を落とす。
どんなに死ぬ物狂いで何かに没頭し、その延長線上で讃えられる結果を残したのだとしても、
本心から満たされるという事はきっともうは無いのだろう。
上層部がディーゼル機関車への運用の移行を決定したのは、そんな思いに達観しつつあった矢先の出来事だった。
局内が末端を中心に混乱を続ける中、移行に伴い不要となった蒸気機関車の譲渡に関する諸手続を担当する事となった。
そして、受け渡し先のひとつだったソド一鉄道の最高責任者である、通称太っちょ局長──トップハムハッ卜卿と出会ったのだ。
「……まさか貴方と、こんな形で再会するだなんて。今でも信じられません」
ミス夕ーパーシバノレは涙を精一杯堪えるような詰まった声でそう言った。
「ワシだって同じだ」
ハッ卜卿もまた、少しトーンの低い声で同調した。
「本土の鉄道会社が何処もディーゼル化を進めている中で、このソド一鉄道だけは蒸気機関車での運用を頑なに貫いている。
何故かと思ったら……貴方が指揮を取る鉄道だった。納得せずにはいられませんでした」
ソド一島を走るソド一鉄道には「太っちょ局長」という、無類の蒸気機関車好きの責任者がいる。
元々はただの鉄道技師だったのだが、そこから局長にまでのし上がれた程の才覚の持ち主で、現在は島の再開発に着手して結果を残している。
そんな話だけは仕事の休憩中の雑談として、前々から聞いた事があった。
しかし、その「太っちょ局長」が、あの日永遠の愛を誓い悲しい別れを遂げた鉄道技師だった事など、想像がつくはずがない。
予期せぬ再会はとても衝撃的なものだった。あれだけふさふさと蓄えられていたはずの頭髪は見る影も無く、
そして何より、そのでっぷりとした腹の肉だ。
もしも本当に彼の事を忘れる事が出来ていたのだったら、確実に見過ごしていた事だろう。
「あれは確か、モンタギューの売買契約を結んだ時の事です。目を見てすぐに、貴方だと解りました。
……機関庫で機関車を整備していたあの時と、全く同じ目をしていましたから」
ミス夕ーパーシバノレのその言葉を耳にすると、ハッ卜卿は、はははっ。と、乾いた笑い声を上げた。
「今じゃあこの頭にこの腹だ。もう昔の面影など全くないものだと思っていたが」
そう言いながら、つるりと輝く額を撫でてみたり、今にもはち切れそうな腹回りを軽く叩いてみたり。
皮肉めいたその面持ちは、どこか悲しげな様にも見て取れる。
しかし、そんなハッ卜卿の道化のような素振りを見て、ミス夕ーパーシバノレはぐっと拳を握ると強い口調でこう言ったのだ。
「貴方は何も変わってなどいない。だから私は……、この島に来たのです」
偶然の再会を期した後、食事も睡眠も、これまで狂ったように没頭し続けた仕事さえも手につかなかった。
色褪せかけていた記憶が次々蘇ってゆくと、この上なく充実し切った現状に、必要も無い迷いが生じてくる。
その頃、局内ではディーゼル化に反対する末端の技師や運転士達が連日、集団辞職やら何やらと激しく衝突を続けていた。
そんな中でふと、恐らく交渉にやって来た技師が忘れて行ったのだろう一枚のチラシを見つける。
どうやら求人案内のようなのだが、そこに記されたキャッチコピーのような一文に、稲妻が落ちたかのような衝撃を覚えたのだ。
──Island of Sodor,The magical land where dreams come true.
もう、一寸の迷いも生じる事は無かった。そして辞表を提出したのはその日の夕方の事だった。
それまで一度たりとも辞意を表にしなかった男の突然の行動に周囲の誰もがひどく驚いていたが、
ディーゼル化が発表されてからというもの、辞意を露わにするのは何も末端の局員だけでは無かった。
その為か、局内の流れに同調したのだろうと推測され、特に深くまで理由を問われることはなかった。
ソド一鉄道を始めとして、現在も尚ソド一島全土で再開発の為の労働力を欲している。
元大西部鉄道の事務局員だったと告げたそれだけで、いともあっさりと採用は決定した。
仮に採用されなかったとしても、ソド一島にはまだ星の数程働き口はある。
そして、それらの仕事の全てに、トップハムハッ卜卿──彼の息がかかっているのだ。
ただ、それだけでよかった。たとえ自分の存在を彼が気付かなかったとしても、忘れてしまっていたとしても、
──貴方と共に生きる。その夢だけはようやく叶える事ができるのだから。
「……ところで、先程ワシは君に褒美を授けよう。と言ったが」
まるで場面が変わったかのように、ハッ卜卿はぱっと明るい大声をあげた。
「実は最近、新しい港を建設中でそれに伴い新しい駅も作らなくてはならんわけで、ワシはとても忙しい。
そこでワシの所有する鉄道のうち、視察に時間を取る高山鉄道を誰かしらに任せたいと思っていたのだが、どうにも適任者がいなくてな。
だからミス夕ーパーシバノレ。君にこの高山鉄道の責任者になってもらいたい」
ミス夕ーパーシバノレはその予想外の言葉に、ほっそりとしたその身を思わず揺らせた。
「えっ……?」
褒美と言うには余りにもスケールの大きいそれに対し、返事どころか言声さえも出ない。
それでもハッ卜卿は、そんなミス夕ーパーシバノレの動揺も気にせず淡々と続ける。
「君の大西部鉄道時代の経験を生かして、是非ともワシが今まで大事にしてきた機関車達の面倒をみてもらいたい
どうだろう。決して悪い話ではないとは思うのだが」
そう言いながらすたすたと歩み寄ってくるハッ卜卿。
ミス夕ーパーシバノレはまだ、戸惑ったままで何も考える事は出来なかった。
「そんな、唐突な…」
すると、ハッ卜卿はにまりと笑みを浮かべ、そしてミス夕ーパーシバノレの目前で立ち止まるとすっと手を差し伸べる。
身体の横でぶらりと手持無沙汰だったミス夕ーパーシバノレの細い指を、ハッ卜卿の太く丸っこい指がおもむろに握り締めた。
そして握り締められた指をハッ卜卿の目前まで持ってゆくと、懐かしげな面持ちでミス夕ーパーシバノレの指を眺め始める。
ハッ卜卿の握力はその見た目以上に強いように思えた。そう、ずっと二人で楽しく過ごせると信じて止まなかったあの頃と同じ強さだ。
思いもよらず、まるで思春期の青年のような胸の高鳴りを覚えてしまった。
「とても綺麗な指をしている。初めて出会った時とまるで変わらない。しかしこの手、もう何十年も機関車に触れていないだろう?」
その指摘は鋭かった。ミス夕ーパーシバノレは思わず、えっ。と反射的に声を上げる。
まさにその通りだった。大西部鉄道に入局後はあの突然の別れへのショックの余り、機関車そのものからも目を逸らし続けていたからだ。
「……相変わらず貴方は鋭い」
参りましたと言わんばかりの声色で、ミス夕ーパーシバノレはそう言い、静かに微笑む。
「君は知っているだろうか。ワシはこの島の事を『どんな夢も叶う魔法の島』と呼んでいるのだが」
握り締めた指先はそのままに、ハッ卜卿は呟くようにそう言った。
「ええ。存じ上げています」
「そうか…。実はこの言葉にはな、『諦めかけていた夢でも信じていればやがて叶う時が訪れる』という願いを込めていたんだ」
諦めかけていた夢。そう聞いて咄嗟に思い浮かんだ、あの夜の誓いの事。
今と同じように手と手を握り、そして、小指と小指を強く絡め合ったのだ。
「……そして夢は本当に叶った。大好きな機関車に囲まれて、そして、君と再び出会う事が出来たのだからな」
ミス夕ーパーシバノレは再び驚きの声を上げた。今度はその驚きの余り、発した本人さえもびっくりする程の大きな声でだ。
「あの時の……、覚えていたんですか?」
「勿論だとも。あの頃のワシの気持ちには何一つ嘘偽りは無い。だからこそ、君にワシの高山鉄道を譲りたいと願ったんだ」
ぎらりと輝く小さな瞳。興奮で上ずる口調。やはり目の前にいるのは、あの日心燃え尽きるまで愛した彼なのだ。
彼はいつまでも彼のままでいてくれた。その現実が、ミス夕ーパーシバノレの強張った頬に微かな緩みを与えてくれる。
「…さあ、どうだろうミス夕ーパーシバノレ」
出会い。唐突の別れ。闇に怯える日々。再会。
それら全てに区切りがついたところで、数十年の時の流れが巻戻る事はもう無い。
局長室の壁に飾られた写真立てに、手帳の脇に、互いの守るべき者達が居る。解っているはずだ。
それでも尚、絶える事無く生き続けたひとつの夢が、今、叶えられようとしているのだ。
幾多の夢を零すことなく受け入れる、この終わりなき魔法の島で。
そしてミス夕ーパーシバノレは小さく口を開いた。
色褪せた夢をこの魔法の島に解き放つ、呪文を唱える為に。
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- 作中の"Island of Sodor,The magical land where dreams come true. "は「ソドーとうのうた」原曲の歌詞より引用しました -- 作者追記? 2010-01-30 (土) 14:46:14
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