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袖の露

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

激団親幹線「バソユウキ」から教主様な復讐鬼と笑顔の暗殺者の話。
捏造設定多めなわりに、色っぽさは少なめです…

危惧した雨は、説教殿まであと少しの所でその勢いを強くした。
「参ったな。」
急激に激しくなった雨足に、怒門はたまらず目に止まった沿道脇の
大樹の下にその身を滑り込ませる。
そしてそんな自分の後ろに、付き従っていた佐治も倣ってきた。
「あ~ぁ、濡れた。」
「大丈夫か?」
「君が女に捕まったせいだ。」
「語弊がある言い方をするな。」
チクチクと佐治が責めてくる、それは先程まで自分達が行っていた
粥の施しに端を発していた。
番新教の広範囲に渡る布教の為、本拠地としている説教殿を離れ、
民の中により入り込んでいく活動は、今日に限っては天気に恵まれなかった。
夕刻近く、雲行きの怪しくなってきた空の様子に早めの切り上げを指示し、
道具を持つペナソ達を先に帰らせる。
そして自分達もという所で、怒門は集っていた村の女達に囲まれ、引き止められた。
髪こそ白く老おうとも、その眼差しは峻烈に体躯は威風堂々。声は深く響き、
言葉は深く身の内に染み込む。
そんな一見異国人めいた男は好奇、崇拝と同時に、欲の対象にもなりうるのだろう。
「語弊じゃない。君が女に言い寄られることが多いのは事実だ。」
それを佐治に真正面から揶揄される。
表向き護衛という立場から怒門に従わざるを得ず、結果雨に巻き込まれた。
それが気に食わなかったのか、珍しくしつこい。
だからそんな佐治に怒門は反論を口にしかけ、しかしそれは寸前の所で
声になる事は無かった。
そうして飲み込んだ言葉は『おまえだって』というものだった。

『おまえだって、声掛けられてたじゃないか』

しかしそうして思い出す光景は、自分とは少し毛色の違ったものばかりで。
大陸にいた時からこの国に渡って以降も、人の多い街中を歩けば、彼はよく
商売女の類に腕を引かれていた。
一見笑みを絶やさぬ柔和な雰囲気がそういうものを呼び寄せるのか。
しかし怒門はここでもう一度自らの考えを思い正す。
いや、引いていたのは女だけではない。かなりな確率で男も……
チラリと視線を横に流す。
そしてあらためて見る、僅かばかり自分より背が低く、自分より遥かに線の細い男。
その肌は、この鳳来国には無い大陸特有の白さときめの細かさで、
長く頬や肩に落ちる黒髪との対比を鮮やかに浮かび上がらせる。
けして女顔ではない。
しかしその常に絶やさぬ柔らかい笑みの中に、時折背筋に冷気が落ちるような
艶と凄みを感じ取ってしまうのは、おそらく自分が彼の本性を知っているからだろう。
大陸随一の大国華田の国王を暗殺し、捕らえるのに千の兵士の犠牲を必要とした……
そんな稀代の暗殺者が自分の方を不意に振り返ってくる。
その唇が動く。
「なに?僕の顔に何かついてるかい?」
真正面から問われ、怒門はウッと息を呑む。
それでもなんとか取り繕うように「いや…」とだけ呟けば、それに
佐治はもはや言及してくることはなく、ただその代わり2、3度軽く周囲をうかがうと
怒門に向け、座らないかいと告げてきた。
そのまま一人スッと木の根元に腰を下ろしてしまう。
それに怒門も追うように従った。
大きく枝を張る木の根元は激しい雨にも濡れることなく、地面に生えた短な草の
おかげで、教主の白い服を汚す心配も無さそうだった。
それでも長くたっぷりと風を孕む袖を畳むようにまとめようとする、そんな怒門の
肩にこの時、コトリと触れてくる感触があった。

佐治の背だった。
それは驚く怒門を尻目に、凭れかかるように体重を乗せてきて、しかしおさまりが
悪いのか何度か身動ぎを繰り返すと、その果て崩れそのままズルズルとその頭を
座る怒門の膝の上まで落としてきた。
「…佐治?どうした?!」
いきなり具合でも悪くなったのかと、そう焦り怒門が慌てて声をかける。
しかしこの時返された佐治の返事は、けしてそんな切羽詰まったものではなかった。
「雨が冷たくて疲れた。やむまで少し寝るよ。」
「はぁ?」
「とりあえず周囲に殺気は無い。でも雑魚が襲ってきたら君が殺しておいてくれ。」
そう言うと佐治はまるで暖でも取ろうとするかのように、幾度か額を触れた膝に
擦りつけると、そのまま怒門に背を向けるような形で動かなくなってしまった。
こんな野外で無防備な。
そう思いかけ、しかしそれは違うのかと怒門はすぐに思い直す。
無防備なのではない。逆に過敏すぎるのだ。
常時周囲に気を張り、自らに向けられる殺気を感じ取ろうとしている。
そしてそれはあまりに緻密に高感度すぎて、むしろ大雑把な程度の低いものは
引っかからない。だから、
『そういう輩の相手は君に任せるよ』
そんな事を嘯いて、彼はこの一年の間、自分にその人を殺す技術を教え込んだ。
何一つはっきりと読み取れない、笑顔の奥に潜むその真意。
自分は彼の何も知らない。

それはその名前を筆頭に。

何度も聞いた。でもその度にはぐらかされた。
ただそんな実りのないやり取りの中にも微かに拾える事情は多少は有り、
そこから推し量る彼の生い立ち。それは、
親などいない、と彼は言った。

彼の一族の女達は大概は暗殺の報酬として依頼主から与えられたもので、
情も無く子を孕み、生まれればすぐさま引き離され、その子供は暗殺者として
育てられる過程で見目が良くなれば、更に重宝されたと言った。
『殺し方にも色々あるけど、人が基本的に一番無防備になるのは閨の中だからね。
それは男も女も』
言われた意味を理解して絶句した自分を面白そうに眺めやりながら、
佐治はあの時もふわふわと笑った。
血を継ぎ、自らに与えられたものすべてを呪うように笑い続けた。
それが怒門には苦しかった。思わず目をそらしてしまいたくなるほどに。
けれどそうする事は彼を友とする自分自身への裏切りになってしまいそうで、
だから怒門は歯を食い縛った。
そしてそれでも、と声を発した。
『それでも、母親というのは子の名を呼ぶものだ』
腹の中にいる十月十日。
そこに宿る命に何の感慨も抱かぬ者は人ではない。
甘い男だと、笑われる覚悟は出来ていた。それでも言わずにはいられなかった。
はたして彼は一瞬の沈黙の後―――やはり笑った。
しかしそれは怒門が予期していたものとは少し様子が違っていた。
『十月十日か』
ポツリと佐治は呟き、それはすぐにクスクスとした楽しげな笑みになる。そして彼は続けた。
『君が僕の所に辿り着くには、もう少し時間がかかったね』
彼が言っているのが、あの牢獄の島の地下道の事だと理解するのには少しだけ
時間がかかった。
それ故に声も無い自分に、佐治は言った。
『ならやはり、僕の名前は君が初めて呼んだ佐治でいい』
それはまるで生まれ落ち、初めて外の光を目にした雛のすり込みのように。

僕は君の佐治でいい―――

繰り返された言葉。
それは新たな言祝ぎか、もしくは重なる呪か、あの時の怒門にはもう何も
わからなくなっていた。

頬に雫が触れた。
その冷たい感触に、怒門はハッと目を開ける。
しまった、自分まで眠ってしまっていた。
そう思い慌てて周囲に目を走らせるが、辺りは先程より少し日を落とした程度で
人影もなく静まりかえり、それに怒門はホッと胸を撫で下ろした。
そして再度ゆっくりと視線を下ろす。
その先で佐治はまだ自分の膝の上で、眠っているようだった。
少しだけ身を折ってその横顔を覗き込む。
そこにはさすがに笑みは浮かんでいなかった。
それを怒門はこの方がいいと思う。
彼の笑顔は時に、何かが欠落した子供のように胸に切り込む痛みをもたらすから、
今が眠りで満ちているのならば、このままでいい。
思う頭上に鳥の羽ばたきを怒門は聞く。
自分達と同様に雨宿りをしていた鳥達が飛ぼうとしているのか。
そして上げた視線が見つめた空の先には、淡く朱く染まる雲の切れ間があった。
雨はもうすぐやむか。
けれど……
頭上で再び、鳥が飛び立った枝が揺れた。
雫が落ちてくる。
彼の上にも降り注ぐ、それを怒門は広げた自らの白い着物の袖で咄嗟に防いだ。
濡れぬように、冷えぬように、もう少しの間彼が目を覚まさぬように……
庇う、自分はまるで彼の親鳥のようだった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

結論、教主様視点は難しい。でも教主様衣装萌えw


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