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移り香

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

激団親幹線「バソユウキ」から殺し屋→復讐鬼。今回左大臣×殺し屋も有。
エロはありません。

「戻るのかい?」
「ええ、待っている男がいるので。」
床に脱ぎ捨ててあった着物を拾い上げて羽織り、襟元を正しながら口にした言葉。
それに背後の男は笑ったようだった。
薄い絹の天蓋を払い、寝台の奥から現れる。
自分とは対称的に、着崩れたままの夜着に貴人特有の傲岸不遜さを滲ませる。
左大臣、京鐘籍春。
自分よりも遥かに年上の男に、佐治は一度だけその柔らかく細めた視線を流した。
先の大王亡き後、その后であった自分の娘をその座に着かせ、それと時を
ほぼ同じくして、自らの政敵であった希一族を宮中から追い落とし
実質的にこの国の実権を握った男。
一見柔和な表情の仮面の下に、慇懃にも人の悪い笑みを湛える男が背後に
近づいてくる気配を感じる。
そして不意に伸ばされた戯れな腕。
それを佐治は避けなかった。
「先程まで褥を共にしていた相手に告げるには、ひどくつれない台詞だね。」
後ろから抱きすくめるように回した両腕で肩を引き寄せ、
耳元に笑みを含んだ囁きを落としてくる。
そんな籍春に、佐治の唇からもたまらず苦笑に近い笑みが零れた。
「つれないも何も、事実ですから。」
そう言う間にも身繕いをする手が止まる事はなく、台座の上に置かれていた
刀にも手を伸ばす。
するとそれに自然と籍春の腕は解かれた。
本能的に危険を察する。
そのくせ表面的にはそんな事はおくびにも出さないようふるまう。
その自尊心の高さを佐治は面白いと思った。
思ったから、誘いに乗ったのだ。

数日前、宮中で行われた教義問答を終えた後、示唆された新しい学問頭の位を
辞退した事で言い争いになっていた怒門とペナソ。
そんな2人を少し距離を置いた場所から眺めていた自分に、あの時彼は声を掛けてきた。
『君はあの教主殿の護衛かい?』
教義問答に招かれた豪族達の面前で、大王自ら先王暗殺の嫌疑をかけてきた自分に、
まるでそんな事など気にも留めていないかのように飄々と語りかけてくる。
温和に悠然と。それでいてその声と瞳の奥に底暗い闇を秘めて。
そして彼は続けた。
『君達の番新教について聞きたい事があるんだ。よければまた日を改めて
一度私の屋敷を訪ねてはくれないか』
聞きたいのはもっと他の事だろうと言うことは透けて見えていた。
それでもあの時の自分には、彼とまた同様に、その男の中に探りたいものがあった。
だから、
『いいですよ』
軽やかに笑んでそう告げる。
彼の申し出は、自分にとっても渡りに船だった。

「待っている男か。それはやはりあの教主なのだろうな。少し妬けるね。」
心にもない事をすべらかに舌に乗せながら、ゆっくりと自分の前に
回り込んできた籍春が、再び手だけを伸ばしてくる。
力仕事などとは無縁な傷一つない指先で、肩に落ちる黒髪を絡めとる。
それに佐治はわざとらしくも媚を含んだ笑みで答えた。
「彼と僕はそんな関係ではないですよ」
どれだけ怒りと怨嗟に塗れても、芯の部分がどこまでも真っ当なあの男の
心に巣くうのは、今も昔もただ一人の女だけだ。
大王・美琴。
かつての許嫁であり、今は憎むべき国の長となった女。
騙され囚われた10年の間、その無実と生を信じ切れず他の男に嫁いだ女を
何故いまだに引きずり続けるのか。
その未練が佐治にはただ純粋に不思議だった。
わからないから、知りたいと思った。
だから、
黒い瞳を上げる。
目の前の男を微笑みながら見つめる。
その女の父親。
同じ血を引く者。
ならば、肌でも合わせれば何かわかるのかと思った。
暗殺を生業にする一族に生まれ、親も知らず名も与えられず、幼き頃から
ただそれのみと仕込まれ続けた人殺しの業の中には房中のものもあった。
けれど、結果としてそれは徒労に終わった。
結局は何もわからなかった。
無知ゆえに真白い女とは陰陽をなすように、謀事に溺れ漆黒の悦楽を知る男。
血など何のあてにもならない。
あれはやはりただの生温い赤い水だ。
ならば……この辺りがそろそろ潮時か。
「そんな関係ではないと言うのなら、あの男から離れて私のところに来る気はないかい?
噂に聞けば君が先王暗殺の嫌疑を掛けられたのは、宮中で美琴の護衛の任にあった刀威と
やりあい、軽くあしらって見せたからだとか。
それほどの腕があるのならば、私は君を子飼いの臣にするだけではない、
ゆくゆくはこの国の武士頭にもしてやれるよ。」
指に絡めた黒髪を引き、この時籍春はグッと顔を近づけてくる。
力と並行させる権力者の甘言。
しかしそれは自分にとってはあまりに的が外れすぎていて、佐治はおかしくなる。
抱える闇。身にまとう策謀。
もしかしたら誰より自分と似ているのかもしれないと思った男は、近づけば
結局はやはり別物だった。だから、
「御冗談を。僕はそんな器ではありませんよ。」
柔らかな声の中にもはっきりとした拒絶を含ませて笑む唇に、「可愛げのない」
と苦笑を滲ませる唇が重ねられる。
それを佐治は冷たいと思った。
冷たいから、嫌だと思った。

あぁ、やはりこの男はいらない---

唱える心と繋がるように上げられた手が、自分を抱き寄せる男の胸に当てられる。
広げた手の平に感じる脈打つ鼓動。
確かめる、彼の心の臓はそこにあった。

月の光の下を一人都の外れまで歩く。
そしてたどり着いた番新教の宿房の門前、そこにある階段に何やら座り込む人影を
見つけた時、佐治の足は自然とその歩みを止めていた。
思わず声もなく前方を見つめる。
するとその気配に気がついたのか、その人影が不意にゆっくりと顔を上げてきた。
その口が開く。
「佐治。」
その声は怒門のものだった。
こんな時間に何をしているのか。
しかしそんな佐治の問い掛けは、口に出す前に逆に彼からの詰問に潰された。
「いったいどこに行っていたんだっ、こんな時間まで一人で!」
一瞬呆気に取られる。
それは彼の声に多分に自分を心配する色が滲んでいたように思えたからだった。
けれどそんな考えを佐治はすぐに胸の内でかき消す。
そんなはずはない。彼はただ、自分を疑っているだけだ。
掛けられた先の大王暗殺の嫌疑。かつての仲間だった者達との邂逅。
『彼は私の友人だ』
そう庇う言葉の裏側で、彼の心に徐々に疑心の芽が生まれ始めている事に
自分は気付いている。
早めなければならないかもしれない、計画を。
そう思い、心の箍を締め直し、佐治は口を開いた。
「どこにってただの夜の散歩だよ。」
月の下、朗らかに笑いながら再び歩みを進める。
「君こそどうしたんだい?そんな所に座り込んで。夜風も冷たくなってきた。
風邪をひいてしまうよ。」
「おっ、俺は今度の計画についての相談をしようとお前の部屋にいったら
もぬけの殻だったから、だからっ」
「こんな所で待っててくれたのかい?それは悪かったね。」
悪びれる風もなくそう言って、佐治は軽やかな足取りで階段の半ばに立ち上がる
怒門の脇をすり抜けようとする。
二人の間に微かな風が起こる。
その瞬間、行き過ぎようとした自分の腕を怒門が不意に掴んできた。
それに佐治はゆっくりと振り返る。そして、
「なに?」
そう静かに問いかければ、怒門は一瞬自分自身の行動に驚いたような顔をして
ハッとその手を離してきた。
「あっ、いや、すまない。ただ……一瞬おまえから知らない匂いがして…」
「匂い?」
言われ、咄嗟に袖を返し鼻を近づけるが、自分ではよくわからない。
それでもそれは先程までいたあの部屋の、男からの移り香かもしれないと佐治は思った。
その間にも、自分でも何を慌てているのかわからないのだろう怒門の言葉が続いてゆく。
「いや、匂いがしたから何だという話だな。悪い、多分俺の気のせいだ。」
支離滅裂な、そんな怒門の様子にこの時佐治はなんだか可笑しさを覚える。
だから階段の上段に掛けていた足の踵を返し、体の向きを変え、佐治はこの時
怒門の方へ向き直っていた。
そしてそのまま、下段にいる怒門の肩に身を折るようにしてその額を埋めてやる。
首筋近く擦りつけるように。
それに怒門が更に驚いたように名を呼んでくる。
けれどそれに佐治は答えなかった。
彼の着物は夜気の中シンと冷えていた。
それでもその内にある肌の熱さは衣越しにも伝わってくるように思えた。
それが心地良かった。
だから、
「君からは、土の匂いがするね。」
代わりポツリと呟いた、そんな自分の言葉に怒門の揺れが止まる。
「佐治?」
「僕はこっちの方が好きだ。」

君の方がいい---

それは比較するのも愚かしいくらいに。
そしてそんな突然の自分の言葉に怒門は戸惑いながらも、この時そんなぎこちない
佐治からの接触を無理に振り払おうとはしなかった。
だから佐治は、心の内で尚も思い続けてしまう。

君だけがいればいい---

おそらく声に出して形にする事は一生無いだろう、
それはまるで土牢という閨で交わす睦言のようだった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

実は舞台をまだ一度しか見ておらず、記憶をフル動員させても時系列がかなり
あやふやなので、人称、番頭に引き続き、大間違いをやらかしてる恐怖満々です…
でも真っ黒左大臣好きだw早く逢坂公演見たい。次こそちゃんと戯曲本買ってきます。

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