イルミネイト
更新日: 2011-04-25 (月) 15:02:56
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| 木目木奉のラムと缶モナ‥‥。
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| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄| 未満かモナ。
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| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
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俺はずっと、彼は下戸なんだと思っていた。
なぜなら彼は、俺が同席しているとき、一度も酒を飲んだことがなかったからだ。
◇
そこは暗い、まるで深海に沈められたような、とあるバーの一隅だった。まだ開店したばかりの新しい店だということだが、彼は何度か使ったことがあるらしく、ウェイトレスが彼に向ける微笑みにも心がこもっていた。
青と白の発光ダイオードが、俺の頼んだドリンクの表面に、さざ波の幻影を呼び起こす。
「ギムレットを」
彼がそう注文したので、俺はちょっと驚いた。
「大河内さんって、お酒飲むんですか?!」
「悪いか?」
「いいえ。あなたは飲めない人だと思ってただけですよ。俺、初めてです。大河内さんがお酒を注文するのを見るのは」
「・・・ああ、そうか。あの頃は」
そこでプツリと言葉を切って、彼は一瞬、呼吸を止めた。いかにも堅物らしい、黒縁眼鏡のレンズの奥で、遠い昔を懐かしむように、ひっそりと目を伏せた。
「あの頃は、・・・飲まなかったからな、人前では」
「その意味は?」
「意味なんかない。いいだろう、一杯くらい飲んでも」
「だから、なにも悪いとは言ってませんよ」
ちょうどそこへ彼の頼んだギムレットが運ばれてきた。俺は大げさに乾杯がしたかったのに、そんな隙を与えてくれるほど甘い彼ではなく、グラスの縁いっぱいまで注がれた酒にさっさと唇をつけてしまった。
◇
ギムレットは、強く作ればそれなりに効くカクテルだ。
俺の与太話に黙って耳を傾けながら少しずつそれをすすっていた彼は、しかし一杯を干したくらいでは顔色ひとつ変える気配がなかった。
細いステムに添えられた、上品な指先のかたち。終電を過ぎたようなこんな時間になっても、きっちりとネクタイを締めた襟元にはいささかの乱れも見られない。
俺は、それがなんとなく悔しかった。
昔、同じ部署で働いていたときのこの人は、俺の前で一滴の酒も飲もうとしなかった。
それから10年経って、やっとカクテル一杯だけ飲むようになった。
もう10年待ったら、ワインの一本も空けるようになるんだろうか?
さらに10年待ったら、・・・そのころにはもう、この人は定年で、引退だ。
俺には焦る理由があると思う。
できるだけ多く、この人の名前を堂々と呼ぶ機会を捕まえる権利があると思う。
「大河内さん、お帰りはタクシーですか?」
「ああ、そのつもりだ」
「俺が送りますよ。車持ってきてるんです。大河内さんは、いまはどちらにお住まいでしたっけ」
「・・・飲酒運転は許さん」
「俺は飲んでませんから。実はこれ、グレープジュースでしてね」
そう言われた瞬間の、彼の顔ときたら!
苦虫をかみつぶした、というのは、まさにこんな表情のことを言うんだろう。
俺は思わずにんまりと笑ってしまい、バナナが一瞬で凍りつきそうなくらい冷たい目でにらみつけられてしまった。
「そんなに気を悪くしないでください、大河内さん。悪気はなかったんですよ。あなたは飲まない人だと思いこんでいたもので、
俺もそのつもりで車に乗ってきちゃっただけなんです」
「私はタクシーでいい」
「もったいないでしょう、そんなの。それに、俺、新しい車買ったんです。ぜひ大河内さんにも見ていただきたいですね。
悪趣味な見せびらかしだと思われるかも知れませんけど、これが、ちょおっといい車なんですよ。GT-Rの特別仕様車なんです。
この時間だったら道もすいてますし・・・」
ずい、と身を乗り出すようにして熱心に言い募ると、彼は不審そうにぎゅっと唇を引き結んで、それでもなんとか首を縦に振ってくれた。
◇
俺は、彼を家まで送る、と言った。でも道順までは確認しなかった。彼のほうでも聞かなかった。
それは俺を信用しているからか、それとも面倒だったからか。
どちらでもいい、ほかの答えがないならば。
わざわざ乗った深夜の首都高を、オパールブラックのGT/Rは風のように走った。
・・・ただし、法定速度を遵守して。
俺は大いに不満だったが、ゆっくり走ればそれだけ長く走っていられる。
空調をわざとゆるく設定しておいたので、ラフなシャツ一枚の俺と違って、スーツを着込んだままの彼には少々暑かったに違いない。横目で見ると、こめかみにうっすらと汗が滲んでいた。もちろん、そんなことで泣き言を言う彼ではない。
半秒おきに、光と影とがその横顔の上を通り過ぎる。温度のない純白のLEDに照らされた、端正な横顔。彼はまっすぐに前を向いていて、こんな時間なのに少しも眠そうな顔もしない。
どこまでも謹厳実直な、警察官僚の顔をして、まだ前を見ている。
「・・・暑くないですか、大河内さん?」
「大丈夫だ」
「もう一杯、どこかで飲みます?」
「いや、もういい」
「さっきのこと、怒ってます? 俺だって大河内さんがお酒飲む人だってわかってれば、飲んでましたよ。いっそこれから、やり直しません?」
「別に、私は気にしていない。おまえも気にするな」
とりつく島もないとは、このことだ。
俺は内心、打ちひしがれた思いで、ぐっとアクセルを踏み込んだ。
そのとき、不意に彼が俺の顔を見て、口を開いた。
俺はまたスピードのことを注意されるのかと思ってばかりいて、最初の一言をうっかり聞き逃してしまった。
驚いて車を路肩に寄せたのは、彼が微笑んでいることに気づいたからだ。
「・・・・・・よ、神.部。私ももう10年前の私ではないんだ」
その後、どんなに懇願しても、彼はそのときなんて言ったのか、絶対に教えてくれなかった。
◇ おしまい ◇
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| | □ STOP. | |
| | | | ∧_∧ お目汚しですた。間違いあったらすんません
| | | | ピッ (・∀・ )
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