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10月8日

・田ロシ告正×ロ欠越満、相変わらずナマモノ注意
・前回反応くださった方ありがとうこざいます。
・タグチさんの誕生日に合わせて投下しようと思ってたのに、タイミング逃してとんまな感じに・Q係が終わっても私の熱は冷めません、ではどうぞー
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

そのとき玄関のチャイムは、チャイムとしての役割を果たせなかった風だった。何故ならばそれがピンポーン、と高らかに鳴ったのとほぼ同時に、ガチャ、とドアの開く音がしたからだ。
家の主は頭を抱えた。あらかじめ鍵をかけておかなかった自分も悪いのだが、ひとの家に勝手に上がり込もうとする不届き者のことまでは想定していなかった。
明かりの灯った部屋をわざわざ狙う間抜けな泥棒はいないだろう。ともすれば、こんなことを平気でする奴は他に一人しか知らない。
どすどすどす、と無遠慮な足音が近づく。やがて現れた見慣れた顔は――そして予想通りの顔は、主の心境など顧みず満面の笑みを浮かべて「こんばんは!」と言ったのだ。
「…何なのオマエ」
「うっわー!つれないなァ、久々に会えたのに」
「いやいやつれないっつーか、こんな遅くに連絡も入れずに突然来てさ、非常識じゃん」
「まあそうですけど、どうせならこうサプライズがあったほうが楽しいじゃないですか」
「何なのお前」
「ねえ付記越さん、今日何の日か知ってます?」
質問の返事は更に突拍子もない質問。家主・付記越は戸惑った。
「え…知らない」
「ははは!やっぱり。」
「え、何?」
「今日僕、誕生日なんです」
「…」
あああ。
付記越は胸の中で呻いた。途端にばつが悪くなって、目線が落ちる。
「ごめん、…知らなかった」
元来、他人の誕生日だとかを気にかける性格ではないのだ。最愛の娘や別れた元妻のぐらいは流石に覚えているが。
「いいですよ別に。そうだろうと思いました」
付記越さんらしいですと客人は笑って言った。変に拗ねた言い方じゃなく本当に気にしていないようで、付記越は内心安堵する。
「それより」
ずい、と突き出された左手には白い箱。
「ケーキ、買ってきたんです。食べませんか?」

なるほど目的はこれか。
「…もう歯磨いちゃったんだけど」
「また磨けば良いじゃないですか!よし食べよう」
どうやら付記越に選択権はないらしい。
だがこの強引で呑気な客人・多口は、付記越が本音をしまい込みがちな気性であることぐらいとっくに分かった上でそう振る舞っていた。そして付記越もまた、多口のそうした寛大さに救われていることを痛いほど分かっていながら、そう振る舞っているのだ。
二人分の皿とフォーク、それにコーヒーを用意する。カチャカチャと陶器が触れ合う音に乗って、多口はとりとめのない話をはじめる。今やってる舞台がどうとか、ここ数日の天気がどうとか。
付記越さんは最近どうですか、と聞くから「しばらくお前と会わなかったから元気だよ」と返した。
「何ですかそれー」
多口はケタケタ笑う。打たれ強いのかはたまたただのドMか。きっと後者だろうな、と付記越は考える。素直になれない自分自身を呪いながら。
いつだってアプローチは多口のほうからだった。告白も逢瀬の取り付けもキスもその先も。付記越のほうから求めたことは一度もない。
与えてばかりで貰えないなんてあんまり不公平だろうに。どうして彼は俺といるんだろう?時折、ふと思うのだった。
インスタントコーヒーに熱湯を注げば、良い香りが部屋中に広がる。こんな時間にコーヒー飲んだら眠れなくなるかな、と付記越は今更になって気づくがもう遅かった。まあいいか。
自分のはそのまま、彼のはミルクと砂糖を入れてテーブルへ運ぶ。
白い箱を開けると綺麗なショートケーキが二切れ、整然と収まっていた。
「ハッピバースデー、とか、歌う?」
「いいですよそんな、なんか恥ずかしいし」
「、そっか」

自分の誕生日に自分でケーキ買ってくる時点で十分恥ずかしいよ、と言おうとして止めた。その言葉は墓穴を掘る可能性大だと判断したからだ。おとなしく皿にケーキを盛りつけ、いただきますを言って一口。
「…あ、美味い」
自然に感想がこぼれた。
「でしょ?評判の店なんです」
多口は笑った。
「付記越さんと食べたいな、と思って」
どうして。
どうしてこいつは俺なんかのためにそんな表情ができるんだろう。そう思わずにはいられなかった。苦しい。俺は何にもしないのに、どうしてそんなに愛してくれるの。
「…お前はやさしいね」
「なんですか急に」
「…何が欲しい?誕生日プレゼント」
「えー。じゃあ付記越さんが欲しい」
「…バーカ」
「照れちゃって」
「うっせ」
素直になれたら。
今日こうして来てくれたのも、真っ直ぐに俺を求めてくれるのも、そして何十年前かの今日(彼がいくつになったのかすら、そういえば俺は知らない)、この世に生まれてきてくれたことも本当は嬉しいんだよと。伝えることができたら。
ケーキの最後のかけらを飲み込むと、付記越はひとつの覚悟を決めた。
「多口」
「はい?」

ほんの数秒。触れるだけの口づけをした。甘くてしょうがないのは生クリームのせいだ。
「…おめでとう」
ぽつりと呟いたのと同時にどうしようもない恥ずかしさが押し寄せて、付記越は背を向ける。
初めて体験する一連の流れに多口は呆然としていたが、たった今起こったことをやっと理解すると、じわじわ込み上げてくる幸せを感じて顔をにやつかせた。
更に付記越の耳が真っ赤に染まっているのを見つけてしまうと、いよいよにやつきは抑え切れなくなってそのまま後ろから彼を抱きしめた。

「ありがとうこざいます」
「…」
「付記越さん」
耳元で、囁く。
「愛してます」
「…!」
俺もだよ、なんて口には出さないが。回された両腕をぎゅっと握り返した。それがせいいっぱいの気持ち。
「付記越さん、明日の予定は?」
「、午後から仕事」
「奇遇ですね、僕も午後からです」
だから。
「…してもいいですか」
「……好きにしろよ」
「そうします」
「…コーヒー」
「え?」
「飲んじゃったから。このまま寝れないだろ」
「…そうですね」
多口はくすりと笑った。貴方のそういう可愛くないところが可愛くて仕方ないんですよ、と、ベッドの中で伝えようと思いながら。

不備がこざいましたらすみません。
お付き合いありがとうこざいました!
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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