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流行り神 霧崎×純也

流行り神 義兄×主人公です。
某電波BADENDがあまりにもアレだったので思わず書いたでござるの巻|

>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

truth end

 爽やかな、秋晴れの一日だった。昨日までの長雨のおかげで微細な埃が地表に落ちた空気は澄み、暮れてゆく夕陽を一層鮮やかなものにしている。
霧崎水明は最後の仕事を終え帰宅の準備をすると、ろくに掃除もしない黒ずんだブラインドをわずかに開け、赤い夕陽に目を細めた。静かだった。
その沈黙を楽しむように、ことさらゆっくり煙草をふかす。美味いと思ったことなど一度もない煙草をフィルターまできっちり吸い終えると、
吸殻が山になっている灰皿に丁寧に吸い口を押しつぶしてから外に出た。

 簡単に食材を買い込んでから自分のマンションに帰宅する。ドアノブをひねると室内に上がりこんだ。締め切った室内の空気はわずかに淀んでいる。
リビングに求める姿はなかった。買ってきたものを冷蔵庫などに移した後、窓を開け放した。日が暮れて冷え込んだ風がカーテンをわずかに揺らし、
ゆるりと室内に流れ込んでくる。リビングでなかったらどこなのか。霧崎はふと思いついて寝室のドアを開けた。自分のベッドが人の形に隆起している。
静かな寝息を立てているその姿に思わず笑みを漏らして、ベッドの端に座りこんだ。そのまま体重をかけないようにそっと覆いかぶさる。
頬や額に何度か唇を押しあてるとその瞼が震え、ゆっくり瞳が現れた。霧崎はもう一度額に口づけを落とす。
「ただいま、純也」

 義弟である風見純也の心が壊れて半年になろうとしている。薬物療法などを試したが症状は改善されていない。
もともと、繊細で心優しい性格をしていた彼が、奇怪かつ凄惨な事件に立て続けに遭遇し解決に奔走していたのだ。
絶え間ない緊張や恐怖に徐々に心が疲弊していったとしても不思議ではなかった。伸びきった糸のように極限までピンと張りつめていた彼の心は、
限界に達していたのだろう。些細なことで簡単に砕けてしまった。いや、きっと兆候はあったのだろう。
しかし霧崎を含め、周囲にいる人間は誰も気付くことができなかった。大きな体を折り曲げて慟哭した小暮。唇を噛みしめて俯いていた賀茂泉。
子供のように声をあげて泣きじゃくっていた間宮。病院の待合室で病状を伝えられた三者三様の嘆きはまだ忘れられない。
そうだ、あの時、ふと顔を上げた小暮が自分を見てみるみる顔を歪めたのだった、と霧崎は思い出して苦笑した。
「せ、先生!」
 気がつけば、拳を握りしめすぎて爪が手の平に食い込み、薄緑のリノリウムの床に血の滴を垂らしていたのだった。

「純也、すぐに食事を作るからもう起きているんだよ、分ったね」
 子供に対するように優しく言い聞かせると、純也はぼんやり霧崎の顔を見つめてからわずかに笑い、ベッドからゆっくり起き上がった。
最近はとみに外界に対する感度が鈍ってきている。そのうち自分の声も届かなくなるかもしれない。少し前まではちゃんと帰宅時に玄関まで出迎えていたのに。
 手早く夕食を作りテーブルに純也を座らせると、純也は大人しく口に運び始めた。こぼすような無作法はしない。こうなってまでも弟は手がかからない。
「今日はお前の好物だ、美味いか?」
 声を時折かけてやると、純也はふわりと笑う。その笑みに笑い返しながら霧崎は自分も食物を口に運んだ。

 長年大学に勤めていれば人目に付かないサボリ場所の一つや二つ、心得ているものだが、友人である式部人見には
霧崎のささやかな隠れ場所などお見通しだったらしい。よく晴れた晴天の午後、講義もなく時間も空いた霧崎がめったに人が訪れない
中庭の奥まったベンチで煙草をふかしていると、視界にライダーブーツのつま先が現れたので、霧崎は物憂げに眼の前の人物を見上げたのだった。
隙のない美しい怜悧な女だ。
「とんだ象牙の塔の住人ね」
「俺は俗人さ。講義の合間のささやかな一服ぐらいしか楽しみがないときてる」
 そう言いながら相変わらず不味そうに煙草をふかすので式部はその形のよい眉をひそめた。
「話す時間はありそうね」
「次の講義までなら」
 しばらく沈黙が続いた。どこか遠くから学生の笑い声が風に乗って届く。霧崎達の周囲の植物を風がさわりと揺らしていった。
「純也くんのことだけど」
「その話は終わったはずだ」
「貴方が勝手に話を打ち切っただけでしょう!」
 美人が怒る様は迫力があるが霧崎は一向に動じなかった。ことさらゆっくりと紫煙を吸い込む。

「前にも言ったけど、もう一度病院に戻すべきだわ。今の状態は貴方のマンションに閉じ込めているようなものでしょう。
外界からの刺激が全くない状態が純也くんの病気にいい影響を及ぼすとは思えない。せん妄がかえって進行してしまう危険さえあるのよ。
それでいいの? こんな生活でいいと思ってるの? ちゃんともう一度専門の治療を受けさせるべきだわ。私も色々調べたのよ。
専門家にも何人か当ってみたわ。純也くんは治るかもしれない。だから、」
「それで薬漬けにしてチューブを何本もつないで身動きとれないようにベッドに縛り付けるのか? 
沢山だよ。もう誰にも純也は触れさせん。あいつは暴れたりしたことなんか一度もなかった。俺のマンションでも大人しいもんだ。
ガス栓を悪戯もしないし、ナイフやフォークを持たせても何もしない。自傷行為もない。なのに抑制帯で身体を無理やり拘束していた。
あいつが苦しそうにしていてもお構いなしにな。もうこの話はするな、式部。あいつは十分苦しんだ。これ以上傷つけさせはしない」
 式部の話を切って捨てると霧崎は黙り込んだ。式部は口を引き結び俯いている。その顔が昂然と上げられた。まっすぐ霧崎の瞳を見つめ返す。
「それだけなの?」
「何?」
「自分のマンションに閉じ込める理由はそれだけなの?」
「……」
 すっと目を細めた霧崎に式部はなおためらっていたが、やがて意を決したように声を発した。
「今の貴方は純也くんが『こうなって』喜んでいるように見えるのよ」
「……ほう?」

「私が見舞いに行ったとき、ご両親もお見舞いに見えられてた。でも純也くんは私ばかりかご両親にさえ怯えるばかりだった。
なのに後からやってきた貴方には安堵してしがみ付いたのよ。貴方が宥めるように純也くんを抱きしめてやっと純也くんは怯えなくなった。
ショックを受けているご両親には見えてなかったけど私からは見えていた。貴方はその時、笑っていたわ」
 顔色一つ変えずに霧崎は新しい煙草に火を付けた。新たに立ち上る紫煙は風にちぎれて霧散する。
「とても満たされた、満足げな笑みだった。その後で純也くんを引き取りたいとご両親に申し出たと聞いたわ。
私はそれは聞いて何だかゾッとしたのよ。狂気が伝染していると思ったわ」
 純也の父親に話を持ちかけたとき、あの男は意外にもあっさりと頷いた。面倒をかけるならと生活資金の援助までしてくれたのだ。
その額の多さに驚いたが、実質、2人で暮らしていく分にはもはや金銭の悩みは解決したも同然だった。
息子を頼むと頭を下げた父親の、格段に白くなった頭を見つめていてもそれほどの感慨は湧かなかった。
終始息子を抑圧し無表情だったあの男も、やはり父親ではあったのかと思いはしたが。

 霧崎は溜息のように深く息を吐き、煙草の立ち上る煙に目を落とした。その立ち上る様を見つめながら声に出す。
「……恋人が生きているかもしれないと知った時お前はどうした?」
「え?」
「いてもたってもいられずに無我夢中であの島に向かったんだろう?」
 ひとり言のように呟かれた言葉に式部は黙り込んだ。
「諦めていたんだ。俺もな。もうずいぶん長い間、諦めていたんだ」
「……」
 霧崎はうっすらと微笑んだ。
「でも、」

 冷たい風が二人の間を吹き抜けた。ざっと梢がざわめく。
「手に入るかもしれないと思ったら、お前だって死にもの狂いにもなるだろう? お前が島に、渡ったように」
「貴方……」
「もう恐ろしい目には遭わない。悲惨なものも見なくていい。おぞましいものも、醜悪なものも、全て」
 歌うように霧崎は声に出す。
「俺以外のモノに心を奪われることもない。焼けつくような嫉妬をすることもない。……物分りのいい兄貴の仮面を被らなくてもすむ」
 クスリと笑う顔に式部は身を凍らせた。
「仮面の下はもうずいぶん昔からただの化け物だったんだがな。……今の純也はそんな俺でも手を差し伸べて笑ってくれるよ。
本当に、こうなってもいい子だ。とても」
 言葉が途切れた。ゆっくり霧崎が立ち上がる。式部はわずかに後退ってしまった。
「さて、そろそろ講義の時間だ。俺は行かせてもらうとしよう」
 何も話せない式部に後ろ手で手を振り、霧崎はぶらぶらと歩きだした。
「そうだ」

 なすすべもなく見送っていた式部を振り返り、霧崎はニヤリと笑った。悪戯を思いついた子供のような顔だ。
「せん妄がどうとか言っていたが、まだしっかりしているところもあるぞ、純也は」
「え?」
「俺の名を呼んで俺の目を見つめながら、俺に腕を伸ばす。――ベッドの中ではな」
「……っ!!」
 ワンテンポ遅れて顔を赤らめた式部を、もう振り返ることもしなかった。もはやどうでもいいことだ。

 特に急ぎもせずに霧崎は歩く。本当は講義などなかったのだ。だから当てもなくただ歩き続けた。
気分がよかった。本当にすがすがしい気分だ。こんなに気分がいいのは何年振りだろう。先ほどの式部の問いかけがふと脳裏をよぎった。
『それでいいの?』
「……ああ、いいとも。幸せだ、この上もなくな」
 晴れ渡る空を見上げて霧崎はそっと呟いた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

むう、これはいかん。書いたらオラよけいムラムラしてきたぞ!
ホラーゲームにこんなに萌えるとは思わなかったんだぜ。
投下配分間違えてしまいました、すみません。目を通していただいた方々、ありがとうございました。

  • はじめまして。私も某電波ENDには萌えました。まさか公式で!!SS楽しく拝見させていただきました^^ -- numata? 2009-10-12 (月) 00:48:16
  • 作者です。楽しんでもらえてよかったです。バッドエンドで短い結末でしたけど萌えましたよね! 続編出ないかなあと今も思います。  -- FOAF? 2009-10-25 (日) 23:33:09

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