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ボクノ不調ハキミノ所為

生注意
高学歴ゲ仁ソ 魯山 大阪府大×京大

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「おかえり~、お疲れさん」
新大阪駅からテレビ局へ直入りすると、いつもと変わらぬ極上の笑顔に出迎えられた。
二日ぶりに見る相方の姿に、京大はほっと溜め息を投げる。
「なぁなぁ、今回3本撮りやってんやろ?大変やったなぁ。で、調子どうやった?」
楽屋で二人きりになると、大阪府大は興味津々の態で京大の方にすり寄ってきた。目がキラキラと輝いている。大阪府大は公共の電波を通じて相方の知的武勇を誇らしげに自慢することが、三度のメシより好きな男であった。
「ん、別に…特別良くも悪くもなかったわ。個人戦は1回もトップとれんかったし、チーム対抗の方もなぁ、いろいろと」
「そーかぁ、残念やったなぁ。まぁたまにはそんな日もあるって」
大阪府大は気にすんなー、と言って京大の背中を優しくポンポンと叩く。
「あ、そうそう。昨日は電話もメールもせぇへんかったろ?俺、局移動中に連絡くるかもって、夕方からずっと待っててんけど。何かあったんか?」
「あー……最初の特番用の撮りがかなり押してなぁ。結構な時間オーバーして、局移動で急っつかされたりして慌しかってん。ごめんなぁ」

《すがちゃん、ゴメン…。言えんねん。俺、お前にホンマのこと、言われへんねん》
成果が期待外れに終わり少し寂しそうな様子の大阪府大に、京大は心の中で詫びの言葉を繰り返すばかりだった。

《特別良くも悪くもなかった?んなわけあるかい。もうめっちゃ最悪やったわ》
今回撮ったクイズ番組3本の内、そこそこ高い正答率を叩き出せたのは最初の1本だけで、それでもトップをとれたわけではなく、あとの2本にいたってはもうボロボロだった。
結果を出せなかったことが心底悔しくて仕方がなかった。自分が何を期待されてクイズ番組のオファーをもらっているのかよく理解しているから。というより、とにかく人一倍負けず嫌いであるがゆえに。
あまりの成績に、撮りが終わるや『大丈夫ですか?』『お疲れなんですか?』と共演者にまで心配される始末。
『いやー、ほら、ボク大阪から通ってるじゃないですか?何か最近新幹線の移動がキツクなってきたみたいなんですー。トシなんですかねぇー』
京大は相手の笑いを誘うように、自身は全く気にしてないといった風にアハハと笑っていた。

**

ここ数年で、東京でピンの仕事が急に増えた。主に全国ネットのクイズ番組への出演という。
高学歴、しかも京大卒というゲ仁ソとしては異色の肩書きを持っており、共演の知識人・文化人にもひけをとらない正答率をあげていけば、そういった仕事が増えていくのは至極当然のなりゆきだった。
コソビゲ仁ソとして舞台やローカル番組へ出演する、10年以上続けてきた活動のベースは今も大阪においており、それは何も変わっていない。ただ京大が単身で上京する回数だけが確実に増えていた。
大阪でコソビでする仕事が極端に増減したわけではない。なのに東京でピンでやる仕事だけは急激に増えていた。

確かに度重なる新幹線での移動で、疲労は確実に蓄積していた。それも今回のような不調の理由の一端を担っているには違いなかった。
だが京大の中にはもう一つ、ある種の確信があった。
《すがちゃんの所為や。アイツが傍におらんから…》
おそらくそれが不調の最たる原因なのだと。認めてしまえば自分の弱さを曝け出すも同然なので、けして認めたくはなかった。
が、自分の心に蔓延る虚無感は、もうそれ以外では説明がつかない。
相方と離れ一人、東京と大阪を月に数度往復する。そんな生活が京大の中で定着しつつある一方で、ふと気を抜いた瞬間に、胸にぽっかりと大きな穴が空いたような感覚を覚える。
そしておもむろに不安になる。どうして自分はここにひとりきりでいるのか、どうして自分の隣に大阪府大がいないのかと。
一種の精神論とでも言おうか、自分だけにオファーが来たからとか、とにかくそういう理屈の話でないことだけは確かであった。

無論いつもいつもそういう感情に襲われるわけではない。互いに一緒にいたいからという理由で飛び込んだ世界ではあったが、四六時中一緒にいなければ息もできないといった間柄ではないはずなのだ。
《相方がおらんから調子悪いんです、なんて言い訳が通るほどこの世界は、いや、社会は甘ない》
頭では重々わかっているのに。それが心で思っていることと完全に相反して、それが京大の調子をさらに崩す結果に繋がっていた。

そんな調子だったから、昨日もむしょうに大阪府大の声が聞きたくて仕方がなかった
《ピンの仕事なんて、もう数え切れんくらいやっとるのに、たった1日のことやのに》
そのたった1日が我慢出来ずに、大阪府大と話したくて、大阪府大の声が聞きたくて。京大は局移動中に何度も携帯のリダイヤル画面を開いた。
だけど発信ボタンはどうしても押せなかった。

アイツの声を聞けたら。
『一人でめっちゃ寂しいよ、すがちゃん』
そう自分の気持ちを素直に言えたら。
どんなに楽になるだろう、と思った。
でも。
今の自分の声を聞かせれば、大阪府大は絶対に何か感づく。
《そしたらアイツ普通に言いそうやもん。今からそっち行くわー、って》
きっと言う。絶対に言う。新幹線代が自腹になっても、そんなことは少しも厭わない。
そして大阪府大に今から東京に行くと言われれば、今の自分はきっとそれを懇願してしまう。
それは結果的に大阪府大に迷惑をかけることに他ならなかった。
《それだけはアカン。俺の甘えですがちゃんに迷惑かけるのだけは絶対にアカン》
そうやって京大は自分をきつく律し、ディスプレイに大阪府大の名前を表示させては消し、消しては表示させてまた消し。
それを何度も何度も繰り返しているうちに次の局に着き、調子は回復することなく収録は始まってしまったのであった。

**

「…俺にもホンマのこと言われへんの?」
ふっと顔を曇らせ、いきなり暗いトーンで切り出してきた大阪府大に、京大は目を見張った。
「え、え?何?いきなりどないしたん?」
「なんでなん?なんで俺に隠すん?」
笑って誤魔化そうとする京大を、大阪府大はひたすら怒っているとも今にも泣き出しそうとも何とも判別しがたい表情で、じっと見つめている。
「いや、何も隠しとらんって」
「ウソや」
「いや、ウソなんかついてへんよ、ホンマ…」
「ウソや!」
そこまで広くはない室内に、大阪府大の鋭い声が響き渡った。薄い壁を通して廊下にまで聞こえて、何事かと人が飛んできても不思議はないほどの叫び声。
だが楽屋のドアが開かれることはなかった。誰も割り込んでこない二人だけの空間で、京大は体を強張らせたまま、涙目の相方から視線を逸らすことができない。
「すがちゃ……」
「しんどいんやろ?しんどいならしんどいてはっきり言えや。俺ら今までずっと、ギャラも嬉しいことも悲しいことも、何もかも全部分かちおうてきたやん。
せやから今みたいに、うじがしんどい気持ち一人で抱えてる姿とか、そんなん見たない。遠慮なんかせんと、ホンマの気持ち吐き出してくれや。俺にもお前のしんどさ、分けてくれや」
まるで機関銃のように捲くし立て、そして一呼吸置いて――
「なぁ、うじぃ…」
京大の名前を呼びかけ、俯いた大阪府大の目から一粒の雫がポタッと零れ落ちた。

京大はすっかり失念していたのだ。
大阪府大に心配をかけまいとして嘘をつくことが、実は大阪府大に一番迷惑をかけることだったということを。
そして大阪府大も、京大と全く同じ気持ちだったということを。
「大人やから、仕事やからって割り切ることも大事かもしらんけど、俺はうじに、すがちゃんがおらんで寂しいーって言われた方がずっと嬉しいな。だって俺も、うじ…ううん、うーちゃんがおらんと寂しいもん」
京大が全てを話した後、大阪府大はそう言ってにっこり笑った。
《あぁ、やっぱすがちゃんは俺の力の源や》
京大は相方の天使と見紛うばかりの愛らしい微笑みを至近距離に見ながら、そう再認識するのだった。

**

――それからどういう経緯でこういうことになってしまったのか。
「あかん…あかんよー。本番前やで、すがちゃん?」
ゲ仁ソになった以上、いつどこでドッキリをしかけられても文句は言えない。殊に楽屋は、隠しカメラを仕掛けるには恰好の場所である。
なので普段楽屋ではコトに及ばないように気をつけている二人であったが、今まさに京大を押し倒している大阪府大は全く手を緩める気配はない。
「もしもーし?すがちゃーん、すがちゃーん?」
「聞こえとるよー。もー、ええやん。どうせ撮られたって、こんなん放送なんてできひんのやし」
「いや、そういう問題やな…っ」
それ以上何も言うな、とばかりにいきなりキスで口を塞がれた。こうなると完全に大阪府大のペースである。
ひとしきり京大の口内を蹂躙して満足したのか、やがて大阪府大はゆっくりと唇を離す。
そして京大の活力源でもある、あの天使と見紛うばかりの、否、小悪魔上等の極上の笑みを浮かべて、口を開いた。

「天下の京大ゲ仁ソ・うじはらサマに寂しい思いさせて、調子崩させてもうた責任はとらなあかんやろー?」
「俺はそういう意味で、すがちゃんの所為やて言うたんとちゃうでー!?ってまず、責任の取り方がおかしいやろ!?」

どうやら相方サマのおかげで京大の調子は確実に戻っているらしく、素敵なツッコミが二人きりの楽屋に響き渡るのであった。

**

「うじのためやったら、新幹線代の自腹くらい何てことないで?アレやったら、毎回一緒に上京して、観覧席から見守っててもええくらいや」
「うん、それは俺も普通に嬉しいけど、多分制作サイドにめっちゃうざがられるから、呼ばれたときだけにしよな?」

と、一応釘はさしておくものの、今後の自分の精神安定のために、これからはクイズの賞金の中から大阪府大用の新幹線代を少しずつ積み立てておくか、と内心密かに考える天下の京大サマであった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

少し前に書き始めてたものなので、コソビでクイズ番組の仕事も増えてきた現在ではやや違和感あるかも?スマソ

  • GJ!個人的には、クイズに正解しまくって鼻高々な京大よりも、関西ローカルでいじめられてる京大が好きなんだけどね。彼が心の広い人だから&何を言っても大阪府大が守るってわかってるから、みんな安心して遊ばせてもらってるんだろうなーと。 -- 2009-09-16 (水) 14:01:29

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