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膝で眠る男

お借りします。
・ナマ、一角獣太鼓唄+α。
・いい年したおっさんが右往左往しているだけ、エロ無し

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

見てしまった。
最初はこんなふうにこっそり覗くつもりなんてなかった。
一人だけの取材が終わって手持ち無沙汰だったから、何となく楽屋に戻ろうと思っただけだった。
ただ、そのすぐ前にスタッフが「河弐志さん到着しましたー」と言っていたのを思い出し、
今朝方強行軍で東京に戻ってきたおっさんの疲れた顔でも見てやろうと思ったのだ。
(どうせ、阿呆みたいに元気なんやろうし)
この間貸すと約束したCDを忘れないうちに渡さなければ、なんて言い訳じみたことを考えながら
ただいまーと暢気な声で的外れな挨拶をするおっさんを想像し、少し足取りが軽くなる。

一角獣は、いい年して未だに五人全員で使える大部屋の楽屋を用意してもらっている。
全員で好き勝手騒いでいることもあれば、それぞれの現場の仕事を片付けていることもあるが
頑として全員一緒を譲らない多三男の意見が通って今に至っている。
いい大人になっても全員一緒はやっぱり楽しいし、何といっても気が楽なのだ。
今日のスタジオは何度も訪れたことがあるところで、楽屋はスタジオから少し離れた場所にあった。
鼻歌交じりで角を曲がると楽屋のドアは完全に閉まっておらず、中から妙に通る声が洩れている。
「もう、寝るならソファーで寝なって。重いって言うとるでしょー」
「ええじゃん、十分でええからちょっと寝かせてよ」
からかうようにケラケラ笑う海老の声に被さるのは、紛れもなく河弐志の声だ。
「朝早くてあんまり寝れんかったからちょっとだけ、ね?」
入り口に背中を向けた形で置かれた大きなソファーに座っているのがわかるのは
ご自慢の黒髪を揺らして笑う海老だけで、肝心な河弐志の姿は見えない。
(……あ、スニーカーあるやん)
河弐志が普段履いているスニーカーがソファーの横に脱ぎ捨てられているのをめざとく見つけ、
多三男は訳もなく息を潜めた。ようやく状況が理解できた気がした。

有無を言わせない強さを感じさせる甘ったるい声に言いくるめられた海老は
五分だけだからね、と言ってソファーに寝そべっているらしい河弐志にのんびりしたトーンで話しかける。
「五十前のおっさんがメンバーの膝枕で寝てるとか、絵面はともかくけっこう衝撃的じゃない?」
「んー?そうかねえ、まあ亜辺には怒られるかもねえ」
「何で亜辺……ってちょっと、くすぐったい!河弐志さん!」
うひゃひゃ、と身体をのけぞらせて楽しそうに笑う海老の横顔に、何故か胸が痛くなる。
「脇腹はやめてよ―。落としちゃうじゃん」
「なら、落とされんようにがっしり抱き付いて寝るとしようか」
「はいはい、もうわかったからさっさと眠っちゃってよ。呼ばれたら叩き起こしてあげるから」
「ん、おやすみー」
「はーい、おやすみなさい」
慈しむような笑みを浮かべた海老は、膝の上でようやく口を噤んだらしい河弐志にそう告げ
小動物を撫でるような感じで腕を動かしている。
健やかな寝息が途切れ途切れ聞こえ始めるまで、一歩も動けなかった。

他の現場ではどうだか知らないが、最近の河弐志は多三男を始め
年下組に妙に甘えるところがある。
もちろん多三男は内心動揺しつつも真顔で切り捨てるし、亜辺ははいはいとあしらってかわすが
海老だけは笑ってそれに律儀に応え、夜な夜な連れ回されることさえも楽しんでいるようだ。
今となっては誘われなくても隣にいる海老が何かと河弐志の相手をしていることが多く、
自分はそれを少し離れた場所から見ていることが多い。
(……あいつ相手に、嫉妬なんて誰がするかい)
海老のようにフラットに対応できれば問題ないのかも知れない、とは思うが
そんな芸当がもし万が一自分にできたなら、こんなに長い間離れていることもなかっただろうし
もっと素直に色々なことを伝えられただろう。

「でも、そんな多三男には河弐志くん惹かれなかったんじゃないかねえ」
苛々しつつ戻ってきた多三男を見るや察したらしい亜辺は、断片的な言葉から状況を察して
暢気に煙草を吸いながらそんなことを言った。
「はあ?おっさんが俺のどこに惹かれたって?」
「そりゃ声とかステージングとか色々あるだろうけど、結局それってその人となりに繋がるでしょ」
「……」
「ってことはさ、やっぱり多三男がこの多三男だったからこそ、ってことじゃないの?」
こういうときの亜辺の言葉は妙に人生を達観した感があり、絶妙なところを突く。
(そういうもんなのか……わからん、全然理解できん)

「だいたいねえ、俺は海老にやたら絡むこと自体が納得いかない訳よ。わかる?」
最近海老に振り回されつつもご執心(本人曰く毎日が甘酸っぱい初恋気分らしい)な亜辺は、
がしがしと煙草の吸い殻を潰しつつやたら大袈裟に舌打ちをした。
「俺がずっとあっためてきたのに、突然横入りされてかっ攫われるなんて真っ平御免だっつーの」
「……おまえも色々苦労しとるのな」
「まあそれでもいいんだよ、俺の苦労は報われる苦労だから」
聞きようによってはずいぶん身も蓋もないセリフを吐き、亜辺はよっこらしょと言いながら立ち上がる。
「そろそろ迎えに行ってきましょうかね、腹ぺこ狼にぺろっと食われちゃ流石に堪らんし。
あ、多三男も一緒に行く?」
「行かん」
「そう言うと思った。まあいいや、ちょっくら行ってくるわ」
ひらひらと手を振ってスタジオを出て行く親友を見送り、何となく想像してみる。
もし二人っきりで膝枕を強請られたら、自分は嫌々なふりをしつつも膝を明け渡すだろう。
膝の上に寝っ転がる見慣れた顔を真っ直ぐ見下ろせず、海老のようにからかったりすることもできず
ただ黙って河弐志の寝顔を見つめるので精一杯になりそうだ。
それこそ、髪を撫でるなんてとんでもない。
「三つ子の魂百まで、ってやつかねえ……」
「何が?」

不意にすぐ後ろから聞こえた絶対に聞き間違えない自信がある声に、多三男は反射的に振り返った。
今自分が年甲斐もなくすごくうれしそうに笑っているのも、
どこかで呆れまじりで見ているだろう亜辺(と、いつも通りの海老)が視界にまったく入らないのも
全部このどうしようもなく愛しくてしょうがないおっさんのせいだ。

□STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

こっちも一度書いてみたかった、ので書いた。正直反省していない。
下三人に愛される太鼓様(と六弦)が大好きです。


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