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近くに

先日夏戦争801板でお騒がせしたものこと632です。
健二←佳主馬もので今度は佳主馬視点の小説です。
話的には続いてるんでお先にそちらをどぞ。保管庫に入ってます。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

キーボードを鳴らす音しか部屋に音はない。
佳主馬は未だ頬が火照ったまま治まらず、どうしようかと考えている。
あんな風に言われるとは思わなかった。
「くそっ」
一人そう吐いてみるものの、健二のことを考えれば苦しくなってしまう。
もうあっという間だった。
あの事件の後、自分の心が健二に惹かれているのは明らかだった。
どこがいいとはわからない。
ただ健二を見ると嬉しくなってしまうのは事実だった。
佳主馬にとってこれは初恋だった。
この一週間、佳主馬はひたすら頭を悩ますこととなる。
健二には既に夏希がいる。
元々健二は夏希のことが好きだったみたいだし、夏希もあの事件後健二に惹かれている。
自分の入る隙間などない。
キーボードを操作してる手を止め、佳主馬はパソコンの電源を切る。
そして、先程まで健二が座っていた座布団を引き寄せぎゅっと抱くとそのまま寝転んだ。
「くそっ」
もう一度そう吐いてみるも、その言葉は夏の暑い空気に消えて溶けた。

「佳主馬!晩ご飯よ」
聖美がそう言って部屋の戸を開けると、佳主馬は布団の上で丸まっていた。
「いらない」
「何言ってるの。冷めちゃうからさっさと来なさいよ」
そう言う聖美の言葉を無視して佳主馬は背を向ける。
本当はこの部屋でいるのも随分暑くなってきたし、お風呂でも入りたいところだったが出る気にはなれなかった。
佳主馬はずっと抱いていた座布団に力を込めると、顔を埋める。
頭の中は既に何を考えているのかわからない状態だった。
様々な思考が行ったり来たりして、複雑にからまりあっている。
ただ、その思考の全ての根元が小磯健二という人間に繋がっていることは確かだった。
佳主馬はやっと重たい体を起こすと部屋を出た。
涼しい風がさらさらと流れ、汗でべたついた体が涼しい。
先にお風呂に入ってしまおうかと思ったが、後で母さんがうるさいな、と考え茶の間へ向かうことにする。
茶の間へ向かっていると、段々と聞える声が大きくなってくる。
あの中に健二がいる。そう考えると胸が熱くなった。
嬉しいのか辛いのかわからないそんな感覚。
茶の間に到着すると、騒がしい食事が既に始まっていて、いつも自分の定位置に座る。
「速く食べてしまいなさいね」
聖美が横でそう言って、佳主馬の茶碗を持ってご飯を盛りに行く。
佳主馬はチラリと健二の方を見ると、夏希と談笑しながらご飯を食べていて、元々ない食欲が更に減った気がした。

「佳主馬、元気ねえじゃねえか」
少し遠くから万助が佳主馬に声をかける。
「別に普通だよ、師匠」
万助が自分を見ているが何も言わない。
佳主馬は聖美からお茶碗を受け取ると、お箸をとって食事を始めた。
万助もそんな佳主馬に何も言わず、手に持っていたビールをごくりと飲み、他の人と会話を始める。
少しずつ白ご飯だけ口に運ぶが減る気配はない。
お米の甘い味がやけに舌に染み込む。
「ごちそうさま」
「あれ、もういいの?」
「うん」
結局おかずには全く手をつけず、お茶碗に盛られたご飯だけ食べると席を立つ。
もう一度健二の方を見ると、まだ夏希と笑っている。
何故だか凄く腹がたってきて、早足で部屋へと戻った。
「……何やってるんだよ、ボク」
そう一人ごちてみるも返してくれる相手はいない。
はぁ、と溜息をつくと布団に寝転ぶ。
今日は何もする気が起きないな。
いつもならこのままパソコンを起動するけど、そんなことしている気分じゃない。
佳主馬は目をつぶり、寝ようとした瞬間ドアが開く。

「少し相手しろや」
「師匠……」
万助がそこに立っていて、佳主馬を見下ろしている。
「型とるぞ」
「……わかった」
佳主馬は立ち上がると、万助に連れられ庭へと出る。
そのままふぅ、と息をついて姿勢を正す。
「悩み事があるなら言ってみい」
「…………」
体全体を動かし、動きに集中する。
「まぁ、男だったら隠し事の一つや二つあるもんだが、まだ完全に大人になってねぇだろ」
「……どこから大人なの」
「そりゃあわかんねぇ。いつの間にかなってるもんだ」
「答えになってないよ」
ガハハ、と笑う万助に、佳主馬は溜息をつく。
「とりあえず何を悩んでるか知らんが、それが態度に出てたらまだまだ子供だな」
「……出してない」
「出とるわ」
そのまま沈黙が続き、夜風だけが流れる。
家の中からは様々な音が聞えてきて騒がしい。
「大人って難しいね」
「ああ」
一通り型をとり終えると、佳主馬は家の中へと入っていく。
「体動かしたら楽になった。ありがとう師匠」
「おう」
後ろからその返事だけ聞えて佳主馬は何だか心が少し楽になった気がした。
とりあえず今は忘れてお風呂にでも入ろう。

お風呂場はちょうど空いていたみたいで、脱衣所で服を脱ぐとお風呂に入る。
シャワーを出し、頭からお湯を被り暫く何もせずお湯にうたれる。
何も考えず、頭にあたった水が体を伝いタイルに流れていく。
何分か経って、そろそろ頭でも洗おうかとしたとき急に風呂場のドアが開いた。
「佳主馬くん、入るよ?」
「え」
健二が立っていた。
「おばさん達が後ろ込んでるから一緒に入っちゃいなさいって。大丈夫?」
「え、ちょ、ちょっと待って!」
あまりにも突然すぎて、頭の中でパニックが起こる。
いくら少し気が楽になったからってこういう急な展開は困る。
これはちょっとないだろ!バカ!
そんな誰に向けてかわからない罵倒を心の中で連発し、どうしたらいいかわからずとりあえず近くにあったタオルを腰に巻いた。
「だ、大丈夫?」
「…………大丈夫」
そう返事すると健二は一度ドアを閉め、服を脱ぎ始めたようだ。
佳主馬は、太極拳で型をとるときのように大きく呼吸をした。
少し落ち着いて、とりあえずシャンプーを出して髪の毛を洗い始める。
これで顔は見えないはずだ。
って、何で隠す必要あるんだ。
そうこう考えているうちにまた扉が開いて、健二が入ってきたのを感じ、佳主馬は体を少し固くさせた。

「えっと、先につかっとくね」
そう言って、健二は一度掛け湯をすると湯船の中に入る。
佳主馬は髪の毛を泡立たせ、洗っていた。
少しの間沈黙が訪れ、風呂場が急に静かになった。
どうしようかと佳主馬が考えていると、健二が口を開く。
「……佳主馬くん、昼間はごめんね」
そう突然健二が言った。
「何で謝るの」
そう佳主馬は返すと、健二が少し黙る。
「……何か変なこと言っちゃたし」
「別に謝ることないじゃない」
「そうかな……?」
「そうだよ。それにお兄さんのこと嫌いじゃないって言ったじゃん僕」
思い出したらまた恥ずかしくなってきた。
昼間に言われたことを思い出して、佳主馬は顔を赤くする。
あれは色々とダメージが凄かった。
それを隠すようにシャワーからお湯を出すと、頭についた泡が流れ落ちていく。
シャワーを出す音だけが風呂場に響いた。
暫くして、湯船の中で体を伸ばしていた健二が佳主馬の方を見て言った。
「じゃあ、明日遊ばない?」
佳主馬はシャワーを止めて健二の方を見る。
「……遊ぶって……何するの?」
「うーん……虫取りとか?」
「子供じゃん」
「じゃあゲーム」
「ゲームはしない」
せっかくこうして誘ってくれてるのにどうしてここまで言ってしまうんだろう、と佳主馬は少し後悔。
大人だと上手く返事が出来るようになるのだろうか。
健二は頭をひねり、色々考えているようだが口を出してこない。
佳主馬も何か話題を出そうと考えていると、まだ全く手をつけていない宿題のことを思い出した。

「……宿題教えてよ」
「え?」
「数学得意なんでしょ?」
「い、一応……」
「じゃあ明日教えて」
ジッと健二の方を見る。
ダメだ。やっぱり自分はこの人のことがどうしようもないくらい好きらしい。
こうして見ていると胸が今にも爆発しそうなのだ。
「わかった。じゃあ明日教えるよ」
「うん」
佳主馬はナイロンタオルをとると、石鹸をつかって泡立てる。
「頭洗う?」
「うん」
佳主馬は椅子から立ち上がると湯船の横に移動し、健二も湯船からあがるとその椅子に座りシャワーを出した。
体を洗いながら健二の後ろ姿を見ていると、何だか少し胸がドキドキしてきて目を逸らす。
細いけど、自分よりは大きい背中だ。
健二はもう大人なんだろうか。
万助の言う大人にはもうなっているのだろうか。
髪の毛から流れ落ちる水が鬱陶しくて首を軽くふる。
一通り体を洗い終えると、湯船の湯を桶で掬って流す。
健二も頭を洗い終えたみたいで、ナイロンタオルを軽く洗って健二に渡す。
そして湯船に入ると、ふうと息をついた。
「佳主馬くんって、何で勝つこと好きなの?」
そう体を洗いながら健二が佳主馬に尋ねる。
思わず肩がはねる。

「……ボクが昔いじめられてたの知ってる?」
「まあ、ちょっとだけ」
申し訳なさそうな顔をして返事する健二に佳主馬は少し笑う。
「別にいいよ。それで、すっごい腹たって負けたくないって思っただけ。そこからかな」
「そっか」
「お兄さんはどうして数学好きなの?」
今度は質問をし返す。
「どうしてって言われてもなぁ……気がついた時にはもう好きだったし……」
「……気がついた時?」
「うん、気がついた時」
シャワーをひねりお湯を出すと、健二は体についた泡を落としていく。
「それでどうしたの?」
「どうしたのって、好きだから頑張ったよ」
健二の顔を見て、すぐに視線を下げる。
「……そういうものなのかな」
独り言のように呟くと、健二が笑って言った。
「そういうものだよ、多分ね」

そういうと健二は立ち上がり佳主馬を見て言った。
「僕、もう出るけど佳主馬くんは?」
「……もう少し入ってるよ」
「わかった」
そう会話を交わすと、健二はドアに手をかけた。
「お兄さん」
ドアを開けて、健二が振り向く。
「どうかした?」
佳主馬は健二の顔を見て、今度は視線を落とさずに言う。
「明日、教えてね」
そんな佳主馬に健二は笑うと返事する。
「了解」
そう言って、健二は脱衣所に入ってドアを閉める。
佳主馬はふう、と息をつくと天井を見上げた。
「頑張る、か……」
先ほどの健二の言葉を思い出して、佳主馬は手をぎゅっと握る。
「頑張ろう」
そう呟くと、佳主馬は大きく体を伸ばして大きな息をついた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

男前な乙女佳主馬が大好き!


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