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オリジナル 「チーム・オナホ」

オリジナル・現代もの。(保管庫42~44・48巻の余話・前編)エロは後編。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

コンドームをつけることを俗にゴムをつけるという。
だがゴムの時代はもう終わった。ゴム製コンドームが誕生したのは1844年。
2009年7月現在、国内シェア1位のコンドームは、
コンドームのCこと(株)志井商事のゴムじゃないコンドームだ。
ポリウレタン製の特殊フィルムを使用したコンドームは薄さ0.02ミリ。薄く強く熱を伝える。
薄いから着用感がない。強いから薄くても破れない。「熱を伝える」はぬくもりをもたらすに通じる。
かつてはゴムの分厚さに阻まれて、ペニスで感じることのできなかったパートナーの中のあたたかさを
ゴムじゃないコンドームは瞬時に伝える事ができる。はやい話、生で挿入しているみたいなのだ。
その自然さは海外でもヒットし、志井商事はゴムじゃないコンドームの輸出でこの国に外貨をもたらしている。
しかしながら、日本人の多くがコンドームをつけることを未だにゴムをつけると言う。
「ゴムをつける」ではなく「Cをつける」という言葉をはやらせたい。
志井商事の若き専務・志井風雅(シイフウガ)にはそんな野望がある。
「C」とは志井商事の主力商品・ゴムじゃないコンドームの商品名だ。
特定の商品名が普通名詞化するのは稀有なことだがそれなりに前例はある。
食品包装用ラップフィルム=サランラップ、ステープラー=ホッチキス等々。
そんな風にコンドーム=「C」と呼ばれたい。だが野望は未だ野望のままだ。

平成になってからセックスのカジュアル化が進んだ。セックスがカジュアル化するのはかまわない。
自我がきちんと確立したうえで大人の判断としてカジュアルセックスを楽しむのは大いに結構だ。
問題なのはセックスのカジュアル化に伴う中出し! 自分と相手を大切にできない者同士の無防備なセックスだ。
志井風雅は手元の「薬事工業生産動態統計調査表」に目を落とした。
コンドームの出荷率は漸減傾向をたどっている。
中出し=コンドームを使わないセックスが増えれば、コンドームの販売数は減る。
志井商事的には由々しき問題だ。
それだけじゃない。コンドームの出荷率減に伴いSTDの新規感染者は増えている。
志井風雅は悔しい。性感染症の予防は大事で、それにはコンドームの着用が効果的なのに、
この世界にコンドームが広がらない。
挿入前に装着。それだけで守れるものがあるんだと叫びたい。
「性」と病気に関する正しい知識を伝えたい。予防法の啓発と普及と共に自社のコンドームを売りまくりたい。
「ゴムをつける」ではなく「Cをつける」という言葉をはやらせたい。暴利をむさぼりたい。
志井風雅はそんな野望に、利潤の追求に生きている。
風雅の父である志井商事社長・志井高雅は、「既存のコンドームを多売する」のは頼もしい息子にまかせ、
新商品による売り上げアップを狙い、オナニー専用及び男同士専用のコンドームの開発に勤しんでいる。

特に力を入れているオナニー専用コンドームの開発準備室室長には、
古今東西のオナホールに造詣が深い、風雅の双子の弟・典雅(テンガ)を抜擢した。
オナホとオナニーをこよなく愛しているオナホコレクターの志井典雅を、
コール社(本社:ドイツ/インゲルハイム)の日本代表はオナホのソムリエと呼んでいる。
メンテナンスの楽なオナホールを新商品として打ち出したい、オナホの生産・販売数世界1位のコール社と
オナニー専用のコンドームをつくりたい志井商事は、現在オナニー専用コンドームと
コンドームをつけた方が気持ちよいオナホを共同開発している。
コール社は電動オナホ-ルから、いささか不気味な代物まで、さまざまなオナホを扱っている。
2・3回使えばだらしなく口を開く、簡易低反発のキッチュで安いジョークグッズもあれば、
WHO認可取得の衛生面に特化した1デイズの使い捨てオナホもある。
1デイズの使い捨てオナホはもともと志井商事のオナホ部門が開発した商品だ。
コール社にオナホ部門が売却された為、いまはコール社の名前で売られている。
使い捨てに勝る衛生的なオナホない。毎日新しいは毎日気持ちいいに通じる。
だが一部のマニアなリピーターは、このオナホの衛生面の高さよりも
スピリチュアルな使用感を評価しているらしい。
開発に関わっていた志井典雅は確信している。マニアに受けたポイントは、
含水率の高い特殊素材の持つ妖しい柔らかさ及び艶かしい吸着性と、
オナホの内側に植毛した直径8ミル(0.20㎜)の特殊加工毛だ。

素材の特色をそこなわず、オナホにエロくて気持ちいい極細の毛をはやしてくれたのは、
化繊と植毛のプロで志井と深い仲だった三鷹という技術者だ。
三鷹と志井は一度別れた後、ヨリを戻し再びステディな関係になったが、
三鷹が運命を感じられる男とめぐりあったため、志井は三鷹の傍に居続ける事を諦めた。
志井と別れた三鷹は一目惚れしたノンケの男=運命の男にさりげなく自分を売り込んだ。
他人から友人にのし上がり、友人から親友になった。親友から大親友になれた時、
ビバーク地に到着したと思った。
ハッピービバークの先に頂上が見えた。てっぺんまでもう少し。大親友から恋人になれたら
濃くて細やかなエッチをしようと決めていた。なのに、はやる気持ちを抑えながら、
急傾斜の続く道なき道を着実に登っていた最中、
突如上空にヘリで表れロープで降下してきたみたいな肉食系女子に、大親友をかっさらわれた。
一寸先は闇だ。まさか、結婚式に招待されたうえ、
友人代表でスピーチをするはめになるなんて思ってもみなかった。
当日、三鷹はブラックスーツにアスコットタイをあわせ、タイと同色のポケットチーフを挿し、
とても綺麗に磨いたブロウバーの伊達眼鏡をかけて式に臨んだ。
動揺を隠し、ビシッと決めたかった。
ギリギリ精一杯の強がりで洒脱なスピーチをした。ビッグスマイルで新郎新婦におめでとうを言いながら、
熱い涙がパラパラッとはしりそうになった。流すわけにはいかなかった。必死で堪えた。

三鷹は自分の事をもっとずっとカラっとした、懐の深い男だと思っていた。でも違った。
彼の幸せを祝えない。事もなげにからりと笑うことがどうしてもできなかった。
いまは晴れやかに笑うんだと腹の底で決め、無理をして口角を上げた。全身の力を使った気がした。
口元がゆがんだ笑い方にならないように、目が死なないように心を配った。
ずっと好きだった男が結婚する……。
新郎新婦のプロフィールスライドショーを見ながら、
夫婦の間に入っていく男、略して間男にはなりたくないと思った。
だけど新郎への気持ちを昇華できない。男らしく諦められない。
ワッと泣き出しそうな自分を叱咤しつつ、三鷹は式の間、目元に笑いを、口元に笑みを浮かべ続けた。
腐って泣きたい気持ちをおさえ、二次会では明るく頼もしく幹事をした。
二人の新しい門出を祝い楽しいパーティにするべく盛り上げた。
立て付けの悪い戸みたいに心が軋んだ。HPを使い果たした。三次会は中抜けした。
まっしぐらに自宅に帰り、スーツの上を脱ぎ捨てた。
片手でむしる様にタイを解き、カフスを外し、サイドテーブルに伊達眼鏡を放る。
限界だった。口を歪めて自分を嗤い、三鷹は格好悪く焼酎の杯を重ねた。
酒気帯びの溜息を吐きながら、とうもろこし焼酎を煽る。

焼酎とは思えない豊かなトウモロコシの香りに、新郎と親しくなるのに夢中だった間は、
キレイに忘れていた志井のことを思い出した。
志井も自分と同じでトウモロコシを使用したうまい酒が好きだった。
ストレート・コーン・ウイスキー派だった三鷹に、とうもろこし焼酎を教えてくれたのは志井だ。
二人してショットバーのカウンターでグラスを傾けていた夜、志井は隣の三鷹に言った。
「コーン・ウイスキーが『荒野の七人』なら、とうもろこし焼酎は『七人の侍』だ」
無口な志井がはじめてしゃべった長いお言葉がそれだった。
目を据えて、見つめ続けないとわからないくらい微かな笑みを口元に浮かべて、
志井がそう言ったのを三鷹はしっかりと覚えている。
無愛想な男がフッと浮かべた、微かだけれどまぎれも無い笑みにドキッとした。
下戸そうな顔して意外と飲むのに驚いた。
オナニーなんてしなさそうな貴婦人然とした雰囲気に反して、オナニー好きのオナホ通なのがツボだった。
あれこれと思い出しながら志井を恋しいと思った。たまらなく会いたい。
寂しさからくる一時的な感情かもしれない。
それでも、ずるい男に成り下がって、自分が振った美しい男に甘えたかった。
誘っても無下に断られない気がする。きっとまだ志井は自分を好きでいてくれている。
自惚れ屋の三鷹には、志井の中で自分が「過去の人」になっていない自信があった。
三鷹は金沢在住で志井は東京都民だ。パッと会いに行くには距離がある。
あしたの陽がのぼるのを待って会いに行こうか。酔いの回った頭でそう思った。

だけど三鷹はギリギリ踏みとどまった。また、同じ事を繰り返したくない……。
もともと三鷹にとって志井は「繋ぎの男」だった。運命の人にめぐりあうまでの仮の恋人。その程度の存在だった。だから、志井に別れ話を切り出されたときも、
「マジで? じゃあな」と簡単に別れることができた。
漠とした、しかし大変大きな喪失感に唖然としたのは、別れた後の事だ。
音信不通になっていた志井と奇跡の再開を果たし、めでたくヨリを戻せたとき、
「かけがえのなさ」が胸にしみじみと沁みた。「繋ぎの男」なんかじゃなかった。
気がつけてよかったと心の底から思った。
にもかかわらず、新しい出会いにときめいた三鷹は、自分の都合で志井との縁を断ち切った。
「バイバイ」は、簡単に言えた。
そして、追いかけていた男が結婚したいま、寂しさから再度志井を求めている。
志井の「かけがえのなさ」にあらためて気がついた。もう一度ヨリを戻したい。
我がまま過ぎる自覚はある。みっともないとも思う。でもやり直したい。やり直せる気がする。
だけどわかるのだ。例えやり直せたとしても、それは一時的。ヨリを戻せたとしても結果は同じだ。
自分は志井だけを見ていられない。きっとまた誰かに夢中になる。また同じ事を繰り返す……。
志井を巻き込んではいけないと強く思った。
いま、会いに行きたい。花束を抱くように抱きたい。けれど自分とヨリを戻すことが
志井の幸せに繋がらないなら、復縁すべきじゃないと頭でわかった。
だから三鷹は志井に会いにいくのを堪えた。

恋愛以外にいま頑張るべきことが何もないわけじゃない。
三鷹には心から打ち込める仕事がある。かけがえのない仕事があるということは、
かけがえのない伴侶がいるのと同じくらい贅沢な事だ。
三鷹はいま人造毛で蒔絵筆をつくっている。
平成20年、国会で伝統芸能を支える道具をつくる原材料及び技術者の減少が議論された。
三鷹の地元石川県では輪島の蒔絵職人たちが、蒔絵筆の入手に苦心している。
蒔絵筆に使われるのは、水毛と呼ばれる琵琶湖周辺の湿地にすむ鼠の背中の極細毛だ。
キューティクルを持たない水毛の表面構造と際立った毛先の細さが、そして腰の強さが、
漆の流れを調節する。細く張り詰めた直線を引く事ができるのは、水毛に鼠筆の精が棲んでいるからだ。
しかし琵琶湖の鼠は減った。琵琶湖といわず葦の原にすむネズミの水毛なら良質の筆になるのだが、
近頃のねずみ達はほぼRC造のビルの隙間を往来しているため、
背中の毛はコンクリートで擦れて荒れており筆に適した水毛が得られない。
原料となる毛の入手は困難を極め、筆職人の高齢化も進んでいる。
この由々しき事態を打破すべく立ち上げられたのが、産学官で構成する人造筆共同研究開発プロジェクトだ。
三鷹は化繊と植毛のプロとして地元の産業を支えるべくプロジェクトに参加した。
輪島塗は永遠に不滅だ。決して廃れさせない。筆は俺がつくる。三鷹はそう心に誓っている。
三鷹が焦がれている新郎は輪島の若き蒔絵職人だ。彼の描く蒔絵に三鷹は装飾性と遊び心とアニミズムを感じた。
一目で惚れた。彼が凛と張り詰めた直線を変わることなく描ける筆をつくりたい。
三鷹を突き動かしているのは地元の産業を思う気持ちだけじゃない。
研究者としての探究心だけでもない。「彼の為に」という私情がたっぷり入っている。
(俺が造筆に携わった筆を手にあいつが蒔絵を描く)
いつか訪れるその日を、そのエロスを思うだけで、三鷹はいけそうな気がする。

たぬき、鹿、猫。じゃこうねずみ、ビーバー、ヌートリア。
現在、鼠の水毛にかわる獣毛の研究や筆に適したネズミの飼育が、
人造毛の研究開発と同時に進められている。けれど三鷹は化繊の力を、
特殊加工したナイロン6:{CO・(CH2)5・NH} nの可能性を信じている。
蒔絵師が求めてやまない村九(むらく)と呼ばれる筆・村田九郎兵衛の赤軸本根朱筆と
寸分たがわぬ穂先を持つ筆を、石油から精錬される化学繊維で再現してみせる。
三鷹はかつて勤めていた歯科衛生研究所で、六六六(ミロク)というデザイナーが考案した
360度ぐるっと毛のある歯ブラシを具現化するべく、3.6 ミル(0.09㎜)の極細・特殊加工毛を開発し、
歯ブラシに植毛させた実績を持つ。志井商事では、微細な加工を施した8ミル(0.20㎜)の
極細繊維をオナホの内側にもっさり施した。細い毛をつくるのも植えるのも大得意だ。
けれど、寒月の冴えた月のような張り詰めた直線をすぅーっと引くには、細いだけじゃだめだ。
腰が強くなくちゃいけない。ほどよく漆を含みつつ、先端には含みすぎず、
細い細い毛先に漆が適度に下りていくことも求められる。
どんな表面構造ならそれが可能になるのか、解像度の高い顕微鏡を覗き込む日々の中で、
三鷹たちのチームはクリンプ毛(縮れ毛)で液をしっかり溜め、
ストレート毛で伸ばす事を思いついた。
穂先の太さは直径0.8㎜、長さは25㎜。毛の形状はクリンプとストレート。
それが三鷹たちが辿りついた答えだ。

けれどクリンプ毛とストレート毛を何パーセントずつ混ぜるか、
毛、1本1本の直径は何ミルがベストなのかは模索中だ。
三鷹は、6ミル(0.15㎜)のストレート繊維を35%、
3ミル(0.075㎜)のクリンプ繊維を65%混ぜるのがベストじゃないかと思っている。
繰り返し実験をして確かめたい。だから、あしたの日が昇ったら研究所に行く。
志井に会いに東京には行かない。
三鷹はとうもろこし焼酎をぐっと煽り、なかなか明けない眠れぬ夜をやり過ごした。
三鷹の携帯にドイツから写メが届いたのは、酔いを引きずったまま出社の準備をしていた最中で、
送信者は気心の知れた友人にして穴兄弟の五代だった。
添付されていた志井と六六六の睦まじいツーショットを見た瞬間、酔いが覚めた。
「常務がコールの本社に来た。元気そうだろ。常務には六六六がついているから大丈夫。安心したか?」
五代は志井のことを未だにかつての役職で呼ぶ。
メールをみながら三鷹は志井を捨てた直後、五代に志井の様子見を頼んだのを思い出した。
心と体の震えにはセックスが効く。三鷹はそう信じている。
だから、自分に振られたことで志井が弱っていたら、あたたかな心の交流の伴ったセックスで
元気付けて欲しいと思い穴兄弟の五代に頭を下げた。まじめに頼んだのだが、五代には
「あんた、おこがましいよ。常務に対する配慮がまるでねぇ~」と笑い飛ばされた。
結局その話はそれっきりになっていたのだが、五代は三鷹が志井を気にかけていたのを覚えていてくれたらしい。
様子見にこそ行かなかったようだが、出張でコール社を訪れたらしい志井を撮って、近況を教えてくれたのは、
五代なりの真心なのだろう。だけど、あまりにもタイミングが悪すぎる。
運命を感じていた男の結婚式の翌日に、志井と六六六ができていることを
匂わすような写メを送ってこなくてもいいんじゃねえ……!?

きっとまだ志井は自分を好きでいてくれている。自惚れやの三鷹は本気でそう信じていた。
六六六と志井が懇ろな仲になっているなんて想定外だ。
自分で別れの原因をつくっておきながら、どうして志井がまだ俺を好きだなんて思えたんだろう……。
自分の思考回路の恥ずかしさに今更ながら気がついた。
だけどでも、志井には六六六を拒んで欲しかった。ずっと自分を好きでいて欲しかった。
連発の花火の夜も、いつもの場所で静かに光る星みたく、純な、変わらない気持ちを
一方的に期待していた……。自惚れていた。
穴があったら入りたい。きっと土の中は暖かい。蹲って埋まって越冬したい。
志井が元気そうで良かった。こころからそう思う。
でも、去った男への未練を想起させる、憂いを帯びた表情が見たかったのも本当だ。
憎や、恋しや、と病んで、辛や、重たや、我が恋ながら…と、激ヤセしていて欲しかった。
最低なのは百も承知だ。でもそっちの方がよかった。そしたら、まっしぐらに駆けていけた。
ごめんと言って強く抱く。離しはしない。だけどもう、どうやら帰還する先はないらしい。
心に穴が空き、三鷹は自嘲した。自業自得だ。仕方ない。無性に嗤えた。嗤いながら泣けてきた。慌てて拭った。
泣く必要はない。仕事がある。泣いている暇は無い。仕事がある。それがせめてもの救いだ。
三鷹はジャケットをはおり、腕時計をはめ、伊達眼鏡をかけて出社した。
研究所で実験に没頭していたら、昼過ぎ、五代からまたメールが届いた。
「週末、出張で東京。仕事終わったらそっちに飛ぶ! 小松空港までむかえに来てよ。一緒に飲もうぜぇ~」
たわいもないメールだった。胸をえぐる写真も添付されていない。
男同士の酒は旨い。五代と酌み交わす気を使わない酒は、きっといい気晴らしになる。
わざわざ東京から金沢まで足を伸ばして、自分と飲みたいと言ってくれる五代の気持ちも嬉しかった。
了解と送信したときは、まさか穴兄弟の五代と体の関係を持つなんて思っちゃいなかった。

これまで、セックスをする友達はたくさんいた。
だけど友達とセックスをしたのは初めてだ。
いい感じに焼けた肌。ブリーチした髪。引き締まった腹と胸。端整だが軽薄そうな容姿。
耳にピアス指にリングは当たり前。3連ネックレス&ラバーブレスが大好きで、
じゃらじゃら揺れるウォレットチェーンもお約束。五代の第一印象はチャラい男だった。
趣味はサーフィン、得技はべろチュウ。はじめて会った日、本人からそう聞かされ「らしいな」と思った。
女もいいけど最近は男派で、筋トレに命かけてる風なゴリマッチョをあんあん言わせるのが一番好き。
そうカミングアウトされた時はさすがに驚いたが、それだって、一緒にオナホをつくっていた際、
五代の金型図面おこしの速さに目を見張った時に比べればそうたいした衝撃じゃない。
チャラいサーファーないしギャル男なホストを想起させる見た目からは、
とてもそうとは思えないが、五代は精密な金型設計・製作から巨大な工場の設計までを
さらっとこなす天才の類だ。
三鷹が知る男の中で一等聡くて軽い。一緒にいて楽な友達、それが五代だ。
土曜の夕方、三鷹は小松空港に五代を迎えに行った。
酒とつまみを買い込み、三鷹のマンションへ。三鷹の部屋には黒塗りのグランドピアノがある。
幅158㎝、高さ102㎝、奥行き276cm、重量500㎏。フルコンサート用グランドだ。
「上がれよ」
三鷹は屋根を閉じたグランドピアノの上に五代を招いた。
五代はピアノの上にあがるのも、ピアノの上で酒盛りをするのもはじめてだ。
ピアノ好きなら眉をしかめるだろうが五代はそういう事を気にしない。
先に上に登った三鷹が差し伸べてくれた手を取り、喜々として上がりこんだ。
缶チューハイやビールの空き缶、灰皿と煙草、食べかけの軟骨の唐揚げ、ソフトさきいかに柿ピー、
カイワレを散らしたポテトチップスに、青じそドレッシングをかけた三鷹のオリジナルサラダなどで、
ピアノの上はあっという間に乱れた。

五代は右肘をつく肘枕、いわゆる涅槃のポーズで長々と寝そべり缶チューハイを飲んでいる。
三鷹は寝そべっている五代に、ビールを6缶空けながら、惚れた男が結婚したことから、
志井がまだ自分を好きでいてくれていると自惚れていたことまでうだうだと語り自嘲した。
「まいってるね~? 癒してあげよっかぁ?」
ニヤリと笑って「♪甘いお菓子をあげましょ~ 抱いてあげましょ~」と名曲を口ずさむ五代を
「俺、バリタチなんで」と受け流し、三鷹は不敵な笑いを浮かべた。志井と竿姉妹になる気はさらさら無い。
「え~!? 前から一度、お手合わせ願いたかったんだけどな。まいってるときが時は今でしょ」
五代には「バリタチの友人」が自分のテクで激しく果てるところを見たいという願望がある。
「お前、どこまで節操ないんだよ」
学生時代アメフトで鍛えた、それなりに重みと厚みのある自分をピアノの上に押し倒そうとした五代を
両手両脚で押し返しながら三鷹は苦笑した。
「お前と寝るのはマジ勘弁。友達でいられなくなりそう」
「小難しいこと考えんなよ。 三鷹も男同士のカジュアルセックス好きだろ?」
「まあな……」

五代を押しのけ、煙草に火をつけ深々と吸い、三鷹は低く笑ってから言った。
「彼女いたこともあるけどさぁ、男に夢中になんのは、気持ちよさが男>女だからだもんなぁ」
「そうそう、存外に」
五代は忍び笑いをし、女の子より締め付け感が凄い、男の方がイッたのがわかりやすくて萌える、
責任持たなくていいからお後もいいと、指折り数え
「と、いうわけで!」と三鷹を見た。
「と、いうわけで。じゃねーよ」
苦笑ひとつ灰皿に煙草を押し付けると三鷹は言い切った。
「俺は息子にしたい放題させてきたヤリチンなんですぅ。そこんとこよろしく、な?」
下になる気はない。だが、五代は三鷹の主張をまったく無視して、指輪を外し、ブレスを外し、
自分のデニムのファスナーを下げはじめた。
「大丈夫だって、俺はキヨッパに優しいぜ。 ハードに犯したりしねえよ!」
清童と書いてキヨッパ。五代のいうとおり三鷹は清童だ。
乙女椿のつぼみの様に固いアナルは男を知らない。五代の粗チンで清童を散らすのはごめんだ。
「ファスナー上げろ、バァカ」
そう言いながら三鷹は、五代がデニムから引っ張り出した一物をちらっと見た。
粗チンじゃなかった。なかなか格好いい。だが勝った。半勃ち状態では三鷹の勝ちだ。
勃起時はどうだろう?
「ケツ貸してよ」
目測していたら、後の孔を晒せと促された。
「断る」
三鷹は煙草に火を着け煙を吸うと、フーッと五代の顔に吹きかけた。
「お前とはやらねぇー」
「何で?」
えらく怪訝そうに訊ねる五代に三鷹は即答した。

「友達だから」
「友達だからセックスもできるんじゃねー? あんた今、結構HP減ってるみたいだし、
性欲と同情でしてやるよ。俺とセックスしたら元気が回復するぜ」
三鷹は片頬で笑い五代に二者択一をせまった。
「ニフラムで消されるのと、バシルーラで遠くにふっとばされるのとどっちがいい?」
「三鷹にホイミをかけたい」
くるむような眼で三鷹を見て五代はそう答えた。
ホイミは回復呪文だ。全快は無理だが、人一人をちょっとだけ元気にすることはできる。
大真面目に答えた五代の眼が、むかし実家で飼っていた、くいしんぼうの優しい犬にそっくりで、
三鷹は小さく笑った。からだいっぱいに、五代の誠意がトクトク流れ込んでくる。あたたかい。
その実、性欲と同情だけじゃないのがよ~くわかった。
三鷹は五代のきらきらした強い眼をじっと見つめ、
さっきからもうずっと丸出しの元気な愚息を改めて見た。
しゃーねえなぁ……。かまってやるか!
「……とりあえずそれ、どうにかしてやるよ」
「マジで!? ケツかしてくれんの!」
「兜合わせでいいだろ。扱きあって抜きあおうぜ」
「えぇ~! ケツがいい! ケツかしてよぉ、元気を注入してやんのに!!」
「この俺がペニスを重ね合わせてやるって言ってんだぜ? 感謝しろよ」
煙草を燻らせながら三鷹にふっと笑みをむけられ、五代はドキッとした。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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