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芸人 モンスターエンジン「ヒーロー」 ゴッドハンド洋一×大林

1乙
早速使わせてもらいます
生(半生?)注意

オワラヒの怪物エソジソがやってるコント「ヒー□ー(ゴッドハソドよういち)」の設定で、
ゴッドハソドヨウイチ×オオバヤシです。微妙にリアルネタも混ざってます。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

沈みかけの夕日に赤く照らされた公園。
狭い敷地内に古びた遊具がいくつかあるだけのそこは昼間でも滅多に人の姿が無いのだが、
そのひっそりとした静けさゆえに、ヨウイチにとっては貴重な安らぎの場となっていた。
彼はゆるやかな風が吹くだけでもギイギイと大袈裟に軋むブランコの、
左右あるうち左の方に腰掛け、目に染みるほど鮮やかな茜色の空をぼんやり眺める。
表情に滲む疲労は色濃い。

祖父の家の蔵で見つけたブレスレットを興味本位で着けてしまった数ヶ月前、
その日からヨウイチは異形の左手と人知れず世界を護る過酷な運命をその身に負った。
左手のことは既に学校中にばれているし、戦っていることも一部には知られているが、
それでも世界中の多くの人々は、自分が少し前までごく普通の高校生であった存在に
日々命懸けで護られているのだということを知らない。
その事実はヨウイチの心に一抹の虚しさを与えるが、それでも彼は戦い続けている。
今日だって、ほんの30分前まで戦っていたのだ。
人に疎まれ嫌悪される醜悪な左手を武器に、世界を護るために敵を葬ってきた。
──別に、そない張り切って護る義理もあれへんのになあ……
左手に視線を落とし、内心でぽつりと呟く。無事に勝利したのに、心はちっとも晴れない。
戦いのあとはいつもこうだった。戦っている最中は、自分がこの世界を護っているのだという
使命感に突き動かされ、更には人とは違う運命が齎す非非日常的な高揚感にも手伝われ、
ヒーローとして振舞える。しかし、戦いが終わって日常が戻ってくると、ヒーローは
まだ脆弱な16歳へと戻ってしまい、その狭間で、彼の胸の奥はいつもちくちくと痛んだ。

耳の奥に蘇るのは、自分を虐げるクラスメート達の声。左手が"こう"なったことで
皆から疎まれることになってしまった我が身を振り返ると、命懸けで戦うことが
ひどく馬鹿馬鹿しく思えてしまう。ヨウイチは俯き、口からは重い溜め息が漏れた。
──と、その時。

「左手バケモンのニシモリやんけ」
いきなり声をかけられて、ヨウイチは弾かれたように顔を上げた。すると視線の先に人影。
立っていたのは、自分をいじめている1人──むしろ誰より自分に絡んでくるオオバヤシだった。
「何しとんねん」
オオバヤシはゆっくりとヨウイチに近付き、正面に立つと、いつも通りの冷めた調子でそう尋ねた。
ヨウイチはふいと視線を逸らし、嫌いならわざわざ近寄らなければいいのにと内心でぼやきながら、
「ただの休憩」と小声で返す。そうしたあと、態度が悪いなどと言ってまた殴られるかなとも思ったが、
その不安は的中しなかった。代わりに、予想外の行動をとるオオバヤシを目の当たりにするのだが。
「……また、何やわけのわからん連中と戦っとったんか」
言いながら、オオバヤシは空いている方のブランコに腰掛けた。両足を地面につけたまま中途半端に漕ぎ、
ギイギイと音が鳴る。まさか進んで自分の隣に座るなんて思いもしなかったため、驚いたヨウイチは
ぽかんと口を開けてオオバヤシを見た。そして、「答えろやボケ」と睨まれたため、慌てて頷く。
とりあえず彼には自分の境遇を知られているので、下手に隠す必要は無い。
一方のオオバヤシは、焦りのため必要以上にぶんぶんと頷くヨウイチを横目で確認したところで
「ふうん」と自分で訊いたくせに興味無さげな返事をした。それから、二人の間に沈黙が生まれる。

いじめっ子といじめられっ子の関係である以上、少なくともヨウイチにとって今この空間の居心地は最悪だ。
そもそもオオバヤシの意図が掴めない。クラスの誰より自分を疎んでいるくせに、何故わざわざ
接する必要のない今こんな風に近寄ってきて、しかもいつもみたいに苛めたりするのではなく
大人しく並んで座っているのか。本当にさっぱり分からず、ヨウイチは心の底から困惑した。
せめてこの沈黙をどうにかしようと思うが、自分が何かを言えばそれだけでまた睨まれそうな気がして、
ならばさっさと立ち去ろうと考えれば、余計にオオバヤシの怒りを買いそうに思えて結局なにも出来ない。
仕方なく彼は、どうか一秒でも早くこの空気から解放されますようにと天に祈った。
そんな心情を知ってか知らずか、オオバヤシは依然として冷めた調子で、再び口を開く。
「アホやろ」
「、え?」
「世界のためか知らんけど、そんなバケモンみたいな手ぇなってまで、何でお前が戦わなあかんねん」
「……、」
ヨウイチはゆっくりとオオバヤシを見た。オオバヤシはヨウイチを見ない。
だからヨウイチの視界に映るのは横顔だけ。だがこのとき彼は、こうやって横顔だけとはいえ
オオバヤシの顔をちゃんと見るのはひどく久し振りのことになるのだと思い出した。
そして、ああそういえばオオバヤシはこんな奴だったとなんだかとぼけた感想を胸に抱く。
やたら手の込んだ髪型で、目が細くて色白で女受けする顔、でも手足、特に足が短くて筋肉質で、
あとそういえば今こうしてまじまじと見たことで気付いたが入学当初より少し太っている。
「ほんま、肉団子みたいやなあ……」
気付くとヨウイチはそんなことを口走っていた。それはもちろん頭に大のつく暴言であり、
オオバヤシを怒らせるには充分過ぎる。壊れたおもちゃみたいなぎこちない動きでオオバヤシは
ヨウイチの方を向き、射殺すような鋭さで睨みつけた。

「誰が肉団子みたいやとコラ、ボケ」
普段より更に低い声で凄まれ、自分がとんでもない勢いで口を滑らしたと既に自覚済みのヨウイチは
左右にぶんぶんと首を振りながらとりあえず弁解を試みた。しかし極度の焦りが更なる失敗を招く。
「ちゃう、別に太ってきたからとかやないねん、入学式ん時から密かに肉団子みたいやなって思とってん!」
「入学式からて、結構長いこと思とったんやないか! お前ホンマしばきまわすぞボケェ!」
「いや、肉団子いうても悪口やなくて、むちむちしとってかわええなあぐらいの感じに受け取ってもらえれば……」
「思えるか! ほんでよう考えたら思えても嬉しないわ!」
「あ、ほな『ムキムキジョソレノソ』とかのがええかな」
「何やねんそれ!」
わざととしか思えない失言を重ねつつ、ヨウイチはさすがに今度こそ殴られると思い目を瞑った。
覚悟を決めて、歯を食いしばる。だがそのまま暫く待っても予想した痛みや衝撃は来ず、
恐る恐る目を開けると、元通り正面を向いたオオバヤシの不機嫌そうな横顔があるだけだった。
なんとなく拍子抜けし、ヨウイチはおどおどと様子を窺いつつ尋ねてみる。
「な……殴らんの?」
オオバヤシはちらりとヨウイチを見る。それから彼は、依然として不機嫌そうなまま、
しかし不思議と思ったほどは棘のない声でぼそりと答えた。
「ついさっきも戦ったとこやて言うとったからな」
「へ?」
「俺が殴らんでも、どうせそいつらのせいで怪我しとんねやろ……せやから今回は見逃したってもええ」
「……」
もしかして気遣ってくれているのだろうかと、ヨウイチは思う。思って、まさかそんなオオバヤシに限ってと
すぐに否定する。だが、完全に否定することもできなかった。例え勘違いでも、思い込みでも、今ここで
オオバヤシが自分を気遣ってくれたのかもしれないというその可能性に、確かに嬉しさを感じたからだ。

「……なあ」
「な、なに?」
「何でウンコのにおいやねん、その手」
「それは……僕にも、ちょっと」
オオバヤシはやっぱりヨウイチを見ない。前を向いている。ヨウイチも、オオバヤシの横顔から
視線を外し前を向いた。二人が見ているのは、地面も遊具も空気までも茜色に染まって見える公園の景色。
また、沈黙が生まれる。しかし今度のそれは、さっきと違ってヨウイチに居心地の悪さを感じさせなかった。

「あほくさ、帰ろ」
数分続いた無言の時間。それを破り、オオバヤシが立ち上がる。そして彼は、あーアホくさと呟き帰っていった。
「葬式とか出なあかんようなんのめんどいし、せいぜい死なんと頑張れや」
そう、一言だけ言い残して。独り言のような小さな声だったが、紛れもなくヨウイチに向けた言葉だ。
返事を待つことはしなかったし、ヨウイチの方も黙っていたが、ただ彼はさっき久し振りにちゃんと見た
オオバヤシの横顔を思い浮かべながら、今のその言葉を心の中で何度も何度も繰り返した。
それから、友達と話している時などにオオバヤシが見せる笑顔も一緒に浮かぶ。
遠くから眺めたことしかないが、細い目を更に細くして本当に楽しそうに笑うあの笑顔は、
今ここで思い出しただけでヨウイチの胸をじわりと熱くした。そして、彼はぼんやりと考える。
──戦って、世界護って、同時にオオバヤシを護っとることにもなるんやなあ……
ならばこれからもと思ったところで、──自分いじめる奴んこと護りたいて、どんだけマゾやねん俺──と
呆れもしたが、心は軽く弾んで虚しさも消えていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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