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幕末 某歴史半ナマ

元ネタは某歴史半ナマですが史実ネタ補完するうちに別モノになったので
該当スレではなくこっちに投下。
時代は爆松。師が年上、青年は歳下の弟子。後は適当にドゾー

「先生、足元お気をつけて。」
暗い道行きに提灯を差し出して一声を掛けると師は上機嫌に頷く。
「おう。」
暫くの間、他に遣わされていたので師と共に歩くのは久方ぶりである。
少し先に立って歩きながらちらりと手元を盗み見た。

この師には何でもかんでも隠す癖をお持ちである。
残った菓子や紙屑、柔い花弁から果ては箸置きまで。
手が空いていて触れたものがあればつい握ってしまうらしい。
そしてそのまま袂に仕舞いこんでしまわれるのだ。
普段つんと澄ました顔をしているくせに子供か動物のようだと青年は密かに思う。
人聞きにあまり裕福な子供時代では無いとの話を聞いた事があるがそれが原因かは知らない。
青年にはたいして興味の無く、ただただ愛らしいと思うばかりである。
今日も懐手にされて、一体何をお隠しになったのか。
それを思えば自然と口元が緩んだ。

「おい。」
不意に声を掛けられて少しばかり疾しい青年はびっくと肩を揺らした。
「はい、何ですか先生。」
「少し冷たくなってしまったがお前にやろう。」
犬か猫にでもするように指で招いて青年の掌に与えた物は小さな饅頭である。
確かに師の言う通り少し冷たくなってはいたが餡子の重みがずしりとする高級品である。
「要らんのか。」
呆気に取られていると焦れたように師が問う。
「いいえいいえ。戴きます。」
慌てて青年が受け取ると師はいたく満足げに頷いた。

以前これも人伝に、この師は青年ら門下の者を駒と見ている聞いたことがある。
けれど今晩のこれには少しも高慢な風情など無い。
それどころか餌付けに成功した子供のようににこにことして、何と微笑ましい事か。
(言の葉とは、何とも軽き物だろう)
実際師は随分と損得勘定の巧い人間であったしあの忠告は違っていなかった。
けれど、人は変わるのだと青年は心の内で呟く。
空の色が変わるように月が満ちるように。
不自由が増えた生活の中で少しずつ師が皆を気遣うようになったのを青年は知っている。
「数が無くて、お前だけだからな。他の者には内緒にしておけ。」
「ええええ!私だけにですか?」
思いがけぬ言葉に素っ頓狂な声を出した青年を見て師は少しだけ笑う。
「ああ、お前だけだよ。次は皆にもきちんとした土産を買って帰ってやろうな。」
普段は怖いほどに美しい師の顔が悪戯めいて幼く笑う。
こんな夜に限って月の光は煌々と照っている。
だから、青年は赤い顔を隠すのに四苦八苦して帰っていく羽目になってしまった。


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