オリジナル 「ナルシスト」
更新日: 2011-01-12 (水) 00:29:23
オリジナルでイカせてください。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
彼と出会いは一年前。僕がこのクラブで働き始めたのと同じくらい。
グラスの回収や灰皿の取り替えなんかをしている最中、変なのに絡まれてた彼を助けたのが最初。
次の夜店に来ると、お礼だと言ってビールをおごってくれた。仕事だから気にするなっていうのに聞かなかった。
あの時断わるべきだったんだ。ほとんど毎日やってきては僕に声をかける。
仕事でフロアを回っている僕にとって、彼は少々厄介な客となった。
客なので邪険にもできない。顔見知りの客は沢山いるけれど、こんなに話しかけてくる奴はいない。
「また絡まれたくないから、おまえのそばに居たがってんじゃないか?」
と、ボスはおもしろがって言う。どいつよ、と聞くので壁際に座っている彼を指差した。
「あいつか。何かさあ、おまえに似てない?」
言ってる意味が分からなかった。けれど、改めて彼を見て驚いた。
いつも暗いフロアで会っているから、気がつかなかった。
元々身長や体型は似ていたけれど、着ている服は前はネルシャツとかじゃなかったっけ。
鋲つきの太いベルトやコンバース。リストバンドの色も同じ。
髪だって確か金髪でウェーブがかかってたはずだ。なのに今は僕と同じ黒髪でストレートになってる。
真似してるんだろうか? バーカウンターを仕切るタニアにも聞いてみた。
「うーん、似てるかもね。でもあんなのよくあるファッションだし、自意識過剰じゃない?」
あなた、ナルシストなとこあるからなあ、といって笑われた。それならいい、気のせいかもしれない……。
「そのバンド好きなのかい?」
前に僕が着ていたものと柄は違うけれど、同じバンドのTシャツを着ていた。
「うん。ファンなんだ。君もだよね」
ボスが似てるなんて言うものだから、気になってしょうがない。
試しに、よく知らないメタルバンドのダサいTシャツを着てみた。もちろん好きでもなんでもない。
周りはおもしろがってくれたし、まあ、おまえだから、と笑ってくれた。
なのに彼はしばらくして、大まじめでそのバンドのTシャツを着てきた。
やめてくれと言いたい。でもたぶんタニアのように、自意識過剰と言われるに違いない。
その代わり、彼を完全に避けることにした。客だとかなんだとかもう気にしていられない。客一人失ったって痛くも痒くもない。
クラブに居ながら、彼はフロアで踊るでもなく、僕を目で追っている。無視すりゃもう来ないだろう。
でも彼はあきらめなかったらしい。
「新しくバイトで入った子だよ。今日からフロアで働くから、色々教えてやって」
開店前、ボスが紹介したのはまぎれもなく彼だった。びっくりする僕と彼を交互に見て、ボスはのんきに大笑いする。
「いや、ホント似てるなあ。双子みたいだ」
彼は何も言わず、僕に笑いかける。
明るい場所で彼を見たのは初めてだった。瞳の色が透き通るくらいのブルーで、染めた黒髪がとても不思議な印象を与える。
僕は元々黒髪だし瞳の色も茶色。どうせもう少ししたら、カラーコンタクトでも入れてくるに違いない。
もう、無視することもできなくなった。彼のそばにいて、彼を見つめて、仕事を教えなくちゃならない。
最近はちょっとした仕草まで似てきたものだから、常連の客や、果てはボスまで僕らを間違えるようになった。
誰かが僕の名前で話しかけてきても彼は否定せずに、むしろ喜んで喋っていた。
僕が呆気にとられて見ていると、おどけて僕の真似をしてこちらを覗き込む。
悪びれた様子もないので、何だかどうでもよくなってきた。
「もしかしたら、あなたになりたいのかもね」
カウンターで休憩してると、タニアが言った。自意識過剰だって言ってたくせに。
「昨日ね、あの子と寝たの」
「え?」
「でもさ、ベッドに私といるっていうのに、あなたのことばっかり聞いてくるんだよね。まあ、上手だったからいいけど」
誰とでも寝るんだな、と言うと、あれ、嫉妬してる? と笑った。嫉妬? 一体誰に?
僕になりたいってどういうことだろう? でも彼が僕になりかけているのは確かで、今日も右腕に同じタトゥーをしていることを知った。
よくあるツタの模様だけれど、位置まで同じだ。
だから彼が仕事帰りに、見せたいものがある、と僕を部屋に誘ったときも、これ以上驚くようなことはないだろうと思っていた。
これ以上似せるところなどないと。でも、それは間違いだった。
彼の部屋にあったもの。それは僕の写真。それも部屋中にびっしりと。
ありとあらゆる角度から、着ていたTシャツや、首にかけたペンダント、耳元のピアス、腰のベルト、指輪、僕の全てが写っている。
もちろん腕のタトゥーも撮られていた。
呆然としている僕を、彼は嬉しそうに見つめている。
「君に受け入れてもらいたかったんだ。でも、君は誰も受け入れない。だって、君が好きなのは君自身だから。
君が愛してるのは君自身だけ、だろう? 開店前の誰もいないフロアで、鏡ばりの壁にキスしてたよね」
「見てたのか」
「まるで恋人にでもしてるみたいだった。タニアが言ってた。ベッドで君はずっと目をつぶっていて、彼女を見もしないって。
おまけに君からは何もしてこないってさ。ずっと自分のことを考えてたんだろう? わかるよ。君はとてもきれいだもの。だから、確信したんだ」
部屋中に貼られた写真。そうだね。何が驚いたかって、部屋を覗かれたのかと思ったから。
ここは、僕の部屋と全く同じだから。
まるで10代の女の子がアイドルのポスターをベッドサイドに貼るように、叶わない恋に心を締めつけられながら、僕は自分の写真を眺めてる。
そして、鏡に映った自分にキスをする。
「僕を抱きしめていいよ。好きにしていいから」
言われるままに僕は彼を抱きしめる。僕を抱きしめる。結局、こうなることを望んでたのかもしれない。
仰向けにベッドに寝た僕の腰を、鏡から出てきた僕が撫でる。
「こんな所にもタトゥーがあるんだ。大丈夫、明日彫ってくるよ」
温もりを持った身体が覆いかぶさってくる。僕は熱に浮かされたように自分の名前を呟いた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ありがとうございました。
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