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FLESH&BLOOD ナイジェル×カイト

眼帯×赤毛。
眼帯の幸せを祈ったらやっぱりこんな感じになりました。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 船を降り、陸地に上がってから程なくして俺は宿屋のベッドの中にいた。どうやら疲労という悪魔は、自分が
思っていたよりも深く俺の体を蝕んでいたようだ。それとも、今の俺には休息が必要だと神が与え賜うたもの
なのか。
 だとしたなら、それは悪魔よりも酷な仕打ちだ。こうしてじっとしていれば、自然と考えてしまうのはただ一つ
のことに決まっているのだから。
「ナイジェル、起きてる?」
「……カイト」
 ベッドの脇から自分を覗き込むのは双つの瞳。きらきらと輝きを放つそれをもっと見ていたくて、額にかかる
赤毛をそっとはらってやる。しっかりと真正面で目が合って、カイトは照れたように目を逸らした。とはいえ、彼の
的は別にある。
「熱は?」
「大分ましになった」
 答える俺の額に手をあてて、即座に「嘘つき」とカイトは口を尖らせる。もう、と言いながらも盥の中の布を絞り、
脇の布と交換した。それはひんやりと冷たくて気持ちがいい。カイトは本当に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
「本当だ。気分はいい」
 まるで言い訳のようだったが、実際その言葉に嘘はなかった。それにしても、とカイトは口を開く。
「ナイジェルって実は体が弱いのかな」
 言われて目を丸くし、「馬鹿を言え」と一笑に付した。
「少なくとも、いつまでもひよっ子のお前よりは鍛えてる自信はあるぞ。お前、今もあまりちゃんと食べていないの
だろう?」
 軽く左の頬をつまみ、離した。つままれた頬に手をあてて、カイトは複雑そうな表情をした。

「そういう意味じゃなくって」
「なら、どういう意味だ」
 片眉を上げた。問われてうーんとカイトは唸った。
「風邪を引きやすい、とか」
 言われて、しばし思案顔をする。
「……そうだな。ひょっとすると」
「なに?」
「俺はお前に看病されたいのかもしれないな」
「もう、ナイジェル」
 そうして頬を膨らませる仕草も、子供じみているが可愛い。こうしてカイトと他愛もない会話をするのは、いつだって
何よりも自分の心を楽しませた。もっと話していたい気にさせてくれる。
「ところで、ジェフリーはどこへ?」
 金髪の友人の姿が見えない。彼のことだから、何かしらちょっかいを出してくるだろうと思ったのだが。
「買い物に行ってるよ」
 そうか、と答えようとして疑問を抱いた。
「お前はどうして付いていかなかったんだ? いつもだったら喜んで付いていくだろう」
「ナイジェルの看病をするからって言ったから」
 つまり、ジェフリーは恋人よりも俺との友情を優先させたということか。彼自身の嫉妬心よりも、カイトや俺への信頼が
勝ったのだとしたら、友の忍耐力はなんと有り難いことだろう。彼のその思いに今はただ報いるべきだ。要するに、さっ
さと快復しなくては。
「疲れたでしょ? もう少し寝てなよ」
「ああ……そうするとしよう」
 気の利くカイトの手がシーツを掛け直す。ラベンダーの香りが鼻腔をくすぐった。深い眠りに落ちるのは間もなくだった。

 それからどれくらい時間が過ぎただろうか。目が覚めると、宿屋ではなく自宅のベッドにいた。側にはカイトがいる。
「体調はどう?」
 言うが早いか、ぎしりとベッドが軋む。目の前にはカイトの顔があった。理解が追いつかない。これは夢なのか。
「……カイト?」
 キスを求めるかのような唇。そのことに、悲しいがこれは夢であることが間違いないと確信した。カイトがそんなことをする
筈がないのだ。なんと浅ましいのだ、俺は。無二の友へ感謝しておきながら、その裏で望んでいるのは、こんなことか。
 彼の唇に触れてみたいと思ったことがないわけではない。それどころか、一度は密かにその唇を盗んだこともあった。その
己の愚かな行為が、大いなる後悔を招くことになるとは知らずに。その事を思い出すと、今でもちりちりと胸を苛まれる。
 彼への思いは、誰にも告げることなく深く閉ざしておくつもりだった。そうするべきだったのだ。
「ねえ、ナイジェル?」
 恋人のような親密さで、首にカイトの細い腕が回される。体を動かすことはおろか、何も答えることができない。夢の中でさ
え自分は熱にうなされているのか。
 これはもしや淫魔の類いか、と思いを巡らせた。眠りに落ちた男を誘惑し、その精を搾り取るという悪魔。カイトの姿を取る
ことは、自分への誘惑の成功を招いたようだ。目の前の相手に口付けたいという、抗い難い衝動が身を襲う。
 心の底から愛する人間が目の前にいて、正常な判断が下せる人間がそうそういるだろうか。自分もまた同じだった。
 本人ではないのだからとそう無理矢理に自分を納得させ、カイトの顔をした“それ”を支えながら体勢を変える。そうすれば、
ベッドにカイトを組み敷く格好になる。カイトは少女のように躊躇いがちに瞼を伏せた。
 まずは額にキス。降りて柔らかな頬。それから甘美な唇を味わう。次は細い首筋。そして肩。口付けるごとに理性が少しずつ
剥がされるようだ。
 止まらない。……まずい。
「……俺は我慢強いつもりでいたんだが」
 殊の外、誘惑には。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )オシマイ


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