ハゲタカ 守山×劉
更新日: 2011-01-12 (水) 00:28:29
・禿げ高ドラマ・映画ともにネタバレしています。
・捏造・想像など多数あります。
・銛山×柳です。ぬるいです。
・テンプレは1/10と10/10、本文は8レスになります。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
銛山は錠に鍵を差し込んで、違和感に気がついた。開いている。
ぎょっとしてノブを回した。金属製の冷たい音を響かせてドアを押し開けた。強盗の
可能性も頭の片隅をよぎったが、まず体が動いた。よくない癖だ。
玄関の豆電球は点いていなかった。1DKの部屋から光が差し込んでいる。回収日に出し
忘れたゴミと古雑誌が半畳もない玄関に積み上がっている。くたびれたスニーカーがばら
ばらに放り出してあった。
いつもの風景の中に、よく磨かれた革靴が左右きっちり揃えておいてあった。
部屋のテレビからだろう、女子アナウンサーのものらしい無意味に明るい声。
「おかえり」
散らかった五畳半の部屋に不似合いなベストの背中が振り返った。あぐらはかいたままだ。
「……何してんの」
銛山が唖然として訊くと柳は片手に鍵をぶらさげて見せる。
「ポストとかさ、分かりやすすぎるところは止めたほういいよ」
蛍光灯の下で柳は笑い、また背を丸めた。狭い汚れた部屋の中で埋没しようとする、
張りつめた背中。
「………」
銛山は何も言わずに部屋にあがった。右手に下げたビニール袋が唐突にどうでもよくなる。
脱ぎっぱなしの洋服の上に放り出した。
10インチのテレビ画面を何の目的もなさそうに眺める柳の傍らに立った。
「……ここ」
「うん?」
柳がぼんやりとした視線で見上げる。無防備なようでその実、人を突き放す目をしている。
「ここ、俺のうちなんだけど」
抗議を込めたつもりが柳は頷いて受け流した。
「……何しにきたの」
改めて問う。柳は首を捻って、「様子見かな」と答えた。
「様子見ってなんの」
「見つかった? 次の職場」
「………」
銛山は顔を歪める。嫌なやつに嫌なところに触れられた気分だった。
「……あんたが」
「座りなよ、…話しにくいから」
口に出そうとすると機先をとられた。
仕方なく柳の目の前に同じくあぐらをかいて座る。テレビはもはやうるさいだけだった
が、消すのも躊躇われた。
消してしまえば、おそらくまたこの男に飲まれてしまう。どんな話でやってきたにせよ
利用されるのはもうごめんだった。
「400万、どうした? もう使った?」
柳が銛山の目をのぞきこむ。銛山は柳が、柳のこういうところが苦手だ。
「……生活費とか……、ちょっと使ったけどまだ大分ある」
「どうするの」
「……どうって」
「このまま貯金にしとくのも、止めないけど。ちょっとずつ減ってくだろ」
「それは……」
「どうする? どう使うかは君の自由だ。だがこのまま、部品として使い捨てられる人生?
それでいいのか?」
銛山は柳を睨み付ける。
「……もう利用されないぜ」
柳はわずかに笑って目をふせた。
「今回は、純粋な興味だよ。意図はない」
「………」
「わかっただろ? この世界の仕組みを動かしてる人間がいるってことが。とてつもない
額の金を言葉一つで動かして、莫大な利益を得てる連中がいるんだ」
「……それ、あんたのこと?」
「株価ってあるだろ。あんなの、ただの数字。数字なんだよ、だけどその数字の大小で何
万の人生が狂うんだ。それを動かしてる人間がいる。それ以外の人間は絞りとられるだけ
絞りとられる」
「………」
「絞りとられるだけの人生でいいのか? ……動かす側になりたくないのか」
銛山は目を見開く。
「そんな」
「狂ってるよ。腐ってるんだ、この国もこの国の企業も。どうしたらいいのか、わかって
るんだろ?」
間近にある黒い瞳を見返す。
感情を読ませない、けれども様々な思いを溶かし込んだ小さな宇宙に似ている、その瞳。
「飼い慣らされるなよ。……強くなれ」
目をそらすことができたら良かった。
「……あんたなんなの」
「ん?」
訊くと柳は首をかしげる。この男は時々、仕草が幼い。
「俺の利用価値、もうないだろ。何がしたいの。心配しなくても言わないよ、もう400万
もらったし」
とたんに柳はくつくつと笑いはじめた。蛍光灯の青白い光に眼鏡のレンズが反射している。
端正な容姿だと思う。作り物めいたこの顔で、人を手玉にとり企業を手玉にとり、巨万の
富を動かしている。
どこか現実味に欠けていた。
いつまで笑ってるのか文句のついでに問いかけようとした瞬間、柳がおもてを上げる。
彼は真顔で、
「ねえ、飯くわない?」
と言った。
この男が読めない。
「……うち、なんもないけど」
「さっき買ってきてなかった?」
「……あれ、カップ麺だし」
「夕飯?」
「うん」
「どっか食いにいく?」
当たり前のように柳は言った。はぐらかされようとしている。
「……なんで俺に構うの。あんた、この世界の仕組みっていうの、動かす側なんだろ」
銛山は同じ問いを口にして柳を窺った。彼はしばらく沈黙し、小さく息をついた。
「……昔の俺に似てたから」
「なに……」
「俺の生まれたとこ、ど田舎なんだよ。知ってる? 中国のど田舎ってさ、文字通り何も
ないんだよ。電気も水道も何もね。少なくとも俺が生まれたところはそうだった。
靴も何年も履いてはきつぶすようなところでね。成長の早い子供なんか、裸足なんだよ。
風にあおられながら、裸足で石だらけの畑に籾を撒く、そういうところだ。
中でも俺のうちは貧しくてね。俺、父親いなかったから」
銛山は息を呑んだ。
柳は目をふせて少し笑った。その目線を追うと左手の掌で、もう一方の手首を覆っていた。
指の隙間から古びた数珠が見える。
「母親は耐え難い苦労をした。それもこれも、俺を金持ちにするためにね」
わずかに語尾が震えて情愛が滲んだ。
「……必死だったよ。生きていくために、そして手にいれるために」
「手にいれるって、何を……」
「あらゆるものを思うままにできる。生まれも育ちも、人種さえも関係がない。それが金だ。
金の価値は変わるが、金の力は絶対だ」
「……金が強さ?」
「そういう世界に俺たちは生きてる。強くならなきゃ食い潰されるんだ」
テレビが夕方のニュースを垂れ流している。内閣の大臣の誰かが不祥事の責任を取って
辞めたらしい。野党の誰かやコメンテーターがそれを非難する発言を放映している。
持ち上げては落とし、弱った者から食い散らす。この世界は禿鷹に満ちている。
「かといって金の使い方が分かったわけでもないけど。大金を自由に使えといわれても逆
に困るんだ。……困っただろ、いきなり400万渡されて」
「……ああ…うん」
見透かすように言われて、銛山は戸惑う。この男が次に何をするのか、まったく予想が
つかない。
『次は特集です。中国系巨大ファンド、ブルー・ウォール・パートナーズによる買収騒動
で揺れるアカマ自動車ですが、今日はこの騒動の核心に迫ってみたいと思います。解説を
してくださるのはK大学の……』
柳は瞬間的に口をつぐんだ。自然、視線はテレビの画面に移る。
何度も放送された柳の会見の様子が繰り返される。どうやらこの番組は柳に好意的らしい。
もっとも残留日本人孤児三世という経歴のせいか、往々にしてマスコミの柳への矛先は
鈍かった。もしかしたらこの男の容姿のせいもあるのかもしれない。
「……どんな気分なの」
黙りこくった柳にふと問いかける。
「何が」
「自分がテレビに映るって、どんな気分?」
柳はしばし考えてから答える。
「別にどうとも思わないな。日本の世論はマスコミに左右されるから、どんなふうに映って
どんなふうに放送されるかは気になるけど」
「へえ。……なんかすごいな」
銛山は呟き一緒に画面を眺めた。
「なんで。すごくもないよ」
柳は淡々と応じ、床に両手をついてあぐらの足を組み替える。
テレビではフリップを使い、この騒動を解説している。銛山は先頃までの派遣先である
アカマ自動車の名前を苦い思いで聞いた。
『柳代表のブルーウォールの買収に対してホワイトナイトとして名乗りをあげたのが、
この、和紙津ファンドです』
柳の肩がびくりと震える。銛山は驚いて彼の様子を横目で探った。
『この和紙津ファンド代表、和紙津雅彦氏は四年前、日本を騒がせたサンデートイズ、
大空電機の買収などで“ハゲタカ”として有名になった人物でもあります。当時、和紙津氏
はアメリカのファンド、ホライズン・インベストメントワークス・ジャパンの代表を
つとめており……』
和紙津雅彦の写真がテレビに映る。
柳は明らかにそれを注視していた。食い入るように画面を見つめる。
自分のニュースでさえ平然と受け止めていた彼を思うと、異常としか言えなかった。
『和紙津氏は“ハゲタカ”ファンドという名前を日本に広めた人物ですが、さて、この
騒動どう思われますか?……』
アナウンサーは一旦言葉を切り、解説者に話を振った。
柳は詰めていた息をそっと吐いた。黙ったままの彼に、銛山は疑問を口にした。
「あのさ、……“和紙津雅彦”って何?」
「………」
柳は答えない。画面を眺める振りをしている。
銛山は微かに心がさざめくのを感じた。
「……伊達眼鏡」
柳がようやく銛山のほうをかえりみる。能面のような無表情だ。
「だろ、それ。なんで?」
少しの間、ただ見つめあっていた。
銛山は痺れをきらし彼に手を伸ばした。指先が柳の眼鏡のツルに触れようとした瞬間、
その手を掴まれる。
明確な拒絶だった。
思わず柳を振り払い、再び眼鏡に指をかける。今度は意志をもって彼の顔から眼鏡を奪
った。
「……返せ」
柳の声は底冷えがするほど低かった。
「嫌だ」
銛山は即座にそう答えた。じっと睨み合う。
『……さて、ここでホライズン・インベストメントワークス・ジャパン代表当時の和紙津
氏のVTRがありますのでどうぞ』
アナウンサーの言葉に、柳は弾かれたように画面を振り返った。
かっとなった。
柳の肩を突き飛ばして床に押し倒す。柳は目を見開いた。彼が抵抗する素振りを見せた
ので馬乗りになり、腰骨に膝を当て肩を掴んで体重をかける。
柳はしたたか背中を打ったらしい、軽く咳き込んだ。
彼の身体の下で、菓子か何かの入れ物だったらしい紙の箱が潰れた。
「……なに、してる」
柳は咳がおさまるなり問う。覆い被さった銛山の影が柳の上に落ちている。
「……なに、って」
なんだろう。自分は何をしたいのだろう。銛山自身にも分からなかった。
分からないままに頭を落とした。静かに唇を重ねる。冷たい乾いた感触がした。
テレビでは三葉銀行とホライズンの話をしている。
唇を離すと柳の驚いた顔が見えた。彼の驚く顔というのは単純に珍しい。
「……抵抗、しないの」
それきり黙り込んでしまったので訊いてみると、柳は抑揚のない声で答える。
「賢い人間は運命に逆らわない」
銛山は笑った。笑ったつもりだったが、失敗したかもしれない。
心臓がどくどくと脈打っている。脳の奥のほうがぐつぐつと煮立って、堰きとめられた
溶岩のようだ。
「こんなときでも?」
まるで自分の声ではないかのように頭に響いた。
「……こんなときでも」
柳は微かに口の端をもちあげて、右手を頭の上にやった。数珠が床にぶつかって音を
立てる。
「……好きだよ」
「………。俺も好きだよ」
互いに確認するように口にして、これからの行為を正当化することにかろうじて成功した。
再び顔を近づけて舌を絡ませる。ぬるぬるとしたものが咥内でうごめく。
テレビはもはや意味のない音を流し続けている。
『お金を稼ぐことがいけないことでしょうか。……いけないことでしょうか?』
挑発的な調子の言葉がスピーカーから吐き出された。
和紙津雅彦。
「……銛山」
柳が銛山に呼び掛ける。銛山は柳のシャツの裾から手を滑り込ませながらそれを聞いた。
「……株とか、教えようか」
「株?」
銛山は顔をあげる。柳を見下ろす。
底なしの黒い瞳が銛山を映している。蛍光灯の明かりが瞳に反射してきらきらしている。
綺麗だと思った。
「知りたくない? この世界を動かす仕組み」
「……俺にわかるの」
「わかるよ。理解して、動かす側に回れよ」
しばらく考えてから銛山は頷き、また指と口を使って彼の身体をまさぐりはじめる。
柳の左手が銛山の後頭部に這わされる感じがした。そのまま、ぐしゃぐしゃと力任せに
髪を掻き回された。
最後に規制されてしまいました。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
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