GR 地球が静止する日 怒鬼×幽鬼 後編
更新日: 2011-01-12 (水) 00:28:21
72の続きになります
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そして翌朝。
熱はきちんと下がり、心配するカワラザキにもその事を伝えた幽鬼は
通常通りに本部へと出勤した、が。
「やあ、こんにちは蝶々さん!」
朝っぱらから嫌な男に会った、と思った。
廊下の向こうから白いクフィーヤをひるがえして歩いてくるこの男は、
最近他人に妙な呼称を使うのが気に入っているらしい。
先日などは衝撃のアルベルトに対し「おはよう私のお砂糖さん!」などと大声で呼びかけて
瞬時に衝撃波で吹っ飛ばされるところも幽鬼は目撃していた。
彼はアルベルトほど導線が短くはないので即座に攻撃に出るような真似はしないが、
それでも文句の一つくらいは言わないと気が済まない。
あとは、相手が言って聞くような男であれば尚良かっただろう。
「その呼び方はやめてくれと言っているだろう」
「ううんつれないねぇ。いつものことだけど。それより聞いたよ、昨日のアレ」
具合を悪くして、怒鬼に運ばれたんだってね!抱っこされて!
そう言いながらはしゃぎたてるセルバンテスに、幽鬼は頭を抱えたくなった。
「昨日は怒鬼、かなり落ち込んでたらしいよ?どうせまた邪険にしたんだろう。
もう少し優しくしてあげてもいいと思うんだけどな、おじさんは」
「必要ない」
「そうかな~。怒鬼が可哀相だとは思わないのかい?
確かに得体は知れないけど、あれは素直でいい子だよ。
だいたい、あんなに一途に君のことが好きなのに」
「……何だって?」
なぜそこまで知っている。
いつものように下らない事をぺらぺらと喋るセルバンテスの言葉を
軽く聞き流してしまおうとした幽鬼は、
しかし途中で聞こえてきた不穏な内容に思わず振り返ってしまった。
昨日の件は、テレパシストである幽鬼すら寝耳に水だったのだ。
人の心を読む力を持ちながら無闇にそれを行使しない幽鬼ではあるが、
一切喋ることをしない怒鬼が相手のコミュニケーションではいくらかのテレパシーは必要である。
もちろん、多少の会話に用いるくらいでは相手の心の奥底までは覗けはしない。
しかしこれまでの短くない付き合いで、そういった心を少しも感じ取らせることすらなかったというのは
幽鬼にとっては驚くべきことだったのだ。
「そんなの、見てればわかるよ」
セルバンテスは簡単に言ってのける。
「私にだって彼のつらさは良くわかるよ、思う相手が振り向いてくれないというのは
そりゃあもう絶望したくなることだものね。だから、私は気持ちだけは怒鬼の味方だよ」
「どういうつもりだ?」
「おっと、気持ちだけだよ、あくまで気持ちだけ。
ちょっかいをかけたりはしないから安心しておいで。それとね――」
「…………」
「それとね、君はもう少し世界を知った方が幸せになれると思うんだ。
爺様だけを好いて生きるのもいいけど、それ以外を全く拒絶するっていうのは……
そんなんじゃ、爺様も安心できないんじゃない?もっと周りにも目を向けた方がいい」
「……余計な世話だ」
「そうかもね。ま、おじさんからの好意のアドバイスってことで」
不敵な笑みを残してセルバンテスは去っていった。
それからしばらく歩いたところで、今度は孔明がやってくるのが見えた。
傍らには樊瑞がおり、おそらくまた作戦の内容などでもめているのだと思われる。
なぜこうも会いたくない人間ばかりに行き会うのかと、幽鬼は心中でため息をついた。
孔明など、会わない時は何ヶ月も顔を見ないで済むというのに。
「おお、暮れなずむ。お早う」
しかしその孔明と共に歩いてくる混世魔王・樊瑞は
幽鬼がカワラザキの次に心を許している相手と言ってもいい。
カワラザキが信用を置く相手というのは、そのままニアリーイコールで幽鬼も信頼する人間なのである。
そう、信頼は、している。
だがこういった場合に役に立つかと言えば、答えは明らかにノーである。
そのまますれ違う寸前に、孔明がさもたった今思い出したという風に口を開いた。
「ああ、幽鬼殿、お加減はもうよろしいので?」
なにか一言くらいは言われるだろうと予想していたものの、
実際に言われてみるとやはり気分がいいものではなかった。
もちろん、体調を尋ねる言葉にはその実何の意味もない。
羽扇の向こうの目が笑っているのがまた気に触る。
「おかげさまで」
「そうですか、それは良かった。怒鬼殿にもよろしくお伝えください」
「…………」
ひとり樊瑞だけが、訳がわからないと言う顔をしていた。
** †
今日は業務内容がほとんどデスクワークだったこともあって
幽鬼は夕方には予定していた量の処理を済ませていた。
だからと言って他にする事がないわけではないのだが、
朝からやたらと不愉快な思いをしていささか草臥れていたという事もあり
彼は大人しく帰宅する事に決めて、執務室を後にした。
幽鬼がカワラザキと共に住む自宅は
この本部周辺に浮かんでいる島々のうちの一つにあり、
行き来するためにはヘリなどの移動手段を用いる必要がある。
そのエアポートへと向かう途中、なぜか人気のない大回廊の中心へ
まさにこの騒動の原因である男が佇んでいた。
いや、仁王立ちといってもいいようなその様子は、
明らかに幽鬼が通るのを待っていたのだと思われた。
怒鬼は、謝意のみを切実に訴えてきた。
とは言えこのときの彼の意思は、幽鬼以外の十傑でも読み取ることが出来ただろう。
普段は愛想のかけらもない仏頂面が
少しだけしょぼくれたような眉の下がり方をしていたからである。
その眉の下の黒い瞳も、「申し訳ありません」と語っていた。
もちろんそれらはほんの少しの変化ではあるが。
それを見て、幽鬼は仕方なく口を開いた。
昨日の行動が頭にきていたのは確かだが、こうして謝るために自分を待っていた男に対して
これ以上邪険にしても得はないからである。
「……反省しているのなら構わないが、もう二度とああいった事はしてくれるな」
「ああ、そうだ」
「元はと言えば倒れたのもお前のせいだろう。冗談じゃない」
黙ったままの怒鬼に対して、幽鬼だけが一人話しかけているのは
第三者から見ると滑稽な光景だったかもしれない。
しかし十分に会話は成立している。その内容は余人のあずかり知れる物ではないにしろ。
幽鬼も普段であれば、黙っている相手に対して
自分ひとりが声を出して話すというのもばかばかしいので
怒鬼とは完全にテレパシーのみで会話することが多かった。
だが今日はこうして声に出して自分の意思を伝えている。
なるべく、怒鬼の心に触れないようにしたかったのだ。
昨日の嵐のようなあの感情が怖かった。
「それから、悪いが私はお前の気持ちに応えるつもりはない」
それは幽鬼の正直な気持ちだった。
男同士だからどうこう、テレパシストだからどうこうといった事ではない。
こういった組織に身を置いている以上、
恋愛などという浮ついたものに関わるべきではないと幽鬼は考えている。
それが自分たちの目的に必要のないものであるという理由もあるが、
何より、自分にはその資格がないという考えに幽鬼は固執してしまっていた。
自分に与えられた愛としては、カワラザキのもの、それだけでもう過分な位だと思っているのだ。
同じだけを彼に返せているかどうかは分からないが、
そう出来るようにありたいとも思っている。
それだけで幽鬼には充分だった。
――くそ。
まさに胸を焦がされるような苦しさが幽鬼を襲った。
そしてそれは、目の前の怒鬼が同じ気持ちを味わっているという事である。
拒絶された悲しみと、それでも相手を求めてやまない思いの拮抗。
こんな苦しさを幽鬼は知らなかった。昨日の息が詰まるような甘さと激情にしてもそうだ。
幽鬼の知らない気持ちばかりを、怒鬼はまるで彼に教えるようにして感じさせている。
そのどれもが、幽鬼にとっては苦痛だった。
――やめてくれ。
か細く心の中で呟いた彼の身体を、再び怒鬼が腕の中に捕えていた。
傷つけたくないと思っていたはずなのに、どうして今お前を苦しませてしまっているのだろう。
そんな、独白にも似た疑問が怒鬼の心から聞こえてくる。
幽鬼には、ここで自分の心を閉じてしまって
怒鬼から伝わってくる思念を遮断することも可能だった。
だが、それをしてしまうと、
この言葉を持たない不器用な男のすべてを完全に突き放すことになるような気がして
――そして、今でさえこんなに苦しいのだから
これ以上心を痛ませるようなことをするのは余りにもむごいのではないかと、躊躇した。
この個人的な愛情は受け入れることができないというだけであって、
怒鬼という人間そのものを否定したい訳ではないのだ。
だから、心までは閉じてしまわないことの代わりだと言うように――
怒鬼の腕の中で幽鬼の肉体がぶわりと溶けた。
突然のことに瞠目する怒鬼の鼻先を群雲虫が雲霞となってかすめ、飛び去る。
怒鬼から数メートルの距離を置いてその虫たちがわだかまったとき、
瞬きひとつほどの間にそれらは幽鬼の姿に戻っていた。
「これ以上、俺に関わらないでくれ……」
不思議な色彩を持つ双眸が切なく語った。
そして、硬い靴音をひとつだけ響かせて幽鬼は再び宙へと飛び去った。
窓の隙間から逃げるようにして飛んでいく蝶の群れを、
やり場をなくした両腕を放り出したままの怒鬼が見つめる。
彼が、あの羽をいつか手中に捉えられたらと、長く狂おしく
そして純粋に懸想していたことを幽鬼はまだ知らない。
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