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芸人 オードリー
携帯から失礼します。
生で大鳥の二人。
突っ込みがブログを非公開にするときの話です。
START
「俺、ブログ非公開にしようと思って」
深夜の楽屋。やっと今日二本目の番組の収録が終わり、連日のハードスケジュールにさすがにぐったりしながら呟いた。
俺より一足先に着替えおわった相方は興味なさそうに「ふぅん」と言いながら荷物を詰める。
「ずっと迷ってて…砂糖くんにも相談したんだけど、もう俺とコアなファンだけのものじゃなくなってしまったし…」
好き勝手に書いてきた文章。
売れない悔しさや、迷いや、世間と自分への憤り。
もともとつらつら書くのが好きなのと、そのときの気持ちを残しておきたいのもあって、ほぼ毎日更新してきた。
こっぱずかしいけど、大切な記憶だった。けど…
「もう、状況が違いすぎる。何を書いていいかわからないし、前みたいな文章は書けない」
これは芸人失格なんだろうか。ファンを悲しませることになるんだろうか。
ふと、楽屋のテレビに俺たちの出ているCMが映し出される。
大きすぎる反応は、もう俺の手に負えるものじゃなくて。
…もしかして俺は昔に戻りたいと思っているのか。
仕事がなくて、毎日区民プールで泳いで、真夜中にサッカーをして、ふざけながらネタ合わせして、喧嘩して。
二人でテレビに出たかった。
スポットライトを浴びて、天然で不器用なコイツの面白さを世間に知らしめてやりたいと。
けど、この胸のもやもやはなんだ。
「お前聞いてないだろ」
さっきから一言も言葉を発しない相方にため息をつく。
まあ独り言みたいなものだからいいけど。
「K-1の記事が観れなくなるのはちょっと残念だなあ…」
…え。
「お前読んだの」
読みましたよそりゃあ、と相方は笑った。そのまま暗唱しようとするのを慌てて止める。
「何で覚えてんだよ!」
「嬉しかったから。熱いよね、和歌林は」
だけど考えすぎだ、と微笑んだ。
「もともと日記なんて個人のものでしょうよ。一番に自分のことを考えていいんじゃないの。ファンも大事だけどさ」
「お前はいつも自分のことしか考えてないだろ」
「そ、たまには粕画を見習いなさい」
何でそんな上からなんだよ!とぶつぶつ文句を言いながらも、このところ胸を選挙していた異物が徐々に溶かされていくのを感じた。
「和歌林が考えて決めたことなら、きっと間違ってない」
その言葉に思いがけずどきっとしていると、もしかしてこの所悩んでる様子だったのは、このこと考えてたから!?真面目すぎだろー!とけらけら笑われる。
こいつだけは変わらないなぁ。
世間も、事務所も、友達の接し方さえ変わったのに。
この男だけは、変わらない。
これから先も、ずっと。
「お前と話してると、何かめちゃくちゃしょうもないことで悩んでるように思えてきたよ」
「そうだろうそうだろう」と満足気に頷くポンコツの相方。
そして、良いことを思いついた、というような顔で鞄を漁りだした。
取り出したのは、一冊の汚い大学ノート。
「捨ててあったんだよ。ネタ帳にしようと思って拾ったの」
「相変わらずセコイな!」
突っ込みもかいさず、何かをそのノートに書き綴る相方。
数分後、書き終わったようで、ふーっと息を吐き、はい!と俺に渡す。
「次は和歌林の番だ!期限は三日ね」
「何これ」
「交換日記。」
「交換日記ぃ!?」
「何でも好きなこと書いていいぞ。俺しか読まないからね!もしかしたらものによっちゃあ俺も読まないかもしらん」
はぁ、と言いながらノートを開くと、
「○月○日。今日のロケで食べたラーメンはうまかった!」とでかでかと書いてある。
思わず吹き出してノートを汚した。
「こらこらこら!」
「わりぃわりぃ」
そして、数行空いて小さな文字で
「いつもありがとう。これからも宜しく!今年こそ優勝だ!」
見上げると、「怒った?怒った?」と心配気にちらちら見るポンコツ野郎。
「しょうがねぇなあ」と言うと、ネタ中のアドリブが認められたときのように、へらっと顔を崩す。
…かなわないのは俺の方かもしれない。
とりあえず今日帰ったら、次のページに、延々と今日の収録の反省と、相方へのダメ出しを書いてやろうと思う。
うす茶色のノートの表紙に「どろ/だんご日記2」と書いた相方を、「ひねりねぇな!」と思いっきりどついた。
STOP□
お目汚し失礼しました…
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