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オリジナル 「アウトテイクスⅡ」

一話完結シリーズのオリジナルです。今回少々エロあり。

保管庫の方々ならびに前回読んでいただけた方、
ありがとうございました。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

モデルという人種に、自らの裸身を人目に晒すことへの羞恥はない。
――少なくとも、職業上では。

悪友かつ同業者のジャックに渡す画像をさがし、
わたしは古い保存フォルダからようやくそれを拾いだした。
マーティス・Lのオールヌード数十枚。
日付は7年前。彼のごく駆け出しのころのものだ。
撮影者はわたし、テリー・デュカス。

男も女もセクシーに撮る。
作りものめいているがグラマラスでゴージャス、ほどほどに下品。
それがわたしの写真の「売り」だ。
とくに男性俳優の写真には定評がある。
どこかしら既成イメージと違った魅力を引きだして見せると。
なぜって「デュカスはゲイ」だから。
――まあ、わたしは否定しない。
将来同性結婚でもしないかぎり、公言するつもりも機会もないが。

世間からすれば、わたしはずっとそのレッテルから逸脱することなく、
むしろ安住しているように見えたかもしれない。
実際わたしのキャリアは順調に上昇位置をキープし、
時代の寵児たち、セレブリティの男も女もわたしに撮られたがった。

世間やクライアントに望まれるまま、
わたしは「デュカスの写真」を撮りつづけた。
わたしには持って生まれたようなオリジナリティ(アクともいう)があり、
過剰さの上限を踏みはずさないセンスがあった。
気難しいアーティストなどではなく、孤高を好むような繊細さも持ち合わせないわたしは
社交を好み、世渡りにたけ、いいスタッフにも恵まれた。

しかし、わたしは飽いていた。
誰を撮っても「デュカスの写真」に仕立て上げ、
数々のメジャー誌のカバーを飾り、もてはやされつづけることに。
自分より本物で成功に恵まれないアーティストは世界中にいくらでもいる。
表舞台に出られる者がいるとして、どうせほんの一握り。
本人の熱意と努力だけでは足りない、チャンスと運が必要なのだ、絶対的に。
世間なんて見る目がない、しかも飽きっぽい。
その移り気さで、いずれ「デュカス」も見捨てるだろう――。

否定・懐疑・危惧。
自分のなかの停滞を鎮めるために、わたしはくだらないパーティに出るのを減らし、
代わりにわたし個人のためだけのシリーズを撮りはじめることにした。
それが7年まえのことだ。

ごく個人的ワークなので、スタッフは一切使わない。
モデルのブッキングも自分でやるが、
売り物の写真ではないのでメジャー・エージェンシーの専属モデルは使えない。
いっさい噂になりたくないからだ。
下積み時代に戻ったような面倒だらけだったが、
頭のなかの雑音を追い出すにはちょうどよかった。
さしあたって、撮りたいモデルは決まっていた。
会員制エスコート・クラブのジャレッド。当時19歳の男娼だ。

わたしに関する噂の多くが(なぜか)断定するように、わたしはゲイだ。
正しくはバイセクシャルだが、男のほうにより惹かれる。
「それはあなたがナルシストだからよ」
いつだったか、そう女になじられたことがあるが――それもまた正しい。
自分を無条件に愛せる人間なんて、自分しかいないじゃないか。
ラッキーなら肉親も無条件に愛してくれるかもしれない。
信仰があれば、さらに慈悲ぶかい神の愛とやらに縋れるだろう。

わたしのおもだった情熱はいつも仕事へ向けられ、
男も女も、恋人たちは大抵そのことに失望し去っていった。
ゲイでナルシストで無信仰のわたしは、ごく手軽で秘密の保てるセックスを好んだ。
幸いわたしの交遊関係は幅広く、
いかがわしい商売を生業とする「友人」にも事欠かなかった。
彼らにとってわたしは上客であり、わたしの好みをわきまえサービスを提供することに吝かでない。
まるでケータリングを頼むみたいに、わたしは欲しいときに連絡しさえすればよかった。

たしかあのとき、長いつきあいのクラブ・マネージャーはそう言った。
「ちょうどいい子がおりますよ。
エスコート自体まだはじめたばかりの新人ですが、
そのぶん業界ズレしていないし容姿もまずまず。たぶん、気に入っていただけるかと」
そうして送られてきたのがジャレッドだった。

彼は、道を誤った――はじめてジャレッドを見たときの、それが第一印象だった。
道徳的な意味じゃない。天分の使い方だ。
彼はモデルになりうる背丈とプロポーションと顔立ち、それに雰囲気を持っていた。
首輪――主人に所有され服従する徴を思わせる黒のチョーカーを身につけているが、
タトゥーやボディピアスはなし。
マスキュラーやスイマーのそれとは異なるが、細いなりに鍛錬された筋肉があり鑑賞に堪えうる。
まさに、わたし好みの容姿だった。
ゲイ受けするにはさらなる筋肉とその重量が圧倒的に足りないし、
猥雑さも雄臭さもなく不適格だが、ファッション・モデルならいけただろう。

「でもモデルになって成功するとは限らないでしょう?」
生来の内気さからか、ちょっとはにかむように笑う彼は、穏やかに言葉を返した。
「――俺はすぐお金が欲しい」
それに、ほら――と、
わたしのコックに深く乗ったまま、自らのそれに指を滑らせた。
「最初のころは痛くて…すごく辛いだけだったけど――
いまじゃ入れられても萎えたりしないし、むしろ……」
ね、わかるだろう?――と、わたしを見つめたながら腰を揺らめかす。
屹立した彼自身のコックも揺れ、汗ばんだ腹をぴしゃりと何度も打ちつける。
見上げながらわたしは思わず呻きをもらし、ジャレッドの頭をかき抱いて唇を求める。
唇、舌、息――口腔のなかすべてを与えあい、貪りあう。

相性のいいことに、ふたりともキスをたのしむのが好きだった。
呼吸を合わせ、互いにリズムをやりとりし高めあっていくやり方も。
嘘いつわりない熱がさらなる熱を呼び、わたしたちふたりを爆風のように吹き飛ばす。

ペイ・フォー・ゲイ。金のためゲイのふりするストレート。
ジャレッドは自分がそうであるのを隠さなかった。
内気さと率直さ、性的な大胆さ。
それらを同時にあわせもつ彼は、あらゆる意味できれいだった。
金が必要な理由は訊かなかった。
打算込みのファックなら、わたしにも昔した憶えがある。

ジャレッドを知ってから――
スケジュールが許すかぎり、わたしは彼を指名し続けた。
セックスを重ねるごとに、
ふたりで過ごす時間の穏やかさと求め合う熱の激しさとの両方が深まっていった
――それは、わたしだけの思い込みではなかったと思う。
この喘ぎと熱は、たとえば向こう岸へ泳ぎたどりつくまでのものにすぎないのだろうか。
泳ぐほどに深さをまして、脚をとられそうになるのは錯覚か?

彼の目を見ながら髪をなで、すぐそばで声を聞いていたいという気持ちは、
自分に従順なペットを愛玩するようなものだろうか。
事実、わたしは彼を買いつづけている――。
できるなら、ほかの誰かに彼を買わせるチャンスを少しでも与えたくなかった。
それが彼を保護することにもなるのだと、どこかで思ってさえいた。

両腿を膝で、腋下を晒し交差させた両腕を手で押さえつける。
上から四肢をロックし体重を乗せたまま腹から胸へ身体を擦りつける、何度も何度も。
互いの身体が波打ち、ベッドを鈍く、重く軋らせる。
血色が全身へとさらに散りひろがって、汗や息もろとも熱を帯びていく。
わたしの下、苦しげな口元を舌でくりかえし湿らせ、必死に彼は顎を持ち上げようとする。
乞うようにわたしの目を見上げながら。
ゾクゾクするような悦びを味わいながら、わたしもまた彼から目を離すことができない。
キスを与え、互いにむさぼりあう
――いったん顔を離そうとすると、まだ足りないとでも言うように唇を開き、
彼は目でわたしを追いすがった。

「こわいな……
あなたとは相性がよすぎて――どんどん自分が変になっちまう」
もう自分のことをストレートだなんて言えない。
冗談めかして彼は笑った。
「ときどき、あなたのこと考えるだけで震えがくる……」

以前どこかのパーティーでだったか、
一組の男女が延々とファックしているだけのヘボい新作を撮った監督が、
ポルノ以下と軒並み酷評されたのを
「――あれは純愛映画だったのに!」
と酔っ払いながら憤っていたことがある。
それを離れたテーブルから眺めながら、わたしは仲間と笑った。

セックスだけ。
ほかに相手について何も知らないまま、恋に落ちるなんてありえるだろうか?
もちろん無人島に漂着したアダムとイブなどでなく。

「ファンタジーだから、奴は映画にしようとしたんだろう?」
と皮肉屋のディーン。
実業家、美術コレクター、パーティーのオーガナイザー――肩書きはいろいろ。
痩せぎすの長身で、真っ白な肌にまっすぐなプラチナブロンド。
アルビノで目が弱いため、黒眼鏡をいつも手放さない。
鼻梁に指をあてがう癖があり、細く長い指がひどく目立つ。

「あってもおかしくはない」
と言ったのはジャック。
豊かな黒髪、浅黒い肌、貴族然とした面構えに英国訛り。ディーンと並ぶと対照的だ。
「へえ」とディーンとわたし。なにかホットな過去話でも?と一瞬興味を引かれたが、
「俺とイーディだって似たようなものだ」
の台詞にふたりとも呻いた。
イーディはジャックが溺愛する雌犬だった。
血統書付きスパニッシュ・グレイハウンドの。

「俺は知ってるよ?」
とジャレッドは笑った。
「あなたは有名な写真家で、いつもセレブや才能のあるひとたちと仕事してる。
リッチで、身につけるものも住まいも趣味がいい。
好きな酒はスコッチ。うまい料理が好きで、煙草は味が判らなくなるからやめた。
ドラッグをやらないし無茶なファックもしないからうちの上客だってマネージャーが言ってた。
だからおまえはラッキーなほうだって。――そのとおりだと思うよ」
つづけて、とわたしは彼に促す。
「ドギー・スタイルより顔の見えるほうが好き。
トレーニングしてるから腹は出ていない。好きな下着はボクサータイプ」
たしかに、そのとおり。
「嘘に敏感」
そう?
「俺が酒よりチョコレートが好きだって見抜かれた」
そう、ジャレッドはハーシーズに目がない。
ミルクチョコとコンドームの箱入りはどちらも切らさないようにしている。
「髪はブラウン、目はグリーンで――暖かみがある。
ハシバミ色が混じってるせいかな……。きれいで、見飽きない」
わたしをまっすぐ覗き込みながら顔を近づける。
彼の瞳が揺らぎ、饒舌に、貪欲になる。

尋ねても答えられないこと、ごまかし、最悪嘘。
そんなのをみるくらいなら、はじめから訊かないほうがいい。
ジャレッドといたあのころ、わたしはそう思っていた。
のちに悔やんだこともあるが――もしやり直すことができたとしても、
わたしはやはり訊かなかったと思う。
そうしなくてもジャレッドがだんだん苦しげになっていったのを、わたしは憶えている。

ジャレッドの微笑に翳りがさすようになったころ、
「もう……あまり、俺を呼ばないで」
そう彼は口にするようになった。
何かを言いかけ、代りにため息をつくことも。
わたしが嫌になった?――そう尋ねると、彼は首を横に振った。
「――だってあなた、俺に飽きるのがはやくなるよ」
自分にはこの身体と顔しかない。
セックスはもっと巧くなれるかもしれないが、そんなのたいした意味はない。
自分は空っぽだし、見た目なんていずれ色褪せる。

時間の問題だよ――と彼は肩をすくめた。
「だから――もしそうなったら、俺は……」
きみは――? そのあとの言葉を、わたしは彼の口から訊きたかった。
だが諦めのような、脆い微笑を浮かべるだけで、
ジャレッドはけっして答えなかった――最後まで。
そのあとの言葉を、ジャレッドはけっして答えなかった――最後まで。
仕事のスケジュールの合間を見つけ、
彼の写真を撮るアイディアを実行に移そうと決めたころ、彼はクラブをやめ姿を消した。

彼は「ジャレッド」という名前以外、わたしに何も残さなかった。
名前だって本名であるはずがない。
だがわたしには、それしか彼を呼びようがない――。
一度、わたしの選んだチョーカーを贈ろうとしたが、彼はきっぱりと拒絶した。
単に首元を飾るだけではないその意味あいに、彼が気づいていたからだと思う。
彼の所有物になりそこなったそれを、わたしは捨てることができなかった。
ばかげた感傷なのだと思う、しかしどうしてもできなかったのだ。

ゲイでナルシストで無信仰のわたしは、ジャレッドへの感情を愛と認めるのが怖かった。
安全な自己愛から踏み出して、他者を求めることができなかった。
金も贈り物もなしの空っぽの手を、彼へと伸ばす勇気がなかった。
――愚かなことだ。
ほんとうに。

表面上なんら変わることなく、わたしは「デュカス」の写真を撮りつづけた。
無価値なのはわたしだ、世間はなぜ気づかないのだろう?――そう罵りながら。
マーティスに出会ったのは地獄のような、わたしにとって最悪のころだった。

たしか――彼と同じ北欧出身のモデルについて、撮影現場を覗きに来たのだったと思う。
マーティスは当時素人同然で、売り出しよりもウォーキングなどのレッスンを必要とするレベルだった。
写真家にもよるだろうが、わたしの現場は人の出入りにさほどやかましくない。
プライベート・ワーク用のモデルを拾うのにも、そのほうが都合がよかった。

この業界で珍しくないとはいえ、
ゲイと風評のある写真家からエージェンシーには内緒の仕事を持ちかけられ、
マーティスがどう思ったのかは知らない。
あらかじめ打診したのはヌード。
しかもわたしの内面の荒みを、もし彼が感じとっていたとしたら――。
実のところ、盛大な自虐だらけのダークサイドに落ち込んでいたわたしは、
彼が承知するのをまったく期待していなかった。
だが、彼の返事はOKだった。
報酬、コネへの期待、単純な好奇心――
理由はそのどれかかもしれないし、どれでもないかもしれない。
わたしにはどうでもよかった。
顔立ちも髪や目の色も違っていたが、マーティスはどこかジャレッドを彷彿させた。
わたしには、わたしの写真のなかでジャレッドになってくれる誰かがどうしても必要だった。

都合のべ3日。
ふたりきりのセッションで、マーティスはわたしの要求するシーンを彼なりに演じてくれた。
カメラのレンズごしに見つめながら、彼の穏やかな微笑と内面の芯の靭さ、
しなやかさがジャレッドに似ているのだと、わたしは知った。
わたしはマーティスに、ジャレッドのことを一切話さなかった。
だが、淡々と撮影に費やした時間と残された画像とは、確実にわたしを救ってくれた
――どんなに望もうと完全なんかありえないとしても。
わたしの内実がどうであれ、
わたしたちはごく短期間のチームを組み、報酬をやりとりし、握手して別れた。

それから数年――。
マーティスとはプライべートはもちろん仕事でも会っていない。
わたしは依然「デュカス」であり続け、
マーティスはトップ・モデルとして常に最前線に位置しているというのに。
わかっている、
エレガントなマーティス・Lとクイア的な「デュカス」ではイメージからして合わないし、
敢えて冒険したがる者もない。
それでもわたしは彼の成功を喜んでいるし、
彼がそれに値する人間であることをほとんど確信している。
もし何かしら彼を見誤る者がいるなら、わたしはその愚かさを残念に思うだろう。

そして本当に残念なのだが、
その莫迦が身近にいるのを最近わたしは知った。ジャックだ。
あるファッション誌の冒険的編集者が、
マーティス起用のエディトリアルを彼に示唆したという。

「でもマーティスなんてモデルのことは知らないし、興味も持てない」
打診された仕事を断ろうと思っていると、ジャックはこともなげにわたしに言った。
有名無名にかかわらず、自分が関心をもてないものについては
「知らない」と言い放ってはばからない。
ジャックとは、そんなふうに尊大で傲慢で嫌味な奴だ。
クリエイターなのにその好奇心の狭さといったら驚くほどだ。
それでいて仕事は一流なのだから――同業者として忌々しいのひとことに尽きる。
見ないものを、どうして知ることができるだろう?

だからわたしは、
ずっと手元で眠りつづけてきたマーティスの写真のなかから一枚だけ選び、
平手打ちがわりにジャックへ送りつけようと思っている。
彼がマーティスと仕事しようがしまいが、どうだって構わない。
ただ、それを見てなおマーティスを無視しつづけることができるなら、
奴とのつきあいも考えなおさなければならないだろう。
莫迦で尊大なんて最悪だ。

しかし、わたしは半分――いやそれ以上に確信している。
写真を見たジャックが「もっと!」とさも当然のように要求してくることを。
だが絶対にノーだ。
残りを奴に見せてやるつもりはない。
わたし以外にこのシリーズを見る権利があるのはマーティス本人、
それにジャレッドだけだ。
どちらも、まだそうしたことはないけれど。
いつか――もしそうできることがあるならと、いまも願っているけれど。

ジャレッドのイメージは、いまもわたしのなかで薄れることはない。
昔ほどではないが、夢で見ることもたまにある。
だから――マーティスの写真にわたしが託したのは、彼の面影ではない。
それをなぞらえるためだけなら、写真なんて撮る必要はなかった。
よくも悪くも、何を撮ろうが画像に残るのはいつもわたし自身の一部だ。

さて――
わたしはこれから、古い画像ひとつひとつ目をとおさなければならない。
同時にジャレッドと過ごした時間をまた思い出すことになるだろう。
そして、わたしは繰りかえし祈る。
彼がどこかで、あの笑顔を浮かべていることを。いまも。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

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