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缶コーヒーFIRE CM 後輩×先輩

1乙です!
半生  某缶コーヒー「炎」のCMより

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース

プロジェクトチームのメンバーとして訪れた取引先から、夕方近くになって本社へ戻って来た俺と先輩は、社内の休憩所で少しの休息を取ることになった。
本社3階に位置する休憩所は思いのほか人が多く、同じように、僅かながらの安らぎを得ようとする先客で賑わっていた。
設置された数台の自販機の前で、先輩の奢りで缶コーヒーをご馳走になる。
傍目には何てことないサラリーマンのありふれた光景だけど、俺の心中はそうでもなかった。
まず、気不味い。
先輩と二人でいるってことが、とてつもなく今は気不味い。
それに、この先輩がまた、周囲の人目を惹くに相応しい容姿をしてるってことも、俺の気持ちを落ち着かなくさせる原因になっていた。
男から見ても整い過ぎてると思うほど端正な顔に、無造作そうにみえて完璧にカットされた柔らかな髪。 小さな頭に長い手足、そのうえ嫌味な高身長。 そんなスタイルを、センスの好いグレーのピンストライプのスーツで際立たせている。
取引先から戻って来る途中も、すれ違う人達が――――主に女性だけど――――必ずと言っていいほど先輩を見ていくのが分かった。 中には、わざわざ振り返って見送る人までいる。
なんでこんなに違うのか。 でもまあ、ここまでくると、返って嫉妬も羨ましさも通り過ぎるってもんだ。
先輩は、長い指で自販機に小銭を入れると、 何故かじっと目の前の電光表示を見つめている。
それから、ふいに、

「――――人からどう見えるか、ってそんなに重要?」

独り言みたいに低く呟いて、缶コーヒーのボタンを二度押した。
ガタン。 ガタン。
取り出し口に落ちてきた缶コーヒーの音が響く。
ところが、それを拾い上げないまま、先輩はこちらを向いて真っ直ぐに俺の顔を見た。
涼しげな表情を全く変えることなく、ただ静かに俺の方を見ている。
……俺はまた、何も答えられない。
いや、答えるのが怖い、ってのが本当のところか。
今の先輩の問い掛けには、おそらく、昨夜の出来事への分も含まれているからだ。

そう、俺は昨夜、先輩から告白された。
もう深夜近くの、薄暗くなった殺風景な部署のフロアで。 今日の取引先への交渉準備に追われて、残業して、気が付いたら俺と先輩だけになっていた、静まり返ったフロアで。
唐突に、そして、呆れるほど淡々と。
当然、俺は、その場では何も答えられなかった。 完全に思考がフリーズしていた。
だいたい、なんで俺なんですか。
先輩だったら、社内だろうが社外だろうが、オンナなんて選り取りみどりでしょ?
本社の出世頭だし、今回のプロジェクトだって最高責任者だし。
どうしてよりによって、頑丈なだけが取り得の、男の俺なんですか。
おかしいでしょ、普通? そんなの、馬鹿げてるでしょ?
俺なんかと、その、仮にもそういう関係になったなんて知れたら、先輩の評判ガタ落ちだし、出世も棒に振るし、多分、会社にもいられなくなるだろうし。
そこまでのリスクを背負う相手じゃないでしょ、俺は。
そんな混乱した気持ちだけ、しどろもどろに話した記憶はあるけど、正直、良く憶えていない。
……でも、まあ、こんな風にグダグダと自分に言い訳考えてること自体、もう本心では、相手の想いを受け入れたいってことの裏返しなんだろう。
過剰に慌ててしまったのは、俺の気持ちに気が付かれたんじゃないかって、内心、後ろめたさもあったからだ。
憧れや尊敬なんていう漠然とした想いは、とっくの昔に個人的な特別の感情に変わっていた。
俺より年上で、俺より全然格好良くて、俺より断然仕事もできて。
それなのに、この人を可愛いと感じてしまう自分がいた。 どこか他人と距離を置いて、孤軍奮闘するこの人を、傍で守りたい、抱きしめたいと思ってしまう自分が、確かに、いる。
でも、それを認めたくなくて。
結局、俺には、そんな度胸も思い切りもないし、世間体に対するごく一般的な遠慮ってモンも持ち合わせてる。
こんな俺に、応えられるはずがない。

しばらくして、先輩は、取り出し口に落ちてきた二本の缶コーヒーを、優雅に身を屈めて手に取った。 その内の一本のプルトップを上げて一口飲んでから、もう一本を俺に差し出す。

「ほら」
「…ぁあ、すいません」

ぎこちなく言って、缶コーヒーを受け取ろうと少し身を乗り出した。
瞬間。
視界が急に暗くなって、妙に先輩の身体が近いなってぼんやり思って、何だか好い匂いに包まれて。
唇には、柔らかく濡れた感触。
そして微かに舌に残った、コーヒーの味。
何が起こったのか分からない俺は、ただ馬鹿みたいに硬直して目を見開いていた。
その一瞬だけ、まるで耳が聞こえなくなったように、さっきまで騒がしかったはずの周囲の喧騒さえも完全に消えた。
先輩の顔が離れていく間、伏せられた長い睫毛が作る影や、開いた唇から微かに覗く真っ白な歯まで、ほとんどスローモーションみたいに全てが鮮明に見える。
先輩は、形の良い薄い唇に軽く微笑みを浮かべると、

「――――生憎、俺は、人からどう見えたって全く気にならない」

何事もなかったように言い切って、また缶コーヒーを旨そうに飲んでいる。

それから、あまりの出来事に処理不能を起こしている俺の様子に気が付いたのか、今度は、ククッと堪らず笑い声を漏らした。

「…って言っても、今、ここには俺とお前しかいないけどな」

途端に思考が回復した俺は、慌てて周囲を見回した。
既に随分前から、休憩所には、俺と先輩のほか誰もいなくなっていたらしい。
…あぁ、良かった。
あくまでも平凡な一般人の俺には、当然のように安堵の念が沸き起こる。
だって仕方ないでしょう。 俺は先輩みたいに肝が据わってるわけでも、自分に確たる自信があるわけでもないんだから。
分かりやすく安心した表情を浮かべた俺を見て、珍しく、先輩が心底面白そうに笑ってる。
細められた瞳も、その目尻に刻まれた笑い皺も、口元から覗く八重歯も、なんでそんなに可愛いんだよ、ちくしょー。
もの凄く可愛くて、だから余計に腹が立つ。
まったく、この人は…。
意地の悪い口を塞いでやりたくなって、考えるより先に、俺は、先輩の腕を取って力強く引き寄せていた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

すみません、最後ナンバリングをミスりました…

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