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芸人 ライセンス 藤原×井本 「Wait for」

鯨忍 来扇子 白×黒 「Wait for」
お邪魔いたします
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

藤藁の手が、声が、体が、俺のスペースをちらちらと侵してくる。
何年経っても、幾つになっても、俺に依存しようとする態度は相変わらず変わらんし、ほんの少しの事で嫉妬するその性質も変わらん。
その重さにもうそろそろ、潰されそうやで、ほんまに。

「外れてんで」
ふいに、相方の低い声が俺の思考へと割って入った。
いきなり聞こえた声にはっとして目の前を見ると、藤藁の顔が正面にあって、その手が俺のピンマイクへと伸ばされている。あまりにも真正面にいる事に驚いて、俺は距離を取ってから今の状況をゆっくりと、考えた。
…また、やってもうた。
目の前は立ち見も出るほど満席状態の観客席。
ぼんやりしていた俺の状態を前の方の客は気付いてたようで、数人が不思議そうな顔をこちらに向けていた。
まずい、どうフォローしよか…俺はピンマイクを直しながら、必死に考える。そこに藤藁のわざとらしい盛大な溜息が聞こえた。
「お前なあ…さっきから聞いてんのか」
笑いでも何でもなく、普通の会話として呆れを含んだ声で尋ねられる。
「聞いてるよ。聞いてないようでしっかり聞いてんねん」
責めるような藤藁の視線から逃れるため、俺は俯いてもう既に直し終わったマイクをごちゃごちゃと触りながら、嘘を付いた。本当は…まったく聞いてへんくて漫談の掴みの部分しか記憶になかった。
俺の適当な嘘に納得する筈もなく、短い沈黙のあと、藤藁は観客席へと顔を向け語りかけるようにして話しはじめた。

「…あのねえ、聞いて下さいよ。こいつ2週間位前からちょこちょこあるんですよ。いきなりぼんやりしだすっつか」
やっぱりそうきたか…。
そろそろやろうな、と予想していたその行動に俺は心底うんざりして長く細い息をゆっくりと吐いた。
つい数十分前の楽屋ですでにこの事について小言を言われたばかりやった。前の舞台でネタを飛ばし、前々回では今と同じようにぼんやりと心ここにあらずで。
多分、客の前で吊るし上げられるだろうと予想はしてた。答えの出ない押し問答や、今回の俺のように何度繰り返しても治らない事はこんな風にさらし者にされるのが、互いの暗黙のルールでもあるから。
俺はどうやってこの会話を早めに切り上げようかと、思考をフル回転させる。
「…疲れてんねん、最近暑いし夜寝られんし、夏バテもあるし…もうオッサンやねんか」
「そんなもん俺かて一緒やろ。おい、貴ちゃん」
「誰が貴ちゃんやねん」
すかさず突っ込むとそのテンポのよさに客席がどっと沸く。それを強引に落ちにして、藤藁の言葉が続く前に、カンペを読んでこの話を終わらせた。
コーナーのSEが流れる一瞬の合間に藤藁をちらりと横目で見ると、瞳孔の奥で動揺がかすかに読み取れた。俺は久しぶりのその目に、徐々に冷静さを取り戻していく。

ライセンスを組んで十数年、機嫌が悪かろうがへこむことがあろうが、俺はいつも冷静を装ってきた。それは藤藁を動揺させない為でもあった。
どちらかが揺らげばどちらかがしっかりと立つ。そうやってバランスを取るのが舞台上では当たり前の事なのだ。
当たり前、それなのに。
今思えば、仕事上のこの関係が、俺たちそれぞれのスペースを徐々に侵していたのかもしれへん。

『これが恋やないなんて、誰が言えんねん』

ニ週間前にそう言った唇がするすると言葉を紡いでる。
俺を起こさへんようにって、柔らかく押し当てられたあの唇が。
その呟きを俺が聞いたなんて、本人は全く知らないし、わかってないやろう。
できる事ならば俺かて聴きたくなかった。何も知らんままに、お前と舞台に立っていた頃に戻りたい、ただただそう思った。
そうすれば、
この感情に気付く事も無かったのに。
ホンマに、これが恋やないなんて、誰が言えんねん。
あと少しでいい。
あと少しでいいから、俺が囚われているのはお前の愛情表現の重さって事にしといて。
仕事も私生活も手に付かんほど、考えこんでまうお前へのこの感情が…友情以上のものやって全力で認められるまで、待っとって。
潰される前に、認めるから。どうか。

ケリが付いたら、即効抱きしめにいくから。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ありがとうございましたー

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