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オリジナル 高校生もの

オリジ高校生もの801未満です。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

退屈な授業中、抜けるように青い空を眺めていた。
頭の上をカテイホウカコやらミライカンリョウやらが飛び交っていたが、クラスの半分も聞いていなかった(ような気がする)。
意欲だとか気合いだとかがあれば眠くなることはない、なんて先生は言ってたけど、そんなわけがない。
だったら隣の席の青木やら斜め前の谷川さんやらが舟を漕いでいることはどうやって説明するというのだ。
二人ともうちのクラスの五本の指には入る成績だし、やる気がないなんて俺には逆立ちしたって言えない。
つまり、この眠気はやる気とは微塵も関係ないのだ。第一、あいつらが起きてられないのに成績中の下の俺が起きてられるわけがない。
悪いのは俺じゃなく、この上天気に違いなかった。
俺は頭と肩を机に預け、窓の方を向いた。春の心地好い風が顔をなでた。こんなに気持ちのいい日に勉強に集中できるなんて奴はなかなかいない。
そうでなくとも運動部は最後の大会のシーズンなのだ。斜め前でついに突っ伏してしまった谷川さんは、たしか女子バレーのエースだ。
バレー部は昨日壮絶な接戦の末に地区大会三位を勝ち取り、県大会出場を決めたと聞いた。そりゃあ授業も寝るというものだ。

(あーあ、俺も野球がやれりゃなあ。)
なんとなく隣で未だに舟を漕ぐ青木を見た。
こいつが野球部のキャプテンで、おまけに四番だ。こんな奴が。
悪いが、俺の方がよっぽど上手い自信があった。
というか、野球ならこの学校の誰よりも上手いという自信が俺にはある。
(くそっ、こんな膝さえなかったら今ごろ俺はこんなとこにはいなかったんだ。)
無性にいらいらした。青木は何も悪くないというのに。申し訳なくなって、無理矢理青木から目を背けた。と、先生とばっちり目が合った。
あ、まずい。思ったときには遅かった。
「よし、じゃあ澤村。ここに入る前置詞は?」
最悪だ。ここと言われてもどこの話かすらわからない。前置詞、前置詞というと…
「…with?」
「うん、正解。よく予習してきてるな」
ラッキー!心の中でガッツポーズをしながら席に着くと、いつのまに起きたんだか、青木がこっちを見てにやついていた。
「澤村、お前今の適当に言っただろ」
「うるせえ」
舟漕いでた奴に言われたくないね、と付け足すと何で知ってるんだよ、と青木は慌てたような声を出した。
それを見て俺は笑った。いい奴なのだ。そんなことはとっくに知っていた。

四月の終わりとはいえ、夕方になると案外冷える。昇降口から数歩歩いたところでカッターシャツ一枚では寒いことに気付いた。
未だに未練がましく使っている中学時代のエナメルバッグに適当に突っ込んであった学ランを引っ張り出してその上に羽織った。
少し遠回りして帰るつもりだった。いつもの道だと野球部が練習している河川敷のグラウンドの横を通らなきゃならない。
なんだか今日は野球を見たい気分ではなかった。帰ったらナイターじゃなくてたまには母さんの好きなドラマを見せてあげよう。
そう決心して歩き出したときだった。
「おーい、澤村!」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ってみるとやはりそこにいたのは青木だった。
「青木、お前練習は?」
こっちはお前らを見たくないためにわざわざ遠回りして帰るのだというのに。
「あ、休み休み。珍しいだろ?
それより澤村、お前方向一緒だったんだな。一緒に帰ろうぜ!」
最悪だ。今日はとことん運がない。なんでわざわざ遠回りして青木なんぞと一緒に帰らにゃならんのだ。
悪いが断る、と言いかけたときにはもう青木はそこにはいなかった。
ずいぶん前の方で澤村早く、なんて手を振っている。

なんだか断るのも面倒になって歩き出した。どうせ今日限りのことだ。たまには遠回りして帰るくらいのことしたっていいだろう。
手を振る青木のところまで行って、一緒に歩き出すと、満面の笑みで話しかけられた。
「なあ澤村、俺今超嬉しい!」
「はあ?」
こいつは頭はいいけど、ときどき話がわけわかんないときがある。なんの話だ。
「澤村とこうやって一緒に帰れるなんてさあ、夢みたいだ!」
「はあ?俺?」
ぎょっとなって思わず聞き返した。なんで俺と一緒に帰ることが夢のようなんだ。
「そう、お前!
俺さあ、お前に憧れてたんだよね、西中のエースで四番、お前だろ?
絶対私立の強いとこ行くんだと思ってたらおんなじ学校なんだもんな!
なんで野球やめちゃったんだよ?」
どくん、と心臓が音をたてた。思わず足をとめた。
青木が怪訝そうに俺の名を呼ぶ。
「澤村?」
「怪我だよ。
引退後の二月だ、もう行く高校も決まってた。
なのに俺は信号無視の酔っぱらいに跳ねられた。
日常生活には困りませんが、野球は諦めてください、だとよ。」
自嘲が口をついてでた。だからこいつとあまり話したくなかったんだ。
いつか聞かれるような気がしてた。

こいつは何一つ悪いことなんかしちゃいない。
わかってはいるが、この話題にはどうしても触れられたくなかった。
俺が心の中でそんなことを考えていると、青木がでかい体を丸めて言った。
「な、なんか…ごめん…。」
まるで犬みたいで、思わず噴き出してしまった。やっぱりこいつはいい奴だ。
青木は少し不思議そうな顔をした。
「いや、お前はなんも悪くないよ。
俺こそごめんな、まだこの話題に軽い反応できなくてさ」
お詫びにコロッケおごってやるよ、と付け加えると、青木はぱっと顔をあげた。
「まじで!? …じゃなくて、いいよ、俺がおごる!
ごめんな、澤村」
その様子もまさに犬で、俺はまた笑った。
「謝らなくていいし、黙っておごられとけばいいんだよ。
俺のファンサービスなんだから。」
にやっと笑ってそう言うと、青木は一瞬びっくりしたような顔をした。それから顔を真っ赤にして俺に抱きついた。
「澤村超いい奴!大好き!」
犬より単純なやつだと思った。しかしなんだかちょっと可愛い気がしてきたから不思議だ。
ただしもちろん俺が奴を暑苦しいってぶん殴ったのは言うまでもないが。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

お粗末さまでした!


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