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野球 埼玉西武ライオンズ 栗山×片岡

時事ネタなので急いで。
17です。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

酔っ払いに肩を貸して、ずるずつエレベーターに乗る。ああ重い。できるだけ歩く努力はして欲しい。
全く、疲れてるのに飲むからだと思う。時差だってまだあるだろうに、はしゃぎすぎにも程がある。
とは言っても、はしゃぐ理由に水をさせるわけもなく。
そして盛り上がる周りのチイムメイトたちを止められるわけもなく。
世界一おめでとう!お疲れ様!お帰り!
「…ほら、もうすぐですよ」
殆ど素面の自分は、そういう場では損をするタイプだと久利山は思う。現に酔っ払いを押し付けられた。
笑顔マイナスイオンの先輩に、ほな、後はよろしく!と。ゲームでの相方はあんたでしょーに。
でもまあ、仕方ない。この世界一祝勝会の主役その1の言い分なので、素直に従うことにした。
「ほらっ!歩く!ちゃんと!」
「…ん」
しかしこの主役その2ときたら、ああもう、自分の足で歩いて欲しい。
そりゃ、まだシ一ズンも始まってないんだし、はっちゃけるのは今日くらいしかなかったのはわかる。

でも、世界の誰も止められない韋駄天が、ずるずる革靴の先も痛むのに引きずられて、かっこ悪いったら。
マンションのドアを開けるときだけ手を離した。…ら、中に入った瞬間。
「…って!やっさん!!」
がちゃんとドアが閉まる音が、暗黒のまま聞こえた。ついで鍵の閉まる音。
後ろから思い切りつかまってきた、型丘の仕業に違いない。
靴を脱ぐはずの場所に、そしてずるずるへたり込むのがわかる。
ぱちりと玄関の明かりだけつけると、ドアにもたれうずくまった型丘は、ぼんやりその澄んだ顔をあげた。
「飲みすぎ。ほれ、ベッドまで行って。自分で」
「…」
型丘はまぶしいのか、少し目を細くした。目じりは酔いのせいか、赤い。
「…やっさん。疲れてるっしょ。俺、ソファ使うから…」
「久利」
「ん?」
「今日、あんまりお前と話してない」
まぶしいだけじゃないらしい。明らかに型丘は、眉をひそめている。
冷たい玄関に座り込んで、久利山を見上げている。
「…そうやっけ。ごめん、やけど主役独り占めするわけにも…」
「あんまり笑ってなかったろ」
「そんなことないよ」
「嘘つき」

型丘はそして、動かねーぞ、俺は歩かないと言い捨ててぐったり体の力を抜いた。ジャケットに頬を埋める。
久利山は呆れた。子供じゃないんだから、帰ってきた日本の、ここ数日の冷えは体に悪いくらいわかるだろう。
「あんなあ、何であんたがヘソ曲げてるんですか」
「うっせ」
「世界一やろ。選ばれて行って、…不満やったらむしろ、選ばれんかった俺が言うのが普通っしょ」
「…」
「世界一になって、何が気に入らんねん」
「んなことねーよ」
「ほな笑ったらええやん。何で今日、俺の前でだけすねてんの」
祝勝会という名の飲み会の場では、こんなんじゃなかった。そりゃもう、弾け過ぎってくらいに大笑いしていた。
先輩後輩、皆に祝われていた。それはいつもの見慣れた笑顔で、確かに俺はほんの少し、安心したりもしていた。
だってテレビで見るあんたは、まるで違う星の人みたいにやたら現実味が無くて、混乱もしていたんだ。
帰ってきたと感じて、安堵した。
そして確かに、また俺は、深く滾る息苦しさに捉われる瞬間もあった。
「拗ねてねえ」
型丘はごそごそと、ショルダーバッグ(肩がけだから奇跡的に自分で運んできた)の中を探って、何かを取り出す。
ばさっと投げ

ばさっと投げつけられた雑誌は有名な里予球雑誌で、そういえば自分のインタビューが載っていた号だ。
「何。これが何。読んだの?」
「久利」
「ん?」
「お前こそ、不満?」
半分閉じてこちらを見る目は、祈っているようにも見えた。
冷えた春の夜が、静かに落ち積もる。刷毛で伸ばしてゆっくり塗りかためていくように、一つずつ確実に。
久利山は、そのせいだけでなく、頬が歪んだと自分で思った。その影を、型丘はきっと見ている。
少し冷えた指を、伸ばした。
「…そう、見えんの?」
「ん」
しゃがんで抱きしめたら、今日初めてその人は、柔らかい声で耳元で呻いた。
こうなると冷えがもどかしい。ぬくもりが伝わるまでに間がある。
「…うっちーから、空港で貰ったんだよ、それ」
その世界大会に一緒に出た、別の選手の名前を言う。自分の体温が勝手に上がったり下がったりする。
聞きたくないと、今日初めて認めた。そうだ。
あんまり笑ってなかった。そうだよ。
俺は見たくも、聞きたくも無い。
深く滾る息苦しさ。
嫉妬だと。
「読んだよ。ま、大体わかってるけどな」
首筋に頬を埋めたら、匂いと体温が本当に懐かしくて、思わず腕に力がこもった。

けれどこの裏に、俺の知らない何かがもう在るのだと思えば、腹の底あたりで何かモンスターが猛り狂う。
業が深い、と思う。
この嫉妬は、あんたに対してすらも滾る。
俺の持てない高みを得たあんたが、誰よりも妬ましい。
「お前が4番打ちたいとかさ、知ってるし。多分打てるやつになるだろって、俺は思ってんだよ」
「…褒め殺しかイヤミか、知らんけど」
「マジな話だよ。日本代表が言ってんだよ!」
そこで型丘はははは、とどこか空虚な声で笑った。耳元で聞こえた。
彼の腕が静かに、肩と背中にまわる。絡みつく喜びと苛立ちが、久利山の中でごっちゃにめぐる。
「それに、俺は必要ない話なんだってのも。俺、1番だしさ」
「だから?」
お前が2番だから、俺はお前と繋がってるなんて、馬鹿なことも思えるんだ。
それでもお前は、そんなこといつか終わるよと、あっさり言うんだ。
俺は、お前が居たから、ここまで来れた。
「…さあね」
「やっさん」
「俺の都合の話」
ふと思い出した。送ってくから、とタクシーを捕まえたとき耳元で、お前んちがいいとだけ呟いたこと。
べろべろに酔っ払っているようでいて、こちらの肩を掴む手だけは、しっかり迷い無かったこと。

「…誘ったんは、あんたやからね」
ああこの嫉妬は、業が深い。
あんたに、あんたの経験に、あんたの周囲に、全部。俺の手が触れなかったもの全てに。
単純な独占欲じゃないから、性質が悪い。あんたが居る、その存在だけでまた回る、業が深いんだ。
「あー、そーだよ」
「悪いけど、今日は優しくできひんよ。嫉妬してるから」
「いい、好きにしろ。明日は出ねーし」
目の前の首筋から肩の筋肉にかけて、形岡は舐めてそして一瞬軽く噛んだ。
「つっ」
思わず息を強く漏らして、九里山の肌が張る。けれど身を離そうとはしない。
そのまま痛みごと、受け止める。
「…俺も今日は、そんな気分だ」
どっちが現実なのかわからなくなってるんだ。
夢も悪くない。ああ、世界一になったときは全くものすごい瞬間だった。
それこそ、何を引き換えにしても惜しくないと、このために生きてきたんだと思うほどに。
「正直、あっちに居るときは、ずっとお前の事なんか忘れてた」
形岡は言った。その吐息の具合が、ため息に似ているなと自分で思った。
もうさすがに白くはない。春の夜に舞う。
人間なんてそんなもんだ。目の前に大きな獲物がぶら下がっていたら、夢中になれば全て忘れる。

忘れられる。
そうだ。お前なしでも俺は全く大丈夫、だった。お前なんか必要無かった。
「だからお前なんかいなくなっても、俺は大丈夫なはずなんだ」
お前が隣にいなくても俺は、忘れられる。
「…」
「九里」
「はい」
「何時までも傍にいる気なんか、無いんだろ」
吐き捨てるように言ったら、優しくしないと言ったくせに、とんでもなく柔らかくキスされた。
「どう、やろね」
刻み込んでやる。世界一すら忘れるくらいのものを、俺が必ずあんたに、あんたの中に。
忘れられなくしてやりたい。
「…お前は、色々、嘘つきだ」
本当に嘘つき、何時までも傍にいるつもりなんか無いくせに。嫉妬してるのは俺のほうだ。
ああ、忘れられるわけ無い。ただそのときが来たら、忘れる努力だけはきっとするだろう。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

計算ミス申し訳ないです。


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