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ONEOUTS いでとく

わんこキャラ正捕手×傍若無人エース。長くてすみません。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

渡久地はいつだって大胆不敵で、かつ外道。そんなことはよーくわかっている。
プロの野球選手としては全く身体能力に劣るくせに、勝負師としての心理戦、ハッタリだけは超一流なので、
他球団から悪魔とも魔法使いとも揶揄されているのも知っている。
マウンドでの無表情もいつものこと。どんなピンチでも荒くかきあげた金髪を乱しもしないし、
切れ長の目を歪ませもしない。
怒号も聞いたことはない。こちらがミスをしたところで渡久地は、まるでそれも計算のうちと
でも言うように揺らがない。揺らがぬまま、
「いいぞ出口、これも布石だ」
と怜悧にあっさり流したりするのだ。

そんなエース兼オーナー兼スコアラーで影の監督は、今日も今日とて全くクールだ。
クールかつシビアに、現実的に、目の前のモニター画像を繰り返し見ている。
今日からの対戦相手のデータ映像が、さっきから何度も始まっては終わっていた。今日の
先発は渡久地ではないくせに、この男にとってデータの蓄積とその分析は、最早
勝負師としての日常の
一部になっているのだろう。
しかし試合に出るほうとしては、ただただ冷静でいられるはずもない。
万年最下位だったこのチームが、常勝チームと首位攻防戦を。
それだけでも緊張するというのに、昨今大型トレードでますます強力に生まれかわった
対戦相手は、間違いなく球界最強だ。

「…渡久地ぃ」
「何だ出口」
「勝てるわけ…ねぇよ。なぁ…」
「あぁ、勝てるわけないな」
「せめて、お前が投げてくれたら…」
「勝てるわけないと思ってんだろう。だったら俺の登板は不要だ」
にべもない。モニターのリモコンを操作する長い指が、ただ動くだけだ。
渡久地は言いながら、だが笑っている。にやり、口角は揺らいでいる。
これは何か、突破口を知っているという顔だ。
「…渡久地っ!何だよ、何考えてんだよっ」
「俺はいつだってどうやって勝つか、それだけだ」
「じゃあ俺にも教えてくれよ」
「いや。言ったろキャプテン」

お前は、俺の言ったとおり動いていろ。渡久地は微かに赤みのある目尻をようやく
ほんの少し緩めた。しかし出口は収まらない。
そりゃ、お前に言わせりゃ俺はただの捕手だ。だけど。
「お前は俺が…俺は、そんなに、信用ならねぇか」
ミーティングルームの机に突っ伏して深い深いため息をついた。
緊張して、それ以上に己が情けなくて顔を上げない出口に、渡久地は言った。
「俺は、信用もしてない奴とは寝ないぜ」
あっさり。
クールな物言いに、出口の頭がそれを理解するのに数秒かかった。
「…っと、渡久地ィィイ!?」
「騒ぐなよ。そうじゃねぇのか」
ぴ。画面が一時停止する。
それと同じくらい、出口も一時停止する。

「今までお前と何回寝た」
「……。」
「シーズン中にエースの俺が、一回でも拒否ったことがあったか?」
「……いやその」
「オーナーとしてもだな、チームが優勝争いをしている最中に、チーム内で不純同姓交遊」
そんなもの許せると思うか?渡久地はやれやれと肩をすくめた。答えは否だ。
出口は耳まで熱かった。
沖縄出身の癖に渡久地は妙に日焼けしない質で、本格的にアスリートとして鍛えていない背中は
時として薄く見えた。
目も顎のラインもシャープなのに、出口らを鼓舞する仰天の悪魔の戦略を口にする渡久地は、
その唇だけでよく笑っていた。そこだけ柔らかそうに見えていた。

「……っ」
「というわけだ。そして忘れろ、出口」
いや実際、ひどく柔らかだったのだそれは。
思わず己の唇を手で覆う。思い出してしまう。思い出してしまいそうだ。
それを渡久地は見透かしている。試合前だと暗に言っている。
当然だ、首位攻防の大一番前なのだ。出口は心の中で何か叫びながら、必死で頭を振る。
「…いや出口、待て」
「っんだよォ!?」
「うん、人によっては報酬は変えるべきだな」
「渡久地?」
「さっき俺が、高橋たちに特別報酬の説明をしたのは聞いてただろ」
「打たれてもいいから、ストライクさえ投げてりゃ五十万ずつ…ってやつか」
「そうだ」
恐る恐る見上げた渡久地は笑っていた。

恐る恐る見上げた渡久地は笑ったまま。
口角をさらにわずかにあげ、見ようによっては心底楽しそうに。
滅多にない。策がはまった時でも、渡久地はクールで笑わない。
「そこでだ、出口にも渡そう」
「…報酬か?」
「そうだ。もし今日の試合、お前が最後までマスクを被っていたなら」
多分ボコボコに打たれ負ける。そう出口は思っていた。
補強した常勝チーム相手に、弱気になうちのダメピッチャー。
渡久地も投げない。結果なんぞ火を見るより明らか。
そんなジェノサイド、最後までリードしろってのか、お前は!
「マスクを被っていたなら」
「……っ」
「俺を好きにしていい」渡久地は席を立った。
かたんと音がしただけだった。

「報酬だよ」
渡久地は出ていく。
また出口の頭が、目を白黒するの以外に働くのに数秒かかるのすら、渡久地は
知っているのだろう。
「ちょ、まっ、おいィィィィ!!」
「何だ、要るのか要らないのか」
「って、そりゃ、そりゃ、なあ!?だけどお前っ…」
「せいぜい頑張れや、キャプテン」
扉にかけた指が、振り向いた耳が、妙になまめかしく見えるのは、くそくそくそっ!
「俺の条件は、お前を裏切らないぜ」
「…っ」
「最後まで果たせよ。オーナー命令だ」
考えてみる。渡久地が消えた、その扉から目を離さず考えてみる。
報酬は、それは欲しい。欲しいものを報酬にする、渡久地は本当によくわかっている。

だが、欲しいがだが。屈辱にまみれろと?
正捕手として投手陣が火だるまになるのを、指をくわえてろってか?
「…わっかんねぇ奴だな、本当に!!」
出口は天井に向かって叫んだ。
よくわからない。渡久地の本音もわからない。
出口をどういう意味で試しているのか、さすがに出口も、試されているのはわかっているが。
忘れろと言ったり、忘れるなと言ったり。
どうしたらいいのか。
くそったれー!出口はまた叫んだ。ガリガリ頭をかきむしった。
俺を好きにしていい、なんて言った唇のことだけが、どうしても頭の隅から消えなかった。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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