こころ 先生←K
更新日: 2012-07-11 (水) 16:57:10
過ちスレに投下する予定だった黒歴史な産物。
時間軸があいまいだったらすみません。
「こころ」の先生←Kです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
目の前が、真っ暗になった。
すぐ近くにいるはずの奥さんの声が、磨り硝子の向こうからのように聞こえる。
何か言葉を発すべきだとは思ったが、僕の喉は凍りついたかのようにその機能を失い、音を発することができなかった。
自分の中で数多くの思いが渦巻いていたが、自分が何に対してこれほどまでに衝撃を受けているのか、僕自身ですら全くわからなかった。
否、こういった状況になったときに陥るであろうと思っていた感情と現在自分の抱く感情があまりに違うから、混乱しているのだろうとどこか他人事のように思った。
こういった状況、つまりお嬢さんが誰かほかの男のものになるという状況だが、そうなったら自分はどうするだろうかと、想像しなかったわけではないのだ。
しかしそういったとき予想する気持ちは、たいていはその男への嫉妬や、お嬢さんへの慕情などといったもので、今の気持ちとは全く異なっていた。信じがたいことに、今僕の頭の中の八割ほどを占めているのは、奴だった。
あの房州への旅行、己が道について語り明かしたあの夜、共に学舎へと向かった道筋、次々と奴のことが頭の中を駆け巡っていた。
そしてふいにごく最近の出来事が思い返された。
「精神的に向上心のない者は、ばかだ。」
そう言い放つ奴の顔が瞼の裏に描き出される。
と同時に僕の口から乾いた笑いが洩れた。
あのとき言った言葉をもう一度呟いてみた。
「僕はばかだ。」
絞り出すように呟かれたその言葉は、一人娘の結婚に浮かれる奥さんには届かなかったらしく、「何と言いました。」と怪訝そうな顔で聞き返された。
僕はただ何でもないのです、とだけ返した。
しかし何でもないなどというのは嘘っぱちだった。
とんでもないことに、僕は気付いてしまっていた。
僕が衝撃を受けていたのは、お嬢さんをほかの男に奪われたからでも、奴に裏切られたからですらなかった。
何ということだろうか、僕が愛していたのはお嬢さんでなく奴だったのだ。
気づいてしまえば容易いことで、するとますます自嘲は大きくなった。
そのとき、この顔中に広がる笑みを何と解釈したのか、奥さんが口を開いた。
「あなたも喜んでください。」
目の前のご婦人は、これまで見たことのないほどに、幸福そうな顔をしていた。
僕にはそれに水を差す権利などなかった。
「おめでとうございます。」
奥さんが浮かれていてくれて、幸いだったと思った。平生の彼女なら、僕のこの祝福の言葉に滲む絶望を、敏感に感じ取ってしまったかもしれないからだ。
頭がくらくらとしだしたから、立ち上がった。
一人になりたかった。
そこでふとその結婚の日取りが気にかかった。
幸福そうな二人を見るのは、僕にとってたまらない苦痛であるだろうからだ。
「結婚はいつですか。」
振り返り、奥さんを見ながら訊いた。しかしこれだけでは不自然かもしれないと思い、
「何かお祝いをあげたいが、私は金がないからあげることができません。」
とつけ加えた。奥さんは小さく笑っているだけだった。
僕は茶の間を出た。
自分の部屋へ入り、襖を閉め、机の前に腰を下ろすと、自分の何か奥の方から、ふつふつと笑いがこみあげてくるのがわかった。
自分がたまらなく滑稽に思えた。
愛する人を違え、それに気付いたときにはもうその愛は行き場をなくしていたなど、愚の骨頂としか言い様がない。
あまりにも滑稽すぎて、落語のねたにだってなりやしないだろう。
奴は私をはめたのだ。奴は僕を友人としてすら、大切だとは思ってはいなかった。
それなのに僕だけが、一方的に、奴を愛していただなんて。
しかもそれに気付いたというのに、まだ奴と語り合いたいと思っているだなんて。
笑いが止まらなかった。だからそのままの勢いで、手紙を書いた。
人生最初で最後の恋文に、彼女のことは、書かなかった。
書き上げてみれば、情緒のある文句などひとつも並ばない、まさに自分らしい文章だった。
ふと硯を見れば、僅かに墨汁が余っていた。
せっかくだから、もう一言だけ、書き付けた。
もっと早くに死ぬべきだったのに、どうして今まで死ななかったのだろうか。
そうすればこの気持ちに気付くこともなかったのだ。
しかしもう僕は気づいてしまった。それは仕方のないことだ。
この一文を加えるのは、おそらく僕のエゴイズムの賜物だ。
この手紙を見た奴が、少しでも僕を思えばいいと思って付け加えたのだから。
どこまでも僕は愚かだった。
しかしもうそれを嘆くこともない。
笑いは止まった。
最後に思い起こすのも、やはり奴の姿だった。
(ああ、もう一度だけ、会いたかった。)
しかし、僕は鈍く光るそれを、僕自身に突き立てた。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
あああああ
恥ずかしすぎますが厄落としと思って投下しましたorz
かゆい気持ちにさせた方、申し訳ないです。
- 素敵な文章で楽しんで読ませて頂きました。 -- ミライ? 2012-07-11 (水) 16:56:58
- 素敵な文章で楽しんで読ませて頂きました。 -- ミライ? 2012-07-11 (水) 16:57:10
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