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笑う犬の冒険 てるとたいぞう 「Love」

照退つづきです。アク禁に巻き込まれてました。その間サイト作りに励んだのですが、説明書見て首ひねってる段階です。(スキルなさ過ぎ)
次回投下する頃には、神話の姐さんを見習ってなんとか作りたいんですが、なんか凄い難しい…。話自体は次回も含めてあと4回あります。結局全11話に。(長っ)
サブタイはジョン・レノソの。前回の投下日の方が命日に近かった。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

オレがどんなにあのキスを大事に思ったのか、あの人はわかってるのか?
ガランとした心で、冷え切った自宅に戻り、退蔵は持ち帰った鞄から札束を取り出した。
空いた靴箱に2千万を詰めてみる。半分近く隙間が空いた。手元に来るまではこんな大金どこへ隠すんだと思っていたが、たいした量じゃない。重さは2kg程だ。
この2千万でいっそ、照とどこかへ逃げたい、と一瞬思いついた。
これまでの事を全部照に打ち明けて、2人で何もかも捨てて、どこか遠くへ逃げてしまいたい。
そんな考えが頭をかすめて、退蔵は溜息をついた。一瞬だけでもバカ過ぎる考えだった。
今ギリギリの均衡を保って綱渡りをしている状態なのに、自分から落ちてどうするんだろう。
そんな事をすれば2人とも、間違いなくすぐに見つけ出されて殺されるだけだ。衝動的に靴箱を蹴って、中の札束をぶちまけた。
あの後、田所へ連絡し終えて資料室に戻ると、照の姿が消えていた。
対策課にもいない。コートも消えていた。通りがかった交通課の同僚が、ついさっき帰って行ったと教えてくれた。
玄関へ飛び出して辺りを見回しながら、退蔵ははがゆくてたまらない気持ちで照を捜した。
なんで逃げるんだよ…。照の心がよくわからなかった。
田所の連絡は、朱龍が近々『退史郎』を警察から組織に戻そうとしていると伝えるものだった。
妙に抑揚のない声で田所は退蔵に告げた。
『おまえは試験にパスしたらしいな。出先から本店に戻すってさ』
重要な事だが今言わなくてもいい。明日になってから聞いてもいい事だと思った。
おかげで照は腕からすり抜けて、行ってしまった。

翌朝、退蔵が出勤するとすぐに田所が現れた。
「悪いけど、今日は大内と組んで外へ出てくれ」
手短に説明される。昨夜、弁護士が山根組系暴力団に襲撃された。犯人を特定する為、周辺の防犯カメラを捜査課と共同で一斉にチェックする。
借りてこられる物は署内でチェックするが、中には移動出来ない形態の物があった。
「それを大内と手分けして、現場でチェックしてきてくれ」
昨日の連絡と同じように、抑揚のない淡々とした言い方で田所は言った。
「照さんは?」
退蔵が聞くと、田所は一瞬眉を上げてわずかな時間退蔵を見据えてから、
「照は署内だ、もうチェックを始めてる」
と早口に言うと、通りがかった部下を呼び止めてそちらと話し出した。
何かわだかまる物がある。顔を見るだけでもいいから一度照に会っていきたかったが、仕方なくそのまま大内と署を出た。
結局防犯カメラのチェックは夜の8時頃までかかった。
いくつか見たビデオの中で、大通りやマンションのロビーにクリスマスの電飾が光っているのが、やけに目の中に残った。
署内に戻ると全員チェックを終了したらしく、集中が切れたのかみんなくだけた雰囲気でざわついていた。飲みに行くか、という声が上がっている。
その中にすぐに照の姿を見つけた。
見つけると同時に、照の方でも退蔵に目を上げた。
視線が絡んだ。
たぐりよせれば心を引き寄せられそうに、視線が結びついていた。
「みんな焼き鳥んとこでいいか?」
田所の声がした。
「それじゃ行きますか」
誰かが答える。田所が人を割って照の横へ歩いてきた。退蔵と照は視線を外した。田所が照に声をかけている。
「行くよな?」
「いや、おれ残業」
照が田所に言いながら歩き出すのを、退蔵は見てないふりをしながら目の端で追った。田所は低い声になって言う。
「なんで?昨日やってたんじゃねえの?」
「終わんなかったんだよ」
「…おまえ、メシ食ってねえだろ?明日にして今日は来いよ」
「そうもいかない。今食う気しないし、終わったら行くよ」
照は田所と同僚たちに「お疲れ」と言い残して歩いて行った。

田所が自分の方へ振り向いたのを察して、退蔵は見ないようにした。田所が近づいてくる。
「退史郎、大内、おまえらも行くよな?」
大内が笑顔でハイと答えたのに続いて、退蔵はわざといい笑顔で言った。
「オレは残業です」
田所の目が微妙に細められた。
「おまえ、昨日も残業だったよな?」
「今日中に片づけたいんで、終わったら合流しますよ」
田所が何か言おうとするのを気付かないふりをして、退蔵はその場をすり抜けた。

一人で調書作成に集中している照の姿を、退蔵は少しだけ眺めてから扉を開けた。
照が顔を上げて、なんだか子供みたいな目で退蔵を見つめた。
「飲みに行かなかったのか?」
退蔵は首を傾けて笑った。
「残業手伝いますよ。オレが噛んでるとこはオレが作ります」
退蔵を見る照の視線が昨日と違って柔らかい。それだけで退蔵は心の中が暖まっていくのを感じた。
仕事が全部片付いた時にはまた23時を過ぎていた。照が資料を戻しに行くついでに、退蔵は備品の物置から新品の蛍光灯を取り出して持って行った。
資料室の電灯はまだ付け替えられていなかった。
脚立に乗って、退蔵は照に外した古い蛍光灯を手渡し、新しい方を受け取った。
眩し過ぎるくらいの白い光が辺りに満ちた。
照が古い蛍光灯を箱に詰めている隙に、さりげなく退蔵は内鍵をかけた。静かに呼びかける。
「照さん……」
振り向いた照の顔を両手で包んで、退蔵はゆっくり唇を重ねた。
素直に応じてくれる。照はキスされたまま蛍光灯を握り締めている。退蔵はそれを手からもぎ取ると、そばの机に置いた。
照がぎこちなく、空いた手を退蔵の背中にまわしてきた。
舌で抱き合うみたいに絡ませた。一瞬で夢中になって、またわけがわからなくなる。
照の髪と背中を撫でて、そのまま右手をスーツの内側に滑りこませて、ワイシャツ越しに背中を撫でた。
物足りなくなって、ワイシャツの裾を引き出して、その下から直に体に触れる。
「んっ……」
照が途惑ったように身じろぎした。構わずに指を這わせると、体をよじって唇を離してきた。
「ちょっと待て…」

肩に手を置いて少し押し返された。退蔵は動きを止めて、じっと見つめた。
「どうかした?」
「…これは…だめだろ…」
口に手を当てて、照は困惑して退蔵から視線を外した。なんで急に素に戻ったのか、退蔵にはよくわからなかった。
「どうして?」
「どうしてって……こんなの、やっぱりおかしいだろ」
照は何故かうろたえている。間近で照の目を見つめて、退蔵は言った。
「おかしくなんかない」
そのまま照のネクタイを緩めて、ボタンをひとつずつ外し出した。その手を照が掴んで止めようとする。
「だから…だめだって」
「なんで?」
「なんでじゃなくて、ちょっと」
もどかしくて、退蔵は両手でちょっと引っ張ってボタンを外した。抗議には耳を貸さずにベルトに手をかけると、照が慌てて両手でその手を掴んでくる。
「やだって、本当にやだから、退史郎!」
叱りつけるように名前を呼ばれて、退蔵は手を止めると、じっと照を見て言った。
「わかった」
ちょっと離れるとスタスタ入口まで歩いて行って、壁のスイッチを押して真っ暗にした。
「電気消したげるから」
「…だからそうじゃなくてさ、退史郎、本当に、」
暗い中、戻って来ると聞かずにもう一度くちづけた。体を引こうとする照に抱きついて、ぎゅっと自分自身を押し付けた。
「……わかる?」
「……………」
踏み出した以上、今更戻れないし戻る気もしない。この線を越えてしまいたい。
暗がりの中で、照はおちつかなくせわしなく視線を揺らした。退蔵は照のワイシャツの前をはだけて、もう一度手を潜り込ませた。
「だめだって……」
照の声がうわずっていた。月明かりでぼんやりと、体が白く浮かび上がっている。退蔵は照の鎖骨に唇を落とした。
「いいよね?」
「よくない……」
そうは言っても、もう声がかわいくなってる。
肌に手のひらを滑らせると、温かくて心地良かった。照の体がびくっと跳ねた。

「人来るから……」
「来ないって……」
首筋に唇を這わせて、服の下の体をギュッと抱き締めた。
「本当に嫌?」
首筋に唇をあてたまま喋ると、照の体が小刻みに震える。
「……いやだ」
「……そうかなあ……」
手のひらを好きに動かした。
「たい……」
照は呼びかけて途切れさせた。また、名前を間違えそうになった?
じっと見つめていると、照は少し我に返って目を開いて、退蔵と目を合わせた。
「今のは違……」
気まずそうにしてるのが伝わってくる。
「いいよ。どっちを呼んでも」
真面目な顔で退蔵は言った。薄明かりの中、照が驚いて見つめ返してくる。
「えっ…」
「退蔵でも退史郎でも。呼びたい方呼んで」
いいんだ。本当にどちらを呼んでもいい。オレは退蔵で退史郎だから。
「……何言ってんだよ」
混乱して、照は退蔵の目の奥を覗きこんでくる。
「どっちを呼ぶ?」
退蔵は照の耳を噛んで、手のひらで背中を撫でまわした。
「……退史郎……」
そうか。そっち呼ぶよな。そりゃそうだ。
本当に選びたいのは誰なんだ。耳を何度も甘噛みする。
ベルトを外してファスナーに手をかけると、照はまたその手を掴んで止めようとする。
「こーいうの、やっぱり、よくない……」
なんでそんなにためらってるんだろう?
「……はずかしい?」
照の頬を触ると顔が熱くなってる。

「心配しなくていいから……今日は痛いこととかしないから……」
もう照が反応してるのはわかってる。布越しに指で触れた。
「ちょっ…ちょっと……退史郎……」
照は流されてる。流されて、2人で違う岸辺に辿り着ければいい。
指で形をなぞって、それから直に触って握り締めた。ゆるゆると手の中で撫で上げる。
照は顔を反らして、何かに耐えているようにギュッと目を瞑っている。
浅くて短い呼吸を繰り返している。その呼吸に合わせて手の動きを速めた。
苦しそうに呼吸している。照は何かに抗っているように見える。
越えてしまえば楽になる。
もう先端は溶け出している。手のひらで包み込む。少し力を込めた。
「――――ぅ………んっ………」
表情が変わった。
声が甘い。少し乱暴に手を動かす。照の足に力が入らなくなっている。
縋るように両手で退蔵の肩に掴まっている。荒くなる息遣いを肩先に感じていた。
いきなりスーツのポケットの中で震動があった。バイブ機能にしていた退蔵の携帯が鳴っている。
そんなもの知らない。無視する。
「……ちょっと座って」
脚立に照を腰かけさせた。照の目がとろんとして定まらないのを見て、こめかみにキスした。
携帯は自己主張し続けているが一切無視して、退蔵は照の足元で膝をつくとゆっくり口に含んだ。
「……や、………ぁ………」
照が退蔵の髪に指を差し込んだ。指先に力が入っている。
不思議な果物を舐めてるような気持ちだった。
たべてしまいたい。本当に、ぜんぶたべてしまいたい。
下から上へ舌を絡ませて、吸い上げた。オレと同じところを同じように気持ちよく思ってくれたらいいんだけど。
思いながら舌でなぞって唇で噛むと、口の中で跳ねる。
「退史郎………」
かすかな、切ない声で名前を呼ばれる。
さっきどちらを呼んでもいいと言ったくせに、こうして呼ばれるとまた変な感覚が起きた。
まるで自分で自分の恋人を寝盗ろうとしてるみたいだ。

その時また携帯が震え出して、いつのまにか一度止んでいたのに気付いた。
照に集中するうちに、また携帯の存在を忘れていく。
「……ごめ……ちょっと、退史郎、離して……」
息を熱く弾ませながら、照が退蔵の髪を撫でる。
「……なに?」
先端に唇を当てたままで喋ると、照の体が震えた。
「……もう無理……終わらせて……」
「イキそう?」
照は目を閉じて、こくんと頷いた。指先で撫でながら退蔵は低く囁いた。
「いいよ。出して。オレ飲むから」
「……無理……」
「いいから。我慢しないで」
指で撫でながら口に含んで、思い切り動かした。照はほとんど苦しんでいるように息を吐く。
照……。
心の中で呼びかけながら、下から上へと鋭く吸い上げた。
「んんっ…………」
照が強張って、それから退蔵の口の中で拡がった。飲み込むと軽く喉が灼けた。
今まで同性とした事はなかったから、したらどうなっちゃうんだろうとずっと思ってた。
何も問題ない。大丈夫。むしろ、今までの誰といる時より満ち足りている。
この人だ。この人で合ってるんだ。
退蔵は喉を鳴らして全部飲み干した。虚脱したような照の背中を、膝をついた姿勢のままで抱き締める。
「すきだ」
「………退史郎」
照は自分の胸に引き寄せるようにして、退蔵の頭を抱え込んできた。
心の中が柔らかく暖まっていくのを感じた。おれのもの。全部おれの。もう一度言う。
「すきだ」
その途端、また携帯が震え出した。
「……電話…?」
けだるい声で照が呟いた。頭を抱きかかえられたまま、退蔵はスーツのポケットから携帯を取り出す。暗がりの中、光って浮かび上がった表示を見た。
田所だ。

不意に耳の中で、以前言った田所の声が甦った。
『オレはおまえの見張り役だ』
あの野郎。どこかで見てんじゃねえだろな。
しかし田所は今、同僚たちと飲んでいるはずだった。単純に早く来いという催促だとも思えた。
どっちにしろ、知るか。退蔵は電源を切った。
「……切っちゃうのか?」
きょとんとして聞いてくる照に、退蔵は大きく笑いかけた。立ち上がってから、座ったままの照をもう一度抱き締めた。
「今日はもう帰りますか。12時近い」
本当はずっとこのまま一緒にいて、もう少し先まで進みたい。
そう思うけど、もったいなくて全部一度には食べずに、しまっておきたいチョコレートをもらったような気持ちが強かった。
別れ際、最後に振り向いた照は、退蔵の顔をじっと見た。
「信じていいのかな」と迷っているような目。
もちろん信じていい。信じてほしい。退蔵は思いを込めて笑った。

翌朝、退蔵は署に着くと、パトカーの脇で、田所が照にしきりに話しかけているのに出くわした。
照は手元の用紙に目を落としたまま、時折何か言い返している。
傍を通り過ぎようとすると、田所が顔を上げて退蔵に声をかけてきた。
「退史郎、今日も大内と行動してくれるか?オレたち今から出てくから」
「……そうですか」
ずっと感じていた違和感が、退蔵の中で形を取り始めていた。
「わかりました」
田所にしか気付かない程度に、口に薄く笑いを浮かべた。
それを見た田所は、はっきりと敵意を剥き出しにして、退蔵を鋭い目で睨みつけた。
横にいた照は、田所に背中を押されてパトカーに乗り込み、窓から退蔵の顔をちらっと見た。
何も言わなくてもわかった。一瞬目が合っただけで、それだけで十分だった。
愛しあってる。誰にも邪魔なんかさせない。

夕方署に戻った退蔵は、多分もう照も戻ってるはずだと思って、その姿を探しながら廊下を歩いた。
廊下の長椅子に照が、なぜか子供2人と座っているのを見つけた。
小学2年生くらいの男の子と、幼稚園児くらいの女の子。見ているとその2人と指きりを始めた。
近づいて行くと照は振り向いて、退蔵の姿に気付いてちょっと目を見開いて、それから照れて笑った。
「いいとこに来た。退史郎ごめん、ちょっと代わって」
「…はい?」
「おれ行かなきゃいけないんだ、この子らちょっと見てて」
立ち上がると軽く説明してきた。先日の襲撃された弁護士の子供たちで、今事情聴取を受けている父親を迎えに来たらしい。
こういう場合、大抵は人当たりのいい婦人警官に任すのだけれど、ちょうど人手が無かったようだ。
「おまわりさん、もう行っちゃうの?」
男の子が照を見上げる。
「ごめんなー、次はこのおまわりさんがお話ししてくれるから。…後よろしく」
男の子と退蔵に順番に笑いかけて、照は廊下の途中で一度振り向いてから、去って行った。
まいったな。思いながら退蔵は子供の横に腰を下ろした。それにしても、あの人は子供が苦手だと思い込んでいたが、案外なつかれてたみたいだ。
「…あの人とさ、何お話ししてたの?」
退蔵が少し顔を低くして聞くと、男の子はランドセルを背負ったまま、少し緊張したような顔で退蔵を見た。
「…おとうさんは、悪い人に脅されたけど、負けなくて立派だって。おまわりさんは、そういう悪い人たちからみんなを守るために、毎日がんばってるって言ってた」
照らしい。心の引出しにしまっておく。見ると、女の子は長椅子からずり落ちて、首だけ椅子に乗せている。
「まな。ちゃんと座れ」
男の子が引っ張り上げる。退屈してきたんだろうか。
女の子はだらーんとしたまま引っ張られていたが、急にニコニコ笑い出して男の子に内緒話の形で言った。
「おまわりさんと、メイカイッシュのはなしもしたよ」
「ん?なんのお話?」
退蔵が顔を覗き込むと、男の子が嬉しそうに聞いてきた。
「メイク・ア・ウィッ/シュ・オブ・ジャパンって知ってる?」
「ん?何?知らないな」
メイク・ア・ウィッシュ?願い事?

「あのね、アリゾナに住んでた7才の男の子は、将来警察官になるのが夢だったの。でも白血病になって、大人になるまで生きられなくなって」
男の子は一生懸命話し出した。
「そしたらアリゾナの警察の人が、その子に制服とバッジとヘルメットを作ってくれて、警察官にしてくれたの」
退蔵は男の子の顔を見ながら聞いていた。
「警察官の格好で、パトロールしたり、ヘリコプターにも乗ったの。それから5日後にその子は死んじゃった。そしたら警察の人たちが、警察官のお葬式をしてくれたの。それでその子のおとうさんとおかあさんと警察の人たちで、メイク・ア・ウィッシュっていうのを作ったの」
「ふうん……」
「それが、難病の子の夢がかなうのをお手伝いするボランティア。それの日本版」
「…そうなんだ。難しい事知ってるんだね」
「おとうさんは毎年クリスマスに、そこに募金するの」
男の子は床に届かない足をブラブラさせながら、笑って言った。
「さっきのおまわりさん、『じゃあおじさんも募金する』って言ってた。『誰か知らない子にクリスマスプレゼントをあげる』って言ってたよ」
退蔵は少し上を向いて、指を組んで、それから男の子に笑いかけた。
「じゃあおじさんもそこに募金しようかな。…おじさんは1万人分くらい募金しちゃおうかなあー」
「いちまんにんぶーん!?」
男の子は大げさにのけぞってウケていた。女の子もよくわかってないのに一緒に大笑いしている。
「1万人分って1万円くらい?」
「さあ~いくらかな~」
退蔵は腕を組んで男の子の顔を見て笑った。
「じゃあおまわりさんも指きりしてー」
女の子が小さい小指を立てている。退蔵は両手で子供2人と指きりした。
そこへ若い婦人警官が小走りに近付いて来て、男の子に話しかけた。
「お父さん、もう帰れるって。一緒に行こうか?」
「この人と行くー」
女の子が退蔵の横に来て腕にくっついてきた。退蔵は婦人警官に笑いかけた。
「じゃオレが連れていきます」
「お願いします」
婦人警官も笑いながら会釈すると、元来た道を戻って行った。

子供2人の手を引いて廊下を歩いていると、男の子がニコニコ笑いながら退蔵を見上げてきた。
「ぼくもおまわりさんみたいに、困ってる人をたすけたい」
そう言って笑った顔は、どことなく照に似ていた。
「みんなが幸せになれるようにしたい」
そう思ってよく見ると、サラサラした前髪や色の白さ、まっすぐ見てくる大きな目が照と重なった。
退蔵は少し笑って、男の子に向かって深く頷いた。

子供たちを父親に引き渡して見送った後で、窓にもたれて退蔵は夕空を眺めていた。
林檎色の雲が薄く流れて行く。それをただ眺めていた。
眺めている間も空の色が変わり続ける。雲の色が濃くなる。
気がついたらそばに照が立っていた。なぜか少し驚いたように退蔵を見ている。
無意識に指の関節を噛んでいたのに、その時気付いた。退蔵は動じなかった。
「兄貴と同じ癖でしょ。2人とも子供の頃から、よくこれで怒られましたよ」
用意もしていなかった答えがスラスラと口から出た。照は驚いていた自分に照れたように俯いて、
「癖まで似てんだな」
と言うと、もう一度退蔵の顔を、まだ不思議に思っているような目でじっと見た。
それから何か考えるように横に目をそらして、そして目を伏せた。
「…何か考え事?」
退蔵がなんとなくしゃがんで下から照の顔を仰ぐと、照は首を振って少し笑って答えた。
「何も。…退史郎こそ、さっき何か考えてたんだろ?」
照に言われて、退蔵は唇をきゅっと結んで、笑って照を見上げた。
「愛について考えてた」
「何言ってんだよ…」
俯いたまま、照は淡く笑っている。
しばらくしてから自分のつま先に目を落として、ぽつんと言った。
「おれたち、なんかやっぱり、おかしく見えるのかな……」
退蔵は照を見て、それから立ち上がって、赤くなっていく空に目を向けながら言った。
「田所さんに何か言われた?」
「……………」
図星って顔をする。
そんなの気にする必要ない。退蔵は照の手首を掴んで、軽く2回振って笑った。

「明日、休みでしょ?」
手首を掴んだまま、明るい声で聞いた。
「オレも休みに替えてもらいました。本当は明後日だったんだけど」
「……そうなんだ」
「今日、一緒に仕事終わりますよね」
軽く頭を下げて、照の目をまっすぐ見ながら退蔵は聞いた。
「今日ウチ行きたい。行っちゃだめ?」
「……散らかってるよ」
困ったふうでもなく優しい表情で照が答える。退蔵は笑って猫背にして、少し下から顔を覗き込んだ。
「オレの居場所もないくらいですか?」
照は笑った。
「そこまで散らかってない」
退蔵は掴んでいた手首から指を滑らせて、照と指をつないだ。
「行っていい?」
「……いいよ」
退蔵は嬉しくて笑って、嬉しくてつないだ指に力を込めた。
2人は指をつないだまま、しばらく黙ってそこにいた。
空には羽根を広げたような雲が、真っ赤に広がっていた。

つづく。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

本文が長いって出て投下遅れたり、またさるったりで、やたら長文で申し訳ないです。
年内もう1回投下したかったのですが、多分年明け5日くらいまでは無理なんで来年に。年明けにサイト出来てるように頑張ります。
よいお年を。

  • サイトは多分検索避けされてるでしょうし、どうやったら見れますかね…?この場所の感想部屋とかで告知とかされたのでしょうか?続きが読みたいのですが… -- ニコ? 2010-12-15 (水) 02:11:10

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