カラマーゾフの兄弟 スメルジャコフ×イワン
更新日: 2013-06-20 (木) 13:25:02
お邪魔します。
衝動のままにドスト・F・スキーの兄弟物語から、4th×2nd。
いや、ナマじゃないですw
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
…チョットナガイカモ
意識が戻ったのは、突然だった。
「…う…」
頭が、ガンガンと痛む。霞む目を擦ろうとしたが、腕は動かない。背で、括られている。
尻の下の固い感触と、埃っぽい空気が、人の出入りの無い部屋を思わせる。少しずつ鮮明になる
意識をめぐらせ、状況を探った。
…今日は、兄の裁判の日だったはずだ。出かけようとした時、一通の手紙に呼び出され、愛着など
微塵も無い生家に足を向けた。人気の無い屋敷内を歩いていた時、背後に気配を感じた。
振り向こうとして、後頭部に衝撃を感じ…そしてここにいる。
殴られたらしい頭部がまだ鈍く痛む。
―ここはどこだ。
目の前の床の一部。僅かに、茶色く変色した染みが見える。
―父の血か…?
ここは、兄に殺された父の寝室だ。
目眩を警戒しながら、体を前に倒してみる。肩がぎしりと軋み、痛んだ。腕は寝台の脚に括られている。
立ち上がることは不可能そうだ。ここに来るまでの道には、雪が積もっていた。温められていないこの部屋は、
少し冷える。
眼鏡は、殴られた時に飛んだらしい。不便というほどではないが、いつも肌にある感触が無いと言うのは、
不思議に落ち着かない。
自分にこんな事をして得になるやつは誰だ?兄の裁判の日に、大した証言も持っていない自分を拘束して
喜ぶ人間は誰だ?
あれこれ考えていたところ、正面のドアがギィーッと乾いた音を立て、開く。
その奥から、一人の若い男がゆらりと顔を覗かせた。自分を見下ろし、その乾いた口角を吊り上げる。
「…きっと、来て下さると思っておりましたよ…イワン様」
「…スメルジャコフ…!」
父の、使用人。自分を呼び出したのはこの男だ。
スメルジャコフは、彼特有の、あの自分の顔色を伺うような上目遣いでひょこひょこと部屋に入ってくる。
顔を合わせるたび、異様なほど馴れ馴れしく自分に媚びるこの小男が、また同じ目をして自分を熱っぽく見つめて
いる。イワンは警戒した。
「…どういうつもりだ。何故俺を呼び出して…」
スメルジャコフは深深と頭を下げた。いつも彼が自分の仕える人間にそうするように。
20数年、しっくりと染み付いた使用人の見本のようなお辞儀だった。そして、言った。
「これで…旦那様の…フョードル様の遺産…そして、カテリーナ様も。全てが貴方様の物になります」
妙に粘っこい口調だった。言いたいことはわかる。だが、この状況はイワンには理解できない。
「だから、これはどういうつもりだ。人を呼び出しておいて」
恭しい態度で、スメルジャコフはイワンを見下ろしている。イワンの脳裏にふと疑問がよぎった。そもそも
スメルジャコフは、また発作を起こして倒れた筈だ。床に臥せっていると聞いていた。
「仮病だったのか…?」
その問いに、スメルジャコフは微笑んだ。また、口元が吊り上がる。
かすかな苛つきを感じながら、イワンは目の前の使用人を睨み付けた。腕を動かすと、不自然に引っ張られた
肩がぎしり、と軋む。
「これを解け」
「まだ、駄目です」
イワンの端整な顔に怒りが上る。こんなばかげたことに付き合う時間も暇も無い。その怒りを感じ取ったのか、
スメルジャコフは取り繕うような猫なで声を出した。
「私の尊敬し、敬愛するイワン様…貴方様だけに、あの日、本当に起きた事をお伝えしたいのですよ」
本当に起きた事?どういう事だ。イワンは眉を顰めた。
「真実だと?親父を殺したのはミーチャだろう?」
だが、スメルジャコフは首を横に振った。ゆっくりと。
「ドミトリィは…あの男はフョードルを殺してはおりません」
「何だと!?」
愕然としたイワンの前で、スメルジャコフはあの夜の事を語り出した。
―あの夜、恐ろしい衝動に駆られたドミトリィは確かに屋敷へ来た。手に硬い棍棒を持ち、父、フョードルの寝室の窓まで。
そして、スメルジャコフを脅して得た合図。グルーシェニカがフョードルの部屋へ入るための合図を使って、父を騙した。
だが、駆けつけた執事のグレゴリーに阻まれ、ドミトリィの振った棍棒はグレゴリーの頭を直撃した。
倒れたグレゴリーの頭から流れる血を見て動転したドミトリィは、その場から逃げ出した。
そして、スメルジャコフはフョードルが無事なことを知り、フョードルを殺害した。ドミトリィがするはずだった様に。
グレゴリーは生きていた。ドミトリィを目撃し、ドミトリィに殴られ、ドミトリィが犯人だと確信したまま…。
スメルジャコフは、それだけを語り終えた。
イワンの顔から血の気が引いていた。それでは、父を殺したのは兄ではなかったというのか。自分の呼吸が
震えるのを感じながら、イワンは何とか言葉を絞り出した。
「だが、父の持っていたあの金は…」
父の枕元からは、3000ルーブルの金が消えていた。それは、父を殺したミーチャが奪って逃げたと、自分は
そう聞いている。金を奪う動機もあった。そして逮捕された時、ミーチャが実際に金を持っていたことも。
「それなら…」
満足そうな笑みで、スメルジャコフは懐から札を取り出した。
目の前で語られ、起こっている信じ難い事実に呆然としているイワンの前に座り込み、僅かに乱れた襟元に
手を伸ばした。
「何をする!」
「この金は貴方様の物です」
懐に金を入れようとするスメルジャコフの手を、イワンは身を捩って避けた。
「やめろ!」
拒否を受け入れないスメルジャコフの手から逃れようと、イワンは自由になる脚を振った。
蹴飛ばされ、尻餅をついたスメルジャコフはポカンとした顔で、息を荒げているイワンを見つめている。
撥ね付けられた札がひらひらと埃っぽい床に落ちた。
「何故…拒むのです?」
当然の事をしたまでだ、というスメルジャコフを睨むイワンの顔は怒りに染まっていた。
「そんな金など誰が受け取る!?父を殺して…お前は一体何のつもりだ!」
イワンの怒りに、スメルジャコフは困り果てたようにおそるおそる立ち上がった。神経質にズボンの埃を払い、
伺う様な目でイワンを見る。
「私はただ…イワン様、貴方様のためだけに…」
「ふざけるな!」
激しい怒声にスメルジャコフが怯んだ。イワンは更に声を荒げた。
「そんな…金や女を目的に人を殺して…そんな事、俺は認めない!許せるわけがない!ましてやそんな風に奪った
金など!」
だがその言葉に、スメルジャコフの顔にあった困惑が皮肉っぽく歪む。
「殺せ、と言ったのは貴方様なんですよ?」
何を言っているんだ?この男は。
自分が?父を殺せといった?一体いつ?
この男は、頭がおかしい。イワンがそう確信した時、スメルジャコフははっきりとイワンの目を見て、言った。
「貴方様の心がそう言ったのですよ」
底冷えのするような目の光だった。
「私が一番愛しているのはイワン様…貴方様。だから私には貴方様の望みがわかった…カテリーナ様と財産とを手に
する貴方様の望みが…だから私は貴方様に代わってフョードルを殺し、ドミトリィに罪を着せた…全て、貴方様の
望んだことです。二匹の毒蛇が共倒れになるのを望まれたのは…」
頭が冷たくなるような感覚だった。その言葉の全てをイワンの感情が激しく拒否する。
「違う…違う!違う!!」
搾り出すような叫びだった。
「どうして…どうしてお前が…!」
―父を殺した―。
「私は、貴方様のためならどんなことでもします。イワン様は私の救世主だ…私と同じ、いや、私が信じたいと
思っていた言葉を、私に投げかけて下さった」
―この世に神などいない。神の罰など存在しない。全ては許されている―
「その言葉に、私がどれだけ救われていたか…」
「だからって…どうして父を…!」
涙声になる。
言葉を続けようとしたイワンの声を、スメルジャコフが遮った。
「…フョードルは殺されて当然だ!人間のくずだ!」
血走った目で叫ぶ。両脇で握り締めた貧相な拳がぶるぶると震えている。浮き上がった血管が切れるのでは
ないかとイワンはふと思った。
「あの男は、私を決して認めなかった…道具のようにこき使い…汚い言葉を投げかけ…私だって、私にだって、
こんな貧乏くじを引かなければ、貴方がた3兄弟と同じ権利があるのに!」
こんな状況ながら思わず笑いが漏れた。イワンは戸惑いを含んだ笑いをスメルジャコフに向けた。
「俺達兄弟と同じ権利だと!?使用人の分際で…!お前は何を言ってるんだ?」
「私だって…貴方様のように与えられ、学ぶ権利があった」
「笑わせるな!」
冷酷に言い放ったイワンを見つめるスメルジャコフの目は、どこか哀れむような色さえ帯びていた。
「…イワン様は、消えた女の噂をご存じないのですか?」
「…?」
スメルジャコフは、静かに語り出した。20数年前、この町を放浪していた女の事を。
出自もわからず、名前も知らず、子どもの頭しか持っていなかった女。町を徘徊し、眠くなれば道端や草むらで
夜を明かしていた。
そんな野良猫のような女を、ある日面白半分に慰み者にした男がいた。町一番の好色家で、成り上がりの貴族。
フョードル・カラマーゾフ。
女は、その結果としてフョードルの屋敷の納屋で赤ん坊を産み落とし、死んだ。
話が進むに連れ、イワンは心臓が嫌な鼓動を強めるのを感じていた。恐ろしい予感が、少しずつ形になっていく。
「その子は…子どもはどうなった…」
してはいけない問いかけが口を付いて出た。声は、震えていた。
思考が噛み合わない。予想できる答えを、頭が拒否しているようだった。
スメルジャコフの口が恐ろしく緩やかに笑みを形作る。
「…目の前にいるじゃないですか…」
ぎらぎらとした、光。その目線が、これが茶番でも何でもない事実なのだと語っていた。
スメルジャコフは、一歩一歩、確かめるように踏みしめながらイワンに歩み寄る。
「やっと言える…」
「や…やめろ…来るな…!」
後ずさろうとするが、寝台に縛り付けられた体ではどうにもならない。必死に身体を捻りその視線から逃れようとする。
スメルジャコフの手が伸びて、イワンの肩を掴んだ。顔を背けたイワンの耳元で、粘つくような声が、言った。
「私の…兄さん…」
頭が冷たくなる。スメルジャコフの声は震えを含んでいた。歓喜の、戦慄きだった。
「神など信じない…兄さんが私の救世主だ」
スメルジャコフが離れたのを感じ、イワンはそろりと視線を戻した。目の前で、少し屈んだスメルジャコフが、
もそもそと自分の質素な服を緩め、それを露にしていた。だらりと垂れた、己自身。
「何、を…」
イワンの見ている前で、スメルジャコフは自らのそれをゆっくりと両手で包み、上下に擦り始めた。
その目は、真っ直ぐにイワンを捉えている。そして、笑っている。イワンの背筋に言い知れぬ悪寒が走った。
その視線から逃れたい。
「俺を見るな…」
スメルジャコフは座ったイワンを跨ぐように立った。さっきのように蹴り飛ばしてやろうか。イワンは身構えた。
だが、膝が震える。
「どうして拒むんですか…」
視線から逃げ、目の前のその光景を拒むようにイワンは硬く目を閉ざした。長い睫が微かに震える。
「私も、兄さんと同じカラマーゾフなんですよ…」
のろりと伸びた片手が、イワンの髪を掴んだ。
「俺に…触るな…!」
首を振って逃れようとしたイワンは、頬に当たった生暖かい感触に身体を硬直させた。
「…っ…!」
スメルジャコフは、昂り始めたそれをイワンの頬に押し当てていた。
「私の救世主。私に兄さんは汚せない…誰にも、あなたは汚せない…だからこそ、愛して止まなかったんだ…私を許し、
認めて下さるただ一人の兄さんを…」
「俺はそんな事望んでいない!」
頬に当てられたそれが、スメルジャコフの手の動きも、恐らく膨れ上がっているであろう快感も、全てをイワンに伝える。
「兄さんが望んだのですよ。フョードルの死も、ドミトリィの失墜も…殺したのはあなたの殺意。私は喜んであなたの化身になった」
「黙れ!」
血を吐くような叫びだった。
「お前が父を殺したのは、個人的な恨みじゃないか!お前と俺は違う!」
「同じです…同じなんですよぉ…!」
スメルジャコフはますます息を荒げる。恍惚すら含んだ叫びが笑いに変わり、先端から溢れ始めた液体がイワンの顔を濡らす。
「やめろ!!」
髪を強く掴まれ逃げ場の無いイワンは必死に濡れていく顔を背ける。スメルジャコフはイワンの頭を抱え込むように
して一層激しく自らを追い立てた。
「ほぉら!兄さん!見てくださいよぉぉぉ!!私にもあなたと同じ血がぁぁぁぁ!!」
―狂っている。
「兄さんだって…同じですよ…」
―俺も、同じ。
その静かな言葉に、自分の中で絡んでいた何かが、少しずつ解けていくような気がした。
目の前で、白い光が弾けた。
スメルジャコフは、大切な硝子細工にでもに触れるように恭しくイワンの腕を縛る縄を解いた。イワンは、何の抵抗もせずに
うなだれていた。
頬をぬるりと伝う汚れを拭いもせず、呆然と中空を見つめ、その薄い唇は微かに震えている。
スメルジャコフは、持っていたハンカチを引っ張り出し、イワンの顔を汚す粘質な液体を丁寧に拭った。一点の汚れも、
あってはならない。顔を拭う布にも、時折肌を掠めるスメルジャコフの指先にも、イワンは反応を示さない。やがて作業を終え、
汚れたハンカチを放ったスメルジャコフの手が、イワンの乱れた前髪を整える。
イワンが、掠れた様な声で何か呟いた。それを聞き取ろうと、スメルジャコフはイワンの口元へ耳を寄せた。
「…ミー、チャ……」
「何ですって?」
イワンが呟いているのは、兄の名だった。親殺しの罪を着た兄の名。イワンが微かに顔を上げる。
「ミーチャは、無罪だ…俺は、行かなきゃ…」
イワンはよろけながら立ち上がった。そのままドアへ向かおうとする。スメルジャコフは慌ててそれを引き止めた。
「お願いです…ここにいてください。そうすれば、何もかもうまくいきます。全てが兄さんのものになるのです」
だがイワンの目に、目の前の男は映っていない。
必死に止めようとするスメルジャコフを押しのけ、散らばった札を誇りと一緒くたに踏んで、イワンは部屋を出て行った。
外の空気に冷やされた冷たい窓の内側から、スメルジャコフはイワンの消えた道を見つめた。薄灰色に広がる空。
雪の積もった小道に、少し乱れた足跡が長く尾を引いている。
スメルジャコフは、自分の中にある感情を、彼独特の几帳面さで並び替えた。
崇拝する思想、自らの中の神に尽くして、私はあの男を殺した。
しかし、私は失った。失ってしまった。私の救世主を。私の全てを。私の血を。
―主人を失っては、生きてはいけない―
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
- 萌え死ぬかと思いました。まさか人様のカラマーゾフ801、しかもイワン受小説を読めるとはとは( ;∀;) -- 2013-06-20 (木) 13:25:01
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