戦争映画
更新日: 2011-01-12 (水) 00:20:10
※某戦争映画の登場人物ですが、ナマなため名前が出ておらずオリジナルみたいになってます。
※戦争映画で尚且つ死んでしまう人物の話なので戦争、人命、死などの要素が入ってます。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
男は、ぽつりとまるで独り言を呟くようにして名を呼んだ。
それは、共に過ごし、この”任務”に就いてから死んでいった二人の戦友の名だった。
任務に対してまだ些か疑問と不満があるだけに、荒む心は普段の比ではない。
「あいつらや俺たちの命は、そんなにも軽いのか?」
「……」
男の目の前には、また別の男が立っている。
鍛えられた肉体を持ちながらもいくらか線の細い彼は優れた狙撃手で、
厚い信仰心によるものか神の力にも似た狙撃の腕と、獣のように強く鋭い光をたたえた瞳を持っている。
「差なんか無いさ」
同じ重みだ、どれも命なんだから──と、狙撃手は冷たくすらある落ち着いた声でそう、男に対して言葉を返した。
こんな状況では口にするのも憚られるような正論をそれでも真っ直ぐにぶつけてきた狙撃手に、男は肩を竦める。
「前から気になってた」
「なにがだ」
「お前は、どうしてそうまでして強くいられる?」
「俺には力があるから、それだけだ」
狙撃手は不敵に笑った。その顔を見た男の中で、ふと思い出された過去の記憶。
彼は以前に一度、見たことがあった。目の前にいるこの不遜な仲間の逢引きの現場を。
狙撃手の逢引き相手は同性で、その現場を見た時、男は心の底から驚いた。
男同士で、なんて野暮なことは言う気にもならなかった。
信仰心の厚い狙撃手がその信仰における禁忌を犯しているのには驚いたが、
それよりなにより驚いたのは、相手が自分の良く知る”鬼の軍人”だったこと。
まさかよりによってあの二人がと、混乱する頭は彼に声を発することすらさせなかった。
──何だ、まだ知らなかったのかお前?──
驚く彼を見て、数日前に死んでしまった戦友がさも可笑しそうな顔で笑っていた。
「もう、大尉に抱かれることもできないかもな」
「国にいる間に充分抱かれた」
「……言うじゃねえか」
気まぐれにふっかけた言葉にもさらりと返され、男は堪らず苦笑を零し、そして思い知った。
この狙撃手には、しっかりと刻まれているのだということを。
奪った命の重みも、受けた傷も、この男がまっすぐに見つめ続けたあの大尉の残した痕も、熱も。
目に見えるもの見えないもの、そのどちらともが、深く深く刻まれている。
「……何だ」
無意識に近い動作でゆっくりと抱き寄せた体は自分よりも小さく腕に収まるとはいえ、
軍人として鍛えられているため硬く、抱き心地も良くはない。男は考える。
──大尉はこの体を、何度抱いた? こいつは、何度、彼に抱かれた?──
そして、すぐにまた、馬鹿な感傷だと今度は自分自身に対して苦笑を漏らす。
「思ったよりいいガタイだ」
「当たり前だ」
「ああ」
狙撃手は相変わらず動揺した様子もなく、男の腕の中で身じろぎひとつしない。
可愛げのない反応にしかし男は、はっきりと実感した。
自分も相手も、まだちゃんと生きているのだということを。
_______________
鐘楼は砲撃を受け、そこにいたはずの狙撃手の跡すらもうどこにも無い。
銃撃音と爆音にまみれた中で、彼もまた、敵味方大勢の兵士と共に死んのだ。
……そっちはどうだ? いつか拾ったあのナイフで、お前の言った通りにパンを切るといい。
心の中で、かつて狙撃手の逢引きに驚く自分を見て笑った友人に呼びかける。
数日前に命を落とした彼はきっともう、こんな場所よりずっと穏やかなところでまた同じように笑っているのだろう。
男は続けて、友人に語る。生意気な狙撃手と再会したら、俺が行くまで少しだけ待ってるように伝えてくれ──と。
「俺は、生まれつきツイてんだ、……くそったれが」
きっと死ぬまで忘れないし、忘れることだってできないだろうと男は思った。
失った仲間の顔も、敵の顔も、戦渦の中でたった一度だけ抱き締めた狙撃手の抱き心地の悪い体のぬくもりも。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
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