Top/44-124

チーム・バチスタの栄光 麻酔×愚痴

ドラマ「チーム罰☆」麻酔×愚痴 クリスマスによせて
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
1.
 気が付くと、僕は病院の玄関に立っていた。
 誰かを待っているようだった。
 でも、分からない。何時から僕はここにいたのだろう。診察が終わったこの時間、行き交う人は大体が、
終業した関係者かお見舞いに訪れた人がほとんどで、見慣れた人と会うことはほとんどない。そんな中で、
一人で立っていると、なぜか知っている場所なのに心細くなってくる。
帰ってもいいはすだ。でも、待たなきゃいけない。
まるで、大事な約束をしたように。
『…約束?』
 その時
「田愚痴先生、お待たせしました」
 少し足早で、その人はやってきた。僕は思わずその人の名前を呼んだ。
「日室先生」
 名前を呼ばれ、彼はにこっと微笑んだ。私服に着替えた見慣れぬ姿だったけど、長い前髪の奥で光る、
人懐こい目は見間違いがない。
「仕事が立て込んじゃって、すいません」
 背中のバッグを背負いなおして、彼は軽く頭を下げた。ああ、そうだ。僕は彼と約束していたのだ。
もしクリスマスに予定がなかったら、一緒にどこか遊びにいこう、と。場所は会ってから決めよう、と。
「どこ行きましょうか? どこ行きたいですか?」
 どこでもナビで案内できますよ。と彼はポケットから携帯を取り出した。
そこには、タオル地で出来たハムスターのぬいぐるみのストラップがついていた。
「あ、それ…」
「ああ、ハイ」
 僕の指摘に、彼ははにかんで頷いた。それは僕が彼に、プレゼントしたものだ。
 使わせてもらってます。これ、携帯クリーナーにもなるんですね、と彼は指先でぬいぐるみを突っついた。
ゆらゆらと揺れるそれを見て、僕達はなんとなく顔を見合わせ笑った。でも、僕は心の中で首をかしげた。
僕はいつ、彼にそれを渡したのだろう。受け取った時、彼はどんな反応をしただろう。一瞬、思いをめぐらした
だけだったが、すぐには思い出せなかった。

「田愚痴先生?」
 日室先生が、かがみこむように僕を覗き込む。はっと我に返って、僕は「なんでもないです」と手を振った。
そうですか? と彼はちょっと気に掛けたようだったが、
「じゃあ、まずメシでも食べにいきますか?」と提案してきた。
しかし、僕はまだお腹が空いていなかった。日室先生も同じだったらしく、呼び水的に提案しただけのようだ。
「じゃ、映画でも…」と言ってはいるが、彼はそんな
つもりはないようだ。僕も、なんだか映画で時間を無駄にしたくないように思えた。
 彼も少し考え込んでいたが、やがて
「じゃあ…あの、ボクが昔よく行ってたコースを辿ってみますか? …アキバ、なんですけど」
 恥ずかしそうに、新提案をあげてきた。僕はそんな様子の彼を見てすごく嬉しくなった。
人を寄せ付けない影をもつ孤独な彼が、人に歩み寄ろうとするなんて…!
「いいですよ! 僕、アキバって行ったことないから、連れて行ってください!」
 僕の言葉に、彼は顔を赤くして「ハイ」と答えた。僕達の短い時間が始まっていた。

 何時もTVで見るアキバは、ごちゃごちゃとした人の多い印象を受けるが…それは
まったくその通りだった。
「多愚痴先生、大丈夫ですか!?」
「は、はい!」
 さすがに、この時期! 人の多さは尋常ではなく、しかも色んな格好をした人が
いたり、外人さんも多く歩いていたりで、背の低い僕は頑張っても、人の波に押し
流されそうになる。
「うわ…!」
「先生!!」
 かなり体格のいい人にぶつかられて、後ろに転びそうになった時、前を歩いていた
日室先生がすばやく振り返り、しっかりと僕の手を掴んでくれた。
「大丈夫ですか?」
 ぐいっと身体を引き起こしてくれた日室先生に、すいませんと、僕は謝った。
僕を捕まえてくれた腕の力はとても強く、でもその手は少し冷たかった。
『冷たい…』 僕は、彼が掴んでくれた手を見つめた。どうしてだろう。冬の最中で
手袋を付けていないのだから冷たくて当たり前のはずなのに、凄く気にかかる。
「はぐれたら大変だから…ヘンだけど、あの」
 と、彼はまた手を差し伸べてきた。僕は一瞬ギクリとしたが、彼と手をつないだ。
彼の手が冷たいなら、暖めればいいと思いなおして。

その後、色んなところを巡って、やっと落ち着くことができたのはよくあるファストフード店だった。
 「結局、こんなトコロになってすいません」
 日室先生が、注文したメニューを乗せたトレイを持って、向かいに座りながら謝ってきた。彼が食事に、
と目を付けていた店はどこも満員で、席を待つ人が外にあふれていたからだった。
 僕は、いいんですよと、トレイからフィッシュバーガーを受け取った。彼は
ダブルチーズバーガーを手に取る。
ナゲットは彼の注文で、オニオンリングとポテトはLサイズにして2人で分けて食べるようにした。
「色々引き回したけど、疲れませんでしたか?」
「いえ、大丈夫。凄く楽しかったですよ」
 メイド喫茶で赤面もののゲームをやらされたのには参ったけど、というと日室先生はまた声を上げて笑った。
ゲームの時だって笑ってたのに。それに、彼はゲームをやらなかったのだからなあ。でも、パソコンの中身
なんて初めて見たし、古本屋さんでは懐かしい漫画を見つけたし、
「それに…、日室先生が意外とネコ好きだってことも知りましたしね」
僕がそう続けると、彼の顔がまた赤くなった。案内してくれたネコカフェで、ネコがすりよってくる僕に
対抗して何度もネコおやつのガチャポンに走る日室先生を思い出し、僕はつい吹き出してしまった。

「本当はネコ飼いたかったんだけど、今の部屋は犬ネコ禁止で…」
 それでハムスターに落ち着いたのだと、彼は言った。初めて飼ったけど、結構人に
慣れるもんですねと話しながら大きな口でハンバーガーを齧る彼に、僕は安堵していた。
よかった、ちゃんと食べてる。オニオンやポテトに手を出しているのも彼だ。
顔を隠すようにカップ麺を啜り込んでいた彼を思えば、今の方がよほど健康的に見える。
「ハムスターの名前は、なんていうんですか?」
 僕の問いに、彼は『え?』と固まった。ちょっとの空白の後、「じぇ、ジェームズ、です」
と、たどたどしく答えてきたので「本当ですか?」とくすぐると「すいません、今、付けました」と
素直に頭を下げた。僕は思わず笑ってしまった。彼もつられて
笑った。そして「ジェームズに」と、紙コップで乾杯した。コーヒーとコーンスープという、世にも
へんてこな乾杯の中身だった。

 最後に来たのは、ある雑居ビルの最上階だった。窓を覗いて僕は、凄い!と声を上げた。その窓からは、
秋葉原の街が見渡せたのだ。明るい光、ビルを飾るかわいい女の子のイラスト、互いに競う電気量販店の
イルミネーション、そのどれもが街に活気を持たせていて、まさに「生きている街」という言葉がふさわ
しく思えた。
「塾の帰りとか、良くここへ寄ったんです」
 懐かしそうに、日室先生が街の姿を見下ろしている。
「勉強とか…いろんなことに疲れたら、ここにきていたな」
 そう一人ごちると、彼は右手を上げ指先で窓に触れた。まるで、街に触れようとするかのように。

その横顔に、僕はなぜか背筋が寒くなった。彼はまるで、もう手に入らない夢を想い、恋うている
ようだった。僕は彼の腕を掴んだ。掴まえなきゃいけない。そう思った時、こんな声が、胸の奥
から聞こえてきた。
『そうだ、今度はしっかり掴まなきゃ』
 僕の胸がズキリと痛んだ。錆びたメスで心臓をえぐられたら、こんな痛みだろうと思えるほど。
 彼は、ちょっと驚いた顔で僕を見た。そして僕の様子に息を呑んだようだった。
 僕と彼はしばらくそうしていた。僕は彼の腕から、手を放すことができなかった。
放したらきっと後悔する。なぜかは知らないけれど、それは確かなことだった。僕は怖かった。
もう失うのはまっぴらだ。ああ、でも、なにを失うというのだろう。彼は…日室先生は、
ここにいるのに。
 日室先生の顔が、一瞬泣き出しそうに歪んだ。でもすぐに立ち直ると、震える唇で
笑顔を作り、僕の必死の手に自分の左手を重ねた。
「いいんです」
 彼はそういうと、僕の手をそっと外した。冷たい手だった。暖めたくて、ずっと
掴んでいたのに、とうとう温もりが蘇らなかった哀しい手。
「ボクはこういう風に、友達と一緒に出かけることがほとんどなかった。家と学校と、
塾の往復で、その合間、ここにきていた。ここなら、一人は当たり前に思えたから…」

 でも、本当はやっぱり、誰かと気持ちを共有したかったんですね、と彼は言った。
漫画の店でお互いの好きだった漫画の話やファストフードの店で下らない話で笑ったり
できて、すごく楽しかった。
こんな風に遊びに誘ってくれたことが、本当に
「本当に、嬉しかったんです」
 そう言って彼は笑った。泣きそうな笑顔だった。
僕は首を振った。また行きましょう。今度は休みの日に、ゆっくり歩きましょう。
彼は何も答えない。言葉の代わりに僕の手を、自分の頬に引き寄せた。冷たい、
滑らかな頬だった。僕は彼からの答えが欲しくて、何度も彼の名を呼んだ。
「日室先生。ひむろせんせい!」
 そして引き寄せられた手の平で、彼の頬を包んでいた。
暖めたいのに、その頬は冷たいままだ。

「多愚痴先生…」 
 彼の瞳から、とうとう涙がこぼれた。僕の目も熱くなってくる。やめてくれ、ここで『泣いたら、
現実になってしまう』じゃないか!
 今度こそ僕はハッとした。気付いてしまった。ここでは忘れていた、忘れていられた、総てに。
 僕の表情で、彼も総て悟ったようだった。泣きながら、でも困ったように笑う。
「行きたくないけど」
 彼の手が、頬に触れる僕の手を掴む。そして、強く自分の頬に押し付ける。
「…行かなくちゃ」
 その笑顔に向かって、僕は何度も首を横に振った。お願いです、行かないでください。だって、
これからじゃないですか。これからやっと、一人で街を見下ろすなんて寂しい慰めから抜け出せる
はずなのに!
「…いやです」
「多愚痴先生」
「いやです」
「せんせい」
「そんなの、絶対いやで」
 言葉を、最後まで続けることはできなかった。
 日室先生が、僕を抱きしめてきたのだ。
 強く引き寄せ、がむしゃらにしがみついてきた。その力に僕の息が一瞬止まった。
「多愚痴せんせい」
 僕の上に、彼の涙が落ちてくる。冷たい涙。冷たい手。冷たい身体。その理由を、僕はもう
知っている。知りたくもなかったのに。
「もう、できない…約束を、破ることも、守ることも、なにもかも」
 僕を抱きしめている腕が震えている。僕は耳を塞ぎたかった。どうして彼が、こんな哀しい独白を
しなきゃならなかったんだろう…。
「日室先生…!」

 僕は彼の両腕を、両手でしっかりと掴みなおした。しゃくりあげそうになるのを、彼の胸に顔を押し付け必死にこらえようとした。
でも、涙は後からあとから流れてきて、息はどんどん上がっていって、彼の服を濡らしてしまった。
僕は自分の無力さが歯がゆかった。なにが心療内科医だ。お前は、目の前の人間の孤独を癒すことも手助けすることもできなかったじゃないか。
寂しい人間を寂しいままに、ただ見送ることしかできないじゃないか! 
ごめんなさい。僕は知らずと、何度も彼に謝っていた。ごめんなさい、なにもできなくて、あなたを助けることができなくて、ごめんなさい、
ごめんなさい…!
「せんせいは、助けてくれましたよ」
 彼の声に、僕は顔を上げた。そこには濡れた顔で優しく微笑む日室先生の顔があった。
「疲れたボクに声をかけてくれて、ご飯を食べさせてくれたじゃないですか。いろんな状況で、ボクのやったことが明らかになりつつあったのに、
信じようとしてくれた。姿を消した時だって何度も連絡を入れてくれて、ボクを引きとめようとしてくれた」
 例え、それが医者としての義務感や、事件を調査する者の使命感からきていたとしても、ボクは本当に嬉しかった。多愚痴先生に出会えて、
世界には嬉しいことが沢山あるんだと分かったんですよ、と彼は僕をしっかりと見ながら話した。
「だから、本当は行きたくない…。先生と、まだまだ話したいことが沢山あったのに」
 僕には、もうなにも言えなかった。彼はもう、自分の運命を受け入れていた。ここで僕がダダをこねても、どうすることもできない。
「…また、会いましょう」
 僕は苦しい息の中で、やっと言うことができた。
「またいつか…必ず、会いましょう。僕があなたを、そして…あなたが僕を忘れない限り」
いいや、本当は忘れたっていいんだ。またそれで、巡り会う時がくるかもしれない。
そうしたら、そうなったら
「今度こそ、僕はあなたを助けます。少なくても、あなたをこんな風に逝かせやしません。絶対に!」
 僕の言葉に、日室先生は呆然とした。まるで思いがけない宝物を見つけた子供のような表情だった。
「それは…やくそく?」

彼の口から小さく漏れた言葉に、僕は強く頷いた。「約束です」
 そうか、と彼も頷いた。
「もうできないと思っていたのに…約束なんて。でも、できるんですね。こんなボクでも」
 その言葉に僕はもう一度、大きく頷いた。彼はやっと、心から、笑った。そして
「ありがとう」
 と呟くと、もう一度僕を抱きしめた。その胸は不思議と温かかった。
 涙が一粒、僕の髪を濡らした。

「日室先生…」
 自分の声で、僕は目覚めた。そこは自分の部屋で、僕は天井を向いて眠っていたのだ。
 むっくりと起き上がる。顔が冷たい。眠りながら泣いていたようだ。壁のかかっている、25日のところに
印を付けたカレンダーを、僕は久しぶりに見ることが出来た。そして、夢の残滓を思い起こし、重いため息をつく。
そうだ、これが現実だ。日室先生は殺人を犯し、僕の同期でもある同僚に、ビルから突き落とされてしまった。僕が
来るのを待ちながら。
 今、チーム罰☆は疑惑と懸念の真っ只中にある。その渦の中心に居るのは気流先生と成美先生であると僕と白取さんは
思っているが、それすらもはっきりとした確証をもてないでいる。
 患者さんが死に、そして、チームの中からも死者が出た。一体いつまで、こんな哀しいことが起き続けるのだろう。
 僕はカーテンを思い切り大きく開けた。かなり冷えたのか、窓は真っ白な霜に覆われていたが、僕の視線は霜の中に残る、
小さな跡に止まった。それは、5つの小さな点だった。

僕は、自分の指先をその点に当てた。ぴったりと重なるそれに、一つの光景が重なる。
昨日見た夢で、彼がビルの窓に触れていた指先…。
「そうなんですか? 日室先生…あなたなんですか?」
 ガラスに残る指先に、僕は問いかけていた。
あなたは、交わした約束を守るために、ここにきてくれたのですか? そして、
つい手が伸びてしまったのですか? まるで、あの時のように。
「せんせい…」
 指先を合わせたまま、僕はまた泣いた。そうだ、あのストラップ。渡した覚えが
ないはずだ。何故なら僕が彼のご両親に頼んで、彼の棺に入れてもらったのだから。
『約束、できるんですね』
 彼の声が耳に蘇る。そうです、日室先生。この約束があるかぎり、あなたは一人
ではありません。そして、僕も。
「かならず、終わらせます」
 その手を掴むように、僕は自分の手を握った。もうこれ以上、死なせてはいけない。
 彼のような事件を、もうおこしてはならない。
 その時、僕の携帯が鳴った。白取さんからだ。

『もしもし、愚っ痴ー? 起きてた?』
「はい、おはようございます。どうしました?」
『ケース27のビデオで、気になるところを見つけたんだけど、出て来れる?』
「はい、30分待ってください。すぐ用意して出ます」
『15分だ。それと、こっち来るときなんか買ってきて。腹減ったから』
「また泊り込んだんですね? 分かりました。30分待ってください」
『…いうようになったねえ、愚っ痴ー。分かった。30分ね』
 携帯を切って、僕は顔を上げた。見つけてみせる。ケース27の秘密を。もう、不幸は沢山だ。
笑顔が見たい。それが誰のでも。
「事件を、止めてみせます」
 胸の中にいる人にそう告げて、僕は自分の部屋を出た。
 
 いつか果される約束を前に、胸を張って彼の人に会えるように。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ! 

麻酔をアキバ君にしてしまい、大変申し訳ない。性格もヘンだし。クリスマス関係ないし。
その他いろいろな捏造、そしてかなり長くなってしまったことを陳謝します。


このページのURL:

ページ新規作成

新しいページはこちらから投稿できます。

TOP