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野球 東北楽天ゴールデンイーグルス31×21+37

杜の都球団の、女房達の話です。
沢ムラ賞オメ記念として、当日の話を妄想してみました

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

仙台の空は雲ひとつない快晴だった。
こんなに天気がいいのにさすがは東北地方、空気がハンパなく冷たい。
もう冬って言っていいんじゃないか、気象庁は何してんだってぶつぶつと呟いていたら
尚人さんに「お前、だんだん監督に似てきたんじゃないか」とか
ニヤケ笑顔で言われてしまった。
グラブを投げつけてやろうかと思ったらさすがは次点盗塁王、さっさと
俊足で逃げられてしまって、おまけに俺の周りにいた未来の盗塁王候補も足早に
逃げていってしまった。
そんなわけで、今ここに残っていたのは奇遇にも同じポジションの二人だった。

秋季キャンプも終わりに近づいた今日、球団はとある知らせを待っていた。
結果がどうあれ練習日には変わりないし、実際俺にはさほど関わりのない
知らせだったけれど、とりあえず結果をみんなで待とうという方針になって
こうやって二軍の練習場に集まったのだ。
俺にはさほどどころか、全く関わりのない知らせではあったが
やはり心の中では気になるところだ。
こんな俺でも多少ドキドキしてんのに、隣に座るこの人なんてもう心臓が飛び出る
くらい緊張してんじゃないのかな・・とか思っていたのに。

「なんや、お前までも緊張してんのか」
「俺はそうでもないですけど・・つうか、何でそんな平気なんですか、富士井さん」
富士井さんは、全くと言っていいくらい緊張しているそぶりを見せなかった。
それが俺には意外に思えた。いや、普段の富士井さんもそんなに緊張感のない人(というと語弊があるが、要は温厚ってことだ)だけど、さすがに今日くらいは
多少ピリピリしたりドキドキしたりしないもんなんだろうかと不思議に思った。
そう言うと、富士井さんは声を挙げて笑って、おばちゃんみたいに手を振りながらこう言葉を返した。
「そんなん、俺がどうこうできるもんでもないやろ。そもそも、俺がもらえるもん
でもないし」
「そうですけど・・でも、なんかこう・・」
「ん?」
「自分が富士井さんの立場だったら、生きた心地がしないです」
そもそも、俺がもらえるもんでもないんだけど。でも、何らかの形で関わってるとしたとしても、きっと俺は心臓の拍動に合わせて飛び跳ねちゃうんじゃないかって
くらいに緊張すると思った。
富士井さんはそんな俺の様子を目の端にみて、あははと笑いながら、ふっと言葉を零した。
「まぁな、俺が縞くらいの年齢だったらそうなるわなぁ・・。もし、今回熊がそうなったとしても、俺だってこんな名誉は早すぎやし」
だから俺がもらえるもんでもないっちゅうに、一人でノリツッコミをしながら
富士井さんは実に愉快そうに笑った。
こんなに余裕があるってことは、富士井さんの中ではもう決まっているんだろうけど
それでもという不安はないのかと勘繰りたくもなった。
もしかして、もしかして結果を逃してしまったら?
その時にどうやってフォローをするんだろうかと、また自分だったらと想像しただけで
胃の中が痛くなりそうだった。
だって、万が一ということはこの世にいくらでも有りうるのだ。
その万が一を計算してなくて、何度も失敗した俺にとって「もしかしたら」という
不安というのは結構な脅威だったりするのだ。
そうやってもやもやと考えているうちに、ぽんとグラブで頭をはたかれた。
「練習いこか、縞」
気づけば富士井さんが立ち上がってドアに向かって歩いていたので、俺は慌てて
その後を追った。

練習場へと向かう廊下は、とても静かだった。
相も変わらずもやもやと考えて歩いている俺に、富士井さんがこんな言葉をかけてきた。
「お前『スイミー』って絵本知ってるか」
「え?」
「俺がちっさいころはよう読んだんやけど・・学校で習わなかったか?」
「あぁ、そういえば・・」
学校で思い出した、小さな黒い魚の物語。
確か仲間がみんな食べられちゃって、一匹だけ残った黒い魚が目になって大きな魚を
やっつける話だった。そう言うと、富士井さんはそうそうと返事を返して、小さなため息をついてからこう言葉を繋げた。
「懐かしいなぁ、スイミー。うちの子も大好きな絵本でな、よう読まされたわ」
そう噛みしめるように呟く富士井さんの声が、静かな廊下に響く。
俺も読んだ本だけど、だからそれが何だって言うんだろうかと思っていたら富士井さんがふと足を止めて、こう言葉を零した。
「俺はなぁ、縞。熊がスイミーみたいやって思ったことがあったんや」
「岩熊さんが?」
「そうや、まだお前らが来る前はな。俺らの希望っちゅうか・・願いみたいなもんやったからな、熊は」
「・・富士井さん」
「こいつなら何とかしてくれる、俺らをどっかに連れて行ってくれるて・・そう思っていたんやけど・・」
そう思っていた、だけど。その先の言葉を濁しているのか、それともさとって欲しいのか
富士井さんはじっと床を見つめたまま言葉を閉じてしまった。
希望と思っていたその先にあったものは、俺も詳しくは知らない。
だけど、その先にあった事実は誰もが知っている。果てしなく暗くて絶望しかなかった事実を。
俺も何も言えないでいると、富士井さんが寂しそうな声でこう言葉を吐いた。
「熊がスイミーやったら、俺はマグロをやっつけにいこうとそそのかした魚や」
「・・・」
「俺がそそのかしたばっかりに、あいつは泳いで、泳いで、泳ぎ疲れてしまったんやって。
マグロをやっつけるまえに、俺が壊してしまったんやって」
そう言って富士井さんは、何か苦い薬でも飲み込むような顔をして大きなため息を吐いた。
別に、岩熊さんがああなったのは、富士井さんの責任ではなかったのに。
だけど富士井さんは、すべては自分の責任と思い込んでいるような言葉の強さと儚さをその声にのせていた。

「代われるもんなら、俺がいくらでも黒くなったんに・・まぁすべては過ぎた話やけどな」
そもそも俺が代われるわけがないっちゅうねんと、また一人ノリツッコミをしながら努めて明るい声で富士井さんは顔を挙げた。
俺もつられて顔を挙げたので、互いの表情がそこでようやく見て取れたが何て言うか、富士井さんはとても緊張感のない顔をしていた。
だからそれが温厚ってわけでもない、そうじゃなくて、こう、何かを洗い流したあとのような、清々しいくらいに気持ちのいい笑顔だった。
「富士井さん・・」
「ん、何や?」
「なんで俺に、そんな話をしたんですか?」
なんでそんな顔で、こんな話が出来るのだろうかと。
なんでこんなツライ話を、そんな穏やかな笑顔で話すことができるのだろうかと。
それが聞きたかったのに、富士井さんの答えはまるで予想を反するものだった。
「お前にもおるんやろ?俺のスイミーちゃんが」
「へ?」
「だから先輩として言っておく、スイミーちゃんを飼うのは並大抵のことやないで」
ほな行くで、と富士井さんがおどけたように言って、出口へと足を進めていった。
俺はまた慌ててその姿を追いかけて、やがて扉を開いて外へ出た、その時だった。

外は快晴だった。暗い部屋から外に出たから、日差しが眩しくて仕方がなかった。
目がようやく慣れたころ、クラブハウスから誰かがこっちに向かっている姿が見えた。
確かめるまでもない、あのスラリとした長身と黒髪。
だけど様子が何か変だった。いつもの岩熊さんなら、ピンと背を伸ばして颯爽と歩いているのに、
今は頭をうなだれさせたまま背中を丸めてこっちに歩いてくるのが見えた。
その姿を見て、俺は喉奥からひゅうっという冷たい空気がこぼれたのを感じた。まさか、その万が一になってしまったのだろうか。
自分を落ち着かせるように冷たい空気を吸い込むと、肺まで冷え切ったのか
身体がぶるっと震える。落ち着け、俺が焦ったってしょうがないだろうと
言い聞かせるように呟くと、隣にいた富士井さんが俺の腕を掴んだ。
そうか、俺以上に不安を感じているのは富士井さんだろうと、俺は恐る恐るその顔を見上げた。

さぞかし、強張っているだろうと思っていたその表情を見て、俺は言葉を無くしてしまった。富士井さんは、笑っていたのだ。
さっきよりももっと穏やかで、清々しいくらいの、雲ひとつない快晴の笑顔をほころばせながら富士井さんは、のんびりした声でこう言葉を繋いだ。
「安心せぇって。あれは熊の癖やから」
「・・え?」
「ああ見えてあいつは、何かでっかいことがあるとプツっと糸が切れたみたいになるんや。こっち来る前に二回くらいずっこけるで」
心から嬉しそうな声で、富士井さんは言う。そんなバカなと思っていた矢先に、視線の先では岩熊さんが足をもつれさせてすっ転んでいた。
「アホやなぁ、そんな慌てんでもええのに」
富士井さんが眩しそうな顔をして、岩熊さんを見つめながら言葉を零す。
実際、ホントに眩しいんだろう。それはきっと陽射しのせいだけじゃないはずだ。
もう一度岩熊さんがこけたので、たまらず俺は駆け寄ろうとするがいつのまにか富士井さんが進み出ていて、
ゆったりとした足取りで岩熊さんの元に向かっていた。

岩熊さんはぜぇぜぇと息を切らして、ゆっくりとその身を起こした。
俺も富士井さんもその顔を見上げたけど、岩熊さんの視線の中に俺が入っている余地はなかった。
まっすぐ、富士井さんの顔を見つめて。そして岩熊さんは、珍しく興奮を抑えきれないようなはずむ声で、こう言った。
「富士井さん・・あの・・」
「なんや?」
「ありがとう・・ございました」
たった一言。単純な言葉だけを残して、岩熊さんは富士井さんにもたれかかる様にその長身を倒れこませた。
どっこいしょと声をかけながら富士井さんが抱きとめて、そっと宥めるように頭を撫でて。そして、こう言葉を零した。
「そうか、ようやったな。熊」
心の底から嬉しそうな声で、富士井さんは言う。
眩しい笑顔をして、実際ホントに眩しくてたまらないんだろう。
それはきっと陽射しのせいだけじゃないはずだ。
俺も眩しくてたまらなくなったのか、ぎゅっと目を閉じたら、目尻から一筋涙がこぼれ落ちた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
バッテリー愛に泣けて書いてみた、後悔はしていない。
ちなみに縞のスイミーちゃんは30と設定してみたw

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