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海外ドラマLOST 傭兵隊長萌えSS2 「ポンコツ傭兵とボス3」

夜分遅くにこっそりお邪魔致します。
お取り込み中の所の投稿でドキドキなのですが、今日で最後のお目汚しさせて頂きますです。

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|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

ボスに唇を重ねた。
丁寧に丁寧に口付けをする。
血の味がした。
ボスの血だった。
温かく柔らかい唇と、舌を丁寧に愛撫する。
唇を離すと、ボスの閉じられた目の縁に、金色の睫毛が見えた。
目蓋が持ち上がり、何度も見ても息を呑む程綺麗なブルーの目が俺を
映した。
「ボス、もし帰還したら、俺の所にきませんか?」
ボスがじっと俺の目に見入る。俺の言葉の意味を、理解しようとする様
に。
「気楽な野郎の一人暮らしですけど、そんな狭くもないですよ。ベッドも
キングサイズだし、ビーチも近いからのんびり過ごせますよ。」
俺の言葉の真意を、ボスは考えている様だった。
俺は本気だった。
もし二人とも生きて戻れたら、俺はボスを連れて帰りたかった。戦場に
戻ることなく、ボスと一緒に人間らしい生活を一から築き上げたかった。
もうゲイと呼ばれようとホモだろうと、何でも良かった。俺はボスの事を
愛しているのだ。何よりも、ボスが大事なのだ。

ボスが微笑む。
それは今まで見た、どの微笑みよりも優しく、嬉しそうな微笑だった。今
まで見た事が無い程、満たされた表情だった。
俺の気持ちは伝わったのだ。
俺はもう一度ボスに、唇を重ねた。
言葉よりもキスで、俺がどれほどボスのことを大事に思っているか、伝
えたかった。キスにすら躊躇する程、孤独しか知らなかっただろうボス
に、大切にされると言う幸せを、少しでも知って欲しかった。
古いエレベーターが、軋みを上げながら到着した。
俺はもっとボスの唇を味わっていたかったけれど、ボスの残された任務
の邪魔をしたくなかった。これからボスは、プロの傭兵としての、最後の
仕事に向かうのだ。
俺は、ボスから離れて、海兵隊時代の時の様に、敬礼をした。
「ご無事で。」
ボスの目が、優しく細められる。
「ああ、お前もな。」
エレベーターの扉が開かれる。
絶望感を覚える程、深い深い底に降りていくエレベーターの扉が。
そこでもしボスが死んだら、誰がボスの身体を弔ってくれるというのだろ
う。
だけどボスは、自分が祖国で弔われる事を望んでいる訳ではなかっ
た。ただ、一緒に戦った俺の記憶の中だけに、残る事を望んだのだ。
無機質な壁を彩る、綺麗な花々。そこで傷だらけで佇み、微笑むボス
の姿が、目に焼きついた。

それが、俺が見たボスの、最後の姿だったから。

俺はボスから離れて走り出した。
ボスの為に、生きて島を脱出しなくてはならなかった。
それがボスが俺にくれた、最後の命令だったから。
手にした無線機には、ボスの鼓動がずっと届いていた。
俺は走りながら泣いていた。
全てが終わったのだと、気付いたからだ。
皆死んだ。
ここに来るべきじゃなかったのだ。
それとも、俺達はここに来る運命だったのだろうか?
俺達はこの島に、引き寄せられたのだろうか?
皆、ここで死ぬ運命だったのだろうか?
俺にはもう、何もわからなかった。

ジャングルの中を走りながら、俺は船上での出来事を思い出していた。
あんな風に、ボスと、仲間達と、気楽にのんびり過ごしたのは、初めて
だった。あんなに楽しかった日々は、青春時代にも経験したことはな
かった。
眩しい甲板での仲間達との日々が、きらきらと輝きながら、脳裏に蘇っ
て来る。
皆で、アザラシの様に甲板で日光浴した事。
子供の様にむきになって、ボスを取り合った事。
毎夜毎夜、くだらない事を言い合って、笑い合った事。
俺達は船上での短い間、本物の兄弟の様だった。ボスと言う存在の元
に集まった、家族だったのだ。
ボスが笑っている姿が脳裏に浮かぶ。
綺麗な綺麗なブルーの目が、陽光の下で眩しそうに細められている。
その時俺の手元の、無線機が出していたデジタル音が、止まった。
ライトが緑から赤に変わっていた。
それは、ボスの鼓動が、止まったことを示していた。

フロリダにある自宅のベランダからビーチを眺めると、美しい肢体の女
達が歩いている姿が見える。
だが俺はもう、それを見ても何も感じなかった。どんないい女に声を掛
けられても、何の性欲も沸いてこなかった。俺はもう、女なんてどうでも
よかった。
俺は、ボスだけが欲しかった。
たまに朝起きてから、思うことがある。
ひょっとしたら、ボスはまだ生きていて、ひょっこりと顔を見せるかも知れ
ないと。
だけど同時にそれが、愚かで滑稽な願望であると言う事も気付いてい
た。俺はもう、存在全てがポンコツだった。
けど、馬鹿な俺は妄想する事を止められなかった。それでしか、生きる
気力を見付けられなかった。
フロリダの明るい陽光が差し込む部屋の大きなベッドの上に、ボスが寝
そべる姿を想像する。きっと柔らかいシーツの上で、長い四肢を広げて
横たわる身体は、きっとどんなピンナップの美女達よりも綺麗だろうと
思った。
シーツに寝そべりながら、夢から覚めたばかりの眠そうな薄いブルーの
目で、ボスが俺の事を見上げ親し気に微笑む所を想像する。俺はそん
なボスに口付けをする。そしてボスは優しく丁寧に、口で俺のポンコツ
の処理をしてくれるのだ。
そんな事ばかり考えて、自分の股間のポンコツの処理ばかりをしてい
た。俺はそれ程までに、全ての希望を失っていた。俺はきっとこのま
ま、静かに妄想の世界から戻れなくなり、狂って行くんじゃないかと思っ
た。それほど俺は、ボスの死から立ち直る事が出来なかったのだ。
ボスは、もうこの世にはいない。
もしその狂気の妄想の世界にボスがいるなら、現実には戻って来たく
無かった。

民間軍事会社からの誘いは来たが、ボスや仲間の居ない戦場に戻る
気もしなかった。
何もする気が起こらなくて、自暴自棄になっては重火器を手にして警察
等に突っ込み、蜂の巣になって死んでやろうかと思ったが、俺の手元に
残るボスのドッグタッグがそれを押し留めた。
ボスはそんな事を望まない。
ボスは俺に、意義のある人生を送って欲しいと望んでいる筈なのだ。何
が何でも、ボスの最後の思い遣りに応えなくてはならない。
ボスのいない、光を失ったこの世界で。

そんな折、俺は意外な訪問者を迎えた。
背の高い、訛りのきつい英語を喋る黒人の男。俺達に島での任務を依
頼した、ウィドモアからの使者だった。
男は十万ドル分の小切手を俺に渡した。それは俺達のボス、マーティ
ン・キーミーへの前払い分の報酬だった。ボスは島に向かう前の遺言
で、もし自分が死んだら報酬は全額、生き残った部下達に分け与えて
欲しいと、言い残していたのだった。
ボスには、死んだときに遺産を渡す、家族すらいなかったのだ。
本当に、ずっとたった一人で、孤独に生きて来たのだ。
俺は、目の前に他人がいる事なんて、構わずに泣いた。
子供の様に、声を上げて泣いた。
ボスの気遣いが、そして孤独が、痛いほどに切なかった。
ボスを抱締めたかった。優しくキスをしたかった。
ずっと独りで生きて来たボスは、最後もたった独りで、人知れず死んで
しまったのだ。

「あなたの悲しみは、とてもよく分かりますよ。オマーさん。」
男は言った。
「彼は素晴らしい兵士でした。だからこそ、ウィドモア氏はキーミー氏を
雇ったのですから。彼が亡くなったのは、事故の様なものです。」
泣き続ける俺に、男は名刺を差し出した。
ボスがいなければ、何も出来ないポンコツの俺に。
「よろしかったら連絡をください。私なら、あなたを助けられると思います
よ。」
男は立ち上がり、玄関に向かった。
出て行く前に、足を止める。
「例えば、あなたの大切なボス、マーティン・キーミーと仲間を殺した者
達の、居場所とかね。」

俺の涙は、あっと言う間に引いていった。
ボスを殺したヤツが生きている。
顔を上げた時、もう男はそこには居なかった。
俺の手元には、男の名刺だけが残った。
名刺を片手に、俺は肌身離さず持ち歩いている、ボスのドッグタッグを見下
ろした。

俺達に囲まれたボス。
俺達がどんなに情けない理由で喧嘩をしても、ボスは微笑んでいる。俺
達がどんなに子供の様に甘えても、受け入れてくれる。
ボスがいて、俺達がいる。
俺達は正に、家族そのものだった。

キスに戸惑うボスの顔を思い出す。
ボスの柔らかい唇と甘い石鹸の香り。
優しい微笑みと、信頼し切ったブルーの目。
大きくてしなやかで綺麗な身体。
花に囲まれ血塗れで佇む、脳裏に焼き付いた姿。

生きる目標が見つかった。
俺にはもう、フロリダの温和な生活なんて要らなかった。
何も要らなかった。
ボスと、仲間達の記憶だけがあれば良かった。
獰猛な、兵士の本能が蘇って来る。感じた事がない様な、攻撃的な殺
意に全身が包まれる。

俺はボスと仲間達の為に、再び戦場に戻る事にした。
ボスがこの世に存在していた証しを、刻む為に。

それを刻んだら、俺はようやく、ボスや仲間達の元へと行く事が出来る
のだ。

【Mission Completed】

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


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