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オリジナル えせ時代劇風 遊郭の番頭×化粧師

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前スレの続きです。オリジナル。遊郭の番頭さんと化粧師さんの話。

ことを知ってからの、それからの女将は素早かった。すぐ髪を結い茶屋へ出向いては、朝餉の支度と泊まりの
客に小さく挨拶を済ませ、密かに後朝の別れを惜しむ(ふりの)遊女の顔と数を確かめる。親父はさすがに静
かに、だが若衆かむろの餓鬼まで叩き起こし、提灯を持たせた。
遊女に逃げられたのでは、見世の恥だ。面目丸つぶれだ。
暁七ツの鐘が鳴って間もない。明六ツ、大門が開きその先の、見返り柳や首尾の松まで籠かきどもがえいちら
おいちらやってくるのは、まだ先だ。
東の空も白まず、外はしずかに冷え切っている。遣り手の女どもやかむろは廓に散る、男衆は明かりを手に手
に駆ける。
涙雨はようやく霧雨、もやとなり、剥き出しの首や手に雨上がりの怜悧が刺さった。お歯黒どぶも雨水を吸い
膨れ上がっている。吉原この苦界の大門をくぐり、堤燈の群れはてんでばらばらになる。
たった一つの大門は、女は通さぬ。この色街ぐるりを取り囲むお歯黒どぶも、遊女を逃がさぬためだ。まさに
廓よ、と世に言われる。

しかし折りしも昨夜の大雨、夜陰に乗じて抜け出したとも限らぬ。探し引きずり出して来いと、言われるまで
もなくみな承知している。足抜けは許さぬというのが、この街の最大の掟だ。
己は昨日の、あの若衆と一緒になった。不寝番をしていたくせに、何も見聞きせなんだかと女将にどやされた
ところを引っ張り出した。名にひとつ銀の字がつくのでそう呼ばれている。呼ぶと助かったとばかりに堤燈を
片手に飛んできた。
ばしゃばしゃと足音が散る。走れば冷たい泥がはね、掛けた蓑も既に湿り始めている。
日本堤へ飛び出せば不意にその若衆が、兄い、狐火が来るぜと叫んだ。
「狐火だと」
堤下の堀川(右へ下りると大川へ注ぐ)も荒れ狂っている。どどと飛沫の音が聞こえ、その上の方を若衆は指
差す。
手元の堤燈灯りもぼやける朝もやのなか、真っ直ぐの川べりの先に揺ら揺らしている何かが、少しずつ近づい
て来るようだ。
揺らぎ揺らめき、薄ぼんやりと得体はようとして知れぬ。川面を渡るのであれば、本物の化生の類か。
思わずかじかんだ手で懐の匕首を握り締めた。客の誰それが、首尾の松には女郎の祟りが出るだとか、花魁道
中の狐の嫁入りを見ただとか口にしていたことがある。

おい丑三ツはとうに終いだぜ、呟く。
さらに狐だ、化かしにきやがったと騒ぐのを馬鹿言うなと一喝したら、思いもかけずそちらから声がした。
「朝っぱらからこんな処で、何の騒ぎだい」
徐々に近づいてくるそれに、素っ頓狂な声で化粧師の名を叫んだのは、連れの若い衆だった。
「聞いた声だと思ったら、旦那らじゃねえか」
がらころ、下駄の音も泥水のせいで冴えぬ。もやの中から不意にぬっと顔を出した化粧師の姿は、暗い灯りだ
けでもわかるほどに濡れている。
見た此方のほうがぞっとした。この染みる冷えの中まるで平然と、それこそ化生か。しかし吐く息は、お互い
おぼろに白い。
堤燈は借りたんだがなと化粧師はぼやいた。まァいい処で逢った、と続ける。
「あんた、その蓑でも借してくんねえか」
「借りるったって、あんた、もう」
呆れたはずみで掠れた声で言った。藍染も黒々となるまでぐっしょり濡れそぼって、蓑も笠もあるものか。こ
めかみにはりついた髪から、ついと雫が伝っている。芯まで濡れている。
商売道具の漆箱はと見ればいつもの袱紗ではなく、油紙と風呂敷で幾重にも巻かれて懐深く仕舞われていた。
らしい野郎だ。
「一雨降られた」

昨夜の雨を指すなら、それは一雨どころの騒ぎではない。夜半すぎから小雨となり、朝まだきの今ようやく朝
もや、細かな霧となったところだ。まるでとっぷり更けた丑三ツから、どうどうとわめきがなる川辺をうろついてい
たとでもいうのか。
祝言の夜宴明けなのだと言う。それよか此方の騒ぎはどうしたと若衆を捉まえるが、その手の案内が苦手な男
だ、さっぱり要領を得ない。かと言ってさて、どう話したものかと思案に暮れかけたとき、己の目に堀川のほうか
らぴかり、靄を突いてなにやら光るものが見えた。頼りない堤燈ふたつの灯りの中、僅かにあかるい東空よりも
確かな光を感じる。
口ごもる若衆を問い詰める化粧師を放って、堤燈を掲げそろそろと堤を下りた。葦の茂みに隠されているもの
の、その泥水はやはり思ったよりもずっと近くで猛り渦を巻いている。
兄いどしたい、と慌て大声で若衆が問う。頭の出来は悪くないのだが、早とちりとこのせっかちな性質のせい
で、時折鬱陶しく思うこともある。
その葦の間から、引っかかっているものをやっとの思いですくいあげ、滑りそうになる足をはげまし堤を上が
った。泳ぎは不得手ではないが、しかし落ちれば自信は無い。

わいわいと、危ねえよと騒ぐやからの下へ上ってくれば、化粧師も聞いてきた。
「いったい何だってんだ」
まじまじと眺めている己に二人して問う。此方はと言えば、飛沫で少し濡れた足が切れるように冷えた。
この男、よく寒さを口にせずにいられるものだ。
「いや、新造が」
しかし、その名を言いかけてすんでのところで口をつぐむ。やはり見世の一大事になりかねないことを、いく
ら出入りの化粧師とはいえ、この男に言っていいものか。
「新造が、どうした」
化粧師の足元へ、ほたほたとしずくが伝って新たな染みを作っていた。それは白々と明け始めた朝ぼらけ
の中、泥へ沈んですぐに消え行く。
無言で、提灯にかかげていたそれを放り投げると、化粧師は訝しげに手に取りまじまじと眺めた。黒柘植の、
椿の油ののり具合もあって、うまくすれば暗い中でもぴかぴかと光る。ちらちら花模様がすかしてある。
若衆が盛大にくしゃみをした。鼻が冷えるのだろう、おお寒とうっすら呟いて蓑の下で二の腕を震わせる。
しかし己は黙って垂れるしずくを見る。時折もやで明かりの具合がまだらになる。
「間違いねぇ」
ややあって、化粧師はぽつりと呟いた。水の垂れる手でそれを差し出す。

「俺の櫛だ」
まさか、と続けるその押し殺した言葉に、察したようだと諦めのため息をついた。既に当人に言われるまでも
なく、見覚えがあった。
この化粧師が細工して、あの振袖新造に手渡していた櫛だ。
名の壱字にちなんで、菊花の紋があしらってある。誰の目にも明らかだった。
諦めと厄介のため息をもう一つついた。これはきっと、面倒なことになった。自慢じゃないが、面倒ごと、厄
介ごとに巻き込まれるのはめっぽう得意だ。
櫛を受け取るとき触れた手の冷たさに、改めて化粧師を見やると、無言だった。漸くぼうやり見え始めた目つ
きや息の白さが、何かを頭の中で警鐘のように鳴らす。
二言三言、その唇がかたどったように見えた
が声は無い。川のどどの音が掻き消したのではないことはわかる。
ふといつぞや、こんなことがあったと思い出す。ああ確かにあった。それまでも付き合いはそれなりに長かっ
たが、だがこんな癖があったとは露知らぬ。
あの時はまるで逢う魔が刻で、しかし今は違う。丑三ツでもない、今はまた別の時だ。
「叶うわけねえと」
言ったのはあんただろうと、思わずこぼれ告げた。若衆は怪訝な顔をしたし、化粧師はそれでも黙っていた。

そしてまた同じことが繰り返される。
何か、声ならぬ何かがそこに在る。そんな眼をするな。
ぶるりと己が方が震えた。冷えているのはあんたのほうだ、とそれはわかっていたが、身に堪えたのは己だっ
た。ぼやぼやともやも白くなり始める、化粧師はそれを身にまとっているかのように見える。この冷たさすら
もだ。
ゆっくり眼が合った。本当に、そんな眼をするなよと言いたいところをぐっと堪えた。なあ寒くはないのか、
それとも冷えてもいないのか。
夜が明け始める。化粧師は、雨にも冬にも馴染んでいる。
どっどと、ごおごおと、何かを飲み込みかねない水音はする。風はなくそれは救いだ。だが己の肌もべたり
濡れ始めていた。
その骨まで冷えようかという冬雨に、いともしっくりくる。頬に雨すじをつけたその馴染みっぷりが、どうにも
好い。たまらなく好い。この寒い中でも、芯から冷えている体でも、ひどく欲しいと思う。あんたであれば何で
あろうとかまわんとまで思った。それが化生の類でもかまわぬ。
堤燈が狐火のように思えたのは、満更見当違いでもないのでは。薄い目、口つき、白くない頬。
そういえば、昨夜の夢であんたは何と言った。今も何を言ったんだ。

美形でもなく、女のような色香も無い。だから、これは良くある煩いではないのだ。静かに言えば狂ってい
る。確かに本当に狂っている、と己に呟き思う。
こいつはつらいな、と思った。
ただ待ってんだ。この身からあんたが出て行くのを。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
諦めたらそこで試合終了ですよ

ナンバリングミスってすみません…

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