野球 埼玉西武ライオンズ0107
更新日: 2011-01-12 (水) 00:15:43
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
現在開催中の状態に、1×7という…前代未聞の組み合わせで…。
切り込み隊長の憂鬱に関して。
自分はリズムを狂わせると、結構長引かせてしまう性質だ。
これは自覚もしていて何とかしようと思っているけれど、わかっちゃいるけどどうにもならない。
一度ずれだすと軌道修正に、不振から脱出するのに時間がかかる。改めてそれを思い出し型丘は唇を噛む。
いつ間違いだしたか、それが見当もつかない。しかししかも、それを考えている場合でもないときている。
こんな短期決戦では時間が無い、と思い知って焦る。
焦っては堂々巡りに、袋小路に迷い込むぞとそれもわかっちゃいるんだが。
要するに、泥沼にはまり込むタイプなんだ、ということ。
プロの選手として、致命的だとわかっている。何とかしたい。何とかしなければ。
そうでなければ、気付かないうちに全てが終わっていきそうで怖い。
「…なーに、まだ居ったん!?」
不意に背後から声がした。軽く荒くなった息遣いで上下する肩の、その後方を振り向けば、九里山がいる。
室内糸東習場の、少し狭苦しい入り口からこちらを覗きこんで、打王求避けのネットを掻き分けている。
「九里か」
「俺、自分最後やと思てたんやけど。やっさんまだ帰らんの?」
すっかり帰り支度している彼とは裏腹に、型丘のジャージは汗でぐっしょり湿っていた。
打撃糸東習をしている今だからいいが、少し休めばそれは冷えて、体の熱を奪うだろう。
ライトにたかる羽虫の数も、ぐっと減った。山中の王求場の、この季節の夕からの冷え込みはきつい。
「あー…もうちょい、打ったら、帰るっ」
言いながらまた一つ。マシンから飛んでくる王求を軽く振りぬく。軽い手ごたえと軽い音が響く。
ああ、糸東習ならこんなに思い通りに打てるのに。
「無理せんと帰って、休んでよー?」
「ありがとな」
次はカ一ブが来た。落ちるところを一瞬待って、右へ。
かっと掠った音とともに、打王求は傍らのネットに飛び込んで滑り落ちる。ファウノレだ、これじゃ。
ダメだダメだ。
「…やっさん」
「!」
もう一王求!
振りぬいたところに、思ったよりも近いところから声がして、方丘は思わずまた振り向いた。
帰ったと思った九里山が、転がる白王求をいくつか拾い上げながら、傍らにしゃがみ込んでいた。
「…何」
「ティー、上げよか?」
「…いや、いい」
「ふうん…」
また構えたが、その視線が後頭部あたりに突き刺さる妙な居心地の悪さに、じりじり過ぎる時間が
やたら長く感じる。
早く来い、早く来い、次の一王求。早く来いったら。
首筋を、ひと筋汗が流れ落ちる。
「…」
「…もう、終わりちゃう?」
「…かもな」
「はいはい、終了。帰ろや、何か食べて」
撤収撤収、と手を叩きながら、九里山の笑う声がした。足元を転がる白王求に、方丘は目を落とす。
やっさん何食いたい?とりあえず先にシャワーかな、と彼の声が響くのが遠い。
一枚、感覚との間に膜がある。いや、まだだと他の誰かが言っている。
「いや、俺、もうちょっと打ってく」
「え」
「しっくり来るまでな」
「もう。明日休みやん。明日したらええやん」
「…」
「休むんも、大事やで」
「けどそれじゃ間に合わねんだよ!!」
まとわりつく彼の気配が、一瞬とんでもなくうっとおしくなって、型丘は思わず腹の底から叫んだ。
激昂なんて滅多にするタイプじゃない。自分でも言った後、一瞬で後悔した。
いや、後悔はしたが、それ以上に自嘲の思いで体が一瞬さらに暑く火照って、そしてさっと冷めた。
「やっさん」
「…悪い」
八つ当たり。これはそれ以外の何でもない。
泥沼にはまり込んでいる。ますます動けなくなっている。日々それがきつくなっていた。
少しでもチ一ムの役に立ちたいのに、俺がやらなくちゃならないことがあるのに、何だこのザマは。
俺は一番オ丁者なのに。
そして本当に、何だこの無様な有様は。九里に八つ当たりしたところでどうなる。
俺が出来なかったことを、続く二番オ丁者として必死に埋めてくれているこいつに。
だからこそ居心地が悪い。
お前からは、逃げちゃいけないのはわかっていても、後ろめたい。
「…ま、座りや」
不意にジャージの上着の裾が、グイッと引かれた。思わず見ると九里山が不思議な無表情で、既に
座り込んだ自分の隣をトントンと指で突いている。
新しいだろうジーンズが土で汚れるのも気にしていない風だ。九里山らしすぎる仕草だ。
「やっさん。落ち着いて、大丈夫」
憑かれたように腰を落とす型丘の肩に、ぐいと腕を回して九里山は言った。
まるであやすようにさっきの指が腕をノックする。
そして言い含めるかのような口調で告げる。
「シ一ズン中かて、こんな時あったやん。けど、大丈夫やって、いっつもやっさん、何とかしてきたやん?」
「…何とか?」
「うん。そやから俺も、頑張らなあかんて思たし。逆もあったやろ」
「…」
「俺が調子悪うて、やっさんがめっちゃ走って、助けてくれた時とか」
耳には入っている。けれど頭がそのイメージを再現することを拒んでいる。
「そやから無理せんと、俺見とってって。何とかするから」
「…!」
「やっさんの分も」
「だからそれじゃ何の解決にもならんだろーがよ!」
彫りの深い顔立ちで、しかしどこかのほほん言う九里山に、肺腑の奥がちりっと燃えた。
それは全く逆の発想だ。
そしてまた、型丘自身がどこか気付いていたことでもあった。
それだけ、自分がどうにも出来ていないということ。
九里山に、無理を強いている。二人分のノルマを負わせている。
「今まで散々助けてくれたンやしな。俺の番やろ?」
出瑠居も、選王求も、俺の仕事まで負って、何でお前はそんなに淡々としてるんだ。
手のひらが無意識に、地面の土を食んでいた。爪の跡をくっきり残していた。
「俺が出なきゃ意味無いだろって!」
俺だ。
俺の仕事だ。お前じゃない、俺だ。
叫んでいるのは自分自身にだということ、それも型丘は知っていた。
冷たい土と、熱い手のひらの間に、何か生まれそう。
だって俺がやらなきゃ意味が無い。一番の俺が出なきゃ、二番のお前を生かせないだろうに。
ノルマだけ背負わせて、お前の仕事すら、俺が奪ってんじゃないのか。
「…そういうとこ、やっさんは可愛いんよなァ」
「あ?」
「そうでもないと怖いンよな。積み上げ続けんと、すぐ落っこちてきそうな気がしてんねやろ」
型丘は絶句した。何だって言うんだ。
俺自身が気付いてない俺そのもののことを、何でそんな風に言うんだ。お前は。
「やっさん」
「ぅおっ!?」
九里山が不意に、とんとん型丘の肩を叩いていたその指を、腕をぐっと絡めてきた。
首の辺りが締め付けられる。
そのまま倒れこんだところを、思いっきりまた、ぎゅうぎゅう締められる。苦しいくらいだ。
こめかみがちょうど鎖骨のあたり。気付かなかったけれど、彼の匂いがする。
初めて知る、匂いがする。
「九里っ…」
「そゆとこ、好きやで、やっさん」
見上げればそう、九里山は言った。
真っ直ぐ、前を見ていた。
「けどもう休んで。俺がやるから。やっさんの分も、俺がやるから」
至近距離で見ると、その顔立ちや瞳は本当に、心臓に悪い。強くて深い。
こちらを見てはいない。けれど知っている。
お前が何処を見ているのかを、俺は多分知っている。
「…九里」
呼べば彼は、ん、と目だけを動かした。
「…この体勢で、その台詞は、ちょっとマズくないか」
「何で」
「誰かに見られたら、ものっそい誤解を…」
「えー、俺何か変かいなー?」
いや、変ていうか、あのな、と型丘はもごもご繰り返しつつ一瞬ためらったが、ええい離せ!
とばかりに腕を突っ張ると、案外簡単に彼は腕の力を緩めた。
一瞬ふっと安心しそうになった自分に、型丘は気付いていた。
繋がっている。一線になっている、そう感じた時のあの感触は、夢中になりそうだった。
同じものを見ている。俺とお前の、視線の先は同じだ。
「…あーもう、お前ちょっかいかけてねーで帰れ!」
「何で。やっさん帰らへんのやったら、俺ももっかい着替えてくるで」
「はっ?」
「俺もれんしゅーする」
「…帰れってよ!!」
「一心同体やん!一二番コンビて」
今後は真っ直ぐ、顔を見て言われた。
何度も言うようだが、九里山の顔と目は、至近距離では有無を
言わせず心臓に悪い。
だから一瞬反論が遅れた。何だそれは、と言うより前に、九里山はあの顔で、にっこり笑って立ち上がる。
「誰と誰が一心同体だ!思ってても言うな、気味わりい」
「…思ってんのは一緒なんや」
「うわ、誘導尋問かよっ」
慌てて後ずさりするように身を離して、方丘はぶつくさ文句を言う振りをした。へらへら笑って、
いつもの振りをした。
帰れと言っても帰るタマじゃないのも知っていたし、誰より練習熱心なのも知っている。
だからこそ、九里山よりは一王求でも多く打たなければならなかった。
「…」
九里山が本気で着替えてくると言って消えたあと、方丘はまた白王求を片っ端から集め、バツティソグ
マシンを再起動する。
ぶうんと入った電源と振動に指を這わせれば、思ったよりそれが温くて自分が冷えていたのを思い知る。
ダメだダメだ。早く復活しないと。
気付かないうちに全てが終わっていくのはゴメンだ。それだけはダメだ。
「…っらぁ!!」
体中を血が回り、飛んでくる王求が見えた。ヒット!
また軽い音が、今度はしっかり脳に突き刺さって目が覚めるようだ。
そうだこの感覚。この感触だ。
早く復活しないと。俺が生きないと。
俺が生きなきゃ、お前が死に体になる。それだけはダメだ。それは許せない。
軽い音と手ごたえが、ますます何かをたぎらせる。背中がむずむずする。
たった一人、誰もいない逆風の中走ることも、静寂の大海に漕ぎ出していくことも、慣れている。
そして後ろにはお前が居る。視線の先は同じ、どこか一点を拠点として、俺は走り出す、お前は指し示す。
心も体も全く別だか、見てるものが同じだ。視線の先は同じだ。
俺が生きなきゃ、お前が死ぬ。負けねえぞ。
負けねえぞ。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
予想外に長くなってしまった…
でもこれからの戦況には、個人的に7の復調が鍵となると信じていますよ。
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