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オリジナル えせ時代劇風 遊郭の番頭×化粧師

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
新スレ乙です!
埋めがてら、以前の続きを投下します。
遊郭の番頭さんと化粧師さんの話の続き。地味な話の一番地味なところですが。

ざあざあと早朝より振り出した雨のせいで、今日は客足が鈍い。短い日の落ちるのもまたさらに早くなるが、
昼見世の閑散としたさまを見ると、油皿へ火を入れるのが惜しい。いつものように格子の間へ、滑るように
降りてくる姐さん方の中にも、今日は半ば諦めの気配も見える。
「てめえは道中の支度でもしてな」
背後の若衆へ言いやって、自分は首を回しながら、おもてを見た。もう向いの茶屋には火が入っている。
淀んだ真っ暗な天から大粒の冷雨が降りかかり、泥濘んだどろが好き放題跳ねては、板戸の染みを作ったり
渦になったりしていたが、こんな日でも花魁道中は、この世の春よと着飾ってつんと澄まして歩くのだ。
ざあざあと、涙雨なら相当だと柄にもなく思う。
誰の涙だ、あの新造か名も知らぬどこぞの遊女か、それとも俺か。
気の抜けた顔してんじゃないよと、今朝虫の居所の悪かった女将に張り飛ばされた、横っ面が僅かにしびれ
る。

誰がこの強面の無口な番頭が、恋煩いでまんじりとも出来ないなどと思うだろうか。
あの新造も俺のように張られたのだろうかと、同情でも憐憫でもなく淡々と思った。
恋煩いか、俺の涙か、と思えば笑えなかった。
泣いた覚えなど無い。生まれてこの方一度もだ。
かわいげのない坊主だったろうが、勘当された親父殿は、幼い頃は俺のそんな偏屈な性質も、さむらいらし
いと大笑いしていたっけ。
右腕の外側には盛大な刀傷がある。どうやって受けたかも覚えていない、些細なことのように思える。その
太い腕は、ごろつきどものなまくら刀なんぞでは、到底真っ二つにできるわけがないという自信があった。
首もとにも似たような傷がある。うまく身を固めて骨のあたりで受け止めれば、のめりこんだ刀ごと、相手
の利き腕を締め上げることも出来た。
傷も癒えてしまえば大したことはなく、少し引きつるのにももう慣れた。今はこの向こう傷のおかげでどす
も利く。
いつぞやの酒の席で、いつものようにしつこく問うのでそう言えば、化粧師は黙りやがて言った。
「逃げたことねえのか、あんた」
逃げることを知らぬわけではないし、それを別段卑怯とも思わぬ。ただ気付くのと足が遅い。

何かことが起こったとき、いつも逃げ足の速い奴はとっくに消え失せ、己ばかりが残った。狐につままれた
ように馬鹿をみることもあったし、貧乏くじを引くこともあったが、それぞれに天命があるのだと思えば腹
も立たぬ。
「お人よしだな」
そうでもないと思ったが、別に伝える必要も無かったので黙っておいた。こういうところが無口だと言われ
る所以だろうか。
無口で無愛想なので、すすんで冗談を言われる事も無いし、自分から泣き喚く事も無い。足が遅いので取り
残されるのにも慣れている、その後降りかかる火の粉があろうと、そんなものはどうとでもなる。黙って突っ
立っているに限る。
さむらいの出めと化粧師は嘲ったが、どこのどいつともわからぬ者の面倒と厄介ごとを背負わされた挙句、
恥と勘当されただけだ。全くよくよくの貧乏くじだが、むしろ出自はそのせいで飯の種に困ることのほうが
多かった。
まあ、今は過ぎたことに粘着してもどうにもなるまいと思っている。己には昔から、鷹揚に構えすぎるきら
いがある。
見ようによれば木偶のぼう、色恋沙汰もそうなのかと気付いたときは少し笑えたが何にせよ、俺が動くとうま
くはゆかぬと身にしみた。

だから待っている。
己という器から、化粧師が出て行くのを待っている。
「叶うわけねえだろう」
ぼそりと呟けば、頭の中では同じことをまた化粧師が言い、止めを刺す。
もぐりこまれた己を責めたところでどうなるものでもない。どんな時でも気付くのも、逃げ足も遅かっただけ
だ。
ごつく無愛想な風貌は、そのぶんの負を補おうとしてかまたは何らかの牙城を守ろうとしてか、この身はそう
なったのだろう。
黙って突っ立っているのには慣れている。
道楽は、酒で事足りる。特におんなを欲しいとも思わぬ。姐さん方の白粉のむっとする匂いにあてられれば、時
折猛烈に欲しくなるにはなるが、ただ所帯を持つなら話は別だ。おもてでは淡々と帳簿を付け、行灯をともし、
見せかけの春にはしばし我を忘れる。そして忘れている己を、逆に冷たく見つめてもいる。
改めて考えてみると、己にはどこか生まれつきの、虫喰いの穴がある。そこにすっぽり根を張ったのが、たまた
まあの化粧師だったのだろう。支えにするほど確実でもなく、慰めにするほど甘美でもない。
待ってんだ、ただあんたが出て行くのを。
ここ数日化粧師は姿を見せていない。

どうやら祝言が重なったらしく、あちらこちら大店の娘さんの嫁入り支度に呼ばれてんてこ舞いだそうだ。
今日は姐さん方も自前で髪を結い、化粧をして下に降りてきていた。
柳のような男だった。人に蹴りと捨て台詞をくれておいて、悪びれもせず顔を出す。その裏に矜持と威嚇が含ま
れているとは感じていた。
頭なんぞ下げるかと嘲笑っておいて、己の立ち位置は頑として譲らない。ここから外れ落ちるならあんたのほう
だという、痛烈な皮肉が含まれていた。表面においては揺ら揺らとしているように見せかけ、その実根っこは同
じ場所に張ったまま。こちとら行く当ては無い。
冬雨の中、迷い歩くのは御免だ。
「お出でまし」
向いの茶屋から下男の先立ちで、傘が渡ってくる。番台から降り座敷への案内に立った。やつれてはいるが見知
った顔だった。あの呉服屋の若旦那。
世話になりますときたものだ。今日のお渡りは前々から知っていて、例の新造は裏座敷へあがるように言われて
いる。相変わらず三日に明けず通うては来るがこの若旦那、目の下の隈が濃い。色男が台無しだ。
若衆や遣り手の噂話では、奴さん、新造を身請けしたいそうだ。だが奴の親父が、それは出来ぬと突っぱねた。

さすが名の知れた商人は、遊興のさかいめも知っている。一人息子は可愛いしある程度の放蕩も許すが、大店の
嫁が遊女では面子が立たぬとのことだろう。
良くある話で笑いの種でも、若旦那は昨今目に見えてやつれた。親父には逆らえぬのだろう。
新造も新造で、奴さんの誓紙を抱いてはまた泣き暮らす。折檻もされる。叶うわけねえだろう、あの化粧師は正
しい。
しかし夢の中でも言うのは勘弁してもらいたいものだ、と思う。ようやく眠りについても夢見が悪い、恋煩いも
ここまでくるとほとほと己に愛想が尽きる。
せめてそこでくらい甘い言葉のひとつやふたつ、と思うものの、それを吐いている姿もことも見た事が無い。虫
喰いの穴だ。肝腎なところが暈けている。
慰みにでもしようとしても、またそこで思い悩んで止めるのだ。知らぬ姿が多すぎる。
叶わぬと身に沁みている。
「叶うわけねえだろう」
寝ずの番でもあるまいに、固い枕で雨の音を聞く。己に言って聞かせている。
黙って突っ立っていくだけだ。この身からあんたが出て行くまで。ぱたたん、ぱたたんと軒を叩く水音が、どこの
座敷の艶声よりもよく聞こえた。あァ、少しは小降りにでもなったか。

その規則正しい音が、久しぶりの眠気を連れてきてくれた。眼瞼がうっとりと沈む。その裏に誰の姿も見ない。
ぱたたん、ぱたたんがやや遠くなる。
あァ、ぼうやりだ。でも、あの唇は好かった。舌も。
夢でなら、どうせなら身ごと腕にくるんで味わいたい。息そのものも喰らい尽くしたい。あんた、そこに居るん
だな。
しかし腕を伸ばすのは、気が引けた。
何だいあんた、と化粧師がいつものいぶかしげな顔で見上げる。いや上背はそう変わらぬのだが。
叶わねえとは知っているが、と仕方なく言った。
流石にわかるだろ、惚れたはれたに、まともな言い訳なんぞできねえよ。化粧師はどう言ったか。
どう答えられたか、それを思い出す前に腕を引かれた。ばっと思わず飛び起きる。
夢の続きではない、この寒さと冷えは、うつつのものだ。
出入りの間に一番近い番頭部屋の、板戸の隙間が少し開いている。今何ときかは知らぬが一瞬で眼が冴えると、そ
こに情けない顔の男の姿が見えた。先ほどうえへ上げた、茶屋の下男だ。
うちの旦那さんは、何処に。
申し訳なさげに下男はぼそぼそと喋るので、その一言を問いただすのに随分かかった。

座敷がもぬけの空だと下男は言う、へえ、あたしは迎えに参りましただけで。昨晩はご新造さんと、確かに床入り
したはずで。それは知っている、登楼の案内をしたのは俺だ。
座敷へ駆け上がり、無粋だがちょいと失礼と踏み込めば、きちんと揃いの夜具がある。寝乱れてもおらず冷えてい
る。
あたしが参りましたときもへえ、この有様で、とまた下男は打ちひしがれた。何か己が不味いことをしでかしたと
でも思っているのか。
ふたりが、紅色の夜具だけを残して消えた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
短くまとまらなくて申し訳ない。まずはここまで。

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