オリジナル
更新日: 2011-01-12 (水) 00:17:09
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
「決勝で会おう」
大会開会式、まだ幼さの残る顔を目一杯笑顔でゆがませ、あいつは言った。その言葉はそれからずっと俺の中をまわり続けていた。
約束だからな、とたたかれた肩に生まれた熱とともに、消えずにずっとずっと俺の中にある。
決勝を明日に備えた今日に至っても尚も存在を主張している。熱が飛び火した心臓が、苦しい。
あいつは俺の憧れだった。コートを縦横無尽に跳ね回るあいつの姿を初めて見た時、心が震えた。
自分とはまったく違うプレイスタイルに息を呑んだ。大げさな挙動は曲芸の一種かと見まがうほどだった。
その表情にも目を奪われた。相手に向ける強気な視線は、コート外の俺さえも惹きつける力を帯びたものだった。
勝てば心の底からわき上がる声を素直に上げ、負ければその経験を活かすために更に練習に励む。
あいつは心からテニスを楽しんでいた。これも俺とは異なる点だった。
俺はいつの間にかテニスが出来る喜びを忘れ、ただ機械的に技術だけを磨いていたのだ。それをあいつは教えてくれた。
そんな衝撃的な出会いから一年と少し。
ダイナミックで丁寧さに欠けるプレイをしていたあいつは、持ち味の豪快さに加え堅実さも身につけた。生まれながらの剛胆な精神力は何よりのあいつの強みだった。
明日俺はあいつと優勝をかけて争う。俺の前にあいつが、あいつの前に俺が立ち、コートで対峙する。
試合中のあいつの鋭い視線に射抜かれるのは俺なのだ。焦がれ続けた瞬間がようやく訪れる。
想像するだけで、気持ちだけでなく体までもが高ぶってしまう。こんなの初めてのことだ。
収まらない熱を冷ますため俺は外に出ることにした。
コンビニで買ったミネラルウォーターを一気に流し込むと、自然と安堵の息がもれた。
ベンチから見上げた空には満天の星が輝いている。明日は晴れるらしい。数時間後には星空が晴天に変わり、俺とあいつの試合が始まっているのか。何だか不思議だ。
コンビニ近くの公園のためか、周囲には塾の帰りらしき学生が数人見えた。あれはあいつの――折原の学校の制服だ。
「ちょいごめん!」
そんなことをぼんやり考えていると、集団から一人の学生が飛び出してきた。ああ、あいつもあのくらいの背丈だったな。
「有坂、有坂だろ!あの、俺明日お前と」
俺はあいつの声はあまり知らない。あの宣戦布告がほとんど初めて聞くあいつの声だった。
「折原……?」
しかし俺はあいつの顔を知っている。あいつは確かにこんな顔をしていた。そう、こんな風に人懐っこい笑みを浮かべていた。
「有坂、良かったらちょっと話さないか?」
「ついに明日なんだな、試合」
まだ信じられない、と折原はつぶやく。俺こそ信じられない。俺の隣に折原が座り、同じようにミネラルウォーターを飲んでいることが不思議でならない。
少しマシになっていた体がまた熱を取り戻していた。
「まさかお前とやれるなんて……夢みたいだ」
「うん、俺もだ」
「え?」
「俺はずっと折原と試合をしたかった」
「……え?」
ぽかんと口を開けたまま折原がこちらを見る。聞こえなかったのだろうか。
「俺はお前と試合をしたかったんだ」
「いや、そうじゃない、そうじゃなくてさ……」
「何?」
問うと、信じられないといった様子で見返してくる。大きな瞳が数回瞬いた後、折原は口を開いた。
「やっとここまで来れたけど、まだまだ俺はお前と釣り合ってない……正直もったいない言葉だよ」
「そんなことない!お前のテニス俺は好きだよ」
「有坂?」
「俺は好きだ。だから自分を卑下するようなこと言わないでくれ。頼むから」
「……」
折原の顔が困惑に彩られる。どうしてわからないのか、それが俺にはわからない。俺の心を掴むのは折原のテニスだけなのに。
「お前ってなんか……」
「え?何?」
「い、いや、別に」
「気になる。言えよ」
「あー……」
「折原」
「……あーもう!人が言うまい言うまいと隠してたこと先に言うなって言ってんの!」
「……は?」
「もうっ!俺なんか足元にも及ばないくらいお前ってすごいの!
憧れてるやつなんてうちの学校だけで何人いると思ってんだよ!女子なんか黄色い声援送りっぱなしだよムカつくことに!
って、外野なんてどうでもいいんだ。俺はお前の何倍も何倍も何倍もっ!お前に憧れてんの!わかってんのそこんとこ!?」
「わからない」
「何で!」
見返す瞳がこわい。何が彼をそうさせたのかはわからないが、折原は怒っているようだ。俺はしどろもどろになりながら何とか答えた。
「だって俺、ずっとお前を見てた。
密かにお前のプレイスタイルを真似てみて、全然うまくいかなくて落ち込んで……でも次またお前の試合を見たらやっぱりすごくて感動した。
ああ、同じことをしようとしても俺には無理なんだなって心から思い知らされて、なのに何かそれが嬉しくもあって
……そんなすごいお前に憧れてたなんて言われても、正直わからない」
「……けど事実だよ。悔しいけどさ、俺はお前の試合を見て荒削りじゃ先は見えないって悟らされたよ」
折原はペットボトルに手を伸ばす。
しかし手がふれるかふれないかのところで思いとどまると、両足のかかとをベンチの端にかけた。そのまま体を抱え込むように丸める。
「大好きなテニスを好きなだけ出来ればそれでいいって思ってた。
けどお前を知ってしまった。圧倒された。すごいなんて素直に感じられないほどの強烈な印象だった。
いつかあいつを負かしたい、見返してやりたい、俺という存在を刻みつけてやりたい……なんて、
不相応な望みを持ってしまうくらい鮮やかに、お前は俺の中に焼き付けられたんだ」
って何言わせんだよばか、と肩を小突かれても、どう答えていいものかわからず俺は瞬きしか返せなかった。
折原の言葉は信じられなかったけれど、そう正直に告げるとまた早口でまくし立てられそうなので、俺は必死に言葉を探した。
でも、だめだった。うまく頭が働いてくれないのだ。さっきからずっとこうだ。
他人の言動にこんなに心が動かされるなんて俺にとってはきっと初めてのことで。だから、どうやってそれを表現すればいいのかわからないのだ。
折原のテニスが好きだということは伝えた。だけど、それだけじゃ足りないのに。
「前日にさ、コーチに随分誉められて嬉しくて、つい調子に乗って開会式ん時お前に大口たたいちゃったけど、ここまで来れたこと本当に驚いてる。
ていうか、いきなりでびっくりしたろ?」
「うん……あの言葉はまだ俺の中に残ってる」
「そっか。忘れてたらも一回言ってやろうと思ってたけど、その必要はなかったな。明日はよろしく」
どちらからともなく手を差し出し、俺達は固く握手した。
初めてふれた折原の手はラケットを握っている時の力強さなんか微塵も感じさせない、やさしくあたたかいものだった。
真っ直ぐ見つめてくる強い瞳がくすぐったくて、俺は逃げるように顔を伏せてしまった。
早く試合をしたいやら、まだこの手を離したくないやら、どんどん欲求ばかりが生じてしまい、自分の気持ちを整理できない。
はっきりとわかっていることは、俺の心を震わせるのはこいつただ一人だという抗いようのない事実だけなのかもしれない。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
なんか恥ずかしい子達になってしまった。主に主人公。
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