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オリジナル えせ時代劇風 遊郭の番頭×化粧師

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
遊郭の番頭さんと化粧師さんの話の続きで。
そしてまだ色々続く、かもで。

色街での生業をしているくせに、日ごろよりどことなく日焼けしているその肌を、不思議には思っていたが
合点がいった。釣り道楽なのは初耳だった。
ひどい風邪をひいたと噂に聞いて、ここ数日その化粧師の姿は廓のどこにも見かけていなかった。
真っ昼間に使いに出るのは久しぶりだ。廓仕事は別に嫌ではないが(慣れだ、単に)、それでもひとりてく
てく商家のあたりを歩くのは、いい気晴らしになった。
天高い青空が、日差しの温さを助長する。そういえば遊女の姐さん方の衣替えも、すっかり終わっていた。
商家の続きから渡し場への橋の上から、真下の釣り人が見えた。さらさら日の光が川面をせせらいで、こん
な明るい中に釣られる魚がいるとしたら、それはよっぽどの阿呆だ。それを釣ろうとしている物好きとはど
んな奴だと見下ろしたとき、その男が顔を上げて目が合った。
「よお、あんたか」
例の化粧師は、ちょいちょいと利き手で仕掛けを弄りながら、細い目をさらに細めて橋の上に声をかけてき
た。見覚えがあるはずだ。

もうすっかり袷にかわったというのに、まだ麻衣だ。そのせいで風邪を引いたのではないかと眉をひそめる。藍
に近く洒脱に染められたその色は、よく似合ってはいるが如何せん寒々しい。
「あァ、頼まれもんだ。ついでに用足しでな」
「あんたが使いに出るのか。珍しいな」
「たまにはな。それよか、病はいいのか」
「ああ?まあ、かれこれ三日はぶっ倒れてたが…」
今はこのとおり、よっとまた、竿の先の毛羽立った仕掛けをひょうおっと放りやる。橋げたから降りてきた
こちらをちらりと見やって、冗談じみた声をかける。
足袋も履かない。遊女のようだ。
「姐さん方が、寂しがってるか?」
そう笑いながら片手の風呂敷包みをいぶかしげに見上げてくるので、最近座敷へあがるようになった振袖新
造の名を言った。さらに、今の主人が一代で名を上げた呉服問屋の名を告げると、化粧師は話に乗ってきた。そ
この若旦那、背の高い優男が、最近その新造に入れあげているのは、この男もよく知っている。
新造から馴染み客への文の使いというのは、本来なら若い衆のうちもっと下っ端の仕事ではあるが、丁度付
け馬仕事のついでもあり自分が赴くことになった。

新造の文に無邪気に喜ぶその若旦那は、日の当たるところで見ればますます優男で、ちょっと腹のどこかが
むずむず疼いたのはここだけの話。
そして「ご新造さんに、どうか」との言伝ものを、文の代わりに手渡された。やれやれ、色男の振る舞いは
時として面倒だ。
その問屋は、化粧師の馴染みらしい。呉服や化粧については当たり前だが化粧師は詳しくて、新しい品物が
入れば見せてくれと、いくつもの問屋に顔をきかせている。出入りの小物売りから簪を買うより、この男の
口利きのほうがよっぽど物がいいと姐さん方にも評判だ。
「まああのぼんぼん、懐具合は保証するが、ちょいと野暮だ。のぼせあがってんじゃねえか」
言って化粧師は何とも言えぬ笑みを浮かべた。己が手塩にかけた弁財天女(とこの男は言う、よっぽどのぼ
せ上がっている)の手練手管に骨抜きにされるであろうと予見しつつ、それを楽しむ風情がある。この男も、
遊郭では搾取する側だ。
「あんた、先月の初会の具合は見たか」
「いや」
「若旦那もあのあまもよ、かちんこちんで…全く、どっちが遊興しにきたかわからねえ」
しかしからから笑う声姿に、これまた一部の嫌味ったらしさもないのが、この男の特徴でもある。

「まるで節句の女雛、男雛みてぇでよ、ありゃ傑作だった」
その新人の振袖新造は、かむろ時代からよくよく気にかけていたと見えて(これも、化粧師ゆえの気遣い
でだ。断じて男女の意味ではない)、座敷へあがるときには昨今珍しいくらいこの男が気を張った。女将も
親父もまったく任せっきりで、かれこれ小半時は仕度に費やしていたものだ。髪結い、櫛、帯、もちろん化
粧も、この男がすべて手にかけるというのは珍しい。
その甲斐あってか新造には、あっさり馴染みの客がついた。件の若旦那だ。金払いよし見目もよし、遊びな
れておらず花代を値切ることもしない。廓としてもほくほくものだった。
「しかしこれで、貸し一つだな」
「何だ?」
「俺は自慢じゃないが、化粧する女は必ず売れるンだ。あんた、逆に張ったろう」
そんな賭けには覚えは無かった。風呂敷包みを抱え込んで反論すると、待てと不意に声が大きくなる。仕掛
けがぐいと引かれて、川面に飛び散っている。
「鯉かっ」
引き上げた竿の先にびちびちはねる黒々した魚を、化粧師は一種驚いたような顔で見つめた。当たるじゃね
えか、珍しいとひとりごちる。

さやさやと周囲の柳葉を揺らす風が、この男の結わえもしない中途半端な長
さの髪を、一緒に揺さぶって跳ねさせた。
この見た目のおかげだ、まともな仕事にありつけないのは。それは口に出さないが。
「って、わけだ。あんたは俺に貸しがあるわけだが」
空っぽだった魚篭(やはり)に今日唯一のあたりを押し込み、ぱっぱと手を払いながら化粧師は腰を上げた。
その手つきや腰のあたりすら、色街で見る具合とはどことなく違って、意味もなくどぎまぎする。素だと思
えばなぜか息苦しい。
「おい、認めたわけじゃねえぞ」
「固ェことは、言いっこなし。あんたもこれ、嫌いじゃないだろ」
付き合いなと言い、くいっと杯をあおるしぐさをする。細い目に、悪戯じみた表情が見え隠れする。
酒ならいけるくちだ。病み上がりを気遣わないわけではなかったが、酒は百薬の長と申しましてェとまくし
立てる化粧師に連れて行かれた小料理屋は、どうやらそれも奴の行き着けらしかった。
暖簾をくぐったときの亭主の声からして、化粧師と顔なじみだとわかる。化粧師は先ほどの釣果を亭主に放
り投げ、小太りのかみさんに二言三言声をかけただけで、店の一角へどっかとあがりこむ。

「こっちの旦那にも、俺と同じのを」
言った後で、ああ店はいいのかいと途端に気弱な顔を見せるので思わず噴出してしまった。今日は使いに出
るとのことで、親父が番台に座ると言えば、あからさまににやりと笑う。一人で酒も飲めないのかと思えば、
妙にかわいらしかった。
まだ日も落ちきらぬ。杯と突き出しが出る前も、それに箸をつけながらも、化粧師の利き手は何やらをまさ
ぐっている。杯の上から不躾に眺めれば、それに気づいてその男は軽く首を回す。何かを弄ってないと落ち
つかねえ性質で、と紙こよりで出来た花細工を見せた。相変わらず器用なことだ。
先ほどの釣り仕掛けもかと問えば、自作だと言う。そういえば聞いたことがある、と思い出す。
簪や櫛を馴染み客に贈られるのが遊女の慣わしでもあるが、店にはこの男の細工物を身につけている者も
多い。
結い上げた髪に挿し、帯止めに一つ、と化粧師としてそこそこなのは認めているが、細工師としてもこの男
それなりの顔を見せる。
それを言うと、でも釣りの腕はさっぱりで、と亭主に冷やかされた。俺が坊主なのは真っ昼間だからよ、
と化粧師は反論する。仕事がら、朝夕に早々のん気に釣り糸をたれているわけにもいくまい。

話の具合で、あの新造のことになると化粧師は饒舌になった。入れ込んでいるな、と思った。珍しい。
また、息苦しくなる。そして杯をあおることで話を合わせる。普段から無口で通っているので、化粧師もそ
れを不自然には思わない様子だ。
馬鹿げているが、嫉妬だ。店に火が入り、他の客とさらり言葉を交わす姿を目の当たりにするだけでも、腹
の奥はどす黒くなった。自分でも驚くほどだった。
嫉妬だと、思えば逆に情けなくもあった。当然のことだ。知らぬ姿が大概だ。
色町での、そして廓でのひと時のみの付き合いと思えば、情を交わさぬだけで遊女と客の仲と変わらぬ。文
を出す新造の態度も、あの優男の喜びようも、今なら受け入れられた。
文など書く気にもなれないが、ただあんたは今どうしてる、想っておくれというのは、他人事でないとぼん
やり感じる。
「明日っからは、また世話になる」
すっかり出来上がってほろ酔いで、化粧師はどことなく弾む声で前を歩いた。裸足の草履と麻の音も、子供
のもののように聞こえる。
「女将に言っといてくれ」
「あぁ」
新造への風呂敷包みが重かった。丸い月夜に空の魚篭を振りかざす、前の男とは対照的だ。

あんたはどうする、想う相手はいるのかい。
廓の中であんたを待ちたいようでもあり、今ここで言いたいようでもあり。
「なあ、あんた」
呼びかけに振り向いた、そこで肩に手をかけると思ったよりもしっくり馴染んだ。やや冷えた麻が身を包み、
掌におさまる。
そこで振り向いてくれなければ、諦めもついていた。
月明かりを背にしたのは自分のほうだった。口付けるまえに訝しげな目が少しだけ、見えた。
無言で、しかし化粧師の唇は、苦もなくその舌を受け入れなめずった。薄い唇がこれほどまでにうまいとは。
女のそれとは何か違って、吸い付きはしないが飲み込みやがる。
この感情には覚えがある。荒くれていた若いころのそれ、喧嘩でも命とりでも、相手の誰彼も殴り飛ばし締
め上げ、足元に組み敷いてやるという凶暴なそれ、この首を指を手首を、己の指で締め付け許しを請うよう
に名を呼ばせたい、そんなそれ。
ただそれを舌で押しやろうとしたとき、不意に化粧師の唇は離れた。すいと、水鳥が川面を渡るかのごとく
流れるままの仕草。
気が抜けて、やり場のない目つきで眺めれば、化粧師はゆっくり目を開けた。開けたところで細くいらつい
たようなその目で、いつもの声で言う。

「悪趣味だぜ、あんた」
ぽうぽう、聞こえるのは夜鷹の呼び笛だろう、か。いずこかから届く。
「酔いだ」
思わず野暮な台詞を口走った。いや、酔いに似ている。何かに酔っているのは違いない。
月は出ていたが、表情のわずかな影はほとんど動いていないように見えた。予想通りだ、と自分の中で誰か
が呟いていた。
遊女のほうが、ましだ。あんたの姿を、見ずに済む。
「止せ」
とん、と利き手が手刀のように、喉仏の真上をついた。あくまで軽く柔らかい感触だったが、まるで息の根
を止められたかのように、喉は絞まった。
化粧師は肩から抜け出して、橋の方へ歩いていく。さりさりと、すべるような草履と麻布の音だけが、耳に
残った。
真綿のような感触はただ、絹にも匹敵する。その残ったものが、声を奪っていた。さりさり、離れる音を聞
きながら、影縫いですくまされたかのように、足はまるで動かなかった。
さりさり。そしてぽうぽう。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
超過してすみません。

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